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BACK TO THE PAST!

BTP第一部最終回SP!〜さらば極楽のモノたちよ〜


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/ 8/25

知る人ぞ知る廃工場・・・その地下に、ちょっとした空間があることを知るものは・・・
あまり、いない。

四角いコンクリートの壁に囲まれた広めのアパートぐらいある空間に、食料、武器、裏金などがいたるところに散らばっている。

ここは美神令子が極秘裏に作った隠れ家の一つ。


もはや主の居ない隠れ家である。


そこには意識の無い、まだ血まみれの横島と、美智恵、西条、シロ、タマモ、おキヌなどの直接関係者と事務所のメンバー、つまり必要最低限のメンバーが集まっていた。


リビング風の造りの部屋にはシロとおキヌがしくしくと涙を流しており、タマモは部屋の隅っこで膝を抱えていた。

そのとなりの部屋では横島が寝かされており、西条が様子を診ている。そしてその部屋のとなりは唯一外界の情報を仕入れられるスーパーコンピューターが置かれてあり、美智恵が一人で情報収集をしていた。

「・・・・」
無言でカタカタとキーボードを打つその姿は何故かいつもより小さく見えた。

背後のドアがカチャリと開く。
薄暗い部屋の中に一筋の光が差し、彼女の背中を照らした。
「先生・・・」
「・・・・なぁに?西条君・・・。横島君の様態は?」
彼女は振り返りもせずに、扉を開けた西条に問いかけた。
「・・・変わりありません」
「そう・・・じゃあ引き続き診ていなさい」
「・・・はい」
彼はそう言ったが、部屋を出ては行かなかった。
「そろそろ・・・休みませんか?これ以上は体に障りますよ?」
西条は言いにくそうにそう言ったが、美智恵は応じなかった。
「何言ってるのよ・・・私まだそんな年じゃないわよ?今だって元気なんだから」
いくぶん明るい声でそう返してくる。

しかし、目は片時もモニターから離れなかった。


「・・・・解りました」
西条はゆっくりと部屋から出ていった。

美智恵は彼が扉を閉めようとした矢先に問い掛ける。
「令子は・・・・正しい事をしたと思う?」
西条は後ろ向きのまま立ち止まり
「・・・・解りません」
一言そう言ってから扉を閉めた。


美智恵は薄暗い部屋に一人取り残された。


「馬鹿な子・・・・・本当に馬鹿な子よ・・・・令子・・・」

ぽたぽたと涙がキーボードを濡らした。




横島が目を覚ましたのは、その日の夜遅くだった。


「クソッ・・・ちくしょう・・・・また守れなかった!!」
「横島君!落ち着くんだ!」

目を覚ました横島は頭をかきむしり、意味も無く周りの壁や配置物を攻撃し始めた。
西条や美智恵は何とかなだめようとしているが聞く耳すら持たない。

耐えかねたおキヌは西条たちに混じり、横島を落ち着かせようと懸命に声を上げる。
「うわぁぁ!!・・・・パピリオ・・・美神さん・・・!!」
「横島さん、ダメです!正気に戻って!!」

「おキヌちゃん、危険よ!下がって!!」
西条は横島を押さえつけ、美智恵はおキヌを押さえつける羽目になった。

「横島さん・・・イヤですよ・・・そんなの・・・

それにそん何じゃあパピリオちゃんも美神さんも喜びません!!」




横島の動きが止まった。

皆、一瞬おキヌの説得が効いたのかと思った。


「ウワァァァァァアアアアア!!!」
しかし次の瞬間には叫び声と共におキヌに向かって飛び掛っていた。

「くっ!!」
西条が何とか彼の足首を掴んで引き倒したが、もし掴み損ねていたら今ごろおキヌは大怪我を負っていただろう。

「おいたがすぎるぞ横島君!少し寝ていたまえ!!ジャスティス・スタン!!」

バチバチバチッ!!

