椎名作品二次創作小説投稿広場


WORLD〜ワールド〜

第二話 『創始者』と『イレギュラー』


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 7/ 2

「先手必勝!!」

 叫び、美神は神通棍を取り出し、念を込める。いつでも武器の携帯を怠らないのはさすがといったところか。神通棍から伸びる鞭状の霊波。そしてその鞭は複雑な軌道を描きながらパレンツへと向かう。と、同時に横島とシロが二手に分かれ、左右から挟み撃ちにする。二人とも右手には霊波刀を発現させている。
 パレンツは右手に持っていた黒色の剣で、まず美神の神通鞭を受け止める。美神は巧みに手首を動かし、剣に鞭をからめ、そのままパレンツから剣を奪い取った。丸腰となったパレンツに横島とシロが左右から斬りかかる。
 パレンツはにやりと笑った。そして次の瞬間には両手に再び黒色の剣を握っていた。

「なっ!?」

「なにぃ!?」

 横島とシロの剣撃は出現した剣にはじかれてしまった。信じられなかった。パレンツはどこにも武器を隠し持っている様子などなかった。それどころか武器を取り出す仕草さえ見せなかったのだ。
 もっとも、それが霊波刀の類であったならば話はわかる。しかし、さきほど美神によって奪われた剣はなおも存在し、地面に突き刺さっている。つまり、パレンツの持つ剣は完全な物質なのだ。
 肩を浅く切り裂かれた横島におキヌが駆け寄り、ヒーリングを施す。彼女はこういった直接戦闘には向かないため、せめて足手まといにならないようにとするしかなかった。

「くらえッ!!」

 横島が文珠「爆」を発動させ、投げつける。だが、パレンツの目の前に突然現れた長さ2mほどの盾が爆風を遮った。

「おいおい……」

 横島があきれたような声をだす。

「これならどう!?」

 タマモが突然パレンツの背後に出現し、狐火を放った。幻術で隠れて、横島とシロの二人にまぎれて背後へとまわっていたのだ。
 タマモの放った狐火は彼女の全力を込めたものだった。その温度は2000度にも及ぶであろうか。その大火球はパレンツを飲み込み、急速にしぼんで消えうせた。タマモが横島たちに被害を与えないように調節したのだ。

「…いくらなんでも、そこまで何でもアリってのは卑怯なんじゃない?」

 美神がため息混じりに声をだす。
パレンツは何事もなかったかのようにそこに立っていた。漆黒の鎧を纏って。

「魔装術…? いや…違う。こいつ、一体…」

 横島が声を漏らす。
 その時、横島は自分の目の前の空間が歪んだように感じた。ほかの4人の目の前でも同様の現象が起こっている。横島の卓越した危機回避能力が瞬時に危険を訴えた。

「みんな、よけろーーーーー!!!!」

 横島の叫びと同時に歪んだ空間から突然爆発が起こった。爆風に吹き飛ばされ、横島は数秒宙を舞う。咄嗟に体を捻り、体勢をととのえて着地する。爆発の直前に後ろに飛びのいていたので致命傷となるのだけは避けることができた。爆発が威力を集中させたもので、規模が小さかったことも幸いした。だが、他のみんなは……
 横島の目にそこいらに倒れている4人の姿がとびこんできた。遠目に見ても危険な状態であることがわかった。意識を失っており、出血もひどい。

「みんなッ!!!!」

 横島はすぐに文珠を4つ作り出すとそのすべてに「治」の文字を込め、4人に作用させる。
 横島は一人一人に声をかけた。

「タマモ! シロ! おキヌちゃん! 目を覚ませ!! ……美神さん!!」

 しかし、誰も返事をしない。爆発の直撃を受けてしまったのだ。文珠でも意識を回復させるまではいたらなかった。
 横島の中でなにかがキレた。

「てめえぇぇぇええ!!!!」

 再び文珠を作り出し、「滅」の文字を込めようとする。
 だが、文珠は現れず、横島の体を猛烈な疲労感が襲った。立っていることさえままならない。

「あぅ…! な…に……?」

 無理をしすぎたのだ。ただでさえ横島は、昨日までの仕事で文珠を使いすぎていた。本来なら今日はゆっくりと体を休め、霊力の回復を行わなければならなかったのだ。だが、横島は今日もまた5つもの文珠を使用した。さらに6つ目の文珠を生成しようとしたことで、限界が訪れたのだ。

