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力宿す者

第七話 決断


投稿者名:翔
投稿日時:04/ 7/ 1

第七話 決断

横島が妙神山に来てから数日後、ヒャクメ、ワルキューレ、ジークの三人が戻って来た。しかし結局の所横島を救う方法は見付からず、仕方なく彼等は神界に向った猿神成らばと考え帰りを待つ事にしたのだった。 

横島達が居間でテーブルを囲んでお茶を飲んでいる時、突然『キンッ』と言う音がしたと共に横島達は見知らぬ空間に佇んでいた。 
「此処は一体?」
「此処はとある異空間の一つじゃよ、御主等と話をする為に此処に来てもらったんじゃ」
困惑する横島達に声を掛けて来た猿神とその猿神の後ろに居る二人の人物を見て小竜姫達(横島とパピリオを除く)は驚いた顔をして慌ててその場にひざを着き頭を下げた。その姿を見た横島とパピリオは不思議そうな顔をして聞いた。
「どっ、どうしたんすか?」
「どうしたんでちゅか?」
横島達の問いに小竜姫とワルキューレが頭を下げながら答えた。
「神界の最高指導者様です」
「魔界の最高指導者様だ」
「「!?」」
その言葉を聴いたパピリオは直ぐに小竜姫達と同じ様に膝を着き頭を下げた。だが横島は立ったまま何事かを呟いた後最高指導者の二人に問い掛けた。
「この二人が神魔の最高指導者・・・じゃあアンタ等が俺達を此処に連れて来たのか?」
「「「「「・・・・・・」」」」」
神魔の両最高指導者を相手に気軽に聞く横島を見て小竜姫達は絶句した。
「私の事は『キーやん』とでも呼んで下さい。それで今老師が言った様に貴方達、正確には貴方に話があって此処に来て貰ったのです」
「そういうことやから少し付き合ってや横っち。ああっ、それからワイの事は『サっちゃん』と言うてや、ワイ等も横っちって呼ぶさかいな」
「はあっ、分りました。それで話って言うのは?」
ごく普通に会話をする彼等を見て最早何も言えない小竜姫達を尻目に横島達は話をしていた。そして彼等は話を始めた。
「老師から話は聞きました。現在の貴方の状態からそれに至る経緯まで、其れを踏まえて貴方を救う為に話をする為に来たのです」
「まっ、まどろっこしい事は抜きにして単刀直入に言うとやな、ワイ等は横っちに人間界の管理者、又は守護者と言ってもええけどその役目についてほしいんや」
「人間界の管理者・・・ですか?」
二人の話と提案を聞き良く分らないといった顔をして横島は聞き返した。
「そうです。と言ってもこれだけでは解らないでしょうから今から詳しく説明します。まず人間界の管理者、又は守護者を立て様とした訳は先のアシュタロスの乱の為なのです。私達は先の乱の後でこれから先も同じ事が起きる可能性を考え危機感を覚えました」
「それと言うのもな、アシュタロスの使った方法や手段を用いて同じ事をする奴が出て来る可能性が高いからなんや、実際先の乱ではワイ等魔族は勿論、神族まで身動きが取れず全てを横っち達に押し付ける形になってしもうた、それと言うのもアシュタロスの手際のが良かったと言うのも有るけどな、其れと一緒にワイ等が決めたデタントの規則が引っ掛かって救援が遅くなった言うのも理由の一つなんや」
「私達が決めた規則では人間界に軍を派遣するには私達の許可が必要であり、その許可がない限り人間界に行く事は許されないのです。しかし先の乱では其れが仇に成り、その結果貴方達に負担を強いてしまったのです」
「其処でワイ等は同じ過ちを繰り返さん様に、いざと言うときの為に人間界を守る戦力を作る事を考えたんや、それが人間界の管理者で在り、そしてそれに選ばれたのが横っちなんや」
二人の話を聞いた横島は納得行かない様な顔をして聞き返した。
「何故俺なんすか?」
横島の疑問を予想していた二人はその問いに答え始める。
「理由は三つ有ります、一つ目は貴方がその身体に魔族因子を宿している事、二つ目は貴方が神、魔、人界の三界においても数少ない『文珠使い』である事、そして三つ目は貴方自身を救う為これが理由です。そして今回判明した貴方がその身体に結晶のエネルギーを宿している事も加えて、以上の事から貴方が選ばれたのです」
「詳しく説明するとな、まず魔族因子に加え結晶のエネルギーまでもその身体に宿している所為で横っちは危険視され命を狙われているんや、其れを助ける為と言うのが一つ、次に『文珠使い』が貴重だと言う事が一つ、そして最後に横っちが出来るだけ人間として生きられる様にする為、まっ、こんな所やな」
