椎名作品二次創作小説投稿広場


地上に降る最初の雪

宇宙のファンタジー


投稿者名:伊三郎
投稿日時:04/ 7/20

私は今、夢を見ている。
時々ある、これは夢だと自分でも判っていて見る夢を。

いつもの自分の高校の、いつもの教室。
生物担当のレクター先生の授業を聞いている自分。

(レクター先生って、アメリカのチューズベリー出身て言ってたけど、ニューヨークより遠いのかな?)

あれっ、レクター先生の授業なら理科教室でする筈なのに。それに科目は国語?
みんな先生が黒板に書いていく文章をノートに写している。

弓さんは? いつもどうり真面目に授業を受けている。姿勢もいい。美人だし、
うらやましいな。
魔理さんは? 居眠りをしている。後で「ノート写さして」って頼まれるんだろーな。
あれっ、でも夢なんだな。夢の中でも居眠りしてたって魔理さんに言ったら怒るかな?

3時限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。先生はノートを仕舞いながら、
「宿題だからね、氷室君。」と言って教室を出て行く。なぜ、私だけに? これは夢だから?

4時限目は、除霊実習だ。体操着に着替えて体育館に急ぐ。
魔理さんは実習が好きだから、張り切っているみたい。
軽く、準備運動をして、体をほぐす。

「今日は、ちょっと強めの相手と戦ってもらう。」 実習担当の鬼道先生が一言。
私の眼からみても、先生はカッコいい。冥子さんとは旨く行ってるのかな?

「氷室! たまにはトップバッターで行ってもらおか。」
 私? でも夢なのに。ここまでデティールの細かい夢なんて、久しぶり。

「お願いします!!」 私は魔方陣の描かれた結界の中に入る。何と戦うのかな?
対戦する相手が結界の反対側にじわじわと浮かび揚がってくる。

その時、私は敵が誰か分かった。

ゾワッ、全身の毛が総毛立つ。そう、私は過去この存在の前に立ったことがある。
「先生っ! この強さはちょっとじゃないですよ!」
なみだ眼になりながら、みんなの方を見る。でも。。。。

私を見ているクラスのみんな全員が私をあざけるような顔を向けている。鬼道先生も!?
周囲の景色がぼやける。でも私の周りを囲む人たちの思念を感じ取れる。

「ほら、お前はあの時、あの場所に居たのに何もしなかった、何もできなかった!!」

そう、あの過去の場面で私はただ浮いていただけだった。
周りの状況が、あの時の記憶通りに再現されていく。。。。 夢の内で。。。








あの時、私の周りには二人の味方と無数の敵がいた。
ようやく私は一番危険な相手の方に眼だけを向けることだけができた。
巨大とか、恐怖とかという単語では現せれないほどの、将に存在していた偉大なる敵。









アシュタロス!!!  地獄の大公爵!!








「横島クン、正しいと思うことをしなさい。」 美神さんが言う。
横島さんは? 両手にエネルギー結晶と文珠を持ち、俯いている。迷っている。

ニヤリとまさに悪魔の笑いを浮かべながらアシュタロスが告げる。
『今すぐ、それを渡せば新しい世界のアダムとイブにしてやろう。』

横島さんは、まだ俯いたままだ。今、アシュタロスの意識は完全に横島さんと美神さんに向けられている。
動けるのは私だけだ。私はどうすればいい? 何ができる? 

横島さんを助けたい! でも。。。。 私は非力だ、攻撃もできない、名案も策略も頭に浮かばない。
私に横島さんや美神さんの勇気と力がせめて半分、いや十分の一でもあれば。。。



結局、私はどうすることもできなかった。。。。。ただ、目の前の恐怖すべき存在に圧倒されて。。
幽体の意識を保つだけで精一杯だ。 この夢の内ですら思考が飛んでしまいそうになる。


そして、横島さんが顔を上げる。 一瞬だけ横島さんと目が合った。

幽霊だった時も含め、あんなに悲しそうな目を私は見たことがない。
この世界のすべての悲しみ、苦しみ、厄い、不幸を背負ってしまった目を。。。


夢の内で、私は想う。 もし、あの時選ぶ人が、横島さんでなく私であったならば、
           私はどうしていただろう?
夢の内で、私は想う。 もし、私が何か出来ていれば横島さんにあんなに悲しい目
           をさせられなかっただろうか?
夢の内で、私は想う。 もし、この場をみんな生き延びてもとの生活に帰れても、
           あんなに悲しい目をした横島さんにに私は何ができるだろう?


