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初恋…?

そのご。(回想そのさん。)


投稿者名:hazuki
投稿日時:04/ 6/28

「………」

横島は無意識のうちに、自分の心臓を服の上から右手で抑えていた。



ばくんっ

心臓の音が耳元で聞こえているかのように、うるさい。


(………一体なんや)

何故だかわからないが、夏子の姿をみれなくなり、ふいと視線を逸らす。


「横島?」

逸らされた視線に、不思議そうに首を傾げ夏子。

夏子の声を聞いた途端、どくどくと心臓の音がまたうるさくなったように聞こえる。

それでも夏子の声が自分を呼んだと理解した瞬間、横島の体が勝手にそちらを向く。

またあの綺麗な笑顔でいるのだろうか?

さらに煩くなる心臓の音を自覚しながら、夏子のほうを見てみると──


「あれ?」


と、横島思わず瞬きをする。

だって、そこにいる夏子はいつもの夏子で。

もちろん先ほどとどう違うのかと聞かれれば、答えられないのだが。



「あれってなんや?」

頬を膨らませ言うその姿は、いつも一緒にいる友達の姿で横島は理由も無く安心した。

心臓もいつの間にか元に戻っている。



「いいや、なんでもあらへん………そうやっ加賀のほうが俺より変やっ!」



だって俺に用事あるいうて、なんも言っていかへんしっ!

わたわたわたと、両手をせわしく動かしながら横島。

よっぽど先ほどの自分のほうが、変だという自覚があるのだろう


「………あんなあ」

げんなりと銀一。


その言葉に肩を落として数歩先を歩いていた、加賀由美の体がぴくりと揺れる。


「変っていうなあっ!!」



くりっと再び踵を返して、我知らず言っていた。

確かに横島だけには言われたくない台詞であろう。

夏子と銀一は心の中で何度も頷く。


「なんでや?」



これまた、知らぬは本人ばかりというかやる気をねこそぎ奪われる言葉である。



「………いや、アンタに遠まわしな言い方をしたうちがダメなんやだろうけど……」


眩暈すらおぼえ、加賀由美。


『うちのことどう思う?』と聞いて、遠まわしと思わないといけない加賀由美も哀れである。



「まあなあ…よこっち鈍いもんなぁ」

加賀由美の言葉に同情するかのように、銀一は同意する。


「………まあそれは……」

夏子も否定できないらしい。

というか大いに賛成できるところでもある。



「お前らなぁ、何いってるんや」


言ってる事がわからへんど?

これでわからないのが、横島の横島たる所以なのだが。

それにしても、である。

乙女(?)の気持ちを無意識にとはいえここまで踏みつけにされて、変呼ばわりされ加賀由美はきっと横島に挑むような目線で問い掛ける。




「じゃあ聞くけどっ!」

口調がけんか腰になるのも仕方が無い。


「なんや?」

そんなことを露とも知らない横島は、先ほどまでと違う勢いの良さに内心後ずさりながら答える。



「ゆうねえって誰!」

横島ゆうねえがって学校でよく話してるんやけどっ




「ははあ、そうきたか」

顎に手をあて銀一が言う。



「ゆうねえは、ゆうねえや」

先ほどの加賀由美の答えと一緒である。

横島が一言で言い切ると、加賀由美は違うと言いたげに激しく首を振る。


「だからっ横島はそのゆうねえって人のことすきなん?」


かすかに語尾に震えを残し加賀由美。


その震えに夏子はきゅうっと胸が締め付けられるのを感じた。

それはずっと夏子も聞きたかったことなのだ。

きっと加賀由美は精一杯の勇気をふりしぼって(たとえけんか腰であろうが)いってるに違いない。


が、そんな加賀由美や夏子の葛藤ををしらずに横島はにこおっとそれこそ無邪気な笑顔で



「当たり前やろっ!世界で一番すきにきまってる」



と宣言するかのように答えた。



瞬間、ざあっと夏子と加賀由美の顔から血の気が引く。

まさか横島の口からこんなふうに、はっきりとした答えがかえってくるとは思わなかったのだろう。

無防備なところに会心の一撃をくらったようなものだ。

銀一は、何故か笑いを堪えるかのように身体を二つ折りにして口を右手で抑えている。


(…か、かんちがいトリオやっ)


