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GS美神「ミッシングリンク」

第四章「彼の気持ち、彼女の想い」


投稿者名:遊
投稿日時:04/ 8/ 8

「愛する友のために命を捨てる、これより大きな愛は誰も持っていません」
        ー「聖書」より

「・・・・俺が、ルシオラをどう思っているかだって?」*注
ベスパの真剣な眼差しを受けて、横島が呟く。
その瞳は、一切のおちゃらけを許さない真剣なもの。
横島の心の奥から本音を引きずり出そうとするもの。

二人の間を沈黙が支配する。
そこにいるのは、
愛する男のために世界を滅ぼそうとした女と、
世界のために自分を愛する女を死なせてしまった男。

悠久の時を思わせるような長い沈黙の後、横島は重い口を開く。


GS美神「ミッシングリンク」第4章


「・・・・俺は、ルシオラを愛していた、・・・なんて、お前の前じゃ言えないよな。
俺は、結局、最後にルシオラを選んでやってやれなかった男だから」
横島から、彼には似合わない苦すぎる笑みがこぼれる。

「・・・世界とルシオラを天秤にかけて、ルシオラを選べなかったとしても、
お前の想いの全てを否定することはないだろう」
ベスパは横島を気遣うように言う。

「・・・まあ、そうなんだけど・・・・・でも、ここで愛していたのに護れなかった。
と言うのはズルイ気がするんだよ」

「・・・ズルイ?」
怪訝そうにベスパが問う。

「・・・だって、そうだろう?
・・・愛していたのにと泣いてりゃ、俺は被害者だ。
・・誰も俺を責めやしない。俺は、安全地帯にいられるんだ。
実際、そんなこと言わなくても、今でもさ、皆は、俺に気を使ってくれてるしな」
まあ、皆も俺にあんな選択をさせたことを後悔しているのかもしれないけど、
そう言うと横島は先を続ける。

「・・・でも、違うだろ。可哀想なのは、ルシオラだ。俺じゃない」
興奮した横島の目に涙が浮かぶ。

「皆から見れば、俺は世界のために恋人を犠牲にした被害者なのかもしれないけど・・・でも」
横島は自分を指して皮肉に笑いながらそう言うと、声を潜めて冷たく呟く。

「本当の俺は、てめーに惚れた女を利用するだけ利用して、
死なせちまった加害者なんじゃねーのか。
ヤりたいの、ヤりたくないのって、てめえのことばっかりで。
・ ・・でも、まあ、ルシオラが好きになってくれたのは、
そんな俺だってことは判ってるから、
・・・だから、もう、そんな自分を否定はしないけど、・・・・だけど」
横島の目から涙がこぼれる。堅く握られた拳。
言葉を失うベスパの様子を見て、横島は慌てて袖で顔をこすって涙を拭く。

「あ、ゴメンな。こんなこと、お前に言っても仕方ないよな。
普段は、何て事ないんだけど。どうも、あの時のことを思い出すと、
なんか、涙が出てきちゃうんだよ。お前が、言うとおり、泣いても仕方ないのにな」
横島は鼻をすすると笑ってみせる。

「・・・でも、正直な話、俺には、愛ってよくわからねーよ。
そういう次元で生きていないっつーか。
あの女は俺のか違うのか。このメシは俺のか違うのか。
俺は、そんな生き方をしているから」
横島は進歩のない自分に苦笑して、話を続ける。

「ただ、ルシオラを生き返らせてやりたいのも本当だし、あいつとやりたいのも本当だ。呆れるかもしれないけど、俺はそういう奴なんだから。
だから、あいつが生き返れるなら・・・」
その言葉を、ベスパが遮る。

