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WORLD〜ワールド〜

第九話 狂宴〜パーティー〜(4)


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 8/12

 カオスは必死に記憶を探っていた。

「のう、マリア? わしは本当に奴と会ったことがあるのか?」

「イエス・ドクター・カオス。西暦1242年、確かに接触しています」

「ええ〜い! この私を忘れるなどとは許せません! 早く思い出しなさい!!」

 カオスとマリアの目の前では、タコのような姿をした魔族が興奮して暴れていた。
 ことの顛末はこうである。
 家賃を溜め込んでいるカオス達はこんな所(妙神山)で時間をつぶしているわけにはいかんということで、何とか美神、その他の目を盗んで下山しようとしていた。
 しかしそこで異常が発生。
 目の前に突然タコのような姿をした魔族が現れたのである。
 そしてタコ魔族は開口一番こう言い放った。
 「久しぶりですね、ドクター・カオス」と。
 それに対してカオスはこう言った。
 「誰?」と。
 そして冒頭のやり取りへとつながるのである。

「かつてあなたと死闘を演じたこの天才、プロフェッサー・ヌルを忘れるなどと! よく見れば私が死んでいる間に随分老けた様子…ボケたかカオス!!」

「失敬なことをゆーな! まだ頭はシャンとしとるわい!!」

 美神と横島が過去のヨーロッパへと跳んでしまった時点では、『現在』のカオスはまだ過去のことを覚えていた。
 しかし、このじいさんは新しいことを覚えればそのかわりに古いことを忘れてしまうという長生きゆえの悲しい業を背負った人物。
 ヌルのことなどもうすっかり忘れてしまったのである。

「む〜、なんか頭にひっかかっとるんじゃが……」

「ええい! ならばあなたはマリア姫のことも忘れたというのか!」

「馬鹿をいうな! そんな不誠実な真似をわしがするわけなかろう!」

「それでなんで私を忘れるのだーーー!!!」

 ぬけぬけと言い放つカオスに激昂するヌル。
 もはや堪忍袋の尾が切れたようだ。

「もういい! このボケ老人め!! 死になさい!!」

 タコの足の一本から、鋭い氷がまるで嵐のように発生し、カオスを襲う。

「ぬおお!?」

 思い出すのに没頭していたカオスはまったく反応できなかった。
 カオスの居たところに無数の氷が降り注ぐ。
 土煙が舞い上がり、カオスの姿が見えなくなった。

「ふふふ…死にましたか」

 徐々に土煙が晴れていく。
 ヌルは驚愕した。
 カオスはまったくの無傷だった。
 カオスの前に、鋼鉄のアンドロイド、マリアが立ち塞がっていたのだ。

「ご無事ですか? ドクター・カオス」

「おおっ! 助かったぞマリア!!」

「くっ…この娘、ロボットか! しかもなんという強度…! ……いや、待て。あの娘は確かあの時の……」

 ヌルの動きが止まる。
 少しばかりの後に、ヌルは突如人型に戻り、急に笑い出した。

「あの時は気付かなかったが……その姿………そして、名が『マリア』、か………くくく、これはいい。フフフ…ハッハッハッハッハ!!!!!!!!」

 突如笑い始めたヌルにカオスもマリアも戸惑いを隠せない。

「な、なんじゃあやつ。氷と一緒に脳みそも飛ばしてしまったのか?」

「わかりません・理解・不能」

 ひとしきり笑ったあと、落ち着いたのかヌルはため息を一つついた。
 それでも、口元には笑みを浮かべている。

「ふふふ…ドクター・カオス。……マリア姫とは結ばれましたか?」

「……? いきなり何を………」

 突然の問いかけに戸惑うカオス。
 マリアもヌルの意図がわからず、行動しかねている。

「結ばれてはいない…でしょう? そもそも、結ばれるはずがないのですから。不死とは時に不便なものですな、ドクター・カオス。あなたと同じ時の流れを歩むことが出来る者など人間には存在しないのですから。どんなにお互い恋焦がれても、決して報われることのない悲劇」

「……何が言いたい」

「そんなあなたは悠久の時を独りで生きていかねばならなかった。それがどんなに辛いことか、ええ、よくわかります。わかりますとも。…しかし、だからといって……クク……恋焦がれた相手と同じ顔、同じ名を持つ『人形』をそばにおきますか? ククク…滑稽だ。滑稽ですよドクター・カオス!!」

「…マリアは人形などではない。魂をもっておる」

「魂!? クハハハハハ!!! 笑わせてくれる!!! ならばなぜ! この娘はあの時私の作ったプログラムに従ってあなたを攻撃した!? 所詮偽りの魂など込めてもその娘は人形だ! 入力されたプログラムに従い、行動を起こす! 所詮ソレはあなたの欲望を満たすための愛玩具にすぎないのですよ!!」

