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ふたりの蛍

第二話 −牧之瀬蛍と横島蛍−


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:04/ 7/29

 蛍が堤防を下りていったかと思うと、突然バスタオル一枚の姿で駆け上がってきた。
 びっくりしていると、蛍がもう一人俺の前に現れた。
 後からきた蛍は、堤防を下りる前と同じ格好をしている。

「あなた誰? なんでお兄ちゃんにそんなに慣れなれしいの?」
「私の名は、牧之瀬蛍。あなたこそ、誰? 横島くんに兄弟はいないはずだけど……」
「私は、横島蛍。間違いなく、お兄ちゃんの妹よ」
「ちょっと、横島くん。いったいどういうこと? 説明してよ」

 バスタオルを体に巻いていた蛍は、牧之瀬という名を名乗った。
 ヘンだな? そんな名前は聞いたことがないけど。

「ごめん。牧之瀬って名前の知り合いはいないんだ。何かの勘違いじゃないかな?」
「それ、どういうこと……? あなた、横島忠夫くんよね?」
「間違いなく、そうだけど……」

 蛍が二人じゃなくて、もう一人の蛍は別人なのか?
 そういえば、胸のふくらみが、蛍よりずいぶん大きいような気がする。
 さっきは気がつかなかったけど、実は美神さん並のサイズじゃないのかっ!

「……お兄ちゃん」

 服を着た方の蛍が、1オクターブ低い声で俺を呼んだ。おまけに、白い目で俺を睨んでいる。

「いったい、どこ見てるのよ! お兄ちゃんのエッチ、ヘンタイ、スケベ!」

 パチーン!

 平手打ちされた頬の音が、夜の堤防の上に響き渡った。
 蛍に本気で叩かれるのも、ずいぶん久しぶりかもしれない。




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 『ふたりの蛍』        第二話 −牧之瀬蛍と横島蛍−

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「と、とにかく、ここでいつまでも立ち話をしているのもなんだし、いったん家にこない?」

 頬を腫らした横島が、牧之瀬蛍に話しかけた。

「でも、こんな格好で人前は歩けないわ」
「それは大丈夫。ちょっと俺につかまって」

 横島は二人の手を、自分の服につかまらせる。

「よし、『転』『移』!」

 周囲の空間が一瞬ぶれたが、その次の瞬間、アパートのドアが三人の目の前にあった。

「あ、文珠を使ったんだ」

 牧之瀬蛍は、横島が文珠で瞬間移動したのだとすぐにわかった。

「え!? 文珠のこと知っているの?」

 横島は、ますますわけがわからないといった表情になる。

「とりあえず、中に入って」

 三人は人目につかないうちに、部屋の中に入った。

「蛍。悪いけど、この人に服を貸してやってくれないかな。話はそれからだ」
「うん、わかった」




「迷惑かけちゃって、ゴメンね」
「いいけど、なんであんな所で裸で倒れていたの? 悪い男に襲われたって感じでもなかったし」

 下着を身に着けながら、牧之瀬蛍は横島蛍と話しこんでいた。

「それについては、あとでまとめて話すわね。あ、ブラがちょっとキツイかも」

 牧之瀬蛍は、パンティに続いてブラジャーを着けようとしたが、サイズがちょっと合わなかったらしい。

「でもノーブラだと、ちょっと男性には刺激が強いかもね。これでよしと」

 裾が短めのスカートと白のTシャツを身につけると、牧之瀬蛍は部屋を出てリビングへと向かった。




「それじゃあ、とりあえず自己紹介からしようか。
 俺は横島忠夫。大阪生まれで、今年で19歳。職業はゴーストスイーパーってとこかな」
「えっ!? 横島くん、19歳なの?」

 牧之瀬蛍は、あらためて横島の顔を眺めた。
 たしかに目の前の横島は、自分の知る横島よりも幾分背が高く、体つきもがっちりとしている。
 表情もずいぶん引き締まっており、自分が知る横島よりも、しっかりしているような感じがした。

