夕日が好きだと言った人が居た。
けれどもこの世界に落ちる日は、容赦なく人々を焼く。
焼け焦げた人々の骸は、喰われることなく大地となり。
やがで焼けた骸は大地を覆い。
黒い大地が広がった。
絶望しかなかった。
※
日が傾き、夕焼けで、あたりが赤く染まり始めると、キロウ、カノエ、ツバキの順で戻ってきた三人がそれぞれに報告を始める。
「屋敷は手ごろなものがありました。少々広いですが、物の怪付きだったので簡単に契約が出来ました。それと、面白いことに屋敷から約一キロのところに「美神GS事務所」がございます」
背広を着た老紳士になったキロウが、実に嬉しそうに言う。
「面倒なことを頼んですまん。しかし一キロとは近いな」
「現在、捕獲可能と見られる魔族は、下級が七、中級が三です。残念ながら上級は現在この町に居ません。捜索範囲を広げれば、見つかるでしょう」
「十か、五時間程度でよく其処まで調べてくれた。それで、マーキングは?」
横島の問いに、カノエは微笑むことで答えを返した。
「ご命令くだされば、五分以内につれて参りましょう」
マーキング以外にも、なにやら奥の手を使ったらしいキノエに「そうか」とだけ答えを返す。
「GS資格試験への受付申込は済ませておきました。これが受験票と資料です。受験日は二週間後になります」
渡されたA4サイズの茶封筒の中身を確認し、再びツバキに預ける。
「すまないな、急がせて。二週間か、それまでには霊力と肉体を合わせておきたいな。当分の間、俺は妙神山で修行を行うことになるか・・・それでは、まずキロウが手配した館へ行こう、どんな物の怪が付いているのか興味がある」
「「「はい」」」
今度はひざまづくことはしなかった。
キロウが言った通り、横島たちの眼前にある屋敷は大きかった。
遥か昔、自給255円だったころの横島のアパート部屋が、優に20は入るほどの広さなのだから。
見た目は昔ながらの平屋だ。
「キロウ・・・根本的なことを聞き忘れていた」
「何でございましょう」
「金はどこから出した?」
モノを買うにはお金が必要、スッパリと「金=モノ」という関連性が消えていたため、キロウには金品は一切持たせていなかったはずだ。
嫌な沈黙が続く。
「下僕たるもの、主人に与えられた命は、必ずやり遂げます。
ご命令とあれば、お教えいたしますが・・・・知りたいですか?」
ニヤリ。
「いや、止めておく」
下僕の新たな一面を垣間見た気がした。
ああ、そういえば、ツバキもGS資格試験の受付料金をどこから出したのか、少しばかり気になる。
気になるが、あまり心臓によくない気がするのは・・・なぜ?
横島とカノエの視線が、不意に重なると二人とも似たような、張り付いた笑顔だった。
改めて気分を入れなおし、屋敷へと足を踏み入れる。
確かに霊気らしきものは感じるが、全体的に漠然としている。
霊気の流れはあるのに、霊気の元である霊が見当たらない。
「大分薄れていますね」
正直な意見をツバキが述べる。
「樹木子(じゅぼっこ)だな、血の匂いが染み付いている」
「キロウ、屋敷は何年ほどここに建っている?不動産屋から聞いているだろう」
「はい、築五十年だそうです。しかし、戦火で焼け残った材木を継ぎ足して立てたらしいですな」
「ならば、木自体は、百年以上のもの、戦火の火の粉を自らで逃れたのだろうな。どこぞの社の木材として使われていたのが、戦争で結界が切れたのか・・・切ったのか」
おそらく、社の者が木を倒すことが出来ず、社の柱の一部として使用することで封印していたのだろう、世界大戦など起こるとも思わずに。
「今までの住民は、樹木子の放つ血の匂いに当てられたのだろう、大したことは無い。期待していただけに、興醒めだな。まぁ、このまま消え去るだろう、まだ家具も寝具も無いが、久しぶりの畳だ。明日は早い、もう休むか」
そのまま腰を下ろし、横になる。
「老子の元へ、行かれたのですよね。では、修行をなさるので?」
