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BACK TO THE PAST!

デジャブーランドでさようなら2


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/ 8/23

突きつけられた銃口。

横島は・・・ただ見つめていた。





美神は相変らず黒光りする銃を構えたまま、横島から片時も目を離さない。

「昨日ね、GS協会から横島クンの抹殺命令が出たの」
淡々とした口調はまるでロボットのようだ。
「理由はあなたの存在自体が脅威になるから。ドクターカオスはずっと前から気づかぬふりをしてくれていたらしいんだけど・・・つい先日判明したそうよ。

今のあなたは・・・もうすでに人間じゃない。

ルシオラさんの影響ですって。
まあぱっと見てもわかるわよ。通常の人間がそんな力を出せるはずが無いもの。
今のあなたの霊力知ってる?1800マイトだって。笑っちゃうわね・・・どう考えても魔族か妖怪の類よ。それだけじゃなく横島クンの霊力はまだまだ上がってる。
しかもあなたは文珠使い・・・政府としてはあなたのような危険分子をほおってはおけないんですって。
何とかママとかも上を説得しようとしたけどまるでダメ・・・
『魔族には破壊本能がある。そもそも彼はルシオラとやらの件で世界を少しからず憎んでいる』これが結論。

・・・で半人半魔退治には私が選ばれたわけ。ママとか西条さんは今ごろ拘留されてる。

そして私があなたを殺せば任務完了。私に2兆円の報酬が入るわ」



美神の指先に、少しずつ力が込められる。

「さようなら、横島クン。私がお金好きなの知ってるでしょ?」






ばん!ばん!ばん!ばん!


四発の銃声が林に響いた。















「・・・・・どうして・・・・どうしてよ・・・っ!!」

押し殺した声。

「何で・・・・何で避けようとしなかったの!何で私を攻撃しなかったの!あなたならそれが出来たはずよ!!」

美神も横島も、まだ無傷で立っていた。

先ほどの弾丸は全て横島に当るか当らないかギリギリの所をかすめていったのだ。

「答えてよ!横島!!」
美神は叫んだ。
すがるような声だった。

横島は、ちょっと間を置いてから答えた。
「イヤ・・・・だったんです・・・・・」

「避けるのが?」
「いいえ、突然名も知らぬ誰かに殺されるのが」
横島は悲しそうな目で、美神を見た。

「俺、わかってました。自分の中で何かが変わっていくのは。日に日に、ちょっとずつですけど、昨日まであった何かが変わってるんですよ。

でも、恥じちゃいませんでした。だってこれは、いわばあいつが居たっていう証拠でもあるじゃないですか。しかもそのぶん力も強くなってきました。
これはきっと、この力でみんなを守れって、あいつがそう言っているに違いないと、そう思ってました。

でも、現実は違うんです。
だんだんと炎が燃えてくるんですよ。自分を、あいつと引き換えだった世界を焼き焦がす炎が。

その炎に焼き尽くされたら、俺はもう終わりです。もはや誰かが俺の息の根を止めるまで俺は、世界を焼き尽くします。


そうなるのは怖いです。自分が自分じゃなくなって、それで訳もわかんないやつに殺されるなんて・・・・

でも、知っている奴なら、俺がまともだった頃を覚えていてくれる人だったら・・・安心して死ねる、ような気がしたんです。

そもそも俺が生きていたら、やがて俺の炎はその人を焼いちまうかもしれない。そう思ったら・・・体が動きませんでした」


どちらとも無く、指一本動かせない空間ができる。

「美神さん・・・だから、俺を殺してください」

その一言は、何故か聞いているだけで胸が締め付けられるような感じがした。



「ホラ、いつも『コイツの殺生権は私にある』とか言ってたじゃないっすか」

いや・・・・

「いつもみたいに、パッとやっちゃってくださいよ・・・・」

いや・・・・いや・・・

「・・・・お願い・・・しますよ・・・待たされるとかえって・・・怖いじゃないっすか」

いやいやいや・・・

「ホラ・・・・み、見てくださいよ・・・はは、こんなに・・・震え・・・おとなげないっすね・・」
「いや・・・・いやよ・・・・」
「美神さん・・・」

「いやぁぁぁぁあああ!!」
美神は突然叫び、銃を取り落とした。
「いやだ、いやだいやだ!・・・殺せないよぉ・・・私に、私には殺せない・・・・」

両膝を付き、涙が流れるのを全く気にせずに彼女は泣きつづけた。

「何で?何でなの・・・コイツ全然悪い事して無い・・・私のほうがよっぽど悪いのに・・・皆して横島クンに厄介事押し付けたくせに、今度は死ねって・・・この子は世界を救ったのよ・・・・・自分を犠牲にして・・・・なのに・・・なのに何でよぉ・・・っ!!」