「抵抗は終わりか…ならば死んでもらおう」

 パレンツはゆっくりと横島に近づく。
 恐怖と怒りとが、ない混ぜとなった奇妙な感情が横島を支配した。

「ちくしょう!! なんなんだお前は!! なんの目的があってこんなことをする!! 俺がお前に殺されなきゃならない理由はなんなんだ!! …ちくしょう! ちくしょお!!」

 感情の爆発に任せて横島は叫んだ。あまりにも突然訪れた理不尽な死。
 受け入れられるはずがなかった。

「…そうだな。せめて質問には答えてやろう」

 パレンツは突然歩みを止めて言った。





「まず、私が何者か、ということだったな。私は『創始者』。全ての命の始まりの者だ」




 横島はパレンツが何を言っているのか理解できなかった。

「わからないか? まあ君等に説明するなら『造物主』といったほうがわかりやすいかな」

「な……」

「私という存在が生まれた時、この世界はまだ存在しなかった。ただ、暗闇のみが広がる世界。そして私は自分に特殊な力があることをなぜか生まれながらに知っていた。
 それは『無』より『有』を生み出す力。『創造力』。私はその力を用い、この世界を創り、ひとつの命を創った。その最初の命を、私はアダムと名付けた」


 パレンツは遠い昔を懐かしむように続ける。


「しかし私は失敗を犯した。それはアダムにも『創造力』が備わってしまったことだ。だから私はアダムに『知恵』を与えた。『無』より『有』を創り出すことよりも、『有』を『変』させることに興味をもつように。
 私の試みは成功した。アダムは与えられた『知恵』を用い、建物を建造することや、物体に熱などのエネルギーを加え、思い通りに加工することに喜びを見出した。その後、世界は世代を重ね、『創造力』は失われていった。
 そして世界はいつしか3つに分かれた。神界、魔界、人間界がそれだ。私がそれを行ったわけではない。私がヒトに与えた『知恵』、様々な自然要因、その他の要素が複雑に絡み合ってできた結果だ。
 そしてこれからも世界は変貌してゆくだろう。私はその過程を見続けていく者。

 唯一絶対の君たちの『主』。

 それが君の最初の質問に対する答えだ」


 横島はなにも言えなかった。頭が混乱している。目の前にいるこの男が『造物主』だと?
 あまりにも突飛な話だ。笑いすら込み上げてくる。俄かに信じられる話ではない。
 大体、その話が真実だとしたら、ますます自分が狙われる理由がわからない。


「次の質問は『目的はなにか』だったな。これは次の『横島忠夫を殺す理由』と大して変わらないのでまとめて答えさせてもらおう。
 今、この世界には人間だけで60億もの人口がいる。神族、魔族、妖怪まで含めるとその数は莫大なものとなるだろう。世代を重ねることでたった一つだった命はここまでの数に上った。
 そして世界が私の思いもよらぬ姿に変貌したように、私の思いもよらぬ力を持った者も出現する。
 『私の存在を脅かす者』。それを私は『イレギュラー』と呼んでいる。
 『イレギュラー』は消さねばならない。私の存在を脅かす者などあってはならない」