「お前の気持ちはわかる気がする。
ルシオラのために、何かしたいというお前の気持ちはな。
・・・だけど、お前は間違っているよ」

「間違っている?」
横島は、怪訝な面持ちでベスパの言葉を待つ。

「ルシオラは、放っておいてもお前の娘として転生出来るんだろ?
それに、カオスとか言う奴の実験で復活出来る可能性もある。そうだな?」

「ああ、確かにそうだけど・・・」

「それなら、話は簡単だ。
これはルシオラを見捨てるかどうかということじゃない。
ルシオラと生きるために、地獄に堕ちる覚悟かあるかどうかということなんだよ」

「わかっているよ。だから、俺は」

「わかっていないよ。
お前がルシオラに対して罪の意識を感じているのは理解出来る。
ルシオラから全てを奪ってしまったという後悔。
その気持ちは、私もわかる気がする。
・・・だけど、お前がルシオラを愛さなきゃならない義務はないんだ」

「ぎ、義務はないって。俺は、そんなことを言っているんじゃなくて」
横島の言葉をベスパが遮る。

「このまま放っておいても、ルシオラはお前の娘として復活出来るんだろ?
それなら、お前が他の女と恋をしてルシオラを娘として育てる道を選んだとしても、
それは、ただの失恋だ。ルシオラにとって悲しいことかもしれないけど、
お前が罪の意識を感じることじゃない。
だから、私は聞いているんだよ。お前がルシオラをどう思っているのかって」

「・・・そんな訳ないだろ?
ルシオラは、あんなに俺のことを好きだと言ってたんだぞ。
命も惜しくないって。
そんなこと許される訳ないじゃないか」
横島は興奮してベスパに詰め寄る。

「・・・じゃあ、お前は相手が誰でも、お前のために命を捨ててくれるなら、愛せるのか?」
逆に余裕を取り戻し、からかう様な口調で尋ねるベスパ。

「・・・そんなこと・・・」
横島が応えようとしたその時、何故か脳裏に
ふしゅるるるーと、鼻息も荒い織り姫の顔が浮かび、背中にイヤな汗をかく。

「・・・だろ?結局、大事なのは、お前がルシオラをどう思うかなんだ。
ルシオラが何をしたかではなくな」
固まっている横島の様子を苦笑しながら、
ベスパは、再び真剣な表情に戻り、悲し気に呟く。

「それに、許す、許さないの問題じゃないだろ。愛情ってやつは」
寂し気なベスパの声が横島に届く。

「愛したからと言って、愛して貰える保証や権利なんてない。
たとえ愛する人のために全てを捨てたとしても、
世界を滅ぼし、親しい者を失ったとしても、
振り向かなければならない義務はないだろ。
そんなことは、ルシオラも、判っているはずなんだ」
ーこいつ、アシュタロスと自分のことを言っているのか?ー
横島は、ベスパの言葉に胸を痛める。

「あの時、ルシオラは死ぬ気だった。
最初から、お前のために死んでもいい。そう思っていた。
お前からの見返りなんて期待していなかったんだよ」
ルシオラの切ない想いが横島の胸に甦り、胸を刺す。

「だけど、お前は現われた。ルシオラを護るために。
自分の身を犠牲にまでして。
それが、どんなに嬉しいことだか、判るか?」
ベスパは悲しげな微笑みを浮かべて横島を見る。

「だから、お前は罪の意識なんて感じる必要はないんだ。
ルシオラもお前に感謝していたんだじゃないか?」
横島の脳裏にルシオラとの最後の別れの時が蘇る。

ー私は、十分に満足している。これでよかったのよ。
ヨコシマ、・・・・ありがとうー
あの時、ルシオラは寂しそうに笑ってた。

「・・・でも、でも、たとえ、ルシオラが満足だと言っていたとしても。
俺は、あいつの為に、何かしてやりてーんだよ」
ルシオラの寂しげな笑顔を思い、横島の口から思わず言葉が漏れる。