「ぐがぁぁァァァああああああ!!」
横島は一瞬悲鳴をあげた後動かなくなった。
自分や美神の血で、まだ真っ赤の彼は何故か酷く恐ろしいモノに見えた。


「・・・先が思いやられるわね」
タマモはいつでも発射できるようにしていた狐火をしまいこんでポツリと言った。


騒然とした部屋の中で、一人、異常に震えている者がいた。シロだ。

顔面は蒼白で、今にも倒れそうだった。

「違う・・・・この人は違う・・・・こんなの先生じゃない!」

「シロちゃん!」
おキヌが怖い顔をして珍しく怒鳴る。

「先生は・・・拙者の知っている先生は仲間を傷つけようとするはずが無いでござる!!」

彼女はダッと駆け出し、隠れ家から飛び出していった。

タマモとおキヌが後を追おうとしたが西条が止める。
「・・・そっとしておいてやれ。それより明日に備えるんだ。」
美智恵が彼の代わりに後を続ける。
「明日、信頼できるメンバーを皆集めて今後の方針を立てます。今後はお偉方に喧嘩を売ることになります。・・・だから休みなさい。これは命令です。」

彼女の有無を言わせぬ迫力に、二人は黙って従った。



西条はピクリとも動かぬ横島を見下したように見つめる。


さぁ、君のせいで大変な事になってるぞ。皆は三界全部を敵に回してまで君を守りながら令子ちゃん達の仇を取るつもりだ・・・・・どう責任とるんだい?





次の日、美智恵の信頼できるメンバー、つまりアシュタロス戦役の勇者達が、この狭い隠れ家の中に全員集合した。

シロはまだ帰ってきていなかったが、作戦会議は実行されている。

折りたたみ式の机を囲み、リーダーである美智恵の作戦を聞くため、皆神妙な目つきで静かに座っていた。冥子ですら今回ばかりはいつもの幼い様子は見られない。

美智恵は重苦しい声で話し出した。
「はっきり言って・・・今回の計画は無謀です。生き残る事ができる可能性も低いです。そもそもこれは私が娘の仇を取りたくて世界に喧嘩を売っているだけ・・・皆さんには甚大な迷惑がかかるだけです。
なので・・・死にたくなければ、帰っていただいて結構です」
いつもの彼女からは考えられないような弱気の発言であった。

メンバーの顔にもその不安が移る。

しかし、彼らはGS美神のレギュラーである。

「・・・俺は付き合う。正義のために生き、正義のために死ぬ。カッコイイじゃねぇか。
これこそ天国のママに顔向けできるってんだ!」
不安なんか物ともしない一人が叫んだ。
「わっしも、横島サンをこんな目にあわせた奴は許したくないですけんノー」
「僕も・・・彼らは間違った正義を持っていると思います。できればこんなことしたくはありませんが・・・誰かが正さない限り悲劇は繰り返されます。僕もやります!」
隣の部屋で眠る男の親友達は命を賭けて戦う事をここに誓った。

「でも・・・」
最後に声を上げた者、ピートが突然体を霧に変える。
次の瞬間、雪之条とタイガーは首筋に痛みを感じた。
「いだっ!」
「ピート・・てめ・・・」
とたんに二人の目は虚ろになる。
「彼方達には、帰りを待つ者がいます。この事は忘れて彼女たちの元へ行ってあげてください。あ、太陽には気をつけてくださいよ?」
血の魔力による支配だった。雪之条とタイガーは虚ろな目をしたまま部屋を出て行った。
「ふぅん・・じゃあピートは自分が死んじゃっても誰も悲しまないと思ってるワケ?」
二人の後姿を見つめていたピートの背中にエミが抱きつく。
「エ、エミさん・・・!」
「・・・わかったわ。ピートがやるなら私もやるワケ」

その後も唐巣神父「きっとこれも神の試練さ」ドクターカオス「死か・・・千年も生きてればぞっとしないな」マリア「お供します・ドクターカオス」冥子「・・・私も〜令子ちゃんの仇は討ちたいわ〜。泣くのは〜その後にしたの〜。」なども全員賛成し、事実上現在のアシュタロス戦役の英雄達は世界を敵に回す覚悟を決めた。

