その闘いは、熾烈を極めた。
互いの知力と気力を振り絞り、身が裂けるほどはりつめる。
一瞬ごとに己の全てを賭け、神経を研ぎ澄ます。
始まってからわずかな時間なれど、疲れ果て消耗しきっている二人。
だが、止まらない─。
「…くッ…ハァアッ!!」
「がァッ…!! ま、まだまだァッ!!」
攻撃をかわされながらも諦めず、手首の動きだけで神通鞭を操って追撃をかける美神。
その軌道は、いくら軌道を変えやすいムチであっても、無茶としか言いようのない不規則な変化。
だが、それゆえに横島はその追撃をかわしきれず、壁に叩きつけられる。
肺の奥から息を吐き出しながら、それでも立ち上がってきたあたり、さすがとしか言いようがない。
「ハァ…ハァ…! い、いい加減しぶといわね!」
「それだけが売りなもんで…! ハァ…ハァ…!!」
始まってからわずか10分足らず。
にも関わらず、この二人の消耗振りをみれば、それがどれほど苛烈な時間だったかがうかがえよう。
美神の右手には神通鞭。そして左手には呪縛ロープが握られている。
最初のうちこそロープで捕らえようとしていたが、次第に神通鞭で大人しくさせようという考えに変わったらしい。
そして、この場合はそれが正しい。
横島の運動能力ははっきり言って異常だ。
特に逃げ足や、回避行動にいたってはもはや人類の規格水準を遥かに上回る。
狩猟において、こういう手合いは手傷を負わせ、体力を消耗させてから捕らえるのが常識なのだ。
そして現在。
美神の作戦は功をなし、明らかに横島の動きは鈍っていた。
だが─。
「このッ…いい加減、観念して捕まったらどうなのよ!?」
「い、嫌です!!」
美神が投げたロープはことごとくかわされ、神通鞭で捕獲することもままならない。
美神自身とて、この10分間の攻防で消耗しきっているのだ。
「捕まれったら!!」
「嫌だって言っとるだろーが!!」
投げる、かわす。
投げる、かわす。
投げる、かわす。
……………。
◆
『……見えるようになったのはいいけど。』
「動きがなくてつまりませんねぇ。」
この10分間、ずっと攻防をモニターしていたロキと魔鈴は、そうぼやいた。
「お二人の闘い自体は楽しめるんですが…。」
『何か動きが欲しいよね。』
「いっそのこと皆さんを集めるとか。」
『おっ! それじゃ、呼び出してみるかい?』
勝手なことをぬかしはじめた二人に、人工幽霊壱号の呟きは届いたのだろうか。
《お二人とも…私たちは中立の立場なのでは…?》
◆
横島は逃げ続けていた。
それはもう、見事としか言いようのないほど。
次から次へと繰り出される美神の攻撃をかわしながら、次なる逃げ道を探していた。
文珠の効果もあとわずか─。
そうすれば、すぐにでもこの部屋から飛び出して逃げる!
「くぅッ…なんでよッ! なんで捕まんないの!? なんで…ッ!!」
ふいに美神の攻撃が止む。
これぞチャンス! とばかりに横島はその場を離れようとして………。
だが、見てしまった─。
「……捕まってよぉ…!」
つぅっと流れる、美神の頬を濡らすもの。
ひっくと、しゃくりあげるとともに、それが落ちて弾ける。
「…捕まってってばぁ…ッ! 私じゃッ、もぅッ…捕まえらんないのぉ…!?」
「み…美神さん…?」
心臓を止められた─。
横島はそんな錯覚を…いや、錯覚かどうか。
まったく予想の範疇になかったその光景に、横島は凍りついたように動かなくなる。
─…美神が泣いている…。
「そん…ッ、何でよぉ…ッ!」
まるで子供のように泣きじゃくる姿に、横島の心がざわつく。
表情も動きも全てが凍りついたまま、ただ心だけが。
「横島くん…が、強くなったから…? 強ッ、くなったから…離れるのぉ…ッ? そッ…やだ…やだよぉ…ッ!!」
ざわつきは、もはや張り裂けそうな衝動に変わる。
何かを言おうとするように、だが言葉は出てこず横島は口を動かすだけ。
「アンタに…いて欲し…ッ! 傍にッ、いてよぉ…ダメだよ…ッ! アンタじゃなきゃ、イヤぁ…ダメなのぉッ…!」
何だ? 俺は何を言われている? ……なぜ、こんなことに?