何度も記憶の内で繰り返された行動を横島さんが起こす。なにかを叫びながら結晶に文珠を叩きつける。

私は、それを奇妙にもゆっくりとしたスローモーションのかかった映画の様に観ている。
そう、だだ観ているだけ。。。。

ナニモ、ナニモデキナカッタヨ。
ドウスルコトモ、デキナカッタヨ。
ナニモ、イッテアゲラレナカッタヨ。



頭の内が、冷たい光の輝きに包まれる。。。。。








キヌがベットの上で目を覚ました時、自分が泣いていたことに気付く。泪が顔だけに留まらず、枕も濡らしている。

(また、あの時の夢を観てしまった。)

枕元の備え付けの時計を見る。まだ、午前4時だ。夜明けまでまだ間がある。
ツインの部屋の隣のベットを見る。そこに寝ているはずだった人はいない。メーキングされたままの空のベット。

(今頃、美神さんと横島さんどうしてるかな? あんな所で寝られないよね。)
二人は昨日、法王庁内で前代未聞となる追いかけっこを起こして、反省と称して悪魔を閉じ込める檻に一晩収監されている。

体中が夢を見たことで、冷や汗でぐっしょり濡れている。
(シャワーでも浴び直そうかな?)

その時、部屋の隅の暗闇に何か居るのを感じる。
(誰? こんな時間にこんな場所で。。。 でも、悪い物ではないみたい。)
(暖かな、どこか心地よい闇?) 
「あの〜、どちら様でしょう? 何か、御用ですか?」 彼女は声をかける。

『構わなければ、君と少し話しをしたいのだが。』
昨日、初めて顔を見た悪魔のイメージが部屋の内に浮かび上がる。
彼女が夢の内でみたレクター先生と同じ顔をしている。
(あれっ? 考えてみたら六女には異人さんの生物の先生なんていなかったわ。あれはこの人?)


「え〜と、たしかラプラスさんですね。」
『正確に言えば、ラプラスというのは数理物理学者の名だ。私は彼の予言したラプラスの悪魔たる無限の演算機能を持ち、すべてを予知する存在だ。』
「????」
『まあ、呼び名がなければ話もできまい。君の好きな名で呼んでくれて結構だ。』

「じゃあ、ラプラスさんでいいですね? でも、あそこの結界からは出れないんじゃなかったんですか?」

『君のパートナーがおもしろい物をくれてね。』と悪魔は手に持っていた文珠を開いて彼女に見せる。

その文珠には『伝』という文字があった。
(どうして、ここはローマなのにわざわざ漢字を使うのかな?
 原作の先生はぽるとがる語は分からないって言ってたけど、もしかして日本語しか知らないからかな?)

『これがあれば、近くにいる人間の意識と繋げることができる。』

「まさか、それであそこから逃げ出したりするつもりですか?」

『ふっ、そんな予定は無いよ。本当の事をいえば、私はいつでもあそこから逃げ出せれる。』

「??」

『私が外にでたとしよう。私の能力は触った物の未来を予知できることだ。
 例えば、カフェに行って飲み物を注文するとしよう。コーヒーがきて私がそれを手に取った瞬間、
 そのカップが次に誰が飲みその人物が次に何をして、どう生きていつ死ぬのかまで分かってしまうのだ。』

「つらいですね、それは。」

『そう言ってくれれば、話が早い。予知ができるということは、予知したものの運命全てを背負うことと同じなのだ。』

「背負っちゃうんですか?」

『その通り。だから私は半分は好き好んであの地下牢に居るのだよ。』

「残りの半分は何ですか?」(いつの間にか、話に引き込まれている、私は)