「じゃ、作戦会議か・・・」
お茶を運んできたおキヌが席についた時、タマモは腕を組みながら言った。


命を賭けた大作戦会議が今始まる。
「諸君、今回はおちゃらけは一切無しだ。一瞬の油断が死に繋がる・・・いいね?」
西条が司会を務め、会議は進められている。

「まず、冥子ちゃんが協力してくれた事は大変な強みになる。六道家の権力を使えばGS協会にもある程度の影響を与える事ができるわけだからね。
そこでだ・・・」
「あら〜それはダメよ〜」
西条が作戦の第一段階の旨を伝えようとしたが、冥子本人の声で切られてしまう。
「どうしたんだい、冥子ちゃん?」
唐巣神父が聞いた。
「だって、私〜感動されちゃったもの〜」
「はい?」
「だから〜昨日お母様にこの事を話したらお母さん私のことを感動しちゃったのよ〜」
だから〜その手は使えないの〜と、冥子ちゃん。

「・・・感動って、『勘当』のことかい?」
「そう、そうれよ〜」
そう、六道冥子は権力者の肩書きを引き剥がされ、単なる現地潜入型自立原爆少女に成り下がったのだ。
計画はいきなり行き詰まった。

「じゃあそうすると今の政府に反感を持ってる妖怪たちを集めてデモでもやるしかないわね・・・人外の者が安全に生きる権利でも主張しながら」
美智恵が腕を組みながら言った。
「でも危険は多いわよ?一斉に除霊されちゃうかも。私みたいに」
タマモが皮肉げに言った。
「だけどねタマモ君。その人間の中には今の我々に協力してくれるような強い正義感を持った連中も居るのだよ。実際彼らの協力が無かったら僕も先生もまだ独房の中だ」
西条は諭すように言う。が、最後には「それでも頭の固い連中が居る事は否定しないがね」と彼女のように皮肉げに言った。

「しかし今のところそれしかないかもしれんのう・・・マリア、他に案はあるか?」
「ノー・ただいま検索中」
カオス、マリアコンビも特に案は浮かばない。
「私、知り合いの幽霊さんに聞き込みしましょうか?」
おキヌはこの作戦に賛成のようだ。

「じゃあしょうがない・・・ひとまずはこの案で行こう。こうやって何とか周りの支持を集めていけば・・・」
セリフが尻すぼまりになる。

西条が話を締めくくろうとした時、彼が現れたのだ。

まだ彼を見ていなかったメンバーは血まみれの彼にギョッとする。

「横島さん・・・」
誰かが言った。

横島はさっきまで寝ていた部屋のドアの所に立っていた。
暗い部屋に右半身が入ったままの彼は、まるで闇に取り込まれているかのように見える。
西条達から昨日の横島の大暴れを聞いていた皆は身を硬くした。

しかし、今日の彼の目は至っていつも通りだった。

「やぁ、皆・・・。オイオイ西条、物騒なモノしまえよ、俺は至ってマトモだぜ?」
彼は柔らかな口調で話しながら、ジャスティスに手を伸ばす西条を見る。
「話は全部寝ながら聞いてたよ。すまない・・・皆。俺のせいで・・・」
横島はうなだれた。
ピートはそんな彼が正気に戻ったのかと思い、笑顔を浮かべる。
「横島さん・・・あたりまえじゃないですか。友達ですよ?僕らは」
「・・・でもさ、巻き込むわけには行かないんだよ。俺に関わったらいずれみんな美神さんの後を追う羽目になる・・・」
だが、横島はまるで最初からピートなんて居なかったかのように話しつづけた。
ピートの表情が硬くなる。
「・・・俺は皆が死ぬところなんてもう見たくない。だから、ここでお別れだ」

キィ・・ン・・・

彼の手のひらで、複数の文珠がきらめく。
「まさか・・・小僧!あの時の文珠をまだ回収していなかったのか!!」
カオスが立ち上がる。
その拍子にお茶のカップが倒れて床一面にお茶が広がった。
「横島君!やっぱりまだ寝惚けているようだね!!」
一番近い位置にいた西条が叫び、ジャスティスを片手に飛び掛った。
横島は文珠を掲げる。
「させるか!ジャスティス・スタン!!」
電撃を帯びた剣先が、横島に触れる・・・・が、彼の姿は掻き消えるように消えた。
「幻術!私にもわからなかった・・・?!」
タマモが信じられないような目で、西条の背後に現れた横島を見る。

