椎名作品二次創作小説投稿広場


初恋…?

そのなな(回想おわり)


投稿者名:hazuki
投稿日時:04/ 8/ 1

加賀由美と横島が個人的に話したのは、たったそれだけだった。

次の日「朝の会」が始まる前に横島が銀一を呼び止めて、いかにも手作りチョコと主張している包みを(ほぼ)クラス全員の前で渡したのだ。

しかも『一日おくれたけど』というおまけの台詞つきで。

銀一は昨日のうちに電話ででも聞いていたのだろう、特に動揺する様子もなく受け取ったがほかのクラスメイトの反応は凄まじかった。

女子からは総スカンをくらうは、男子からは『ホモー』と10メートル下がって叫ばれるは、夏子からは足払い、そして黄金の右から一本背負いという黄金のコンボを喰らうは………

それでも、横島は特になにも気にしてなかったのだ。(普段の彼の生活からして、さほど変わらないという理由もあるが)

一言加賀由美から頼まれたといえば良かっただろうに、何もいわなかったのだ。

女子と根気較べをしながら、男子と言い合いをしながら、夏子にぶちのめされながら。

それでも、何もいわなかったのだ。

特にフェミニストというわけでもないのに。

きっと、横島はただただ頑張った加賀由美は凄いとおもったのだろう。

だから、渡したかったんだとう。

心底感心したような横島の笑顔を思い出し、加賀由美の心臓がとくんと飛び跳ねたのだ。





──────その日から加賀由美は、横島をみている。










夏子は自分に加勢してくれた、加賀由美をぼんやりと見て俯く。

いつも横島といっしょにいる夏子を羨ましそうにみていてた子だ。

少し大人しいが、優しいということも知っている。



(ほんま、優しいなあ)


夏子は改めてそう思う。

このまま夏子と横島が喧嘩をしていれば、加賀由美にとっても悪いほうにはいかなかっただろうに。

横島に心配されて、大丈夫と笑える。

自分は告白する勇気なんかないのに、加賀由美が告白しそこねた時すこしだけ安心してしまった自分なのに。

もちろんあまりの横島の鈍感さに呆れたのだけども、すこしだけ安心したのだ。

よかったと。

なのに、自分の加勢をしてくれている。



(なんかうち卑怯じゃないやろうか?)



ふとそんな考えが頭を過ぎる。

加賀由美が、一生懸命横島に思いを伝えようとしたのに。

なのに自分は加賀由美の思いが伝わらないのを安心して、横島と喧嘩をして更には加賀由美に加勢をしてもらう。



(いや、卑怯や)


ぎりっと歯を食いしばり夏子は顔を上げた。

目の前には、お世辞にも喜んでいるとはいえない横島がいる。

まだ先ほどの怒りがあるのだろう、眉間には皺がよっている。

その顔を見た瞬間、さらりと夏子の口から言葉が零れていた。


「うちはゆうねえと横島が仲がいいのは嫌や」


はっとその言葉に顔を上げる加賀由美。

銀一の表情も一瞬強張る。

その言葉に、益々眉をしかめる横島。

数秒だが、痛いほどの沈黙が四人の間に落ちる。


「………なんでや」

横島には似合わない、どことなく哀しげな声音である。

これだけで横島が、夏子の言った言葉の意味を履き違えている事がわかる。

どこどこまでも救いようのない鈍感大王である。



「えっ!?」


そして焦ったように夏子。

まあこの場合夏子が焦るのも仕方ないともいえよう。

先ほどの言葉は、ほとんど無意識のうちにだけども夏子の感情を正直に表した一言だったのだ。

そしてこの言葉で思いを伝えきったと言ってもよく、補足説明をする器用さは夏子にはない。

元々の性格もあって恋愛沙汰には向かない性質なのだ。

しかも惚れているとは言え、相手が横島である。

遊ぶというよりもど付き合いで、もしかしたら普通に話すよりど付き合う時間が長いのだ。

そんな相手に何をいえばいいのか分からない、半ばパニックになりかけた夏子の視界に移ったのは加賀由美である。

加賀由美は真剣な目で、こちらを見ている。



(そ、そうやっうちもちゃんといわんとっ)



まあ、ここまで言って伝わらないという事自体に問題があるのだが。

夏子はその事実をあえて避けて、きっと挑むように横島をみる。

ぐっと拳をつくり言葉を紡ぐ。


「あ、あ、あ、あ、あ、あんな?」


言葉というか、言葉以前なのはご愛嬌だ。



(あれ?なんや変や)


夏子の態度のおかしさに横島はやっと気付き、横島は首を傾げる。

考えてみると夏子にあんな調子にのった態度をとった場合、アッパーから右フックそして回しげりの3段攻撃でも今ごろ喰らっているはずである。

なのに今は表情こそ怒っているが、どこかいつもと違うのだ。


(なんや…嫌やなあ)


別にインネンをふっかけられてぶちのめされると言うのが好きな訳ではない。

だけどこんな風に自分の知らない夏子をみるのは嫌だ。

まるで知らない女の子みたいで。

横島はいつも自信満々で偉そうで言いたいことをはっきりという夏子が好きだし、だからこそ倒し甲斐(?)もあると思ってるのだ。

なのにこんなに言いよどむのをみると、違うひとに見えてしまう。

それに何故ゆうねえと自分が仲よくするのが嫌なのだろう?