「それは、ルシオラを愛しているからなのか?
それとも、同情や優しさなのか?」

「・・・そ、そんなの、俺には・・」
僅かにうろたえる横島。

「・・・もし、同情や優しさからなら、止めておけ。
お前は、きっと後悔することになる」

「・・・ベスパ?」
ベスパの様子がおかしいのを訝る横島。

「・・・私は、アシュ様のために、世界を滅ぼそうとした。
・・・・・お前を殺し、ルシオラを殺して。
・・・いや、違う、本当は、アシュ様のためじゃないんだ。
本当は、・・・・自分のために世界を滅ぼそうとしたんだ」
ベスパは、自分の手を見つめて呟く。

「・・・・私は、アシュ様が死にたがっていることを知っていた。
でも、・・・でも、本当は、生きて欲しかったんだ。
たとえ、世界を滅ぼしてでも。
たとえ、そのことで、生き残ったアシュ様が、どれだけ苦しんでも。
・・・・・私は、アシュ様と生きたかったんだ」
項垂れるベスパ。
横島の目には、何故か、その姿がルシオラに重なる。

「・・・だけど、私には自信がない。
もし、あの時、本当に、私達が生き残ったとして、
アシュ様は、その罪に耐えられたんだろうか?後悔しないでいられたんだろうか?
苦しむアシュ様を見て、私は、本当に、それでも、生きて良かったと思えたんだろうか?」
ベスパは顔を上げ横島を見つめる。

「私は、そんな姿は見たくないんだよ。
・・・だから、教えてくれ。お前の正直な気持ちを。
お前は本当にそれで良いのか?」
ベスパの思いつめた表情に、横島は戸惑いながら尋ねる。

「・・・な、何だよ。
お前が持ってきた話なのに、どうして、そんな事、言い出すんだよ。
基地の別荘じゃ、ルシオラを守るために、俺を殺そうとした位なのに」
別荘での戦いを思い浮べながら、横島はベスパを見つめる。

「・・・・あれは、・・・別に、ルシオラのためじゃないさ。
アシュ様のために、・・・裏切ろうとするお前達が許せなかっただけのことさ」
横島から目を逸らし、呟くベスパ。

「・・・それにしたって・・・じゃあ、誰のために、
お前は、そんなに、何度も俺の気持ちを確かめようとするんだよ」
横島は思わずベスパの腕を掴み、彼女の目を覗きこむ。
ベスパは自嘲気味に口元を緩めて何かを言おうとするが、
再び口を閉ざし、横島の腕を振り払うと、俯いて呟く。

「・・・・自分のためだよ」

「・・・ベスパ、お前」
横島は、悲しげなベスパの様子を見ながら考える。

ー・・!・・まさか、こいつ、俺に惚れとんのか?
今は、いない姉の恋人を好きになって悩んでいるのか?

いや、しかし、いくら何でも、それはマズイだろ。
ベスパが、どうこうと言うんじゃなくて。そんな背徳的な状況。
確かに、ベスパはええ体しとる。
ルシオラを産んで貰うにも、体質的にも、ぴったりかもしれん。

だが、しかし、そんなダークでインモラルな初体験で大丈夫か、俺?
もう、絶対、普通のじゃ満足出来なくなるぞ。

いや、しかし、ベスパも、こんなこと言いに来る位だから、
余程、思いつめているんだよな。それなのに、冷たくなんて出来るのか?

だが、しかし、ルシオラの気持ちを考えてみろ。
ベスパの娘として産まれてきたりしたら、どう思うか考えろ、俺。
だけど、ほんまにええ体や。
こんな美味そうなもの食い損なうなんて、勿体無いこと、俺に出来るのか?
ルシオラは浮気には寛容そうだし、両手に花が俺の好みだし。
まして姉妹どんぶりなんて、そんな美味しい状況滅多にあるもんじゃなし。
一回位なら。・・・・いや、しかし!
ああ、俺は一体どうしたら!」

バキ!