『それは宿題だよ、君!』 夢の内のレクター先生の口調で冗談ぽく囁く悪魔。


「・・・・もしかして、さっきの私の夢に入って来ませんでした?」(少しだけど怒っているんだ、うん)

『まえ半分はね、少し。』 らしくないが、申し訳なさそうな顔で彼は答える。

『だが、終わりの部分はね、君が』
「私自身の過去、それも乗り越えなければいけない過去の経験なんですね。」

『そうだ、やはり君は頭がいい。』(ほめたくらいで、怒ってるのは変わらないぞ)

「私? 私は馬鹿ですよ。」きっぱり。

『いや、昔から人間たちは言っている。自らの限界を自ら知り、自らの成すことを知る者こそ真の賢者だとね。』

「私は限界だらけですよ。成すべき時、何もできませんでした。」

『あの時のことで、過度に自分を責めたりしないことだ。』(悪魔のくせして、なんか優しい。。)
『あの時、あの場所に、在って在るべきことが君の役割だったのだから。』

「何もしなかった方が良かったってことですか!」(私は役立たずのままでは嫌だ!)
『きつい、言い方になるが、そのとおりだ。大切なことは、その経験を次に生かすことだ。』

「・・・・・・」
『力が欲しいのかね。』悪魔が囁く。

『むやみにそれを求め過ぎないことだ。いずれ時が至れば必要とされる力が君には備わるだろう。』
(罠じゃあ無いみたい。でも、どうして。。。)
『今の君が持っている「優しさ」もひとつの大きな力だから。』

「あの。。。。」
『ん?』
「どうして。。どうして、私にそんなこと言ってくれるんですか? 哀れみですか?」
(八つ当たりしてる。悪いのは私なのに、非力なのは私のせいなのに。)



『本題に入ろう。』悪魔が彼女の正面を向き、彼女の目を見据えて告げる。

『悪いが、君達の未来をこれで見せてもらった。』右手を開き、文珠を見せながら。

『君が彼のことを心配して込めた念と、彼の念から君達の未来を見せてもらった。』

「君達? 私と横島さんですか?」

『そうだ。これは、その、なんていうか、お礼だと思ってくれていい。』
人間でいえば、照れているような表情で悪魔は言葉を紡ぐ。

「お礼...ですか?」

『君達の未来は私にとってだね、とても興味深いものだった。』
未来のことを語るのに、過去形を使う予知魔。

『その未来は、私が...私が久しく忘れていた...涙というものを思い出させてくれた。』
実際、その悪魔は涙を両眼から溢れさせていた。

『本当に忘れていたのだよ、私という存在が悲しみだけでなく、感動しても泣けるということを。』

(泣いてくれている。。。私の為? 私と横島さんの為に?)



『お礼はもう一つある。』 落ち着いたか悪魔は顔を上げ、ホテルに備え付けのレターセットを指差す。

キヌはその一番上の便箋を手に取って眺める。
(これは夢の内で授業でノートに書き写した文。。。)

その紙は、びっしりと漢字で埋め尽くされていた。

「どうして漢文なんですか?」 悪魔に問う。

『それは、お礼でもあり、かつ宿題でもある。』

「しゅくだい・・・ですか。。」(なぜだろう、だんだん眠くなってくる。)

『いつか、君達はそれに書かれた全てを理解する時がくるだろう。』
「・・・・・」
『君達の未来に祝福を、そして安らぎがくるように。』
まるで、神の僕(しもべ)のような言葉を吐く、一見邪悪に見える悪魔が呟く。

「・・・・・」(もう、寝ちゃいそう)

『ああ、彼に一言伝えてくれないか、「からかって悪かったね」』
彼女の意識はもう再び夢の内。。。。。





ピピピピピピッ・・・
セットしていた目覚ましの音で、キヌは目を覚ます。
ベットの上に寝ている自分。(どこから、どこまで夢だったのかな?)
今は午前9時だ。11時には美神と横島を法王庁に引き取りに行かなければいけない。