美神さんが泣いている…俺のせいで?
俺ノセイデ…?
違う─。
いや、違わない─……。
どっちでもいいだろう、そんなことッ!!
「横島…くんにッ、傍にいて…欲しッ、からぁ…私は…ッ、だからぁッ…!」
大粒の涙をこぼし続ける美神に、ゆっくりと横島は歩み寄る。
ぎこちなく、引き寄せられるように。
ぎこちなく、何かを引きちぎるように。
頭は混乱したままだが、それでも一つだけ。
たった一つだけ、はっきりとわかっていること。
この時、自分が彼女に言わねばならないこと。
横島の手が、そっと美神の肩に触れる。
「─…泣かないで下さい。」
「ぇ…?」
顔をあげる美神。
その涙に濡れた表情に、横島の胸がまたざわつく。
何かを悩んでたんですか─?
何かに傷ついていたんですか─?
何かが不安だったんですか─?
それでも─。
「俺は…美神さんに泣いて欲しくないんです。…美神さんにだけは。」
見たくない…違う、流させたくない。
この人にだけは、涙を流させたくはないんだ。
だから、見ないように…見ることの無いようにする。
だから─。
「…泣かないでください。 俺は…いなくなったりしませんから…。」
「いなく…ならない…?」
「…はい。だから、泣かないでください…。」
「…………。」
そっと顔を伏せ、とさっと横島の胸に体を預ける美神。
横島は、染み渡るような暖かさを込めて抱きしめ─。
─シュル、ギュッ。
…………………………はい?
「は…えぇ!? 呪縛ロープ!? ─って美神さん!?」
「…捕まえた。」
ぐしっと、涙を拭きながら美神は宣言する。
………ハメラレタ?
「じゃ、ルール通りに勝利者台に行くわよ…。」
「ちょっ、待っ…ええぇぇ!?」
逃げなくては。
もう、何がなにやらわからない横島だったが、とにかく現状でやるべきはそれ。
だが、縄は関節に食い込んでおり、もがけどもがけど痛いだけだった。
「アンタがいくら頑張っても無駄だかんね? 対神魔用の特別製なんだから。」
「あ…あんまりやァーッ!! なんぼなんでもあんまりっスよ、美神さァーんッ!?」
こっちは本気で心配したというのに…。
思い直せば恥ずかしいことを言ってたというのに…。
「ありえねェェーッ!! こんな展開、ありえねェェーッ!!」
◆
モニタールーム。
魔鈴と人工幽霊壱号が、あまりの事態の展開に呆けている中、ロキだけが静かにほくそ笑んでいた。
「…横島くんも気付かないか。」
よくよく考えればわかることだ。
いくら捕まえるためとはいえ、『あの』美神令子が泣き落としなんて手を使うだろうか?
魔神に追い詰められ殺されそうになっても、その負けん気と意地だけは譲らなかった彼女が。
─そして、もうひとつ。
横島がいつもくらい冷静なら気付けたろう。
今でこそ上機嫌な美神の目の下が、本当に赤くなっていること。
「…完全な嘘もなく、完全な本音もなく、人生はそれらが絡み合う…ってね。」
「え? 何か言われました?」
『ふふっ…いーや、何も。』
笑うロキ。
その後方のモニターの中では、ついに─。
ついに、美神が勝利者台の上に立とうとしていた─。
と、自らの作品に突っ込みつつの投稿です(汗)
だけど書いてしまったし、書きたかったのです!
話を考えてる最中浮かんだ、泣きじゃくる美神の姿。
そして、横島を捕まえた途端に機嫌を直す美神。
まるで、子供が欲しかったものを手に入れたような反応に萌えたんです!!
気がついたら、指がキーボードを叩いていたのです!!
いや、もはや言い訳は無用。
今回の話がよかったのか、悪かったのか…。
ただただ、斬首台にて待つ心境です(汗) (詠夢)
>『何か動きが欲しいよね。』
このイベントが自分たちが楽しむ為に企画されたことがよく分かりました(^^ゞ
このまま美神の一人勝ちになるとはとうてい思えません。
各自の奮闘を期待いたします(*^_^*) (綾香)
このあとがきになるなー (ミネルヴァ)
ガンバだ・・・横島くん。
・・・美神さんが偽者?だーーーーー!! (ノーフェイス)
デジさま:
はい、まったくもってそのとーりでございます。
弁明のしようもございません。
HALさま:
ストレートに卑怯です。男の純情踏みにじってます(笑)
素直じゃないにしろ、これはちょっと…酷すぎですよね?