 再び興奮してきたのかヌルは大きく声を上げていた。
 対するカオスは何も言わずに、黙ってヌルの言葉を聞いている。

「マリア・人形じゃ・ありません」

 ヌルの言葉に反応したのは驚くべきことにマリアだった。

「それもプログラムですか? まったく、よくできている。…ドクター・カオス。あなたは可哀相な人だ。この世の真理を求めるために『不死』を手に入れたはずが……未だその真理にたどり着くことはできず、その体は、脳は衰えるばかり。そして悠久の孤独を紛い物の人形でごまかし、生きる。…もういいでしょう? これからも衰え続けるあなたに最早成功など有り得ない。私が終わらせてあげましょう! 無駄に続くあなたの孤独を!!」

 言い終えると同時にヌルは再びタコのような姿をとり、氷の刃を発生させる。
 それらは確実にカオスの心臓を貫くべく、カオスに接近した。

「危ない・ドクター・カオス!」

「邪魔だ、木偶が!!」

 カオスをかばい、氷の刃を打ち落とすマリアに、ヌルが氷の刃を発生させた足とは別の一本をかざす。
 その足から雷が発生し、マリアを襲った。
 過負荷の電圧がかかったことにより、マリアはショートし、一時的な行動不能に陥ってしまう。

「マリア!!」

「さあもう邪魔者はいませんよ。ドクター・カオス」

「むっ、ぬお!」

 カオスの首に、腕に、足に、ヌルのタコのような足が絡みつく。

「あなたが貴重な知識を失う前に、その知識ごと私の一部としてあげましょう。なに、そんなに悪い話ではないでしょう? これであなたが今まで得た知識を無駄にすることなく、あなたはゆっくりと休むことができる。……もう疲れたでしょう? おやすみなさい、ドクター・カオス」

 カオスはなんの抵抗もしなかった。
 徐々にその体はヌルに飲み込まれていく。
 だが。
 その顔には不敵な笑みを浮かべていた。

「ふん、食えるものなら勝手にせい。じゃが、わしの味は……極上じゃぞ?」

「負け犬の遠吠えですか? 見苦しいですよ、ドクター・カオス。せめて最後くらいは鮮やかに消えたらどうです?」

 そんな言葉を吐くヌルの内部<なか>で。
 カオスの笑みと共に。
 カオスの胸に刻まれた、五芒星が輝いた。
 そこから放たれた霊波砲が、内部からヌルを灼く。

「ぎゃああああああああ!!!! おのれカオス! 何をしたぁ!!」

「言ったはずじゃぞ? わしの味は極上じゃとな」

「おのれ! おのれカオスゥ!!!」

「それとさっきの話じゃがな、これだけは言っとくわい」

 カオスの胸に刻まれた五芒星が再び輝きを放つ。

「大きなお世話、じゃ」

「ぐおわあぁぁぁああ!!!!!!」

 ヌルは分解され、空に溶けて消滅した。
 カオスは乱れたマントを掛けなおし、未だに倒れているマリアへと歩み寄った。
 屈みこみ、マリアの頬へ手を触れる。

「孤独を紛らわせるための人形、か。否定はせんよ。孤独を紛らわせる、という部分はな」

 マリアからウインウインと機械音が鳴り響く。
 どうやら、再起動に成功したようだ。

「お早う、マリア。調子はどうじゃ?」

「各部・損傷軽微・問題・ありません。それより・ご無事でしたか? ドクター・カオス」

「うむ、わしはピンピンしとる。ところでマリア。どうやら今、この妙神山でおかしなことが起きとるらしい。わしらの前にあのタコのような魔族が現れた以上、ほかの皆も襲われておる可能性は高い。しかし、わしらは家賃が滞っておってそれどころではない。そこでわしらはこのままこの山を出ようと思う。よいか?」

「ノー・マリア・皆さんのことが心配」

 そのマリアの答えを聞いて、カオスはにやりと笑った。
 望んだ答えが得られたことに満足して。

「じゃろうな。では行くぞ! マリア!」

「イエス・ドクター・カオス」

 二人は来た道を舞い戻り、再び妙神山の奥深くへと、混乱の中へと飛び込んだ。
 それが、マリアの望んだことだから。

(マリアは人形ではない。ちゃんと自分の意志を持ち、行動しておる。だからマリアはあの時お前に操られていた時に、殺せたはずのわしを殺さなかったのじゃよ、ヌル)

 カオスは先ほどようやく思い出したかつての宿敵に、心の中で語りかけた。


















―――――――――ロボット、完成したのですね。

―――――――――ああ、どうやら私はこれにあなたと同じ顔、同じ名を付けたようなのですが…

―――――――――悩んでます?

―――――――――ええ。…だってそうでしょう? 私としては、別に問題はないのですが………

―――――――――では、私のほうからお願いしてもよろしいでしょうか?

―――――――――え?

―――――――――このロボットに、私と同じ顔と、同じ名をつけてもらえますか?

―――――――――ですが…よろしいのですか?

―――――――――ええ。…カオス様、私はあなたを愛しております。

―――――――――姫………それは、私もですよ。

―――――――――ありがとう、カオス様。でも私はあなたの側に立つことはできない。
         私はあなたと同じ時を歩むことはできないから。
         私は、いつか必ずあなたの足手まといになってしまう。……それは、嫌なのです。

―――――――――姫…………。

―――――――――ですから、せめてあなたの心に私がいつまでも残るように………









―――――――――――このロボットに、『マリア』の名を―――――――――――


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