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彼の者纏いしは・・・混沌 

第4話 六道の夏!! 終幕


投稿者名:ATO
投稿日時:04/ 6/29

(いける!!)



 美神令子は勝利を確信した。

 煙幕弾で敵の視界を封じ、敵が次弾を認識しづらい状況にする。

 そして矢と見せかけ呪縛ロープで相手の動きを封じる。

 もちろんロープは特別な楔で砂浜に固定してある。

 お膳立ては整った。

 後は・・・。





「もらったぁ!」





 巨大な武者の首を斬り飛ばすだけ。





「はあっ、はあっ、はあっ・・・ふぅ、これでもう小娘だなんて言えないでしょ・・・」

 満面の笑みを浮かべる、その瞬間。

『ソウダナ』





 声。





「な!?きゃ!」

 それと共に横殴りの衝撃。

 とっさに神通棍で受け止めたが、衝撃と霊波は受けきれなかった。

 人形のように吹き飛ばされ砂浜を転がる。

「・・・くっ!」

『ナカナカイイ攻撃ダッタガ、ツメガ甘カッタナ。

我ノ首ハ元々落チテオッタヨ』

 骸羅が己の首を拾い、あるべき場所へ乗せる。

『小娘ナドトイッテ悪カッタ。ソナタハ立派ナ戦士ダ。

・・・ナレバコソ、我ノ手デ引導ヲ渡シテヤロウ』

 骸羅がその大剣を振り上げる。

 

(体がっ・・・動か・・・ない!)



『サラバダ。ソナタガ我ト同ジ身トナッタナラ、モウ一度死合イタイモノダ』

 必死に体を動かそうとするが、体は主の意思を聞かなかった。



(こんな!・・・こんなとこで終わるの!?)



 そいつを射抜けと、骸羅を睨みつける。

「私はこんなとこで死ねない!アンタと同じ身になるのは、あと100年たって黄金の宮殿の中で、札束でできた布団の上でって決めてんのよ!!」

 その叫びは辺りに響く。

 だが無慈悲に・・・断頭の刃は・・・振り下ろされた。

(助けて・・・・・・・・・ママ)



















 令子は、覚悟していた物がいつまでもやってこないことに気付き顔を上げた。 

 そこには・・・。

「残念だけど、この子がお前と同じになるのはもっと後だよ」

「あ・・・あ・・・」

 黒衣を纏う男がいた、彼女が最後に心の中で呟いた母ではなく。 

『邪魔立テスルカ!!』

「将来有望な美少女を誰がむざむざと殺させるかよ!!」





チュイン!ドゴゥ!!





