椎名作品二次創作小説投稿広場


悲しみの代価

日常


投稿者名:朱音
投稿日時:04/ 8/ 4

随分昔の夢を見た。
初めてあの世界をみた時の夢。
彼は言った
「私の目にはただの朽ちた枝だ、
 樹の生長に問題が出るようならば
 管理者としては切り落とさねばならない」
事実目の前には樹が一本生えている。
朽ちた枝を何本か身に付けたまま。





澄み渡った青空。
もうすぐ夏休みだと浮き足立った学生たちの会話。
同系色の学生服が波を描きながら校内へと消えていく、例外なく・・・。

何所にでも有る、そんな朝の一幕である。

ただし一箇所を除かねばならない。
除かれた高校の職員室は今時間が止まった。

有り得ないものを見る目で、今職員室のドアを開けた生徒を見つめる。

別に朝早く職員室に生徒が来ることが不思議なわけではない。

朝だからこそ訪れる生徒も、朝でなければ時間が取れない生徒もいるのだから。

生徒であることには問題は特に無い、無いのだが。
そこにいる人物に問題があった。

日本人特有の黒髪と黒い瞳。
ガクランといまいち釣り合いの取れない赤いバンダナをした彼。

彼の名は横島忠夫。

職員室とは天敵の位置関係に存在してる生徒その一である。

存在を確認した教師達が思い出したように叫びだす。

「ぎゃぁ―――――!!!!」

「今晴れてるか?空は見えているかぁっ!!??」

「ひっ119?!110番?!」

「今何時?なんじなの?!」

「非難韓国っじゃない。勧告?!注意?!警報?!」

阿鼻叫喚。


「俺は天変地異の前触れか?犯罪者かっ!」

絶叫の渦が治まったのはそれから五分後、教員達は見なかったことにしたらしい。


一人を除いて。

「好きで担任になったわけじゃないやい」
いじける担任、その名は中森弘(37)独身。

「いじけるなよ。俺だって別に好きできたわけじゃないやい」
頬を膨らましても可愛くも無い男子生徒もとい、横島は机をべしべしと叩く。

「じゃぁなんでだ?」

「住所変更の書類貰いに。引っ越したからっス」
机をべしべしと叩いていたのは、書類をとっととよこせと催促していたらしい。

「で、後これ」
書類を取りに行こうとしている中森を止めて、鞄から出した封筒を渡す。

「ん?」
悲しいかな条件反射で受け取り中身を確認する中森。
中の書類に目を通す前に横島がさらりと内容を言う。

「GS資格試験受験者用の試験公欠届け」

「なっ」
書類を持つ手がこわばる。

「試験は土曜だけど、前後にずれるかもしれないから一応の届けだそーデス」
あっちなみに来週だけどー。

あっけらかんと言い放つ問題児に、中森は冷や汗を流す。
冗談にしてはたちが悪い。

悪すぎる。

こいつにそんな才能があったのだろうか?

もしかしたら間違いかもしれない。
「ちょっと待て」

「なんですか?」

「GSってゴーストスイーパーのGSか?」

間違いであって欲しい。
むしろ間違いだ、こいつがそんな特殊な才能があるわけが無い。

かなり失礼だが中森は、万年下位爆走中の横島にそんな芸当ができるとは思っていない。

むしろ進級さえ危ないのに、そんな資格が取れるとすら思わない。

「そーっすよ」

あぁ、神様仏様もしいるなら(実際にいるが)今の言葉を無かったことにしてください。

宗教には入っていないけど。

何でもいいから、否定してほしかった。


その日から中森は胃の常備薬を持つことにしたらしい。


朝の慌ただしさはこれで終わらなかった。

終わるわけが無い、横島が机に付きなにやら書類に書き込んでいるのを見れば、
誰もが正気を疑う。

「なっ一体何があった!?」

「エイリアンに攫われたのか?」

「賞味期限の切れた生もの喰ったのか?」

まるで通過儀式のように職員室と同等の騒ぎが沸き起こる。

教師達ほどではないが、かなりの物言いに青筋を立てて横島は言い返す。

「家出した親父をお袋が追いかけて出ていっちまったんだよ。
ご丁寧に家は売却済みでさ、知り合いの家に引っ越すしかなかったんだ。
だから、住所変更の書類もらったんだよ!」

