椎名作品二次創作小説投稿広場


GS美神「ミッシングリンク」

第一章「変らない日常」


投稿者名:遊
投稿日時:04/ 8/ 6

#本作品は夜華から移植したものです#

これは、既に閉じた物語。
遠い過去に忘れ去られた物語の断片である。
決して語られず、忘れることを強制されていた物語。
今回、理由不明ながらも再び我々の意識に浮上し、
多くの関係者の意識や残留思念に対し接触することにより再生出来たこの物語を、
僕は郷愁と共に時系列毎に分類・再構成することとしようと思う。


GS美神「ミッシングリンク」第一章


「ふいー、ご馳走様」
横島がふくれた腹をさすりながら言うと、
「お粗末さまでした」とおキヌはにっこり笑って応える。

横島の食べっぷりは、いつも食べると言うよりは食料をかき込むという風で、
微妙な味付けが判るのか疑問に思うこともあるが、
それでも美味しそうに食べてはくれるので、作り甲斐がある。
おキヌは横島の満面の笑顔を見て、同じ位幸せそうな微笑みを浮かべながら思う。

「そりゃ、お腹も一杯になるでしょうよ。
丼で4杯も食べれば。少しは遠慮したらどうなの?」*注1
美神令子は苦笑しながら話しかける。

「いやー、ここでの食事は俺の生命線ですから」
横島は満足のあまり余計なことを口走り、美神の機嫌を損ねる。

「あんたねー、そういう人聞きの悪いこと言うんじゃないわよ。
あんたがそう言うことを言うから、
私があんたを薄給でこき使っているように疑われるんだからね。
まあ、ドジも多いし、教えなきゃならないこともまだまだあるから、
授業料も込みってことで、時給はそんなに高くしていないけど、
あんたが除霊した成功報酬の一部はあげているんだから、
高校生のくせに下手なサラリーマンより、よっぽど稼いでいるはずでしょ?
一体、何処でお金を使っているのよ」*注2

「いやー、あはははは。何に使っちゃったんでしょうね。
よく憶えてないっすけど」
横島は美神に睨まれると、背中にイヤな汗をかきながら呟き、
圧力に負けて逃げることにする。

「あ、もうこんな時間だ。じゃあ、俺、そろそろ帰りますね」
横島が逃げるように立ち上がると、隣にいたシロが勢いよく立ち上がる。

「それでは、拙者がお送りするでござる」

「送るったって、散歩はしないからな。俺も仕事で疲れているんだから」

「いや、30分だけでござる。先生もお疲れでしょうから、
30分自転車に乗っていて下されば、
拙者が自転車を引いて先生のお宅まで確実にお届けするでござる」

「本当だろうな。30分後に奥多摩の山奥とかにいたら、安楽死させるからな」

「武士に二言はござらん。
もし約束を違えた時はこの腹かっさばいてお詫びするでござる」
などと、真剣味の欠けた気楽な言い争いをしながら事務所を出て行く二人を
タマモが眺めながら呟く。

「どうせ、それで、また2時間は帰って来ない癖に。
毎度、シロに乗せられて散歩に連れ出される横島がバカなのか。
それとも底抜けに人が良いのか。いずれにせよ、進歩がないのは確かよね」

タマモの言葉を聞いて、おキヌは表情を暗くして呟く。
「進歩がない。変わらないか」
そして、おキヌは決意を決めたように、美神に語りかける。

「美神さん。やっぱり、おかしいですよ。何も変わらないなんて。
あんなことがあったのに。きっと、横島さん、無理をしているんです。
傷だらけの心で、私達に心配かけまいとして、無理して笑っているんですよ。
それなのに、私達は、横島さんのために、何もしてあげられないんですか?」

「・・・おキヌちゃん。気持ちは判るけど、今ここじゃ・・・」
美神は優しくおキヌをなだめながら、頭を撫でる。

おキヌはそう言われて、二人の様子を不思議そうに見ているタマモの方を見て応える。
「・・そうですね。ゴメンなさい。私」

「私がいたら、話にくい話って訳ね」
タマモは、そう言うとスクっと立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
その様子におキヌは慌てて声を掛ける。

「タマモちゃん。私、別にあなたのことを、邪魔に思ったり、
仲間はずれにする訳じゃないのよ。
でも、あんまり軽々しく人に話ちゃいけない気がして」

「判ってるわよ。別に仲間外れにされるだなんて思わないわ。
人間には知られたくないこともある。
昔の私なら、隠すというのは何か悪巧みをしているのかと疑ったかもしれないけど、
少なくとも、おキヌなら、そんなことをしないのは判っているわ。
美神なら心配だけど」

