椎名作品二次創作小説投稿広場


悲しみの代価

始まりの準備


投稿者名:朱音
投稿日時:04/ 7/ 7

木々の隙間から零れ落ちる夏の日の光に、隙間を縫うように走る風。
どこか遠くに聞こえる子供達のはしゃぎ声。
それを止め様とする大人の罵声。
生きていることを自己主張する生き物に、横島は微笑んだ。

どちらも「あの世界」には無かったものだから。


横島たち四人は、公園に入ると手時かな木の下に一体、どこから出したのかシートを広げて寛いでいた


手元には、又どこから出したのか水筒があり、四人全員に紙コップが握られている。

「さて、まずはそれぞれにやって貰いたい・・・この話かたは、いささか」
何を思ったのか、言葉を止め考え込む。

「合わぬか。いや、ちょっとやばいかな、うん思い出してきた『私』ではなく『俺』だったな」
先ほどからの年齢に合わない喋り方を、無理やり正すと改めて三人の顔を見渡し横島にとっては軽い。
が、彼らにとってはかなりの難問を要求した。

「様はいいけど、主、と我が君は禁止な」
未だ喋りなれない様子で、さらりと言い放つ。

「そのようなっ殺生で誤ございます!」
必死の形相で横島に詰め寄る女も居れば。

「いささか、今更のような気もいたしますな。主は主でございましょう」
気にした風でもない男も居れば。

「他に呼び様はないのではありませんか?」
さり気に拒否している男も居る。
三者三様の答えを軽く聞き流し、続けて言う。

「あそこではそれは普通だ、けどな、ここは違う。
第一に、この年で契約した下僕が居る、しかも三匹だ、式神でもないのに連れ歩くのは不自然。
第二に、年功序列という言葉ぐらい知っているだろう、大人三人が子供にひざまづくのは異様だ。
ひざまづくこと自体、今はする者は少ない。
第三、『俺』はまだ十代だぞ?学校にも行かなゃならん。学生に「我が主」だ、「我が君」だ呼ばれているのを見られると後々ヤバイ。解るな?
いくら、この世界で生きたことが無いと言っても、我々が今から生きるのは『この世界』だ」

嫌でも理解せねばならぬのだ。

「我々は、この世界で生きねばならぬ」
その言葉に三人は改めて、己たちの生きる意味を思い出す。
あの世界、生きるものが息絶えた黒い大地。
三界の指導者は、成長を止め。
枝が枯れ落ちるのを、ただ待つのみの世界。

あの世界でも見た、悲しみと苦しみを混ぜたような表情を彼らの主はしている。

「主にこの様な顔をさせ、何が下僕か」
キロウが呟いた言葉は、幸いなことに彼の主には聞こえなかった。

「ツバキ」
「っはい」
急に名を呼ばれた女、ツバキは思わず正座のまま姿勢を正した。

「もう少し言葉を荒くしろ」
「・・・!」
言葉を失った。

「んで、カノエ」
「はっ」
カノエと呼ばれた黒色の男は、頭を垂れた。

「それ自嘲しろ、態度へりくだりすぎ」
「・・・」
瞬間冷却された。

「んっで、キロウ」
「何でございましょう」
覚悟を決めたらしいキノエは、冷や汗をかいていた。

「一般常識を仕入れろ、お前が一番不安だ」
「・・・」
落涙した。

「話を戻すぞ」
先ほどとは打って変わった表情で言い放つと、三人は一気に緊張を高める。

「それぞれにはやって貰いたいことがある。キロウ、住居を探せ。なるべく人が近寄らぬものを。
カノエは、今現在確認できるだけでいい、キロウが住居を見つける間に捕獲可能な魔族を探せ、この際えり好みはしなくていい。
ツバキは、GS協会に行ってGS試験受験の資料、必要なら手段を選ばずに受付まで済ませてかまわん。
なるべく手早く今日中に」

「「「お任せを」」」
風すら残さず消えたことを確認すると、自分も行動に移す。

下僕にばかり仕事をさせるわけには行かない、彼らの主で居るために。
主であるという証を立てねばならない。

何より今欲しいのは、協力者と提供者。
協力者は今すぐには作れない、ならば提供者。
あの三人と違い、この体はこの世界のもの、貧弱なことこの上ない。

「まづは修練だな、霊子構造は後でいいが。肉体がこれではな」
霊力と肉体がかみ合わぬか。

予想していたこととはいえ、肉体からあふれる霊力の量を考えると早急に手を打たねばなら無そうだ。
今この体で霊波刀を作ったらと思うと、ぞっとする。
霊圧に体が耐え切れず、腕がもげるが八つ裂きになるのか。