西条の背後に回った横島は、彼を羽交い絞めにして動きを封じ込めた。
「くっ・・・横島君、やっぱりもう一眠りした方がいいよ。君は寝惚けてるみたいだ。」
西条は苦しそうにもがきながら減らず口を叩いたが、

「いいや、西条。今の俺は最高にクールだ・・・」


文珠がきらめきを増す。

「やめろぉぉ!!」
ドクターカオスの叫び声は白い光の中にかき消された。



『忘却』・『横』『島』『忠』『夫』・『連鎖』




白い光が溢れ出し、美神の隠れ家から10キロほどの半径を覆い尽くした。

同時刻東京でも、ある時はビルの屋上、またある時は路地裏に隠してある文珠が連鎖反応を起こしていた。

白い光は瞬く間に町を包み込み、連鎖的に日本全土を覆っていく。
妙神山などの山奥も例外ではない。

ヴァチカンでも、

ナルニアでも、

ザンス王国でも、

光は地球規模でも広がり、横島忠夫と関係のある全てを飲み込んで、消えた。

不思議な事に、この光を外から見た者、動物、電子機器も一瞬後には何が起こったかわからなくなっていた。

もちろん、光に包まれた地域では、人の記憶の中から、日本中の電子機器のメモリまで、横島忠夫という単語は完全に消滅した。












「・・・西条さん、しっかりしてください!!」

見知らぬ少年の声に西条ははっと正気に戻る。
「君は・・・」
彼は何やらクラクラする頭で目の前の少年に話し掛けた。
「僕は除霊の依頼主っすよ。それより速くあの魔族を追ってください!」
「え?」
「だから、今あなた達は僕の依頼で魔族を追っているんです!そしてこの部屋で追い詰めたけどその魔族から変な光が出て、そしたら皆さん意識が飛んじゃったんですよ!」
「そ、そうなのか・・・」
「そうですよ!早く皆を起こして奴を追ってください!南の方に行ったんだと思います!」
「わ、わかった」
西条はやけに気迫のある少年に、気おされてしろもどろになりつつも、他の皆を起こし始める。
その途中で彼はクライアントの少年が血まみれなのに気づいた。
「君!どうした!やられたか?!」
「い、いえ別に・・・」
少年は何故か気まずそうな顔をする。
「カオス、この少年を頼む!」
「まかせろ」
今起こしたばかりのカオスはむくりと起き上がりながら言った。

そして目を覚ました彼らはぞろぞろと出口に向かっていった。
「クライアントさん、ヤツは必ずしとめるのでご心配なく!」
西条は最後にそう言って白い歯を見せた。

少年は、彼らが出て行った後をいつまでも見つめていた。

部屋には少年とカオス、そしてマリアが残った。

「・・・いいのか小僧?こんなことで」
カオスはまるで長年の知り合いかのように少年に話し掛けた。
「カオス・・・アンタなんで・・・」
少年、横島は驚いた顔をする。
「ふっ・・・前におまえが過去に飛ぼうとした時、誰よりも早くこのカラクリをおまえから教えてもらったんじゃぞ?対策ぐらいはとうにしておったわ」
「・・・・流石はヨーロッパの魔王」
「ふっ誉めるでない。それよりもう一度聞く。・・・・いいのか?」

横島は一瞬うつむいた風にしてから、小さく答えた。

「ああ。・・・俺との関係者は、たぶん・・・これから凄い迷惑がかかると思うんだ。だから最初から関係なんて無い方がずっといい」
「復讐でもする気か?」
カオスは渋い顔をする。
「それもある。・・・・だが最終目的は、たぶんアシュタロスと同じだ」
「横島さん・だめ」
マリアが必死になって何か表情を浮かべようとした。
「そうだなマリア・・・・・でももう俺には生きる価値も生きる希望も無い・・・・残された道は一つ。滅びだけだ。だがただじゃ死なない。できるだけあがいてみせる」
横島は拳を固めた。
その時の表情は、狂気ではなく深い悲しみだった。
「そうか・・・なら行け」
そんな横島に、カオスは背を向けた。
横島は拍子抜ける。
「やけにすんなりだな」
「・・・もしわしが何かしらおまえの体を元に戻すすべを見つけていればこんなことは起こらなかったかもしれん・・・これは以前から気づいておきながら努力していなかったボケ老人のせめても償いじゃ。
それに今さら止められん事ぐらい、その目を見ればわかる・・・


