椎名作品二次創作小説投稿広場


WORLD〜ワールド〜

第一話 突然の訪問者


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 6/30

 神界のある場所で座り込む男が一人。長い黒髪を持ち、美しい顔立ちをしている。

 男の名は、パレンツ。

 そこら辺にいるどうということはない神族の一人。「力」を隠すことで周りにそう認識されている存在。静かに座り込む彼の前には大きなモニターがあった。

 そのモニターに映っているのは赤いバンダナをした黒髪の少年。文珠と呼ばれる稀有な能力を用い、人間でありながら魔界屈指の力を持つ魔神の反乱を収めた存在。モニターにはその反乱の全経緯が映し出されていた。


「さて…厄介なことになった……」


 魔神の持ち出した「究極の魔体」。それが絶叫を上げて崩れ落ちたところで映像は終わった。映像が途切れると同時にパレンツはため息をつく。


「今までも様々なイレギュラーが存在したが…今回は見逃せないな」


 パレンツが立ち上がると同時にモニターは消え、周りの景色が変貌する。どうやら擬似的な空間をつくっていたようだ。通常空間に復帰したパレンツは人間界と神界をつなぐ門へと向かった。大した距離ではない。10分もしないうちにパレンツは門の前へとたどり着いた。


「この世に『創始者』は二人いらないのだよ……横島忠夫」


 そしてパレンツは人間界へと消えた。










 その頃、人間界では――――


「のわぁーーーー!! と、止まれーーーー!!!」

「わんわん♪ 久しぶりのサンポでござる♪ 今日はトコトンいくでござるよ!」


 人間ではありえない速度で疾走し、時速60kmで疾駆する自動車を軽く追い越し、なおもスピードを上げる少女。その少女に縄をくくり付け、その縄を自転車に結んでいるがために己の意思とは無関係に引っ張られてしまっている赤いバンダナの少年。

 人狼、シロ。

 人間、横島忠夫。

 普通に考えればかなり危ないプレイをしているとしか思えない格好なのに、なんの違和感もなく見られるのはやはりこの二人(一人と一匹?)ゆえか。


「んがぁーー!! と・ま・れ〜〜!!!」


 横島の渾身の叫びにようやく反応し、即座に動きを止めるシロ。止まれと叫んだ横島も、そこまでの急制動をされるとは思っていなかったのか慌ててブレーキを握力フル稼働で握りこむ。しかしこの世には慣性の法則というものがあるわけで……


「んぼぁッ!!」


 急制動した自転車から投げ出され、横島は近くにあったゴミ捨て場へダイブしてしまった。むくりと起き上がった頭にはきれいにみかんの皮が乗っている。ここまでお約束を体現できる男もそうはいない。


「シ・ロぉぉお……!」

「な、なんでござるか!? 拙者はなにもしてないでござる! 先生のお言葉に従っただけでござるよぉっ!」


 憤怒の表情でにじり寄る横島に怯え、ひゃいんっ! と頭を抱えしゃがみ込むシロ。確かにシロの言っている事も間違ってはいない。シロとしては横島の命令に素直に従っただけである。


(確かにそうなんだが……)


 シロの言い分に一応間違いはないのと、シロが肩を震わせてあまりに怯えていたので、横島の怒りは大分静まっていった。


「せっしゃ…また失敗したんでござるか……? もうせっしゃのことなど嫌いになってしまったでござるか……?」


 涙目で人差し指をくわえながら上目遣いで横島を見つめるシロ。ついでに尻尾はこの上ないほどうなだれ、ク〜ンと甘い声を漏らしている。横島は自分の鼓動が高まっているのを感じた。


(カ、カワイイじゃねぇかちくしょ〜! ハッ!? 違う!! 俺はロリータ・コンプレックスなんかじゃないぞぉーーー!!?)


 わざと略さず言うことで横島は己を冷静にさせる効果を高めようと試みた。それが功を奏したのか幾分鼓動は落ち着き、自然にシロに声をかけることができた。


「ばっか、俺がそんなことでお前を嫌いになるわけねえだろ? ただ…今日は美神さんがみんなで飯食いに行くから早く帰ってこいって言ってただろ。それを忘れてんじゃねえかって思っただけさ」

「そういえば…拙者、忘れてたでござる。それじゃ先生、拙者のこと嫌いになったりしてないんでござるね?」

「ふぅ…当たり前だろ……」
「せんせぇ〜〜〜!!!」


 横島が言い終わると同時にシロが飛びかかり、顔を舐めまわす。


「だあーーやめぃ! そんなわけだから今日はもう帰るぞ…舐めるのをやめんか!!」

「はぁーいでござる!」


 さっきとはうって変わって尻尾をパタパタと振り回すシロ。そんなシロを見て横島は苦笑を浮かべながら、二人は家路へとついた。







 日もとっぷりと暮れて大きな月が顔をだしている。あまり人通りのない裏通りを美神令子除霊事務所に所属する5人が歩いていた。街灯は少なかったが、月明かりのおかげで視界ははっきりとしている。