「違うわ!このドアホ!!」
ベスパの右ストレートが横島を吹き飛ばす。

「あ、声に出てた!?しまった、またいつものミスを」

「しかも、悩んでいる台詞とは別に、布団を敷きなおして、
服を脱ぎ出すとは、どういうつもりだ!」

「ああ、体が勝手に!」
ゲシゲシ!
怒りに任せて、倒れている横島にケリを入れるベスパ。

「なんて過激な愛情表現。俺には、そんな趣味はないはずなんだが、
スカートの隙間からチラチラ見えるパンティが何とも」

グシャ!
スカートを覗いていた横島の顔面を踏みつけにするベスパ。

「早く、正気に戻れと言っている!」

「さ、最近、妄想に浸る機会が少なかったもので、つい」
顔から血をダラダラ流し、息も絶え絶えになりながら応える横島。
そんな横島を見ながら、座り直し真面目な表情に戻って問い掛けるベスパ。

「・・・ともかくだ、お前は真剣に考えてくれ。
お前が、本当のところ、ルシオラをどう思っているのかを。
・・・他にも魔神候補はいるから、ゆっくり考える時間はないがな」
その言葉に横島は驚き、むっくりと起き上がる。

「ちょっと待ってくれ。他の候補って?」

そして、運命の歯車は回り始める。

つづく

*注:横島氏とルシオラの「恋」
 横島氏にとって、ルシオラは最愛の人であり、彼は世界を救うために最愛の人を犠牲にした悲劇の英雄である。それは、後の世において、小説やTVドラマ、映画の題材にもなったことであり、涙ながらに横島氏がルシオラの願いを叶えエネルギー結晶を破壊するシーンは広く一般に知られている。このシーンは、史実に基づいて作られもので、この他に二人が愛し合っていた証拠として、関係を持てば当時敵であったルシオラが消滅するということが明白であったにも拘わらず、彼女を救うために不可能とも思える決心をした「アシュタロスは、俺が倒す!!」という台詞(第31巻リポート2「ワン・フロム・ザ・ハート!!」参照)、ルシオラを救うために戦った南極対決(最近発見された特訓の後の夢の中で、無意識下でも、美神(メフィスト)のことを全く忘れて、ルシオラのために戦っていたという事実は歴史学会に大きな衝撃を与えた、第31巻リポート6「ザ・ライト・スタッフ!!」参照)、「あんた、そのルシオラって娘のこと」「・・・・すみません」と美神に告げている台詞(第31巻リポート10「そして船は行く!!参照)、その体を盾にしてベスパの攻撃からルシオラを護った事実(第34巻リポート3「ジャッジメント・デイ!!」参照)及びルシオラを失った後の横島氏の悲壮なまでの悲しみ振り(第35巻リポート2「ジャッジメント・デイ!!」参照)等が良く挙げられている。(ただし、この当時の横島氏は、「愛」や「恋」という言葉をボキャブラリーとして有してはいないため、ルシオラに対する直接的な愛の言葉は残されていない(「君は彼女を愛しているのか?」「よ、よくわからんが、とにかくあれは俺のじゃー!!」第17巻リポート8「嵐を呼ぶ男!!」参照))。

 だが、実は横島氏自身がこの見解に疑問を持っていると思われる証言が存在する。それが、ルシオラ消滅直後の「俺、あいつに何もしてやらなかった!!」「ヤりたいの、ヤりたくないのって、てめえのことばっかりで!!」「口先だけホレたのなんのって、最後には見殺しに!!」「俺には、女のコ好きになる資格なんてなかった!!」(前述「ジャッジメント・デイ!!」参照)等の言葉である。これらの言葉をそのまま言葉通りに理解すれば、横島氏はルシオラを愛しておらず、全てを与えたルシオラに対し、何も与えなかった自分自身に後悔していると解釈できる。しかし、この発言が、横島氏が自らの手でエネルギー結晶を破壊した直後のものであり、ルシオラを失わせた悲しみが自責の念に移行している可能性も高いため、言葉通りの意味にそのまま解釈せず、横島氏の置かれた状況及び心理を検証し直す必要があろう。