「どういう意味よ」
こめかみに青筋を立てて怒る美神。

「言葉通りの意味よ」
あざける様な笑みを浮かべて微笑むタマモ。
険悪な空気が流れる中、タマモは表情を変え、おキヌに向かう。

「でもね、私は、横島に何があったか知らないし、興味もない。
何故、横島を巡って皆が気を使うのかには、興味があるけどね。
だけど、狐族の第6感に賭けて誓えるわ。
おキヌ、あなた、少し考えすぎじゃない?
私の直感は、横島から傷ついた様子も、
それを隠して無理をしている様子も感じることは出来ない。
横島が悩んでいない以上、あなたが悩む必要なんてないんじゃないの?」

「傷ついていないって、そんな事。
タマモちゃんは、横島さんに何があったか知らないから・・」

「知らないから、判ることもあるのかもしれないわね。確かに」

「マ、ママ。いつから、そこに?」
突然の美智恵の登場に驚く一同。

「横島クン達と入れ違いに入って来てたわよ。
いくら深刻な話をしていたからと言って、
あなた達、霊能者の癖にカンが鈍過ぎよ。
タマモちゃんは、私のこと気が付いていたわよね」

「ええ、もちろん」
タマモの言葉にふて腐れる美神令子。

「だ、だけど、私もタマモの言葉には納得出来ないわ。
あいつが、全く傷ついていないなんて」

「それは、私達が彼に何があったかを知り過ぎているから。
それも、その傷は私達のために、負わせてしまったようなものだから。
どうしても、罪悪感が働いて、冷静に客観的に彼を見ることなんて出来ない。
そうとも考えられるんじゃないの」
美智恵は、過去を振り返り、一息ついてから続ける。

「私自身だって、あの事件の間、あの子に随分、辛い想いをさせたし、
事件が終わってからも、ルシオラさんを見捨てるようなことをしたんですもの」*注3

「それで、ちょこちょこ顔を出す訳ね。私じゃなくて、あいつの様子を見に」

「ええ。
まあ、ひのめのお守りがうまいんで、任せやすいのも本当なんだけどね」

「でも、本当にそんなことあると思いますか、隊長。
あれだけのことがあって、あっさり立ち直れるなんて」

「人間は痛みが大き過ぎる場合、起きたこと自体を忘れる場合があるわ。
心を守るためにね。
そうじゃなかったとしても、あの子の場合、文殊があるから。
あるいは、文殊を使って忘れたのかも。自分のためでなく、相手のためにね。
それも一つの解決法なのよ。
生まれてくる子供にはおそらくルシオラさんの記憶はないでしょうけど、
昔愛した女性の生まれ変わりを誰かに産ませようなんて、あの子には出来ないでしょう。
優しすぎる子だから。
だけど、そんなことをしていたら、ルシオラさんはいつまでも復活出来ない。
それなら、お互いに全てを忘れて、只の親子としてやり直すと言う事も・・・」

「そういう意味じゃないんだけどね。私が言っているのは。
アイツは、強いわよ。
人間として、というよりも動物としてね。
それが、私の言いたかったことなんだけど。美神達には判らないかもね。
まあ、ともかく、おキヌは心配することないわ。
きっと、これからも今までと変わらない毎日が続くんだから」



だけど、まもなく訪れる訪問者によって、彼等は知ることになる。
日常とは、かくも脆いものなのかを。
深い悲しみと驚愕と共に。

    つづく

*注1:美神令子と食費
 後世において、その霊能力以上に守銭奴としても知られている美神令子だが、驚くべきことに食費に関しては、かなり鷹揚な面を持っていることが確認されている。まず、横島氏の食事であるが、美神事務所での就業以来、就業時間中、週に3日は3食の食事を事務所または出張先で摂取しているものと思われる(「それに仕事中、メシは一応食わせてもらえるし」第7巻リポート2「飛び出せ貧困!青春の給料日!!」参照)。しかも、驚くべきことに、その食事代が請求された事実は今もって確認されていない。研究者により脱税金額まで確認されている現在においてもなお、食費の請求が確認されていない事実は、食費の請求がそもそもされなかったのであるとの主張の根拠となっているが、一部の研究者の間では、横島氏の事務所における食事そのものが、美神令子ではなく、氷室キヌ等の支払いによるものであったのではないかとの主張もなされている。