畳の上に寝転んだ横島の頭を、ツバキは自分の膝の上に乗せる。
寝具がないので、せめて枕でもと思ったらしい。
「ああ、霊力があるのに、肉体まで望むのかと言われたよ」
「・・・それでも、望むのでございましょう?」
「ああ」
曖昧な笑みを浮かべ、横島は目を瞑る。
縁側から流れる風が、心地よく体をくすぐり、眠気を誘う。
「・・・芽が伸びる、やがてくる選別の時まで、何が起こるか解らん」
「忠夫の記憶の通りに進むのではないのか?」
横島の、視界の隅に入る程度の距離をとったカノエが、不意に口にだす。
「それは有り得んな。この『芽』が我々のいた『枝』とまったく同じに成長するわけではない、巨大な流れを要する事態が起こるなら、変わらんが、些細なことは予測が付かぬ。
カノエ間違えてはならない、私は決して全知全能ではない。
ただ一度だけ垣間見た『樹』の情報を持っているにすぎない。
何時何所で誰に会うか、戦いとなるか予測がつかん、ツバキ」
「はい」
「先に伝えておく、メデューサはお前に任せる」
淡々と紡ぐ横島に、ツバキは笑った。
「主人の命こそ、私の存在意義。主の御心のままにいたしましょう」
膝枕をしているために、頭を深く下げることができないのが、少々恨めしいが。
眼下に広がる、主の顔で良しとすることにした。
「横島殿。ならば、この世界の「横島忠夫」の存在はどうなっているのです?」
「『俺』のことか?キロウ、お前も勘違いをしている、『私』は別にこの世界の『私』を乗っ取ったわけでも、記憶を上書きしたわけでもない。
霊子構造、そのままを持ってきたお前達と違い。
『私』は『俺』の同意を得て、初めて存在している。
『私』はただ、『俺』の魄と『私』の魂の回線を繋いだ。それだけなのだ、今、横島忠夫は二重に存在しているのだ。
今までを生きた横島忠夫と、これからを生きた横島忠夫。まだ共有している部分が少ないが、肉体が霊力に追いつけば『私』と『俺』は完全に統合することになる」
そこで話を区切ると、横島は一度カノエとキロウの顔を確かめた。
「今日はここまでにしよう、何か聞きたいことがあれば『私』に聞くといい。
・・・・お休み、ツバキ、カノエ、キロウ」
「「「お休みなさいませ、我が主」」」
またかとも思ったが、なんと無しに心地良かったため、あえて何も言わず横島は眠りに付いた。
※
日が昇り初めてまだ間もない頃、とある公園の中で一人の青年がストレッチをしていた。
青いジャージを着た、黒髪の青年。
額にはすでに汗が出ている、何度か屈伸運動をして呼吸を整える。
「ふぅ。ここまで貧弱とは、まだ二十キロも走ってはいないというのに」
しかし、今日が日曜でよかった。
曜日感覚がすっかり抜けいてた彼らは、昨日が土曜日と知らずに行動していた。
よって今日、横島がジョギングついでに立ち寄ったコンビニで、新聞を見るまで今日が何日で何曜日かも分かっていなかった。
「走りこみは、ここまでにしておくか、これ以上は修行に影響がでる」
そう言うと、手のひらに意識を集中する。
手のひらに感触を感じるのを確かめ、必要な文字を思い描く。
「転」「移」
移動でも良かったのだが、何所まで使用可能かを試してみたくなった。
ただそれだけである。
「ほほ、来よったか」
「おはようございます。ハヌマン・・・昨日もいらっしゃいましたが、そちらの方は?」
なぜか、ハヌマンの隣には小竜姫がいる。
「おはようございます。小竜姫と申します」
「ご丁寧にどうも、横島忠夫です」
一体何なのかと、ハヌマンを横目で見ると、笑ったままだった。
「なに、齢十六の小僧に、精神面で劣るこの弟子にも、同じ修行をしてもらおうと思っての」
「老子様!」
何か不服があるらしい小竜姫を、笑って無視するハヌマンに横島は、ふと、感じたことを言う。
「俺。年、言いましたっけ?」
自己紹介はしたが、年齢までは言っていない。