「それで…なんで俺なんだ……。俺にそんな力なんて…ない…」

 横島はやっとそれだけをしぼりだした。
 しかしパレンツはなおも続ける。

「なにを言う。これまでの歴史の中で君こそが最も脅威となるイレギュラーだよ。失われた『創造力』を持つ者。
 君だけは必ず消す。『創始者』は一人でなければならない」

「俺にそんな力なんてない!! 本当だ!!」

 横島は本心から叫ぶ。自分にそんな力などあるはずがない。
 そんな理由で殺されるのはたまらなかった。

「あるんだよ。私は君が文珠という力を手に入れてからの全経緯を見てきた。異常だよ。自分で気づかなかったか? 文珠使いはなにも君だけではない。これまでの歴史の中でも文珠使いは数多くいた。それらと比べても君の特異性は際立つよ。応用範囲が広すぎるんだ。
 文珠という能力は『霊力を凝縮し、キーワードで一定の特性を持たせて解凍する』ものだ。つまり、あらゆる方向性に力を向けることができるとはいえ、基本となるのは霊力にほかならない。だが、君の文珠の使用法はその基本を大きく逸脱していた。
 確信を持ったのはあのアシュタロスという魔神が起こした反乱のときだ。覚えていないかな? あの蝶を操る少女が君たちを襲ったときだ。あの時、君は『創造力』の片鱗を見せたんだ」

(パピリオが事務所を襲ったときか? けどあの時は、俺はなにも……)

 横島は記憶を巡らせる。だが、自分がなにを行ったのかはわからなかった。
 そもそもあの時横島は、パピリオの集中攻撃を受けて気絶していたのだ。

「『雨』を創り出したのだよ、君は。正確には君の文珠が、ね。そうか、君は意識を失っていたね。そこに倒れている黒髪の子と栗色の髪の女。彼女等が君の文珠を用いて『雨』を呼んだんだ。」

 パレンツは美神とおキヌを指差すと、言った。

「念を込めたのは彼女等かもしれないが、元となった力は間違いなく君の物だ。一体、どのような方向性を霊力に持たせれば天候を変えられるというんだ? 君は創り出したんだ。『雨』という事象を。
 君の持つ『創造力』が文珠を通して発現したんだよ。いや、そもそも文珠そのものが君の『創造力』の現れだったのかもしれない」

 パレンツが右手を掲げる。するとその上にカブトムシのような物が現れた。
 横島には、それに見覚えがあった。

(あれは……逆天号!!)

 逆天号。それはかつてアシュタロス達が用いた兵鬼。「断末魔砲」という脅威の火力を誇る存在。
 それが2mほどの大きさとなって、パレンツの側に現れたのだ。

「疑問は解けたかな? では死にたまえ。力を自覚されたりしたら厄介だからね」

 逆天号に力が集中する。
 横島は焦った。横島の後ろには4人が倒れている。この角度で放たれてしまったら、彼女達まで……
 なんとかみんなだけは助けなければ。横島は思った。
 だが、横島の思考がまとまる前に、無情にも断末魔砲は発射された。
 「断末魔砲」の名前の通り、耳をつんざくような奇声と共に霊波砲が放たれ、横島へと迫る。
 文珠を生成する時間など、もはやない。



(また、俺は守れないのか? また、俺のせいで誰かを死なせてしまうのか? …いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!! もうそんなのはいやだ!!! もう誰も……死なせるもんかああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!)



 突如、横島の前に大きな大きな盾が現れた。そしてその盾は、三界最強と言っても過言ではない断末魔砲を防ぎきると、ふっと掻き消えた。
 パレンツの顔に驚愕の表情が浮かぶ。


「……今のは…俺が出したのか?」


 確かに、横島はみんなを守れる強い盾をイメージした。ただ、それからのことはよく覚えていない。気づいたら、目の前に想像したとおりの盾が現れていたのだ。
 そして体を尋常ではない疲労感が襲っている。もはや指一本動かすのも億劫だった。

「…やはり、君は危険だ。『力』に目覚めてきている。確実に…殺す」

 パレンツは逆天号を消すと、両手に剣を構えた。
 パレンツの姿が横島の視界から掻き消える。
 最早人の目で捉えること適わぬそのスピードは、まさに神速。
 横島の目には黒い影が一瞬走ったようにしか見えなかった。
 横島は、すぐに訪れるであろう激痛を予感し、目を閉じた。

 そして鳴り響く金属音。


(金属音……?)