 そこで、まず、横島氏自身の心情について考察すると、彼自身はルシオラに対する自分の感情を煩悩であったと考えていると思われる節がある。そのことは、「俺の煩悩パワーを信じなさいっ!!」(前述第31巻「ワン・フロム・ザ・ハート!!」参照)、「俺を待ってる女ができたのに、見とれ!!必ずヤりとげてみせるッ!!」(第31巻リポート4「ザ・ライト・スタッフ!!」参照)、「ついに、俺にも女があああっ」(第32巻リポート4「GSの一番長い日!!」参照)、「やっと現れたやらしてくれる、じゃない、俺を愛してくれる女を!!」「今だッ!!二人っきりだぞーーッ!!」(第33巻リポート2「甘い生活!!」参照)等の言葉と行動で明白である。

 また、横島氏は意識的あるいは無意識下において、ルシオラを傷つけるようなことを行っており、罪悪感を煽る原因となっていると考えられる。最新技術の発展で発見された深層心理下での「美神令子とルシオラの入れ替え事件」(表層意識の横島氏は、深層心理下で二人を入れ替えていた事実をルシオラに見られてしまった事実に気付いていないが、深層心理の中ではルシオラと目が合い、「入れ替え」をルシオラが見ていたことを明確に認識している、前述「甘い生活」参照)「美神さんが復活できんなら、おまえだって同じことじゃねーか。両手に花が俺の好みだしな」(前述「ジャッジメント・デイ!!」参照)等がその例をして挙げられるであろう。

 この「入れ替え」事件に関し、一部の歴史学者の主張する、ベスパとの東京タワーでの対決の際にルシオラが死を決意し横島氏と美神女史を助けようとしたのは、深層心理下の「入れ替え」という横島氏の本音を見てしまった故に、愛する男と、愛する男の愛する女を救おうとしたのである、という見解は注目に値する。確かに、この時点で美神を助ければ世界は救われるという明確な理由は存在せず(実際にも、最後までそのような事実は存在しない)、ルシオラは美神女史の死亡にショックを受ける横島氏を見せ付けられているのは事実である。だが、一方で横島氏の深層心理下での入れ替えを見た後も、ルシオラは「私、心配することなかった」旨述べているため、ルシオラが横島氏とのことを諦めるはずはないとの反論も存在し、議論に決着はついていないのであるが。しかし、深層心理下でルシオラに「入れ替え」を見られていたことを感じている横島氏が、ルシオラの死に対し「入れ替え」が原因でルシオラが死を決意してしまった可能性を感じ、罪悪感を募らせる要因となってしまった可能性は否定できないであろう。

 なお、余談ではあるが、その後、横島氏は煩悩を持ってルシオラと接していた自分自身を後悔し、自己否定するという結果に陥っている(前述「ジャッジメント・デイ!!」参照)。そこには、一見「人間的に成長して頼もしく見える」ようにはなっても、実際には自分自身を否定して(エピキュリアンであった自分を否定しストイシアンになろうとして)霊力を失った横島氏がいるという状況だったのである(もし、横島氏がこのままストイシアンとなって修行を重ねれば、ストイシアンとしての自分に自信を持ち、霊力を回復した可能性も十分にあったと思われるが、現実にはそれを確認するチャンスは失われている)。最終的には、横島氏はルシオラに化けたベスパに会ったことにより、自分が否定した自分自身をルシオラが愛していたことを思い出して、自己受容に成功、自分自身に対する自信を取り戻し(第一段階の変身、キャラクターのオーバーフロー)、その後、煩悩全開により更なるパワーアップを遂げたと考えられる(美神令子女史は「煩悩パワーがない横島クンは霊的パワーもなくなっている」旨考えていたと後に証言していたが、煩悩不足だけが原因でパワーダウンしているのならば、何故キャラクターのオーバーフローが可能であったのかということが、説明不能になってしまうため、この時の横島氏は自己否定に陥っていたと考えるべきという説が最も有力である)。