「実に興味がそそられるが、腕を再生させるのが億劫だな」
肉体の修練を最優先にするべきであると、確認を取ると右腕に力を込める。
数瞬後、手のひらに転がる二つの玉。

「霊力自体は問題ないか」

約束の時までに、どうあがいてでも手に入れなくてはならないものは山ほどある。
そのためならば、あがいて見せると誓ったのだ。

「道は変わった、すでに枯れ果てた枝は落ちて戻ることはできぬ。ならば、生きねば進めん。
この『芽』は決して枯らさぬ。我が命を代償にしてでも、君はそれを否定するかも知れないけれど。
あんたはそれを、拒否するかも知れないけれど・・・」

手に握られた文珠が淡く光り輝く、写された言葉は。

「移」「送」


瞬きの合間に目的の場所にはたどりついた。
聳え立つ門には、巨大な鬼の顔。
「なんと、人が居るぞ左の」
「むっ気付かなんだぞ、右の」
のんきなものである、これで良くぞ門番をしてこれたものだ。

「「この門を通りたければ、我らを倒すことだ!」」
よほど自信があるらしく、胸があったのならば張っているだろう二人組みに、ため息を一つこぼした。
ここまで待ったのはこの台詞を聞くためではない。

「御託は良い、押し通るぞ鬼門ども」
意図的に流していた霊波に気付かない鬼どもに、今度は見えるようにあらわす。

「「!!」」
瞬間、横島から発せられる霊気に鬼門たちは固まる。
全身から流れ出る霊波が、徐々に右拳に集まっていく。

「まだ加減が解らんからな、粉砕されてもいいのかな?」
霊力で覆った拳を門へと近づける。

振りかぶり、今まさに粉砕しようとした時、ようやく横島の目的の人物が現れた。

「若い者が、そうせっかちに事を進めようとするでない。そなた、今更なんの修行をつけたいと言うのじゃ」

いつ門から出たのか、老人が門と横島との間に割り込む。

纏っていた霊気をしまいこみ、ふっと横島は笑みを浮かべた。

「霊力は必要ない、ただ肉体を鍛えたいのだ。今日はそ旨を伝えに来たにすぎぬ・・・。
非礼を詫びよう、『俺』は横島忠夫、斉天いや闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)とお呼びしたほうが宜しいか?」

「ワシはただの猿じゃよ、ハヌマンと呼べは良かろう」
ハヌマンは快く、横島を自室へと招き、小竜姫に茶を淹れさせた。
茶を幾分か啜り、人心地つけた後に話を再開する。

「で横島とやら、何のために力を欲する。
見たところすでに霊力だけならば、ワシとて勝てんじゃろう。その上肉体を望むのか?」
茶器を片手に言うハヌマンを見ずに、横島は笑った。

「ではハヌマン、己の肉体が壊れると解っていて霊力を使う、そんな愚かな行動をせよと仰るか?
この力を使うには、この体は貧弱すぎる」

「そうなる前に、己で稽古すれば良かろうに」

「それはいたし方がない。『俺』は今日までこの力を持ってはいなんだ、
『私』がいくら理解していても、持っていないモノの為に修練などできぬ」

正直、ハヌマンは恐ろしかった、この青年は何か得体のしれぬ何かを持っている。
妙な不安、こんな不安は釈迦如来にあった時以来のものだ。
そして崩れぬであろう決意。

齢十六にして、この落ち着き様は一体なんだというのだ。
この者のつめの垢を煎じて小竜姫に飲ませて見たい、と半ば冗談めいたことをハヌマンは思う。

「ここは妙神山、修行を望むものの場じゃ。良かろう、稽古をつけようして、いつからにする」

ハヌマンの言葉に、ほっと一息つくと横島は手のひらを見せる。
見続けていると、文珠が二つ浮かび上がる。

「稽古は明日から、朝と夜うかがいます。そのとき三人ほど連れてくるかもしれませんが、害はありませんので、お気になさらず。今日はこれで失礼させていただきます」

霧のように消えた青年を、改めて凄いと思った。

「文珠とは、初めて見たわい。あや自身が玉手箱じゃな、何が出るか解らぬ」

ここは妙神山である。
微弱とはいえ、結界は勿論のこと張ってあるのだ、その結界の中を易々と『跳ぶ』とは。
本当に彼は、霊力ではなく、肉体のみを必要として来たのだと感心した。

「さて、明日から忙しくなるわい」

ゲームをするときより、幾等か楽しそうな笑い声が響いた。


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