銀一は、横島の『ゆうねえ』に対する感情が親愛の、家族にたいするような感情であることを知っている。

しかもこの前、横島は、これからゆうこさんのことを好きと言うときには『世界で一番』をつけるように教育されたことを夏子と自分にいっていていたではないか。

と、いうか夏子も聞いたのに。


第一この横島が、ゆうこさんに対してぼうっと真っ赤になって見惚れてるなんて想像するだにおかしすぎる。



元来フェミニストの銀一は、ひーっとかすれた笑い声のようなものを出しながら、蒼白な二人の誤解を解くべく言葉を紡ぎ始めようとした時。



時が止まったように動かない二人に横島も流石に心配になったのだろう。


「なんや二人とも顔色わるいで?」

とすこしばかり心配そうな声音を滲ませ二人に声をかける。


おかしさのあまりに痙攣しそうになる腹筋を引き締め、銀一は必要以上に真面目な表情をつくり横島に向き直った。

ぽんっと横島の肩をたたき


「大丈夫、よこっちが俺の質問に答えれば二人の顔色もよくなるって」


と、爽やかに言い切った。


「なんでや?」

まあ、鈍感大魔王の横島はもっともな疑問である。


「なんででもや」


妙に自信に満ちた言葉で銀一。

こんな風に銀一がいいきった場合大抵は正しいと知っている横島は首を傾げつつも


「なんの質問や?」

と言った。

「横島はゆうこ姉ちゃんすきやよな。」


「うん」

きっぱりと横島。

一瞬の迷いも無い。

なにやら夏子と加賀由美の顔色を更に白くしそうな台詞であるが、銀一は更に言葉を続ける。



「どんなとこがすきや?」


銀一の言葉に横島はぱっと表情を明るくしつらつらと話し始めた。


「どんなとこって、まあずっといっしょにおったし、ほんまの姉ちゃんみたいやしっ!まあなあ……夏子のほんまのねえちゃんやのに、俺がねえちゃんって呼ぶのも嫌やろうけどなぁ」


「…………」

むうっと一瞬口をとがらせ夏子。

確かにそれもあるのだ。

夏子は別の意味で「ゆうねえ」が大好きなのである。

どちらも別の意味で『一番』好きというやっかいの感情のために、どっちにも嫉妬しているという自体を巻き起こしていたりするのだ。



「じゃあ横っちはゆうこ姉ちゃんとなにはなすんや?」




「ああっミニ四駆のこととか、女の人の口説きかたについてとかやな」



面白そうに横島。









「えええええぇぇぇ!?」

(三人一斉の声である)










「そんなに変かぁ?」

ゆうねえミニ四駆の知識とかすげえぞっ!

目をきらきらとさせて言うその台詞に、ゆうねえとの時間は本当に楽しいであろうことを容易に想像さえる。



「………いやちがうねん、多分みんな驚いているのは女の口説きかたっていうか………」


いまだ声に驚きを響かせ銀一。




「ああっ!女の人は押しの一手に弱いから、狙った女の人は押して押して押して押し倒せって!」




そんな強引な台詞を、子供らしい無邪気な笑顔で横島は言う。

ほんの欠片の疑問すらないのは、きっとゆうねえに対する信頼がうかがえる。





「ゆうこさんって………」

そんな人だったのか…?と呟くように銀一。



「ゆうねえ……」

そっと右手で額を抑え頭痛を覚えたように夏子。



「………」

ただだまってため息をついてしまう加賀由美。




にこにこと笑う横島に、銀一はすこしだけ笑い言う。


「横島は、ほんまゆうこさん好きやねんな」



「ああ!俺、ゆうねえに将来いい男になるって言ってもらったんだ。そんなことを言ってくれるのはゆうねえだけなんや。」


心底嬉しそうに横島に笑った。





つづく


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