 美神たちは三日前から昨日にかけて少々大掛かりな除霊を行っていた。かなりの危険度をともなったものであり、報酬もそれ相応に高かった。だが、実際の仕事は予想されていた危険度を大きく上回っており、途中、何度も絶体絶命という状況を迎えた。いつもの美神、おキヌ、横島の三人だけだったら切り抜けるのは難しかっただろう。しかしシロとタマモという新戦力のおかげで無事切り抜けることができた。

 そして報酬の引き上げにも成功し、上機嫌だった美神は、皆で祝いに食事でも行こうと言い出したのだ。

 そして今、美神、おキヌ、シロ、タマモ、横島の5人で食事を終え、帰宅している途中なのである。


「それにしても美神さん、全員分おごってくれるなんてびっくりしましたよ。どうしたんすか? 熱でもあるんすか?」


 横島が素直に疑問に思ったことを口にする。実は横島、「あんたは自腹よ」と言われるのを覚悟して、お金は多めに持ってきていたのである。しかし予想に反して美神はなにも言ってこなかった。


「アンタね……私のことなんだと思ってるのよ」


 美神としては先の除霊で奮闘してくれた横島への精一杯のお礼のつもりだったのだ。不器用な彼女なりの。しかし、それをここまでスルーして、こんな失礼なことをぬかしてくるとは……


(ま、今までの扱いがひどかったからね。……自業自得か)


 美神はため息をついた。アシュタロスとの戦い以降、わりと素直になってきている自分を彼女は自覚している。両親のなれそめを唐巣神父に聞いてからかもしれない。とにかく美神は自分の気持ちをごまかすことはやめていた。


「それにしてもおいしかったですね」

「拙者、あんないいお肉を食べたのは初めてでござる!」

「まあ…悪くはなかったわね」


 おキヌ、シロ、タマモの三人が食事の感想をもらす。おキヌとシロは心底満足そうに、タマモもクールなことを言いながらも顔は微笑んでいた。今日美神がみんなを連れて行ったのは、いわゆる一流どころであった。ただのステーキが五桁にのぼるような店である。もちろん美神の選択だけあって味は格別、値段相応に楽しめる。ただそんな店にGジャン、Gパンで飯にがっつく男と、Tシャツに片足を大きく露出させたGパンで尻尾を振り回しながら男に負けじとがっつく少女がいるテーブルはいささか異様だったが。


「あんたら…何度言ってもがっつくのやめないんだから。恥ずかしかったわよまったく」


 美神がため息まじりに二人に微笑みかける。横島とシロは「いやぁ〜」と言いながら頭を掻いていた。

 それはいつもよりちょっぴり幸せなひととき。

 いつまでも続けばいいと、そこにいる皆が思っていた。




 そして突然の轟音、衝撃。

 吹き飛ばされたおキヌを横島が抱え上げ、美神、シロ、タマモはさすがの運動神経で一度は吹き飛ばされたもののすぐに体勢をととのえた。5人は突如現れた衝撃の元へと目をむける。

 そこには一人の男がいた。長い黒髪をもち、とても美しい顔立ちをしている。だがその冷たい眼差しは5人に底知れぬ恐怖を与えた。


「さて…初めまして。私の名はパレンツ」


 男は鷹揚に口を開く。


「早速ですまないが…横島忠夫。君には死んでもらおう。ほかの者には用はない。死にたくなければ消えたまえ」

「いきなり何言ってんの? アンタ」


 皆を代表して美神が言う。予想していなかったことではない。アシュタロスを倒した者として横島は神、魔界両方に顔が売れてしまっている。功名心に駆られた輩が横島の命を狙ってくるのは十分予測できていた。まさか神族が狙ってくるとは思わなかったが。


「言っておくけど今横島クンを殺せばアンタも死ぬわよ。横島クンは神界、魔界両方の最高指導者に保護されているんだから」

「最高指導者…? あぁ…彼らか。だからどうした?」

「なっ!?」

「彼らは私にとって脅威とはなりえない。彼らはイレギュラーではないからね」


 パレンツはまったく動じた様子を見せない。さすがに美神はあせりを覚えた。


「美神さん、おキヌちゃん、シロ、タマモ」


 突然横島に声をかけられ4人は横島を振り向く。


「どうやらあいつはどうあっても俺を殺しにくるみたいだ。みんなは逃げてくれ。みんなを巻き込む訳には…」
「「「「何言って(んのよ!!)(るんですか!!)(るでござる!!)(るの!?)」」」」


 4人の声が見事にハモッた。語尾さえそろえば美しく聞こえたに違いない。

 そう、彼女たちの中に横島を見捨てて逃げ出すような者はいない。彼女たちにとって、横島忠夫は大切なヒトなのだから。


「みんな……」

「美しいね…残念だ。私は横島忠夫だけは殺さねばならない。…邪魔するのならば、容赦はしない」


 パレンツの右手にどこに隠し持っていたのか黒色の剣が現れた。


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