横島しばらくじっと眺めていたが、そんな彼女に歩みより、屈みこんでそっと抱きしめた。
美神は突然の事に一瞬身を硬くして・・・大声で泣いた。

いつもの彼女からは想像も出来ないぐらい、泣きじゃくった。


デジャブーランドのテーマソング『マッキーマウスマーチ』が、やけに映えて聞こえた。




何分ぐらいそうしていただろうか・・・。
美神がやや落ち着いた頃。横島が突然立ち上がった。
「あ・・・」
美神は失われた温もりに、不満げな声を出した。

横島は彼女に目もくれず、何も無い空間を睨む。

「待っててくれてありがとよ・・・もう出てきていいぜ?」

『それは助かるな』
虚空から声がした。そして次の瞬間にはそこに二人の何かが立っていた。

「う・・・嘘でしょ・・・」
彼女が驚くのも無理は無い。その二人は一人は神、一人は悪魔、と二人とも想像を絶するパワーを秘めていた。

今回の横島忠夫抹殺は、何も人界だけの決定ではなかったのだ。

つまり、今この少年は・・・・人界、天界、魔界、全ての世界から敵に回されていることになる。


「我々は美神令子が失敗したときのために派遣された。横島忠夫よ、もはや逃げられぬ・・・」
白い鎧に全身を包んだ神族が言った。

「ああ、見りゃ解る。」
横島は美神から離れ、二人の正面に立った。

「ならば話は早い、貴様の処刑を始めよう・・・」
黒い鎧に全身を包んだ魔族が言った。
「・・・・お手柔らかに頼むぜ?」
「善処しよう」


ヴゥン・・・・


白い鎧を着た神族の手に、途方も無いエネルギーが溜まるのが、美神にもわかった。

「この技は、スピードは遅いが・・・まともに当ればいかにおまえでも苦しみ無く死ねるはずだ。・・・下手に避けない事を勧める。そしておまえの死後、魂は転生できぬよう永遠に封印される」

「そっか・・・そうだよな。原因は俺の魂自体だからな・・・」
横島は震えを押さえていた、しかしその顔は引きつり、脂汗が浮かんでいる。

「そ・・・そんな!転生できなくなるなんて聞いてない!!」
美神は声を張り上げて抗議するが、神族魔族の二人は冷たく答えた。
「これは天界、魔界の最終決定なのだ」
「おまえごときではどうする事も出来ない・・・」

「そんな・・・どうして・・・・」
美神は呟く事しかできなかった。


「祈るか?」
神族が最後にそう聞いた。
「いや、今日限りでもう神様信じない」
横島は精一杯の嫌味を言う。
「そうか・・・・ではさらばだ」

「ああ、あばよ。てめーらの顔何ざもう見たくもねぇや。


・・・それと、



永遠にさようなら、美神さん。」



ポゥッ

気の抜けるような音を出して超エネルギーの塊が、ちょうどキャッチボールの弾ぐらいの速さで発射された。

横島の脳裏では走馬灯のように今までの人生が流れていた。


始めて美神に会った日。

数々の除霊作業の思い出。

GS試験。

香港にも行った。

月に行ったこともあった。

共に戦い、共に笑った、泣いた、怒った、悔しがった・・・・

そんな・・・思い出だった。




その時、過去を思い出していたのは、何も横島だけではなかった。

彼が居なくなる・・・・永遠に・・・

せっかくめぐり合えたのに、せっかく心が繋がり始めたのに・・・・


・・・・・・やらせない!!







「逃げて横島クン!!!!」

ドンッ!


突然、突き飛ばされた。

ごろりと地面に転がった。背中が痛い・・・・生きてる?