 また、事務所一同での外食も横島氏等に支払い能力がないため、美神令子が支払っていると考えられるが、香港の中華レストラン(香港編)、魔鈴女史のレストラン、バーベキュー(バトル・ウィズ・ウルブズ)等多岐に渡っている。特に、香港編では小竜姫による高額の謝礼が期待されるにせよ、アワビやフカヒレ等の高級食材を大量に摂取する横島、伊達両氏に対して美神令子が何の制裁も請求も行っていない(「自分の分は自分で払いなさいよ」と雪之丞には言っているが、最終的に雪之丞が自分の食事代を支払ったという記録は発見されていない)ことが発見された旨発表された際、歴史学会は大論争となった。この結果、発表者達は歴史の捏造者という最悪のレッテルを貼られ学会より追放処分となったことは有名である。なお、余談ではあるが、現在では関係者の証言、残存思念検証技術の発展により、この発表が事実であったことが確認され、発見者達は名誉を回復し、常識に囚われずに真実を見極めたものとして歴史学会での尊敬を浴びたことも現代においては有名な事実である。

 しかし、これらの食事が単に美神令子の無関心から供給されたのか、横島氏の最低限の健康を維持しようとする管理者としての心配りであったのか、他の個人的感情があったのかについては、未だに論争となっている。

 なお、このように、週に3日間は3食を満腹するまで食事を摂取出来たという事実がある以上、バイト時代の横島氏が慢性の栄養失調状態であったというのは、全くの俗説であることを付記しておこう。この俗説が流れた背景については、横島氏の給料の項目で説明する(ちなみに、一部では、荷物運び等の重労働により横島氏のカロリー消費が平均的カロリー消費を遙かに上回っており、その為に栄養失調状態にあったのではないかとの指摘も存在する。しかし、車両による移動も多く、横島氏自身、夏になるたびに自分自身の貧弱な肉体を海やプールで後悔していたという事実があったことも考慮に入れると、彼のカロリー消費が一般人のそれを遙かに上回っていたとは言えないのではないかとの意見が現在では一般的となっている)。

*注2:横島氏の収入
 「時給255円!!横島の給料は、はっきりいって労働基準法違反である!!」(前述「飛び出せ貧困!青春の給料日!!」参照)これは、横島氏の研究を始めた歴史学者が最初に絶句するあまりにも有名なフレーズである。そして、このフレーズが故に、横島氏の後の業績から彼を神聖視する一部の人々から、美神令子が搾取と強欲の権化のように忌み嫌われる結果となっている。もちろん、彼女が労働基準法に違反している事実は否めない。しかし、最近の研究では、横島氏の生活は一般に考えられているほど、困窮していないことが判明している。

 まず、いわゆる荷物持ち時代。彼の時給は、255円(バイト開始当初は250円)であったが、勤務時間は週に3日間、1回につき18時間の連続勤務、1ヶ月を4週間で計算すると、彼の月収は、255×3×18×4=55,080円となる(これは、時給700円、一回4時間で週5回で月に4週間働いている高校生の一ヶ月のアルバイト料700×4×5×4=56,000円に匹敵する金額である)。これに加えて、3度の食事の供給があったとしても、これは、GSという過酷な勤務内容から考えて搾取と言われても仕方のない雇用条件である。しかし、横島氏の生存を脅かすほど過酷な勤務条件であるかと言うと、疑問を持たざるを得ない。というのは、横島氏の食事の内、週3日は美神事務所で賄われているのであり、学費、家賃、光熱費及び交通費が両親の仕送りによって成立していると仮定して、収入の全てを食費に充てたとすると、実際に横島氏が支払わなければならない食費は週4日間、1ヶ月を4週間で計算すると、55,080÷4÷4=約3,442円が一日の食費と言う事になる。これは、当時において十分と言える程の食費であり、横島氏が実際に慢性的な飢餓状態にあったとするならば、両親の仕送り金額、横島氏の消費状況にも問題があると言わざるを得ないであろう。このことは「今月はちょっと出費が激しくてな。おとといからなーも食っとらんのだ」(前述「飛び出せ貧困!青春の給料日!!」)との証言、逆に言えば出費が激しくなければ食べていけるという事実からも推測可能である。

 なお、最近の研究では、GSのバイトを開始した当時の横島氏は、「時給250円じゃ弁当も買えねーよ」旨述べていることが確認されている(第2巻リポート3「ドクター・カオスの挑戦!!」参照)が、この当時の横島氏は美神女史にアピールするためか、後のジージャン姿と異なり様々な服装をしていることから、これが当時の貧困の原因の一つではないかとも主張されている。