昨夜の夢で文字の書かれた紙の場所まで行ってみる。
夢でなかった証拠に漢字で埋まった便箋を眺める。

江戸時代に習った知識と高校で学んだ知識を振り絞り、その内容を読み下そうとする。



「全ての災厄の詰りし箱より最後に出でたる吾の力の全てを使い、
 世界を震駭せしめた存在に申し奉る。

 此処は己の選びし世界。宇宙に生きとし生ける者全てに代わりて感謝す。


 先の大いなる戦いにおいて、幾万の魂が非業に倒れ、彼の試みを無に期せし。
 だが、吾はあえて告げん。
 あの戦で、最後に出てきた唯一人の横島出でずんば、この世界は滅びし。


 以往、彼に再び遭いまみえた時、恒に殺害を事とする無かれ。

 嘉肴食すが如き、古より伝えられた聖なる途を学び調伏すべし。


 爾等の待ち人は、何れ現れようが、還り来ても「はい」とは告げず。

 しかれども、子孫達を空しゅうする莫れ。
 時として共に因果の結ぼれを解きにしも非ず。


 爾等の選べし運命は、嶮なれども豈攀じ難からんや。

 この世界を守りし事は、あたかも天に喧嘩を売ることに等し。

 微木を銜え将に滄海を埋めんとす、爾等はその初めの壱本と成るべし。

 己達の道を、志同じくする者に引き継げば、いつか人は大いなる存在に進まん。

 時に魂魄が崩れ落ち力尽きてゆくも、夕景と一片の雪の想いが爾等の霊を支えし。



 また遊べる時を楽しみにしている。お隣さん。」

彼女はしばらく、その文を手に取ったまま考える。
(これは、美神さんには言えない。いや、言ってはいけない気がする。)
理屈ではなく、彼女の感がそれを伝える。

(でも、横島さんにも。。。)
このことを伝えるには、必ずあの時のことを話さなければいけない。
そう、三人の間にあった、それは暗黙の了解とも言える約束のようなもの。
あの戦いのあと、三人とも、いや彼女達や彼の周りのすべての仲間が取っている態度。
まるで、あの戦いが無かったように、あの戦いで誰も死なず、何も失わなかったような対応。

彼女(と彼ら達)は、そうすることで横島の心の傷に触れ、再び彼を傷つけまいと考えていた。
(そうすることが、果たして正しかったのだろうか?)

過度の優しさが時には、相手をかえって傷つけることもある。

寝巻きを脱いで、シャワーを浴びる。夢を観たせいだろうか、汗で濡れた体に冷たい水が心地よい。

(私はまだ、迷っている。。。)

出かけるため、服を着ながらも彼女は考える。

部屋に鍵を掛け廊下をエレベータに向かい歩き始める。
フロントに降り、ルームキーを預け二人を迎えに昔昔、一人の神の教えをこの地に伝えそして処刑された土地の上に建てられた聖なるはずの寺院に向かう。

その寺院の入り口まで来て彼女はその建物の党を見上げる。

その時、朝読んだお礼と宿題と言われた伝言の一文が彼女の内に思い出された。

「己達の道を、志同じくする者に引き継げば、いつか人は大いなる存在に進まん。」

(そうだ、人は前に進めるんだ。そのためには。。。)

キヌは想う。そのためには、過去から逃げては、前に進むことなどできはしない。
キヌは想う。このことは全て横島さんに伝えるべきだ。うん、決めた!
キヌは想う。私のできること全てを横島さんのために成そう!

足取りが軽くなる。守衛のスイス傭兵に片言ながら用件を伝え法王庁の中に入る。

(どう言えば、この想いを横島さんにうまく伝えるかな?)

そして、彼女の前に一晩牢屋にぶち込まれていた二人が現れる。
(思ったより元気そう。よかった。)

「おはようございます。昨夜は良く眠れましたか?」
もう、彼女の言葉に迷いまない。


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