しっかり書類が見えるように突き出して、荒くなった息を整える。

「・・・・お前の親父さん、何したんだ」

「浮気(キッパリ)」

確信があるらしい。

「で、面倒だから今日中に出してやるのだ」
ぐふふふふ。と不気味な笑い声が聞こえる。

どうやら今朝の職員室の態度が気に入ったらしく、もう一度あの阿鼻叫喚を作りたいらしい。
なんせ書類用の三文判と朱肉を持参しているのだ・・・・今日中に出す気だ。

「ふっ・・・ふーん。そーか、今度行っていいか?」
「おう、いいぞ」

冗談と真実を織り交ぜながらクラスメイトの質問を交わして、彼にとっては久しぶりの授業を堪能する。

久方ぶりの学校は、横島が予想していたよりも慌ただしかった。

だが、とても心地よかった。







「・・・ハヌマン?」

夜の稽古をしに来た横島は、未だ地面にのの字を書き続けるハヌマンを見つけた。

どうでもいいが、鬱陶しい。

「予約特典。『六分の一スケールの妖刀迦月』つきゲーム、持って着ましたよ」
「なに!!」

ハヌマン復活。


予約特典がよほど嬉しかったらしく(狂喜乱舞という言葉は今の現状の為にあると思って間違はない)、
ハヌマンが使い物にならないため急遽修行ではなくお茶会になってしまった。

「ふほほほほほほ」

「さっきからあのままですけど、大丈夫でしょうか?」
「さぁ?そのうち還ってくるだろうから、見ないほうがいい」

「失礼じゃな」

「「あっ還ってきた」」

「・・・・・まぁよい。そうじゃ、横島。お主に聞きたい事があったのだ」
「?答えられることなら」

茶器を片手に持ったまま何事かと首を傾げる。

「文珠についてじゃ」


三度目の正直。
二度あることは三度有るにならなくて良かったと、小竜姫は思った。

「良くご存知ですね」

茶器を机に戻すと、小さく笑う。
それに答えるようにハヌマンも笑い返した。

「伊達に長生きはしておらんよ」

「・・・簡単に言えば増幅器です」

予想していなかった言葉にハヌマンは一瞬言葉を詰まらせる。

「文珠という名をご存知のようなので細かい説明は・・・」
「「省かないで下さい」」
なぜか敬語で師弟は言い、いつ取り出したのかノートとシャーペンを握りしめていた。

「・・・そうですか、ではまずなぜ増幅器なのかですね。通常霊力一に対して、その効果は一。
ですが、文珠を使用した場合は霊力一に対して効果は平均して三〜七です」

「ほう」
「そんな・・・信じられない」

「これは文珠の使用方法によって変わります。例えば「炎」「水」などは七倍。「飛」「切」などは三倍。これの違いが解りますか?」

「へっ?」
突然の問題に小竜姫は答えられず、代わりにハヌマンが嬉々として答える。

「おそらくイメージの問題だろう、炎や水は普段見慣れているからのぉ。使いやすい。
変えてって飛や切はいまいちイメージしにくい。
「とぶ」という言葉だけでは「跳ねるように」なのか「鳥のように」なのか「場所と場所の間」などいろいろとあるからの」

切るでは、対象物までは指定できない、最悪存在している全て使用者までをも「切り」かねない。


「その通りです。ですが、イメージがしっかりとしていればこれほど強い増幅器は無いですよ。
これは頭で描いた情報を写し取って発動します。しかも作りだした本人以外・・・・そう誰にでも仕えるという長所がある」

「だから、私の文珠には一つだけプロテクトが付いています」
「ほう・・・それは?」

「秘密です。教えて解明されたら困ります」

がっかり。
その言葉が良く似合うほどに、ハヌマンの肩は落ちていた。

いまいち説明についていけなかった小竜姫は、ノートと格闘したまま終わってしまった。


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