 横島が不審に思い、目をあけると……

 パレンツの剣が、自分の喉下で鉄の塊に受け止められていた。いや、正確には鉄ではない。神界にのみ存在する特殊な金属で作られた棍棒。
 横島はこの塊の名前を知っている。

(これは……如意棒!!)





 武神、斉天大聖老師がそこにいた。





「久しぶりじゃの……パレンツ」

 老師はパレンツの剣を弾き飛ばすとそう声をかけた。

「…まさか君が現れるとはね……武神、斉天大聖老師。幾多の時間を己の研鑽のみに使い、純粋な戦闘能力なら私をも凌ぐ存在。もう一人の『イレギュラー』。
 しかし…まだ懲りないようだね、君は」

 パレンツは言いながらも数歩下がり、老師から距離をとった。


(この二人…面識があるのか?)

 横島は朦朧とする頭でそんなことを考える。


「去れ! 小僧を殺させるわけにはいかん!!」

 老師がパレンツにむけて叫ぶ。
 それだけで周囲に闘気が走り、横島は尻餅をつきそうになってしまった。
 しかし、それだけの闘気を受けても、パレンツはなおも笑っていた。

「嫌だ、と言ったら?」

「こうするまでよ!!!!」

 老師の体から爆発的な闘気が溢れ出す。そのあまりの闘気量に、横島は今度こそ尻餅をついてしまった。
 パレンツも焦りの表情を浮かべ、即座に目の前に盾を創造する。

「甘いわぁっ!!!!」

 老師が如意棒を突き出す。凄まじい闘気を纏った如意棒は恐ろしい速さで伸び、盾を貫き、鎧を砕き、パレンツを吹き飛ばした。
 横島の目にはなにも見えていなかった。気づいたら、パレンツが吹き飛んでいた。
 言うなれば、まさに超神速。

「ごふ…! 馬鹿な…『あの時』よりさらに力が上がっている…!?」

 パレンツは口から血を吐き出し、言った。
 たった一撃で、かなり大きなダメージを受けてしまっている。
 体を纏っていた鎧も霧散していた。

「消えぬなら儂が消してやるぞ? パレンツよ」

 老師の闘気がさらに上がる。先ほどの一撃も本気ではなかったというのか。
 横島はパレンツの姿が薄れていくのを見た。

「やはり…君はあの時に確実に消滅させておくべきだった…。借りは返すよ、斉天大聖。
 そして横島忠夫…次は殺す。やはり君は危険だよ…そこにいる斉天大聖よりもね…」

 パレンツの姿が完全に消えた。

(助かった……のか? いや、一時的なものにすぎないんだろうな。……まあいいや。今はそれより……眠い)
 
 それを見届けると、横島は安心して気が抜けたのか気を失ってしまった。
 どさりと音をたてて老師の後ろで倒れこむ。
 老師はそんな横島を見つめ、呟いた。

「儂ではあやつを倒すことはできん……やつを倒せる可能性があるとしたら、それは小僧、お前だけじゃ」

 老師は横島を含め、倒れている5人を担ぎ上げると周りを見渡した。
 様々な衝撃により瓦解していたはずの壁や家屋が、何事もなかったようにたたずんでいる。

(あれほどのダメージを負っても去り際に痕跡を消すくらいの余裕があったか……やはり、儂では勝てぬ)

 老師は横島の顔を見つめる。
 力を限界まで使い果たしたのであろう。横島はまるで死んだように眠っていた。

「安心せい、小僧。儂がお前を死なせはせん」

 そう呟くと、老師は妙神山へと向けて、夜の空へと飛び上がった。


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