年齢など関係ないと思っていたし、気にも留めないと思っていたのだが。
「なに、簡単じゃよ。木と同じで、生き物の体にも年輪に似たモノがある。
それは霊力に左右されん、肉体が母御の体内に宿った瞬間から、肉体に残る。
いわば肉体の歴史じゃ。ちと、特殊な『目』さえあれば誰でも見える。
神族の類は、見える者が多いのぉ」
どうじゃ、凄いじゃろ。
と、言いたげに笑うハヌマンに、横島も笑顔で答える。
「なるほど」
「まぁ、おぬしほど、肉体と霊力がかみ合わぬ者も、中々おらぬがな」
「お褒めの言葉として、受け取っておきますよ。時間が惜しいですね、始めましょう」
横島が修行を始めた頃、ツバキとカノエは家具と寝具などといった、生活用品を買いに出かけていた。
「布団四組と、箪笥。冷蔵庫に洗濯機、そうだ、物干し竿も買わねば」
「ガス、電気、水は、キロウが申請しておく、と言っていたな。テレビも必要だろ、それに電話。こんなにも必要なものが多いとは、思わなかったぞ」
大型のものは配達にしてもらったため、カノエの手元には、今日の昼食の材料が入った、スーパーの袋がぶら下がっている。
「ガスコンロは付いていた。あと掃除機とゴミ箱・・・」
「まだあるのか?」
ここまでの所要時間、実に三時間まだまだ先は長い。
しかし、金は何所から出したのか。
疑問は残りつつも、買い物は続く。
「ああ!鍋も薬缶も無かった」
先はまだまだ、見えないほどに長かった。
「っはあ!」
小竜姫の繰り出した蹴りを、押さえ足首の下に手を沿えそのまま上に持ち上げる。
一瞬バランスを崩したが、そのまま跳ねてもう片方の足で蹴りあげようとするが、上半身を軽く捻っただけで避けられる。
一回転して着地、そのまま足のバネを使い間合いを詰める。
「せい!」
「ふっ」
横島は突き出された右拳を、左の甲で流し、右を突き出すが、小竜姫は頭を反らし避ける。
「小僧、何時までそうやっているつもりじゃ」
正味一時間ほど、横島の防戦が続いている。
「俺は怖がりでねっと。せいっ!」
左手で軽く小竜姫を押し、間合いを開ける。
待っていたかのように離れた小竜姫は、握っていた拳を解き、指を揃える。
「はぁぁぁぁ!」
「げっ」
小竜姫は得手は剣だ、拳から手刀に変えて攻撃を開始する。
正直に突っ込んで来た小竜姫の懐に入り込み、腰を落とし鳩尾に肘で一発。
「ぐうっ」
「はい、おわり。ふぅ。正直すぎるね。相手も正直に待つすぐ対応しなきゃ、勝負にならない・・・もちろん悪い意味でだけど・・・はぁ、疲れた」
全身から流れる汗に妙な心地よさを感じ、クスっと笑う。
小竜姫が起き上がるまで待ってから、今日はここまでと横島は区切った。
何かに気付き、後ろを振り返る。
「ハヌマン、申し訳ないが、今夜は来れそうに無さそうだ」
「どうした?」
横島の視線を追うと、何時入り込んだのか、背広を着た初老の男がひざまづいていた。
「老子様、小竜姫様には、お初お目にかかる。わたくし、横島殿の下僕でキロウと申します。以後お見知りおきを」
「げっ下僕、ですか?」
予想していなかった言葉に、小竜姫は驚いたが。
横島は、かまうことなくキロウに告げるように促す。
「上級が掛かりました」
「そうか、分かった。ハヌマン、今日はこれで失礼します」
頭を下げたまま、横島たちの姿は消えた。
「しまった」
「何です。老子様」
横島たちが消えてから、何かを思い出したハヌマンに痴呆症かと、疑いの目を向ける小竜姫。
そんな弟子を無視して、
「文珠について聞かなんだ」
と、探究心丸出しの台詞を言ってくれた。
これからも頑張ってください。 (湯)
ひ・酷い‥。 (紅蓮)
一つ指摘を。×老子>○老師 です。 (HAL)
感想ありがとうございます。
今後とも見捨てずに、お付き合い下さい。
紅蓮さま
小竜姫様とハヌマンの扱いはしばらくこのままです。
ボケのハヌマンと、突っ込みの小竜姫を目指してます。
HALさま
>文字化け?荒らし?