呆然としたままむくりと起き上がる。

「・・・う、うそ・・・だよな・・・」

さっきまで自分のいた場所に倒れるもの。

「そんな・・・そんな、そんな・・・・」


それは美神令子その人だった。


ただし、右半身が、抉り取られたかのように消滅していた。

「美神さん!!」
彼は慌てて駆け出し、彼女を抱き上げる。じわりと血が彼の服に染み込んだ。

美神は奇跡的にもまだ生きていた。しかしその体から温もりが消えるのは後僅かだろう・・・。

「・・・馬、鹿ね・・・・なん、で。にげな・・いのよ・・・・」
彼女は僅かにまぶたを開け、ガラガラした声で喋る。
「美神さん!!しっかり!!喋っちゃダメです。今治療を・・・」
横島は必死でありったけの文珠を使って彼女を救おうとする。
しかし血はどんどんと流れ出し、彼や、地面を紅く染めた。

「だ、けど・・・・はぁ・・がふっ・・・・・好きな人、の、胸のなか・・・で死ねる、なら・・・ま、あ・・・ゆるしっ・・・・・・・・てあげる・・・・・」
「美神さん!!何いってるんですか!!気を保って・・・・むぐっ!」
美神は最後に全ての力を振り絞って、片手で彼の顔を引き寄せて、キスをした。


最後のキスは、血の味だった。


「えへへへ・・・」
彼女は最後にそう笑うと・・・・・事切れた。

幾多の魑魅魍魎を葬り去り、いつも彼を殴りつけていたその腕は、だらりと垂れて、まるでゴムか何かで出来た人形のようだ。

いつも彼を騙しつづけていた美しい顔も、もはや血の気が失せて変色している。



そう、美神令子は・・・死んだのだ。














「何だ・・・死んだのか?」
「まさか邪魔をするとは・・・身のほど知らずな・・・」
ボソリと、後ろから聞こえた着た声。

その一言が横島に火をつけた。


「ウオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

体の中で押さえつけていた炎が、一気に火柱となり、全身を焼き尽くす。
今まで保っていた理性をかなぐり捨て、全てを思うがままに任せる。


その感覚は・・・・なぜか心地よくもあった。


「ほう・・・向かってくるか」
「・・・その方がやりやすい。もともと気が向かなかったからな」

目の前に、何やらほざいている奴がいる。

こいつらは、あの人を殺した。


うぜぇ・・・・・・・・・・コイツが敵だ。



両腕に力を込める。すると両腕には面白いようにエネルギーが集中した。


「シネェ!!」

横島腕から自分でも驚くほどの量のエネルギーを誇る霊波砲が撃ち出される。
その本流はまっすぐに敵に向かい飛んでいく。

「ば、馬鹿な・・・もうこれだけの力を・・・」
「予想外だ・・・・」
敵はそんな事を言った。

霊波砲が通り過ぎた空間には・・・もはや何もいなかった。

くっくっく・・・どうだ?俺を処刑しに来た奴らめ、跡形も無く消滅しやがった。


「くっくっく・・・・ハァーッハッハッハッハッ!!

復讐してやる!俺を、こんな目に合わせた奴を・・・」
彼は狂い始めていた。
心の炎に焼かれる彼は、もはや足元に転がる女性の事も考えられてはいなかった。


「まずはGS本部だ、次は天界か?これだけのパワーだ、やろうと思えばすぐにでも・・・・・ぐっ!!」
しかし、すぐにその狂気は止められた。

横島の胸から生えた腕によって。

「な・・・ん・・・・」
ごぼごぼと口から血があふれ出す。

彼は自分の胸から生えた手が、いつの間にか背後に回りこんで突きを放った先ほどの魔族の腕だとわかるのに、かなりに時間を要した。

「ずいぶんと・・・予想外な展開だったな」
「ああ、もう少し成長していたらまずかったかもしれん」

ズルリと腕を引き抜かれ、支えるものを失った横島の体はドサリと地面に倒れる。
地面は湿っていて、腐葉土の匂いがした。


−−−−格が、違う・・・!?


「てきとうに情報を集めてきた奴を懲らしめてやらんとな・・・」
「ああ、まったくだ・・・」

もはや彼らの会話すら聞こえない。
目の前には美神が倒れている。

・・・・美神さん。ははは・・・・もう少しで狂気に支配される所だったみたいだ。

やっぱり・・・・俺、消えたほうがいいみたいです。

あなたの死が、無駄になちゃって・・・・ごめんなさ・・・い・・・・


だんだんと目の前が暗くなり、手足の感覚が無くなっていく・・・朦朧とした意識は今にも消えかかっていた。


真っ赤な血が、落ち葉の隙間を通って地面に吸い込まれていった。


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