『ガッ!』



 大剣を霊波刀ではじき、開いた胴に廻し蹴り。

 霊力を乗せた一撃は、巨体を閃光と轟音と共に弾き飛ばした。

「大丈夫、令子ちゃん?」

 蛍人はうつむいたままの少女の顔を覗き込む。

「・・・い・・・よ」

「え?何?」

「遅いって言ってんのよ!!」

「!?」

「いるんならもっと早く助けに来なさいよ!嫁入り前の肌に傷が残ったらどう責任とってくれるのよ!?」

「い、いや令子ちゃんが自分が相手をするって言ってたし。か、勝てるんじゃないかなぁって・・・」

「うるさい!黙れ!!とにかくアンタが悪いの!!」

「で、でも・・・「わかったの!?わからないの!?」

「は、はい、わかりました、スイマセン(泣)」



 彼の体に染み付いた丁稚根性は、よく知っているはずの、だが知らない少女の言うことに逆らえない。



「それで、えっと・・・とにかく医療班に治療してもらいに行かないと・・・立てる?」

 首を横に振る。

「そっかぁ、じゃあ来てもらお「オンブ」

「え?ゴメン、よく聞こえなかったんだけど・・・」

「さっきので動けなくなったから背負えって言ってんのよ!このバカ!!」

 顔を朱に染めて叫ぶ。

「あ?え・・・えと・・・」

「いいからさっさと背中貸せ!!」

「あ、うん。わかったよ、オーケー、それでいこう」

 本当に動けないのかと思うほどの剣幕だ。

「よいしょ・・・っと」

 少女を背に乗せる。

 令子は、彼女が少女であることを思い知らせるかのように軽かった。

「え・・・っと・・・あの・・・」

「ん?どうしたの?」

「お・・・重くない?」

 令子が幾分赤みがとれた顔で尋ねてくる。 

「いや、全然」

「そ、そう?」

 言うと、そのまま黙りこんだ。

「これで二度目・・・ね」

「え、なに?」

「・・・なんでもない」

「そう?」

 またしばらく沈黙が続く。

「・・・・・・あ、あの・・・さっきは・・・あり「令子ちゃ〜〜ん!」

「あ、冥子ちゃんだ。ちょうどいい、冥子ちゃんに治療してもらおう」

「・・・・・・・・・うん」

 不機嫌そうな返事が返ってきた。



お、俺何かしたかなぁ・・・?(汗)



「あ〜〜!令子ちゃん、蛍人さんにオンブしてもらってる〜〜!ずるい〜〜」

 その言葉に、令子の顔が再び赤に染まる。

「ち、違うわよ!!立てないって言ったら、こいつが心配だからどうしてもって・・・」

「そんなこと言っ「あんたは黙ってなさい」・・・はい」

「い〜〜な〜〜」

「あ、あんたも後でしてもらえばいいでしょ!?」

「え?あ〜〜うん〜〜。蛍人さ〜〜ん、わたしも後でオンブしてね〜〜?」

「え?」

「わたしも〜〜」

 うるうるした目で俺を見つめる冥子ちゃん。



ぐはっ!冥子ちゃん、ぱぴぃずあい(仔犬の瞳)攻撃は卑怯だぞ!



「わ、わかった。後で冥子ちゃんもオンブしてあげるから・・・」

「ほんと〜〜?わ〜〜い!」

「で、でさ・・・令子ちゃん怪我してるから治療してあげて」

「わかったわ〜〜」

 冥子ちゃんがショウトラを出して令子ちゃんを治療し始める。

 それを見て、俺は振り向いた。

「わりぃな、待たせちまったみたいで」

『構ワン、大シタコトハナイ』

 そこには、悠然と佇む骸羅がいた。

「それにしても、待っててくれるなんて思わなかったぜ」

『我ハソコラノ無粋ナ輩トハ違ウ。強キ者ニハ敬意ヲ払ウ』

「そっか、いいヤツだな。ついでに、ここらで退散してくれるとなお嬉しいんだが」

『ソレハ無理ナ相談ダ』

「だろうな。

 ・・・それじゃ、始めるか」
 
 蛍人の手に霊波刀が現れる。

 骸羅も大剣を構えた。

『コノ者達ヲ率イテイタノハ貴様カ?』

 骸羅が問う。

「俺だけじゃないけど、そうだ」

 蛍人は短く答えた。

『見事ナ用兵ダッタ』

「・・・ありがとよ」

『デハ・・・ユクゾ!!』

「来い!!」

 大上段に振り上げられた巨大な剣が降ってくる。



ガキィン!

 

 凄まじい速さで落ちてきたそれを霊波刀で受け止める。

「くっ」

『ホウ・・・。用兵モ見事ダッタガ、剣ノホウモナカナカダナ』

 骸羅はそのまま巨体でのしかかるように力をかけてゆく。



チンッ、ゴリュッ!



 それを受け流して開いた腹を薙いだ。

 しかし、伝わってきたのは鉄板を擦ったような異様な手ごたえ。

 

・・・おかしい。



 本来の出力を出せないとはいえ、下級であれば魔族でさえも楽に切り裂けるほどの力を込めている。

 それがなぜか、いくら霊圧が高いといってもただの悪霊を斬れずにいる。

「ただの悪霊じゃないってことかよ!」



ガッ!!



 もう一度斬りつけるも、やはり硬い手ごたえしか返ってこない。

『フン!!』

「なっ!」



ドゴゥ!!



 攻撃をものともしない骸羅に一瞬動きを止めた瞬間、大剣が横薙ぎに振るわれる。

 蛍人は宙を舞った。

「「蛍人(さん)!!」」

 治療をしていた、そしてそれを受けていた二人の少女が叫んだ。



なんでだ?なんであんなに硬い?