 このように、横島氏自身は、ルシオラに対する想いは煩悩に過ぎなかったと自分を責めていたことは間違いないであろう(一方で、「俺の前方不注意のせいでもないからな!」(第7巻リポート6「プリンス・オブ・ドラゴン!!」参照)のように責任回避ばかりしていた横島氏が、自分自身の罪に正面から向き合った事実は、彼の成長を示すものとして特筆すべき物であるとも言われている)。だが、彼の自覚とは別に、彼の想いが煩悩だけでなかったことは、前述のとおり、当時は敵であったルシオラが消滅するにも拘わらず性交渉を持たなかった事実(前述、「ワン・フロム・ザ・ハート!!」参照)等に明白に現れている。

では、煩悩以外の横島氏の感情の正体が何であったか、それは優しさだったのだろうと言う事で歴史学会の見解は一致している。最初にルシオラに手を握られた時、「命なんかなんとも思ってねえ化け物のクセしやがって!!あの手でいつでも俺をブっ殺せるんだ、あの女は!!」と考えていることから、この当時の横島氏は煩悩を持ってルシオラに接していないことは明白である。しかし、一年の寿命、二人で夕日を見たという事実、握った手の感触(「でも握った手は小さくてやわらかくて」(第30巻リポート5「その後の仁義なき戦い!!」参照)等から、横島氏は敵であるルシオラを殺すために手を離せなくしまっている(第30巻リポート8「仁義なき戦い・超常作戦!!」参照)。つまり、二人の関係は、最初に煩悩ではなく、横島氏の優しさによって結ばれたのである。

だが、この優しさがいつ恋に変わったかと言うと、その境目は非常に曖昧である。その理由は、横島氏の優しすぎる性格にある。もし、彼がルシオラだけに優しくするならば、好意の証拠であると論証することも可能であろう。だが、彼の優しさはルシオラだけでなく、彼の周りの多くの人々に向けられている。例えば、ルシオラの盾になりベスパの攻撃を防いだことを指して、命をかける位なのだから横島氏はルシオラを愛していたに違いないと主張したくとも、横島氏が機関銃で撃たれる危険も顧みず空母で襲われるベスパを助けに行ってしまった事実がある以上、横島氏の行為が愛情を証明すると主張することは非常に困難なのである(もちろん、一部では、無節操な横島氏のことであるから、恋する相手は一人ではなく(例:氷室キヌと美神令子を両天秤に掛ける横島氏、第29巻リポート5「グレートマザー襲来」参照)、ベスパにも、パピリオにも、美神令子にも、当然ルシオラにも恋していたという見解も存在するが、一般的な支持を得るには至っていない)。

 また、ルシオラの想いに応えて決意した「アシュタロスは俺が倒す!!」という言葉が愛を証明するとの見解もあるが、その直後に「奴さえ倒せば、あんたも、ベスパも、パピリオも自由だ!」と言って、その想いがルシオラだけでなく、ベスパやパピリオにも向けられていることを無意識に露呈してしまっている為、横島氏の決意が、「恋」ではなく、ルシオラの恋に応えてあげたいと思う「優しさ」から生まれた可能性を否定することは出来ないであろう。

 以上のことから、横島氏自身が気付いていなくとも、彼はルシオラに対して煩悩だけでなく、優しさも向けていたことは確かなことである。だが、それを「恋」や「愛」であると断言することは出来ない。煩悩を求める心、優しさを与える心と定義するならば、あるいは求める心「恋」、与える心「愛」という定義への置き換えが成立し、恋愛が成立していると言えるのかもしれない。しかし、恋愛とは、結局、各々個人の心が決定することである。従って、横島氏とルシオラの「恋」は歴史において判断出来ることではないと考えることが妥当であろう。


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