椎名作品二次創作小説投稿広場


虹色の笛

帰り道


投稿者名:えび団子
投稿日時:04/ 6/23

 ――――よしっ、チェック終了っと!――――


何度も再確認して答えを出す。自分は見逃しとかが頻繁にあるから不安な横島。


「・・・zzz」


「ふう、凄いな・・・。」


あんな除霊、おキヌちゃんしか出来ないよな。

横島は彼女を背負ってそこを立ち去るのだった。




裏口から出た横島たちは周りの人々に気付かれないように小走りで街並みの渦へ影を消して行った。


――――タッタッタッタ・・・――――


鮮やかなオレンジ色の夕日が背後に縦長の黒い分身をかたどって伸びていた。
背伸びしたそれは何だか面白かった。街中を歩いていると皆が分身を作っていた。
誰もかれも形容は違えど漆黒の黒だった。背中に伝わってくる温かさが横島に冬の寒さを感じさせなかった。ちょっと頑張れば鼓動だって聞こえそうだ。


「・・・ううっ・・・くっ!・・・はぁ、・・・ぐうぅ・・・・くうぅ・・・・」


横島には現実が変わった気がした。


あの手の幽霊も納得して成仏してくれるんだ。


かつての幽霊達に謝りたい・・・。


――――本当、凄いよ・・・――――


しょっぱい口の中。


何かが吹っ切れて涙が止まらなかったという・・・。




追伸だが、俺は帰るのはちょっと怖い!皆からどんな目に・・・
想像するのやめとこ〜っと。俺のするべき仕事はおキヌちゃんを背負って帰るだけ!












【魔鈴さんのレストラン】




「ついに来てしまったかっ!!」


おキヌを背負い冬空に構えるそれを多少離れた場所から眺める横島。
酷く日が落ちており闇夜の囁きが聞こえる。これから身に降り掛かる悲惨な光景をどうしようかと只今思案中だ。どう転んでも無事に済む可能性は皆無に等しいし、仮に命は取り留めたとしても・・・。ゾクッと冷たい電流が脊椎を通って全身に行き渡る。冬の寒さなんてそっちのけで彼はフリーズ状態に陥った。


――――だめやああっ、こっから先に踏み込めん!!――――


言葉にならない悲鳴を上げ冷や汗をどっぷりとかく。頬を伝わり顎で一端留まり、

ぽちゃん。

落ちる。地面に小さい黒の斑点を作る。


「はあ、はあ、はあ、精神的にこりゃ堪らん・・・!」


睨めっこを続けていても仕方がないのは確かだが嫌なことは、なるたけ後の方が良いという彼のことだ。偉く決心する時間が掛かった。


――――逝くしかあるまいっ・・・じゃなくって!行くしかねえよな!――――


そして三歩進んで。


――――接近中、接近中!――――


あらら、二歩下がる。


――――ははは・・・――――


風が冷たくなってきたのをしみじみ感じる。香りも自然に夜の顔を含んできた。


「寒いなあ、こりゃボチボチ行かんとな。おキヌちゃんが風邪引いちまうかもしんねえし。」


何気なく見上げた夜空は満天とは言えないが、美しい星空だった。
雲の切れ端が所々に泳ぎ、白というより蒼に近かった。人々は帰路を急いでいた。


「じゃあ、逝きますか!マジで。」


うおおおおっと走り出し洋式の扉に行き着くまでに毎度お馴染みの・・・


「一度でいいから美女で埋め尽くされた・・・(以下略)」


無理な妄想を働かせ現実逃避しながら器用に突っ込んでいく。
左手を伸ばしドアノブに引っ掛ける。力を込めぐいっと反時計周りに回す。
面白いほどすんなり開いた。銀鈴が高い音を奏でた。


――――ガチャッ・・・――――


ぱああぁ、天界からのお呼びが聞こえてくるみたいだあ。
横島は既に放心状態、目を一文字にし、お迎えを待ってる現状だ。
人は、死の瞬間にかつての記憶が走馬灯のように蘇ると言われているが正にその通りである。数々の出会いのシーンが脳裏をかすめていった。

・・・・。

扉を勇気を振り絞って押し開けてから暫しの時間が経っていた。
なのに誰からの攻撃も言葉も無い。何故なんだ?!!


