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ふたりの蛍

第一話 −そして、新たな出会い−


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:04/ 7/26

※この作品は、『tragic selection』(作者:堂旬さん)の三次創作です。
 16話からの分岐となりますので、16話まで事前に読んでおいて下さい。




 私が意識を取り戻した時、横島くんが目の前に立っていた。

「蛍!!」

 横島くんは私に駆け寄ると、裸の私に着ていたGジャンをかけてくれた。

「おわっ! ……蛍?」

 私の体が薄く光を発し、やがて徐々に透き通っていった。
 もうダメなのかな? でも、これでいいのかもしれない。

「蛍!! 嘘だろ!? なんでだ! 消えんなよ!! 蛍ッ!!!!」

 私が死ねば、化け物は出てこなくなる。
 私のせいで人が死ぬこともなくなる。
 だから、きっとこれでいいんだ。

「ヨコシマクン………」
「嫌だ…ほたる…頼むよ…消えんなよぉ……!」

 ごめんね、横島くん。最後まで迷惑かけて。

「アリガトウ」

 私の意識は、そこで途切れた。





















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 『ふたりの蛍』        第一話 −そして、新たな出会い−

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 サーーッ

 涼しい風が、蛍の頬をなでていった。

「…………ここは?」

 蛍が周りを見渡すと、堤防の内側の芝生の上で横になっていた。
 あれほど激しかった戦いの痕跡は、どこにも見当たらない。
 蛍の周囲は、ただ静けさに包まれていた。

「やだ。私、裸だわ」

 幸いなことに、周囲に人影は見えない。

「横島くん?」

 もちろん、横島の姿も見当たらなかった。

「どうしよう……?」

 とりあえず上半身を起こすと、胸を腕で隠した。
 大声で助けを呼ぼうかと思ったが、裸を人には見られたくない。

「困ったなぁ……」

 その時、堤防の上を人が近づいてくるのが見えた。




「いいお風呂だったね、お兄ちゃん」

 堤防の上を一組の男女が歩いていた。どうやら兄妹のようである。

「本当に、銭湯が好きなんだなあ」
「だって、大きいお風呂の方が気持ちいいじゃない」
「ん……あれは?」

 男性が、堤防の内側の坂に視線を向けた。
 闇夜の中に、白い何かが見える。

「人……かな?」

 男性が、そっと近づこうとする。

「待って、お兄ちゃん!」
「なんだ?」
「女の人かもしれない。私が様子を見てくるわ」
「暗いのに、よくわかるなあ」

 男性が苦笑した。

「女のカンよ」

 女性はそう言い放つと、そっと坂を下りていった。

「あの……どうかなされました?」

 声をかけられた女性──牧之瀬 蛍──が、背後を振り向いた。

「すみません。何か着る物を貸してくれませんか?」
「とりあえず、これを──」

 女性は抱えていた風呂桶からバスタオルを取り出した。
 バスタオルを受け取ろうとした蛍は、近づいてきた女性の顔を見て驚愕する。

「えっ──」

 ボブカットのヘア、つややかな黒髪、そして端整な顔立ち。
 彼女の容姿すべてが、牧之瀬蛍にうりふたつであった。
 近づいてきた女性の方も、蛍の顔をみてビックリしている。

「おーい、蛍。大丈夫かー?」
「ちょっと待って、お兄ちゃん。女の人がいるけど、服を着てないのよ」
「……この声は!」

 蛍はガバッと起き上がると、借りたバスタオルで胸とお腹を隠して、堤防の上に駆け上がった。

「やっぱり、横島くんだ!」
「おい。どうして裸なんだよ、蛍?」
「どうしてはこっちのセリフよ。いったいあの後どうなったの?
 私、死んだと思ったのに、どうして生きてるのよ?」

 そこに、もう一人の女性が坂を上ってきた。

「ちょっと、お兄ちゃん。その人誰?」
「えっ!? どうして蛍が二人いるんだ??」

 額にバンダナを締め、片手に風呂桶を抱えた男性──横島忠夫──が、目を丸くして立っていた。

「あなたこそ誰? なんでお兄ちゃんにそんなに慣れなれしいの?」
「私の名は、牧之瀬蛍。あなたこそ、誰? 横島くんに兄弟はいないはずだけど……」
「私は、横島蛍。間違いなく、お兄ちゃんの妹よ」
「ちょっと、横島くん。いったいどういうこと? 説明してよ」

 バスタオルを片手で押さえながら、牧之瀬蛍は横島に詰め寄った。

「ごめん。牧之瀬って名前の知り合いはいないんだ。何かの勘違いじゃないかな?」

 横島は申し訳なさそうな顔をしながら、牧之瀬蛍の顔を見つめていた。


(続く)


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