・・・だが必要の時はいつでも頼って来い!待っているぞ!」
カオスは決して振り返らずに親指を立てて見せ、力強く言った。

横島は恥ずかしそうに笑ってから出口へと向かっていった。

マリアが後を追おうとする。
「止めてはならぬ!!」
カオスが叫んだ。
「・・・・・・・イエス・ドクターカオス」
マリアは立ち止まり、しばらく考えてからそう言った。
「別れはつらいが・・・奴の決めた事じゃ。邪魔してはならぬ」
「イエス・ドクターカオス」
マリアは機械的に応答する。


「・・・ですが・マリア・つらいです」


「そうじゃな・・・」と、彼は言い、深く溜め息をつく。

「何百年生きても・・・別れよりつらいものは無い。小僧はこれを知ってなお生きるには・・・ちと速すぎたようじゃ」




横島のアパート。

開けっ放しの窓から、逆光で良く見えない黒い影が舞い込んできた。

影はほぼ暗闇の部屋の中を苦も無く歩き、目的のクロゼットまでたどり着く。どうやらこの部屋には慣れているようだった。


そして服の奥に隠されたやや大き目の箱を引っ張り出す。
それを慎重に開けると、中にはバイザーが一つと、大切そうにハンカチで包まれた何かが入っていた。

「ごめん・・・ルシオラ。もう俺には転生させられそうに無いから・・・これも貰っとく」
ハンカチを開き、中身を手に取る。

それはルシオラの霊波片だった。
手のひらを握り、一瞬力を込める。

彼の手は蛍火を思わせる光に包まれ、手を開いた時その手の上には何も無かった。

次の瞬間には体質変化による苦痛が彼の体中を襲う。

ドクン・・・
「ぐ・・・」

ドクン・・・
「ぐぉあ・・・」

ドクン、ドクン、ドクンドクンドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!

「ぐぁぁぁぉぉぉぉぉおおぁぁあああああああっっっ!!!」






はぁっ・・・はぁっ・・・・・・・・ふーーーー・・・・

一時間以上その痛みに耐えていただろうか?

彼にとってはもっと長く感じていたであろうその苦痛はやがては終わりを告げ、少しずつ息も整ってきた。

震える手でバイザーを掴み、まだ痛む胸のあたりを押さえながらよろよろと立ち上がる。
そしてクロゼットに背を向けようとした時、あるものに気が付いた。

「・・・・・・・ちょうどいい。今の俺にぴったりだな」

彼は血まみれの服を着替え始めた。


ごそごそごそごそ


乾いた血で張り付いて脱ぎにくい。

ごそごそごそ・・・・ぱら・・・

何かが服のポケットから落ちた。拾い上げてみるとそれは
「パピ・・・・美神さん」
彼女たちの最後の写真だった。

二人からいきなりキスされたあの写真・・・。前に見たのがずっと昔の事に思える。

とたんに、さっきまで思い出さないようにしていたパピリオとの思い出が溢れ出した。


初めて出会って、いきなりペットにされた。

逆転号で結構遊んだっけ?