「ひょっとして、今何年?」
「今年は、199X年だけど」
「うそ……二年もたってる……」

 牧之瀬蛍は、呆然とした表情をする。

「ひょっとして、時間移動が絡んでいるのかな?」
「お兄ちゃん。話を横道にそらす前に、事情を先に聞かないと」
「そうだな。それじゃ、君の自己紹介を聞きたいんだけど」
「私の名は牧之瀬蛍。高校二年生で、横島くんと同じ学校に通っていて、クラスも同じだったんだけど……」

 牧之瀬蛍は、横島の顔をちらりと見た。

「気がついたら、自分も知らないうちに二年も経っているし、横島くんも私を知らないと言うし、
 もうわけがわからないです」
「牧之瀬さんには、まだいろいろと聞きたいことがあるけれど、とりあえず次にいこうか」
「私は横島蛍。高校二年生で、六道女学院霊能科に在籍中よ」
「二人とも同じ名前か。弱ったな。どうやって区別しよう?」
「まぎらわしいから、私は名字で呼んでもらってもかまわないわ」

 とりあえず、牧之瀬蛍は名字で呼び、横島蛍は名前で呼ぶことで決着した。




 それから一時間近く、牧之瀬は今までの出来事を話していた。
 長崎から引っ越して、横島の通う高校に転入したこと。
 自分もGSであること。
 横島が、妙神山に連れていったこと
 除霊委員として、ルーデラという女魔族と戦ったこと。
 そして魔族ベヒーモスとの戦いで、自分は死んだと思ったが、気がついたら堤防の坂の途中で倒れていたこと。

 けれども、全ては話せなかった。
 デジャブーランドでデートしたこと、おキヌちゃんとのライバル関係、そして……『神寄せ』の能力。
 自分が横島の恋人だったルシオラによく似ていることも話さなかったが、これは横島の方でよくわかっているだろう。

「それで気がついたら、二年間が過ぎていたということか。すぐに思いつくのは、時間移動だけど……」
「時間移動って、そんなことってありえるの!?」

 牧之瀬が、横島に尋ねた。

「うん。たまたまだけど、俺の知り合いで、時間移動能力者が二人もいるから。
 俺も平安時代とかに、行ったことがあるし」
「私、そんな話は聞いたことないわ」
「私もよ、お兄ちゃん」
「時間移動は時空に混乱をきたす要因になるから、神族の方でいろいろとうるさいんだ。
 俺もつまらないことで目をつけられたくないから、あまり人に話したことはないし。
 ただ、今回の話は、普通の時間移動じゃあないと思うんだ」
「どういうこと?」

 牧之瀬は、横島に説明を求めた。

「過去からの時間移動は、過去と今を結ぶ一直線上を移動するから、
 普通なら俺が牧之瀬さんのことを、知らないはずはないんだ。
 けれども、牧之瀬さんは俺のことを知っているというけど、俺は牧之瀬さんのことを知らない。
 つまり、普通の時間移動では、説明がつかない」
「それじゃあ、いったいどういうことなの?」
「俺にもわからない。それこそ妙神山にでも行って、調べないといけないかもな」
「お兄ちゃん」

 今までずっと二人の話を聞いていた蛍が、口をはさんだ。

「牧之瀬さんの事情は、だいたいわかったわ。でも、一つだけわからないことがある。
 なぜ私と牧之瀬さんは、こんなに似ているの?」
「うーーん、なんでだろう??」

 横島も理由がわからないのか、しきりに首を捻っている。
 しかし牧之瀬には、一つだけ心当たりがあった。

「横島くん、ちょっと……」

 牧之瀬は横島の袖を引くと、リビングの外に連れ出した。

「一つだけ教えて。蛍さんは、ルシオラさんと何か関係があるの?」
「ちょっと待った!」

 横島は慌てて牧之瀬の口を押さえると、彼女の手を引きながら自分の部屋へと駆け込んでいった。


(続く)


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