――――・・・っと。え〜と、皆さん一体どうなされたんス・・・か?――――


恐る恐る目を見開くとそこにはアルコールの匂いをプンプンさせた一室があるだけだった。鼻をさす刺激臭は手で覆う以外どうしようもなくって。


「うわっ・・・酒くせぇ。こりゃあ、美神さんだな!」


おキヌちゃんを近くのL字型ソファーに音を極力たてず、起こさず形に合わせて横たわらせた。ほんの少し聞こえるソファーの軋む音。


「で、だ。どうするもんかなあ。」


部屋全体を隅から隅まで見回してみると泥酔している人々が目立つ。

――――未成年に酒を飲ませんなよ!――――

意識を唯一保っていた西条が小声で話しかけてきた。


「君ぃ。一体。今まで。何処に行方をくらませてた?」


「さ、西条?!お前無事だったのか!!」


単語単語で喋る西条は顔を真っ赤にする程酔っぱらっている。
隣の席で没落している神父にエミ、冥子は夢の世界に誘われて戻ってくる気配はなし。


「君が。居なくなった。お陰でなぁ。本当にどう。してくれる・・・んだ。」


「ま、まあ落ち着け。とりあえず頭に当てた銃口を外してくれないか?」


――――カチャ――――


冷たい。こいつ本気で撃とうとしている。


「僕の。銀の。銃弾は。簡単に。貫く。ぞ?」


――――目が据わってるぞっ!?――――


「あれから。僕が。どんな目に。逢ったとおもってんだ?」


「え?」


引き金を引く音が耳元で聞こえた。


「令子ちゃんの・・・」


うなだれる西条。グラスの新鮮な水を一気に流し込んで回想シーンが幕を開ける。








「何なんだい!?そのとっても痛そうな料理は・・・」


魔鈴が運んで来た真っ黒な魚類系のゲテモノ料理の数々。
目の玉がこっちをギロッと睨みつけているようで不気味だった。


「あら、凄く美味しいって評判なんですよ〜?西条先輩はご存じないんですか?」


知るも知らないも当然である。こんな料理、地球上の何処を探したって他にある訳がないのだから。


「魔鈴君、一つ聞いてもいいかな?」


「はい」


「誰に評判なんだい?」


「・・・・」


――――何故そこで口ごもる?!――――


「まあまあ、西条さんも折角『魔鈴さん』が作ってくれたんだから・・・」


――――令子ちゃん!?いつになく友好的じゃないのか!!――――


「そうよ、西条君。女性が丹精込めて作ってくれた料理を断るっていうのは、あまり紳士のすることじゃないわよね。」


――――最もらしい理由を付けて僕を陥れようとする匂いが!――――


「はい、あ〜んしてください♪」


魔鈴はフォークか槍か区別のつけようが無い代物でそれを真上からグサッと突き、西条の口元にやる。視界の両端まで占拠する未知生命体。鼻がもげる嫌な匂い。耳に細かく入ってくる生き物の吐息。動く目玉・・・


――――こいつ絶対生きてるぞ!?いやいや、まさか・・・な――――


「早くお口を開けてくださいよ〜、子供じゃないんですから♪」


悪戯っぽく笑う魔鈴の表情は暗い影を作っていたのはここだけの秘密。


「そうよ、食べなさい。これは隊長命令です!」


「私たちも後で食べますから、西条さん?」


――――隊長の職権乱用じゃないんですかーーーー!!!?――――


心で訴える西条。


――――令子ちゃん、それは僕に毒味をしろというのか!!!?――――


目から涙を放射しながら首を左右に振る西条。


「ほらほら大人しくして・・・」


美智恵が後ろに忍び寄り腕を回す。


「た、隊長っ・・・」


「西条君、私ねいつも貴方のことを見てたの・・・」


――――ドキドキ――――


「貴方を私の部下に就かせた本当の理由はね、ずっと見ていたかったから。」


禁断の香りがする。二人のバックには、さしずめバラなんかが舞っている訳で。それらしい音楽とムードが成り立ってるということ。


「いけません、隊長には遠く離れた御主人が!!」


「いいの、今だけは・・・。」


「隊長・・・」


西条が世界に酔いしれたその時!!


「今よ!!!!」


美神(令子)が魔鈴に呼びかける。二人は、あうんの呼吸で行動に移った。


「はっ、しまった・・・」


時すでに遅しであった。腰の捻りから生み出された一直線は、西条の口内に深々と突き刺さり人間の反射神経の限界に挑んだ瞬間であった。




――――――――プシュ〜〜〜〜――――――――




白目になって倒れこむ西条をマットに寝かせない人物がまだいた。


「さ〜て、一杯いっときますか!!」


令子の大酒飲みで一ラウンドも戦えず、アルコール中毒症になりかけた西条がへばり込んでいただけであった。ついでに言えば・・・


「西条君、これお願いね♪」


テーブルの上にかなりの重量がある音をさして置かれた書類の山。
俗にいうサービス残業なるものだった。








以上をもちまして西条の悲惨な過去の回想は終了さして頂きます。


「つーことだ。」


「わわ、分かったから・・・。銃口を強く押し当てないで・・・・」


強張る筋肉、ピリピリとした緊張感。


「全く、とんだ災難だよ。」


「わわわ、分かったから・・・。右手人指し指に力を入れないで・・・・。」


「ふっ、今更何を言ったってだな・・・」


――――グッ!――――


「どうした!西条?!」


胸を抑えながらアイコンタクトとジェスチャーで必死に伝える西条。傍目からは意味不明なものだったが横島には迅速に合点がいった。


「西条っ、ビニール袋持って来たぞっっ!!!!」


――――つまり、飲み過ぎたのね・・・――――






「すまないな、見苦しいところを・・・」


すっきりしたのか平常心に戻っている西条。


「まあ、それは置いといて。美神さんたちは?」


見たところ、美神さん親子の姿だけはない。


「さあ、僕にもさっぱりだよ。」















続く

 


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