綾香さま:
全ては彼らの手のひらの上(爆笑)
このままでは終わりませんとも。たぶん、きっと。…おそらく。
トンプソンさま:
それに嵌まる馬鹿がひとり(泣)
なぜ、自分がこの展開にしたのか、まったくもって謎です。
…萌えに目が眩んだのかも。
不動さま:
有難うございます。少しでもこの萌え心を理解したいただけるのなら幸いです。
決着のときまで、勝負はわかりませんからね!(それが作者の台詞か?)
ミネルヴァさま:
世界は間もなく滅びます(嘘)
雹や槍は降らないので、ご安心ください。
ノーフェイスさま:
終わらせません、終わるまで!!(意味不明)
ひょっとしたら、この美神の髪の色が黒だったり…(んなわけあるかい)
横島に、ただ敬礼を捧げずにはいられませんでした。 (詠夢)
女性の涙はファイナルウエポンですからねぇ・・・
でも横島君大ピンチ!!
この窮地を助けられるのは・・・
1 超加速で妨害
他の参加者にやり過ぎないように、お猿さんから突っ込まれるので使えない
2 眷属召喚で足止め
姉の眷属の妨害もあるので効果が薄そう。また混戦になり時間切れの可能性大
3 霧になって助け出す
救出の可能性アリ、対神魔用の性能を上回れるかがカギ
( ゚Д゚)ハッ!と言う事は唐巣神父&ピートコンビが優勝!? (純米酒)
こんな美神になら、捕まるのもアリですが、最後の一波乱
がありそうで。まだまだ楽しめそうですねw (R/Y)
見事です。 (pppp)
>「動きがなくてつまりませんねぇ。」
>『何か動きが欲しいよね。』
>「いっそのこと皆さんを集めるとか。」
>『おっ! それじゃ、呼び出してみるかい?』
こいつら、人で無しだー! ( ;--( ゜O)ハッ!マジで人じゃねぇー!!!!Σ( ̄□ ̄;)魔族と魔女だあああー!!
(紅蓮)
純米酒さま:
3も無理かもしれません…。
ピートがいまだ復活してこないので…(泣)
仮に出てきたとこで、そこまでの元気があるのかどうか…。
……もちろん、このままでは神父もピートも終わりませんがね(ニヤリ)
R/Yさま:
ああっ、ここにもわかってくださる同志が!!
この美神の可愛さ、感じていただけて嬉しいです。
もちろん一波乱ありますよ。それも、今までで最大級の。
ppppさま:
美神のしたたかさは三界一ですから、きっと。
そうそう本音を明らかにしないところは、らしいですけどね。
……ただ、書き手の苦労も考えて欲しいです…(哀願)
紅蓮さま:
私自身そう思いましたからね。
でも、だからこそ萌えたというか、なんというか…(爆)
最凶のタッグは限度を知りません。
ここまで来ると、いっそ清清しさを感じたり(笑) (詠夢)
初書き込みです。
美神さんの本音が聞けるとは思いませんでした・・・。
横島君の優しさも一緒に見れてほんとに良かったです(>▽<)
ですが・・・横島君がこのままおとなしく捕まっているとは思えないです。
もうロキさんの力でみんなを部屋にいれちゃってくださいって感じです。
逃げろ横島君!!!!男(漢?)の約束(絆?)を果たしちゃってください!!!! (なお)
横島の美神に対する気持ちは、またちょっと複雑でもあります。
好きな気もするし、違う気もする。
ただ、このとき出せる答えとして、泣かないで欲しいというのがあったと。
…他の子は結構、泣かせてるのに。(美神が泣かなさすぎ?)
さて、この後の展開ですが…大人しく終わるわけもなく(笑) (詠夢)
強がってみせるけど根は結構弱い人ですから。
悪いのはそこに気がつかない横島クンです。美神さんのそういうところ、わかってると思うんですけどね。
ただ、こうなってしまうとおキヌちゃんの入り込む余地がなくなってくるのが寂しいところです。 (林原悠)
有難うございます…そして、おめでとうございます、林原悠さま!!!
さて、美神のことについては、私もそう思います。
強いことは強いのですが、結構泣き虫というか弱いというか。
原作で横島は気づいている節はあるのですが…(ジャッジメント・デイその3参照)
おキヌちゃんでは押しで負けるのか…?
いや、まだだ!! まだそう決まったわけでは…!!
だが…しかし…ッ!! (詠夢)