 誰にも気づかれないよいうに文珠『調』を発動。

『早ク起キヨ。コノ程度デ動ケナクナルハズガナカロウ』

「まあ待てよ。こっちはもう4時間以上戦ってるんだ。ちょっとくらい休憩してもいいだろ?」

『・・・ヌシハモウ少シ骨ノアル奴ダト思ッテオッタノダガナ』

 軽口を叩いて時間を稼ぐ。



霊力中枢に魔力の塊?

ルシオラ達がやってたのと同じってことか・・・。この出力ってことはかなりの実力者だな。

・・・でも。

ルシオラ達には遠く及ばない。



「しゃーねーなー。お前の期待に応えてやるよ」

 ゆっくりと起き上がる。

『ウム、ソレデコソ男トイウモノヨ』

「じゃあ・・・いくぜ?」

 手に平の中で、文殊『速』を発動する。

 文字通り、目にも止まらぬ速さで動く。

『トラエラレヌホドデモナイワ!!』

 骸羅は懐に入った俺に、剣では間に合わないと思ったのか鋭いショートフックを見舞ってくる。



おいおい、人外だからってなんでわかるんだよ?



 しかし、こんな時の事を考えないはずもない。

「サイキック猫だまし!!」



カッ!!!!



『ガァ!!』



 霊波刀を収束させる。

 細く。

 細く。

 ただ貫くために!



バシュ!!



「これで!!」

 両者とも動きが止まった。

 小さな突撃槍のようになった霊波刀が、骸羅の胸のあたりから背中へと生えていた。
 
『グッ!ガァァァ!!』

 巨体が崩れ落ちる。

 骸羅の霊体内にある、魔力の結晶が砕け散るのを感じた。

「ふぅ・・・」

『ミ、見事ダ・・・』

 先ほどまで感じられた圧迫感が消え去っている。

「あんたに力を与えた魔族は誰だ?」

 倒れ付した骸羅を睨みつける。

『ナ、ナンノコトダ?』

「とぼけるな。

 あの出力の結晶を作るには、かなりの魔力と技量が必要だ。

 そんな真似ができる奴の名前が、知られていないはずがない」

『フ、全テオ見通シトイウコトカ。

 ・・・イイダロウ。

 我ニコノ力ヲ与エタ者ハ「あんまりペラペラとしゃべられちゃ困るねぇ」

「なっ!?」

 骸羅が核心を語ろうとしたその時、どこからともなく声が聞こえた。

「!?ヤバイ!!」

 巨大な魔力の高まりを感じ、飛び退った瞬間。



ドゴォォォォォォォォォォォ!!!!!



 先ほどまで蛍人がいた場所が爆炎に包まれた。

「どこだ!!どこにいる!?」

 周囲を見渡すが、姿は見えない。

「まだ動いていることを広められるわけにもいかないんでね」

 その声だけを残し、気配は感じられなくなった。

「くそっ!!」

 敵の攻撃によってクレーターと化した場所を見つめる。

 そこには、骸羅がいたと分かる霊波の残滓がほんの僅かに感じられた。

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 その後、残った連中を掃討し、臨海実習は終わりを告げた。

 令子ちゃんはあの後担任にこっぴどく叱られた。

 令子ちゃんに言わせれば。

「なによ!あたしのどこが悪いって言うのよ!

 もう少しで倒せてたのに!」

 だ、そうだが。

「す〜〜す〜〜」

 今は帰りのバスの中。

 仕事も終わったのでまったりしながら帰ろうと思っていたのだが・・・。

「ん・・・ん〜〜・・・蛍人さ〜〜ん」

 令子ちゃんにおんぶしたのだから自分はだっこだ、というワケの分からない理屈でバスの最後尾の席を占領して俺の膝の上に乗った冥子ちゃん。



周囲の目が痛いのですけれど・・・(汗)

しかも自分だけ寝てるし(涙)



 でも・・・冥子ちゃんの子供のような寝顔を見ていると、まあいっか、という気持ちになってくる。

 さっきまで俺を鬼のように・・・いや、鬼の目で睨みつけていた令子ちゃんも口では大したことないと言っていたが、やはり疲れていたのだろう、俺の肩に寄りかかってかわいい寝息を立てている。





守りたい。




 それだけを思った。 

 あの声が誰であろうとも、これから先にどんな困難や敵が待ち受けていようとも。

 俺はそのために今、ここにいるのだから。





「いい夢を」


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