一年前まで、四人いっしょに遊んでいたというのに(遊ばれていたとも言う)

考えれば考えるほど、横島は夏子の行動や言動の意味をつかめずに不機嫌になっていった。

夏子も夏子でなんとか横島にはっきりした言葉で伝えようとするが、壊れたCDのように同じ言葉を繰り返す。


「あああああ、あのその、あんなっ………」


ぜえぜえと肩で呼吸をしながら、それでも先の言葉を紡ごうと夏子。

必至である。


「頑張れ」


そっと励ますように銀一。

銀一は夏子の事が好きである。

銀一は横島のように鈍感ではないので、夏子が誰がすきなのかきちんと分かっていた。

だからどうしようとか、不思議とそんなことは思わなかったのだ。

それはまだそんなに好きじゃ無いからかも知れない。

それでも、夏子が本当にいい顔をするのは横島の前だけで銀一はそれを見るのが大好きなのだ。

夏子が告白して横島とうまくいっても、それはそれでいいと思っている。

ただ夏子が嬉しいなら、横島がいつもどうりならいいと思っているのだ。


(まー俺が惚れられとったら今ごろ死んどるからなあ)

しみじみとその事実をかみ締めながら、銀一は二人をみまもっていた。


「……うち横島がねえちゃんといっしょでなくても、他の女の子といっしょにいるの嫌なんや」

ぜえぜえと、呼吸をしながら夏子。

まるで100メートル全力疾走した後のような疲労度である。

それだけの精神力を一杯一杯のこめた言葉がこれというのも夏子らしいといえばらしいかもしれない。

が、当然横島に伝わるわけもなく


「………?」


わけのわからないまま首を捻る。


「今なんでやっと思ったろ?」


少し笑って夏子。


「なんで分かったんや?」


「そりゃわかるわ」


落ちていく太陽。


「うちはいつでも」


柔らかな声。


「横島の事考えてるんやから」


そして柔らかくてあたたかい笑顔。



───────どくんっ!!!

心臓が鳴った。

頬に血が上る。

さっきの笑顔が焼きついて離れない。

な、なんや夏子が別人に見える!?

嫌やっ!?

嫌だけども、嫌やないっ!?


もう一度……みたい?


「ちょ、ちょっと待て俺」

手のひらで顔を抑え唸るように横島。

自分で自分がなにを考えているのかわからない。

顔中に熱があつまったかのように熱い。


「ん?どした横島?」


突然の横島の態度の変化に、夏子が何事かと近づく(自分の思いがなにも伝わってないというのが前提なのが哀しい)


──────どっくん!!!


目の前に夏子の顔があるとわかった瞬間、心臓がまた飛び跳ねる。

それから先は無意識の行動だった。

手を伸ばし、夏子の腕を掴み、力任せに抱きしめる。


「!!!!!!!!!!」


これに驚いたのは他の三人である。



「ななななななななっなんですかああ?」


夏子に至っては、動揺のあまりおかしな言葉をはっしている。

(ああ)

一方横島は、夏子を抱きしめてあることに気付く。

(なんやオレ)

すこしだけ自分より小さい体を抱きしめながら。

(夏子のことすきなんや)

ずっと前からあったその気持ちに。



「なななななななななななななななななななな」


はたと夏子がずっと声をだしていることに気付き、横島はぱっと身体を離す。


「「…………」」


紡ぐべき言葉を見つけきれない二人。  

「あ、ごめんな」

何事もなかったよう横島。

「でも。おまえなななってなんや?なんや壊れたレコーダーみたいや。」


そして、ずっと単語をはっしてる夏子におかしそうに笑いながら言った。


よく考えてみて欲しい。

この時間、さんざんこの男の鈍感さに振り回されて告白しようと一世一代の勇気をふりしぼっている最中に、それが全部ふっとぶような真似をされた上にその相手はほがらかに笑っているのだ。

こんな男にほれたのが悪いというが、それでもだ。

それでもこの事態はあんまりじゃないだろうか?

可愛さあまって憎さ1000倍とかいう言葉もあるはずだ。

数秒後

横島の体は宙に浮いていた。

夏子から関節技から、投げ技、そして締め技へ食らわせられ、更には生きているのがちょっと鬱になりそーなほどの罵詈雑言をうけきっていた。

そして意識を失った横島に

「ゆうねえどこかほかの女の子と仲良くすんのは100億年はやいんやーこのぼけっ」

というありがたいお言葉を頂いた。

まあ、初恋と認めた瞬間に好きな女の子からそんな攻撃をうけた挙句、家にかえって母親からも折檻を(スペシャルコース)受けた横島も哀れと言えない事もないが。


つづく

や、やっと終わったあああ長かった長かった回想が(汗
話がやっと進む(涙)
文体の間とかほのかに気にしてみましたけど難しいなあ(汗)
あそれとコメントくださったみなさま、評価していただいたみなさま本当にありがとうございます!!
ほんっとうにほんっとうに嬉しいしありがたくてしかたがないです
|д゜).oO(…その嬉しさを全部お話を書くことにむけてますのでっ


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