私も判断しかねています。
指摘ありがとうございます!
間違いが多くてすみません、次回も見捨てずにお付き合いください。 (朱音)
連載がんがって下さい (通りすがりの人)
何やら深い設定があったようですね、そう思うと今までの話が物凄く面白く感じてきました
頑張ってください (純米酒)
前回書いたGSっぽさとは、ちょっとしたドタバタ、ギャグのことや、
世界観みたいな物の事です。(ちょっとあやふやですが。)
次回はたして、上級魔族をどうするのか?どうなるのか楽しみです。
では。 (Louie)
ありがとうございます。
がんばらせていただきます。
純米酒さま
最初の部分は話の都合上、話してはいけない部分や
ネタばれしないようにしていたので、分かりづらかったと思いますが。
お付き合いくださり、ありがとうございます。
今後も精進します。
Louieさま
ありがとうございます。
>前回書いたGSっぽさとは、ちょっとしたドタバタ、ギャグのことや、
世界観みたいな物の事です。
そうでしたか、勘違いをした解答で申し訳ありませんでした。
ドタバタ、ギャグは、下僕三人組みでは書けないので、
これから出てくるGSキャラに任せようと思います。
今後とも、見捨てずお付き合い下さい。 (朱音)
というわけで、再びチェック入りま〜す…と。
>夕焼けで、あたりが赤く
切る必要はないかな?
>現在、捕獲可能と見られる
これも…
>主人に与えられた命は、必ずやり遂げます。
これも切る必要はないかと。
>横島とカノエの視線が、不意に重なると二人とも似たような、
『横島とカノエの視線が不意に重なると、二人とも似たような、』でしょうか。
>「ならば、木自体は、百年以上のもの、
『「ならば、木自体は百年以上のもの…』で、どうでしょう
>今までの住民は、樹木子の放つ
切る必要はないと思います。
>「ああ、霊力があるのに、肉体まで
『「ああ。霊力があるのに、肉体まで』ですか。
>成長するわけではない、巨大な流れを要する事態が起こるなら、変わらんが、
『成長するわけではない。巨大な流れを要する事態が起こるなら変わらんが、』?
この部分、今ひとつ読みづらいです。
>「走りこみは、ここまでにしておくか、
『「走りこみはここまでにしておくか。』
>おぬしほど、肉体と霊力がかみ合わぬ
これも切る必要はないと思います。
>小竜姫の繰り出した蹴りを、押さえ
『小竜姫の繰り出した蹴りを押さえ、』では?
>一瞬バランスを崩したが、そのまま跳ねてもう片方の足で蹴りあげようとするが、
ちょっと変かも。という事で、代案↓
『一瞬バランスを崩したものの、そのまま跳ねてもう片方の足で蹴り上げる。が、』
で、どうですか?
>突き出された右拳を、左の甲で
これも切る必要ないかな?
>正直すぎるね。相手も正直に待つすぐ対応しなきゃ、勝負にならない
良く解りませんでした…
『相手も正直に待つ”訳じゃない。”すぐ対応しなきゃ、』…ですか?
>「ハヌマン、申し訳ないが、今夜は来れそうに無さそうだ」
来れそうに無さそうだ…これは少し、変かもしれないですね。
『来れそうに無い』で、どうでしょ? (脇役好き)
指摘ありがとうございます。
句読点には悩まされていたので、勉強になりました。
今後とも、品質向上に気合を入れさせていただきます。 (朱音)
次回は横島の強さが見れそうですね。
楽しみに待ってます。 (邪魅羅)
時給
>曜日感覚がすっかり"抜けいてた"
>彼らは、昨日が土曜日と知らずに行動していた。
抜けていた?
抜け落ちていたのほうが正しいかも。
誤字が多すぎる。
投稿する前に推敲して欲しいよ。 (餅)
WORDとかにテキスト流し込むだけで若干の校正が出来るので試してみてはどうでしょう?
機能的には、一太郎2004の校正機能なら誤字もチェックしてくれるので、そっちがお奨め。どちらも完璧にとはいかないですが、TOOLとしては悪くない。 (SHADOW)
句点の多さなど他は指摘された通り。
投稿の前に一度でも音読してますか?
それだけでずいぶん違ってくるものですが。 (こここ)