 また、一部の学者の中から、当時の横島氏の勤務内容が過酷であったということに関しても、疑問が提出されている。なぜならば、美神令子の除霊作業は、通常、その除霊能力の高さにより極短時間で済むため、実質的には横島氏の1度に18時間もの勤務は不要であるからである(美神令子が長時間の勤務を嫌うことに関しては、 第27巻リポート6「私の人形は良い人形」参照)。正確には、バイト開始当初は車両による移動も少なく徹夜の見張りをやらされることは多かったものの(第1巻〜第5巻)、以降の横島氏は勤務時間の多くを美神令子の運転する車両で目的地に移動しているか、事務所で何もせずに過ごしているのであるから、過酷な勤務とは言い難いと言うのである(車での移動が多いため、荷物持ちも長時間であることは少ない)。確かに、実働時間を一時間と仮定すると、横島氏の時給は、1時間の勤務で18時間分の給与を稼ぐと計算すると、255×18=4,590円の時給を稼いでいるのと等価ということになる。この美神令子の不可解な行動に対し、時給255円で勤務時間1時間では本当に飢え死にしてしまうから温情として拘束時間を長くし給与を与えていたのであるという温情説と、前世の因縁から無意識下で横島氏に恋愛感情を抱いていた美神令子が彼と少しでも長くいるために勤務時間を長くしたという恋愛説とに別れている(恋愛説を主張するもののからは、飛行機で海外旅行の際も、美神女史が飛行機のビジネス、エコノミーに分かれることなく隣り合わせで座っている事実等がその根拠として挙げられている(第3巻リポート6「極楽愚連隊西へ!!」参照)。

そして、横島氏のGS免許取得により彼の収入状況は一変する。時給は変わらないが、成功報酬の一部が彼の収入として計上されるようになるのである。当初は、美神令子の助けがなければ除霊出来なかった横島氏であるが(第11巻リポート8「ただいま修行中!!」参照)、香港編で栄光の手を取得すると除霊能力は格段に上がり、「さーて、それじゃ今週の仕事よ、横島クン!これとこれは簡単だからまかせるわ」(第17巻リポート5「嵐を呼ぶ男!!」参照)とあるように、週2件もの仕事を任されるようになっている。この際に、どの程度の成功報酬を入手しているかは不明であるが、この当時、彼が飢餓状態になっているという記録は残っておらず、文珠取得後に時給が上げられると(第23巻リポート2「スタンド・バイ・ミー!!」参照)、横島氏はタキシード、トランペット(レンタルの可能性は十分にあり)(第24巻リポート5バッド・ガールズ!!」参照)、自転車の購入(第38巻リポート3「呪い好きサンダーロード」参照)等も行っているところから見て、彼の収支状況が明確に好転していることは確実と言えよう。

 ただし、この学説に対して、かつては強烈な反論が存在していた。と言うのは、収支状況が好転しているはずの当時の横島氏の言動が収支状況と一致していないのである。例を挙げれば、「今ピートが死ねば必要最低限のカロリーが確保できなくなってしまう」By横島(第15巻リポート6,7「ヘルシングちゃんの逆襲!!」参照)、バレンタインデーのチョコレートをおかずにしての昼食(第17巻リポート10「清く貧しく美しく!!」参照)、約5万円に対して「俺の一ヶ月の生活費より多い」(第26巻リポート5「遊びの時間は終わらない!!」参照)等、かなり多くの資料が残されている。

そこで、美神令子搾取説を採る人々は、横島氏が成功報酬を得られたのは極限られた場合に過ぎず、美神令子に文珠も普段は取り上げられ、使用するお札の料金まで請求されていたのではないかと主張していたが、美神令子が横島氏の文殊を使用して除霊した事実は発見されず(文珠を使用するのは意識がある限りは横島氏本人で、美神女史が文珠に頼るのは極限られた非常事態のみ)、現在では、この説は全くの間違いであることが確認されている。

 また、横島氏が自転車等を購入しているということから、横島氏の収入が増額されていることは否定し難い事実として現在では認識されている。従って、現在では、この当時の横島氏が収入をどのように消費し、上記の発言に繋がったかについて、食欲説、性欲説、浪費癖説、ギャンブル説、仕送り停止説等が提出され議論が進められているが、最終的な結論が出るまでには、なお、研究を待たざるを得ないであろう。