南極での戦いの後、本当に幸せだった・・・。

そして決戦。

その後、孤独に震えていた彼女。

一緒に暮らすようになった。

毎日がハプニングの連続。

でも、そのたびに泣いたり、笑ったり、怒ったりとコロコロと表情を変える彼女が、本当にいとしかった・・・。


だが・・・もう彼女は泣かない、笑わない、怒らない・・・・。

美神さんだって同じだ・・・もう、彼女たちには・・・会えない。


・・・さっき別れた皆だって同じだ。もはや俺のことなんて覚えてはいない。
もう一緒に馬鹿言い合うことも出来ないし、仕事だって出来ない・・・
もし合えたとしてもその時は・・・


つぅ・・・
何かが頬を伝った。
どうやら彼は気づかない間に泣いていたらしい。

彼はそれを手の甲でぬぐって初めて自分が泣いているんだと気づく。
それに気づくと、今度は押さえきれないような量の涙が流れ始めた。
彼はしゃがみこみ、声を押し殺して泣いた。

「うぅ・・・・・ふぐぅ・・・・うううううう・・・っ」

暗い部屋の片隅で、一人寂しく、静かに泣いていた。




・・・こうなったのも・・・皆・・・・




しばらくして、彼は立ち上がる。そして手早く着替えを済ませた。
写真は大事に懐にしまい、バンダナは外し、左手に巻きつける。
そしてバンダナの変わりにバイザーを頭に付けた。



窓へと一歩一歩近づいてゆく。その一歩のたびにもはや押さえきれない怒りの炎が巻き上がって行くのが彼自身にもわかった。


窓枠に足をかける。

夜風にはためいた黒い服の生地が、月明かりに照らされてにぶく光った。
それはかつて、アシュタロス一味の謎の人間幹部が、一人の魔族幹部からプレゼントされた黒い衣装だった。



「・・・どうしようもない事だったなんて・・・解っている・・・解ってるんだ」


『飛翔』

彼の体が闇夜に飛び出す。
バイザーの隙間から僅かに覗くその顔に、もはや怒り以外の何かは存在しなかった。






がやがやと何人ものオカルトGメンがあたりを調べたり、何かしらの痕跡を探している。

「西条君、状況はどう?」
進入禁止、と書いてある札が下がったロープを潜り抜け、美神美智恵が現場へやってきた。
「どうしたもこうしたもありませんよ・・・GSの面目丸つぶれですね」
西条輝彦は困った顔をして頭の後ろをぽりぽりと掻いた。
「突如GS協会本部会議に魔族が侵入し、協会の重役、偶然居合わせたガードマンを含む12人皆殺し・・・。あたり一面に十二人分の体のパーツがばら撒かれ、部屋中血まみれ、さらには壁には・・・」
美智恵は事件の報告書の内容を呟きながら、青いビニールシートを被せてある壁に歩み寄った。
「・・・我々に対する挑戦状まで」
ペラリとシートをめくると、そこにはどす黒い血文字が書かれていた。


PREVENT ME IF YOU CAN


「『止められるものなら止めてみろ』・・・か。長い事件になりそうですね」
西条が眉をひそめた。
「いえ、すぐにでも止めてやるわ。この私の手でね」
美智恵はすぐにそう言い放つ。
「えっ、しかし・・・」
西条は驚いた。この人はつい最近、次女の育児のために引退しようか、とまで言っていたのである。
彼が驚くのも無理もない。
「・・・令子の事件とこの事件。同じ魔力が検出されたらしいのよ」
美智恵はぽつりと言った。
「それじゃあ令子ちゃんは・・・・」
「ええ、この事件と同一犯である可能性が高いわ・・・。しかもこの間、私たちの仕事中の記憶が何故か消えたあの事件・・・それもおそらく同一の魔力と思われるものが検出されたわ・・・。私もおちょくられたものよ・・・。
見てらっしゃい腐れ悪魔・・・娘の仇は必ず、すぐにでも討つわ」
美智恵は静かにそう言うと、現場を去って行った。西条もその後を追う。

その日から二人は、一刻も早くこの事件の犯人を討つ事に闘志を燃やすことになった。






しかし、この事件は、一人の悪魔が以後十年間あまりに渡って人を殺し、魔を祓い、神を滅し、世界中を脅かしつづけた大犯罪者として語り継がれ、歴史に名を残す、ほんの始まりにすぎないのであった・・・。



悪魔はあらゆる矛盾を世界にぶつけ、かつての仲間は真実を知らずに彼を追い詰めてゆく・・・・。



TO BE CONTINUED・・・。

BACK TO THE PAST!第二部、『例の悪魔の噂』編に続く。


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