二人の説明を聞いた横島はよく解らなかった事を聞いてみた。
「あのっ、『文珠』と結晶に付いては解りましたが、他の事が良く解らないんですが、特に俺が『人間として生きられる様に』と言うのが・・・・・・」
横島の疑問を聞き少し考えた後、納得した顔で二人は答え始めた。
「そうですか貴方は・いえっ、横っちは気付いて無い様ですが、本来なら横っちの身体は魔族因子の活性化によって魔族化して人魔と言うべき存在に成っている筈なのですよ。 そして人魔と言う存在は人間と魔族のハーフと違い人と魔の特性を兼ね備えた存在であり、即ち魔族としての寿命と力、そして人間としての限界のない可能性を持っているのです。 しかし同時に人魔という存在は人としての意識を無くした闘争または殺戮本能の塊のような者であり危険極まりない存在なのです。 だからこそ神族の一部は横っちを抹殺するべきだと言っていたのです」
「そやけど横っちの魔族因子はルシオラが活性化を抑えててくれたお蔭で人魔に成らずに済んでたんや。 だけどな横っちがルシオラを人間として転生させた場合横っちは間違いなく人魔に成ってしまうんや、せやからこそ横っちに人間界の管理者に成ってもらおう思ったんや」
「・・・実の所を言えばこの提案はアシュタロスの乱後、暫らくしてこの計画が立てられ横っちがルシオラを転生させた後に実行に移す筈だったのですが、今回横っちの身体(魂)に結晶のエネルギーが宿っていると聞きしかたなく計画を多少修正して持って来たのです」
「これで解ったやろ、ワイ等が何故横っちに人間界の管理者に成って欲しいのか」
「ええっ」
二人の説明を聞き横島はやっと全て納得したと言う顔で頷き答えた。
「其れでどうでしょう。この提案受けてくれませんか?」
「ワイ等としてはこの提案を受けて欲しいんや、せやないと横っちを助けなれへんねん」
「サっちゃんの言う通り他に横っちを助ける方法はありません。出来る事なら受けて欲しいのですが」
「勿論ワイ等も横っちの為に出来るだけ便宜を図り力になるつもりやからこの提案受けてくれんか?」
二人の提案を聞いた横島は何かを考える様に眼を瞑り顔を俯かせた。 暫らくして顔を上げた横島は決意に満ちた顔で二人の提案に答えた。
「・・・・・・・・・・・・解りました。その提案受けさせて貰います」
横島の答えを聞いた二人は最期の確認を取る。
「良いんですね?一度受けた以上後戻りは出来ませんよ」
「そういう事や、それでもええんやな?」
「はい」
二人の最終確認にも迷う事無く返事をする横島。
そんな横島を見て二人は顔を見合わせた後頷き横島にこれからの説明を始めた。
「解りました。 でわこれから人間界の管理者に成る為に横っちに力を貸してくれる者達を紹介します。 まずは四神達とその長である黄龍殿です」
キーやんがそう言うと何処からともなく五人の人物が現れた。 そして横島に近づき話し掛けて来た。
「御主が横島か?成る程良い眼をしている。 我は黄龍と言う。後ろにいる四神達の長を務めている」
「我名は朱雀、南方を守りし鳳凰なり」
「我は青龍、東方を守る龍神である」
「私は白虎、西方を守護する虎皇だ」
「名は玄武、北方の守護を務める仙亀」
全員の名乗りが終わった所でキーやんが話し掛けて来た。
「彼等には既に事情を話し力を与える事を了承して貰っていますのでまずは彼等から力を授かり結晶のエネルギーを抑えます。いいですね?」
「解りました」
横島の返事を聞いたキーやんは黄龍達を促した。
「でわ黄龍殿頼みます」
「解った。皆良いか?」
「「「「はっ」」」」
黄龍の問いに四神達は答え横島を中心にそれぞれ四方に立ち横島に向けて掌を翳した。そして次の瞬間四人の身体から別々の光が立ち昇りやがてその光は横島に向けて翳した掌に集り、集った光はそのまま横島の身体に入っていった。
「これで結晶のエネルギーが御主の身体に負担を懸ける事は無くなる筈だ。 さて残る我が黄龍の力だがこの力は御主の額にいる心眼と融合して与える事にしよう。 その方が御主としても良かろう。 心眼も主を守る力を持つ事が出来るしな」
その言葉を聞き横島は心眼と話した後快く了承した。
「確かにその方が良いな。心眼はどうだ?」
『我としてもその方が良いな』
「そうかっ、じゃあ頼みます」
「うむっ」