*3アシュタロス事件の際の美神美智恵の横島氏に対する対応
 美神美智恵ほど、毀誉褒貶が歴史学者によって分かれる人物も稀であろう。ある者は人類を救った稀代の策士と呼び、ある者は部下に自分の意思を押しつけ使い捨てにしようとしただけのエゴイストを呼ぶ。その批判と賞賛の原因は、やはりアシュタロス事件の際の横島氏に対する対応である。これは、おおまかに分類すると、横島氏を巻き添えにアシュタロス一派を壊滅しようとした事件(第30巻リポート7「仁義なき戦い・超常作戦」)と、アシュタロス事件終結後、過去に戻った同女史が事件の経緯を知りながら、ルシオラを助けに行かず見捨てた事件の二つが、その最大の原因と言えるであろう。ルシオラ見殺し事件に関しては、第二章で詳述するとして、今回は超常作戦に的を絞って議論を進めよう。

 超常作戦における美智恵の作戦行動に対する批判派の特徴は感情であり、擁護派の特徴は理性であると分類出来る。すなわち、批判派が最も激しく批判するのは「撃沈する確率は高くはないと思ってたけど、彼の犠牲はやむをえないとも考えていたわ」という美智恵の台詞であろう。彼女の命令で敵地にスパイとして潜入し、人類の敵という汚名を浴びせられる横島氏を犠牲にしても仕方ないとは何事だという怒りである。

 これに対して擁護派の人々は、作戦そのものが横島氏を守るために存在した以上、非難には値しないと主張する。その根拠として、超常作戦自体は、横島氏の優しすぎる性格が判明した時点で決定されたものであり、その作戦行動の全てが一貫して横島氏を人類の味方でないと印象づけようとした点が挙げられる(横島氏の知人を人質にとっての説得工作、それに動揺し泣き叫ぶ横島氏、横島氏がいるにも関わらず行われる攻撃等)。これは、美智恵女史の有している情報を基に考えれば(情報源はヒャクメ及び美神令子であり、ヒャクメの知る当時の横島氏の逆転号における環境は劣悪であった)、優しすぎる横島氏の性格から考え正体がばれて殺される可能性が低くはなかったため、横島氏の安全を確保しようとしたのだと主張するのである。実際には、予想以上に攻撃がうまくいってしまい、横島氏の危険が増大したようにも見えたが、煙幕で見えない相手の時間軸をずらして同士討ちされるなど、射程距離ギリギリで威嚇射撃をするようなものであり、横島氏が実際に死亡する可能性など、ごく僅かであったに過ぎないと主張するのである。

つまり、
   優しすぎる横島氏がスパイであることがばれて殺される可能性
         >超常作戦の結果、横島氏が犠牲になる可能性
と判断した故に、より横島氏の安全性も上がり、アシュタロス一派に損害を与えられる同作戦を執行したのであると彼等は考えるのである。

 確かに、理性的に考えれば、また結果から考えた場合、横島氏は同作戦によりアシュ一味の信頼を勝ち得て首輪を外され、一味の幹部であるルシオラとの交友関係の樹立に成功しているのであるから、非難は困難であろう。逆に、美智恵擁護派の中には、もし横島氏がアシュ一味の味方をせず、ルシオラを見捨て飛んで逃げた場合、ルシオラ、ベスパ両名死亡、トリックに気が付かないまま逆転号撃沈という可能性があったにも関わらず、アシュ一味の味方をしたとは何事かと横島氏を責める人々まで存在する。(なお、擁護派の人々は、横島氏に作戦内容を説明しなかったのは、横島氏が演技力に欠けるための仕方のない行為であり、横島氏の安全のためには最良の選択であったと主張している)。

 しかし、人間とは理性だけで生きるものではなく、感情でどう判断するかは全く別の問題である。従って、擁護派の人々が言うように、作戦の全てが横島氏を守るために存在したとしても、横島氏が美智恵女史を嫌った場合、それを批判することは出来ないし、美智恵自身「嫌われちゃったわね」と横島氏の怒りを受け止める姿勢を取っている。

 だが、現在までのところ、横島氏が同事件を元に美智恵女史を嫌悪していたという事実は確認されず(空母上で批判したのみ)、その後、合流した後は、美智恵の仕打ちを忘れたかのように、彼女に特訓を依頼している事実があるのみである以上、横島氏が批判しない美智恵を、他人が批判する権利はないのではないかと筆者は考える。


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