横島の返事を聞きた黄龍はバンダナに掌を翳した。 すると四神達と同様に黄色の光が立ち昇りその光は掌に集った。 其れと同時に横島のバンダナから光が出て来て黄龍の掌の光と一つとなり横島の身体に入っていった。
「これで良い。心眼は御主の身体に宿り様々な形で御主のサポートをしてくれるだろう」
「有り難う御座います」
黄龍の言葉を聞き横島は礼を言った。
黄龍は「礼は入らぬよ」と言って四神達と同じ様にキーやんの後ろに向った。 其れを見てサっちゃんが話し掛けて来た。
「ほな次はワイの方やな、『漆黒の魔女』事フィリス・トラストや」
サっちゃんが名を呼ぶと一人の美しい女性が現れた。 上から下まで黒で統一した姿はまさに『漆黒の魔女』と呼ぶに相応しい姿だった。
「彼女、フィリスは横っちと同じ人間で中世の頃に存在した天才的な魔女やったんや。 最もその後始まった魔女狩りによって行き場を失って仕方なく魔女の秘術を使って魔界にやって来て住み着いたんや。 そして魔界に住み着いた彼女は延命術を自分に施し様々な研究を長年に亘って行い、その結果ありとあらゆる魔法、魔術、精霊術、召喚術を身に付けた女性なんや。 横っちには彼女からその知識を授けて貰うんや」
「はあっ、でもどうやって授けて貰うんです?まさか一から覚えろなんて言うんじゃ」
サっちゃんに方法を尋ねる横島にフィリスが答えて来た。
「簡単よ、唯私の知識を貴方の魂に刻むだけだから直ぐ終わるわ」
そう言ってフィリスは自らの掌を横島の額に合わせて呪文を唱え始めた。
「我が知識この者の魂に刻み込まん・・・・・・・」
呪文が唱え終わった瞬間横島は頭に膨大な知識が流れ込むのを感じて意識を失った。 暫らくして倒れていた横島は自分の様子を診ているフィリスに気付き頭痛のする頭を抑えながら立ち上がった。
「大丈夫か?」
「つっ、ええっ何とか、これで終わりっすか?」
「取り敢えずはな、後は自分で得た知識を物にする事だ」
「つまり全部自分で覚えろと言う事すか」
「そう言う事だ」
横島の問いに簡潔に答えるフィリス。
「まっ、後でお前を補佐する奴を送るから後はそいつに聞けば良い。 さて私はそろそろ帰る事にしよう、早く戻って研究の続きをしたいのでな」
そう言ってフィリスはサっちゃんに向って一度頭を下げた後、来た時と同じ様に姿を消した。 そして横島にキーやんが話し掛ける。
「これで横っちは力と知識を手に入れました。最後に結晶のエネルギーに耐えられる身体を作り、様々な戦闘技術を身に付けて貰う為にそこに居る老師に弟子入りして貰います」
猿神を眼で促しながら話すキーやん。 そして促された猿神が横島に話し掛ける。
「横島よ、ワシが御主に教えるのは仙術や道術、そしてありとあらゆる武術を御主に教える。よって今日からワシの事は師匠と呼ぶんじゃ」
「?!判りました師匠」
猿神の言葉を聞き一瞬呆けた横島だが直ぐにその意味を理解して返事をした。
「そして最後に黄龍から話があります」
キーやんの言葉に黄龍が横島に話し掛ける。
「横島よ武術等に関しては老師が教えるが武器を使った武器術等や陰陽術、錬金術や風水術と言った物は御主の身体に宿した我等の分体が教えてくれるだろう。諦める事無く修練を積むが良い、我等の言う事はそれだけだ。でわさらばだ」
そう言って黄龍達は姿を消した。 そしてキーやんとサっちゃんが話し掛けて来る。
「さてとっ、取り敢えずこれでやる事と話は終わりや、後は横っちが頑張って強くなり結晶のエネルギーを自分の力に変えるだけや」
「そうですね、其れが終わり次第横っちに人間界の管理者としての役割を与えますので頑張って下さい。 それから修行等に関する事は老師達に任せてありますのでその事は彼等に聞いて下さい。 これで伝える事は以上です」
「ほなっ、横っち達を妙神山に戻すから後は頑張りや・・・特に横っちはルシオラの為にもな」
「?!其れはどう言う『シュンッ』」
二人の激励を聞いていた横島はサっちゃんの最後の言葉を聴いて聞こうとしたが途中でその空間から姿を消した。
「話しませんでしたね?話しても良かったんじゃありませんか?」
「そうかもしれへんな、でも今話すより後で話した方がええのも確かやろ」
「まあっ、そうですが」
「横っちなら心配いらん直ぐにでも強くなってくれる筈やきっとな」
「・・・・・・そうですね、そう信じましょう」
「早々信じる者は救われるってな」
「・・・似合いませんよ」
「ほっとけ」

第七話 終


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