シトシトシト……
雨が俺の体を打つ。
俺は傘をさすこともせず、ただ打たれるがままに任せていた。
今、俺はある墓地にやってきている。
平日で、しかも雨が降っていることもあって俺以外には誰もおらず、閑散としていた。
もうどれくらいここにいるだろう。
目の前にある『牧之瀬家の墓』と刻まれた墓石。
その前に俺はずっと立たずんでいた。
二日前に蛍の葬式が行われた。
遺体のない告別式。
クラスの女子はみんな泣いてたっけ…
愛子も…泣いてた。
ピートも…タイガーも。
なのに不思議だな……俺は涙が出なかった。
なんか…すごく心が冷たかった。
葬式の間中、俺のそばにはずっとおキヌちゃんがいた。
…ずっと、俺の手を握っていた。
「ごめんなさい蛍さん…私…助けてあげられなかった……」
そう呟きながらずっと大粒の涙をこぼしていた。
違うよ、おキヌちゃん。
蛍を助けられなかったのは俺のせいなんだ。
俺の………
ザアアァァァァ……
気づけば、雨は勢いを増していた。
ふいに、体をうつ雨が止んだ。
雨自体が止んだわけじゃない。
傘を差したおキヌちゃんが、俺のすぐ後ろに立っていた。
「おキヌちゃん……悪いけど、今は一人にしてくれないかな……」
今は、誰とも話す気分じゃない。
そう思った俺はおキヌちゃんの方を振り向くこともせず言った。
パサッ…
傘の落ちる音がして…
ぎゅっ…
おキヌちゃんが後ろから俺を抱きしめてきた。
雨が俺たちを濡らしていく。
「おキヌちゃん……?」
「いいんです…横島さん……いいんです………」
「泣いて…いいんです」
俺の中で何かが弾けた。
涙がとめどなく流れ落ちる。
「……ぅあああああぁぁぁぁぁあ!!!! 俺、俺、また守れなかった!! 守るって誓ったのに! 助けるって約束したのに…!」
「横島さん……!」
俺を抱きしめるおキヌちゃんの手にさらに力がこもる。
「結局…俺にはなにも守れない!! 文珠なんて力があっても、アイツを救うこともできない!! ごめん…蛍…ごめん……!」
「違う! 横島さん! それは違います!!」
『そうよ、横島くん。それは違う』
……え?
「ほ…たる……?」
俺は自分の目を疑った。
蛍がいた。
いつのまにか、墓石の上に座ってこちらを見ていた。
それはいつもと変わらぬ笑顔。
ただ違うのは、蛍の周りにふわふわと人魂が浮かんでいることだった。
『やっぱり様子見に来て正解だったよ』
蛍は「はぁっ…」とため息をついた。
『何言ってるの横島くん? あたしは今、すごく満足してるのに』
「でも…俺は結局お前を助けることができなかった…」
俺の言葉に今度は蛍は「はぁ〜〜〜」と盛大なため息をついた。
『わかってないなあ、横島くん』
蛍はひょいっ、と墓石から飛び降りるとその場で一回転ターンした。
『ほら見て、横島くん。今のあたしに何か変なところある? いや、人魂は浮いちゃってるけどさ、まあそれは置いといて。見て…? あたしはあたし。牧之瀬蛍でしょ?』
蛍の言いたいことがわからず、俺は曖昧に頷くだけだった。
『これは横島くんのおかげ。もしあたしがあのままアイツに取り込まれたままだったら、いずれあたしの魂もアイツの一部にされちゃってた。でも横島君があたしごとアイツを殺してくれたおかげであたしの魂は…ココロは、今ここにある。そうでしょ?』
「でも…俺は……」
「蛍さんの言うとおりです横島さん! 横島さん、あなたは自分にできる精一杯のことをしました! 今自分を責めるのは間違ってます!」
おキヌちゃんが俺の前に回り、目を真っ赤にしながら訴える。
おキヌちゃんの想いが痛いくらいに伝わってきて、枯れた涙が再び溢れそうになる。
『ねえ横島くん……あたしね、怖かった。自分が自分で失くなっていくのも怖かったけど、それだけじゃなくて。アイツに乗っ取られた時の記憶はないけれど、お父さんとお母さんを殺してしまったのはきっとあたしなんだ。この街で叔父さんと叔母さん、それにほかの人たちを殺したのも……』
蛍は気づいていたのか…
自分が両親を、親戚を殺してしまったことに。
『あたしは、あたしのせいで周りのみんなが傷ついていくのが怖かった。<神寄せ>の能力を恨んだよ。こんな力、欲しくなかった。だから、今あたしは満たされてるの。<神寄せ>からの解放。それはずっと夢見ていたことだから。今度生まれ変わるときは絶対普通の人になるモンね』
そう言うと蛍はいつもの、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
そこにいたのは、本当にいつも通りの蛍だった。
『で、横島くんにはあたしのわがままに付き合わせちゃって悪かったなって思って』
「それで俺の様子を見に来たのか?」
『うん、心配だったから』
まったく…俺は全然成長しちゃいないな。
またみんなに心配させちまった。
蛍本人にまで心配させちまってんだから…ダメ男だなあ。
そうなんだよな。どれだけ自分を責めたって、それはただの自己満足なんだ。
責めることで罪の意識を薄めようとしているだけ。
責めたって、結局なにも変わらない。
だから悲しむのはやめようって、あの時も決めただろ?
しっかりしろよ、俺!
「悪かったな、心配かけちまって…もう大丈夫だ。だから蛍…もう何も心配しなくていいぞ! だから……」
『う〜ん? …うん、もう大丈夫そうだね♪ じゃああたしそろそろ行くよ』
蛍の体が空へと上がっていく。
眩しいほどの光の中へ。
『そうだ、最後に…いつか横島くんあたしに話してくれたよね。ルシオラさんのこと。その時横島くんはルシオラさんを見捨ててしまったって言ってたけど、やっぱりそれは違うよ。きっと、ルシオラさんも今のあたしと同じような気分だったんだと思う。すごく、満たされてる…………それを見捨てたなんて言ったらルシオラさんに怒られちゃうよ?』
思い出したように蛍は俺に語りかける。
でもその言葉は、本当に…すごく、ありがたくて……
「蛍…お前まさかそれを言うために俺に……?」
『まさか! あたしそんな人格者じゃないよ。あたしが横島くんの手で…て願ったのは単なるあたしのわがまま。考えすぎ考えすぎ!』
蛍はイヤイヤと手を振り、おキヌちゃんに向き直った。
『残念だなあ。勝負はあたしの途中欠場になっちゃったね。しょうがないからもうおキヌちゃんの勝ちでいいや♪』
「…? 勝負ってなんの?」
「あわわわ! な、なんでもないんです!!」
おキヌちゃんは顔を真っ赤にしながら手をバタバタさせた。
むぅ〜!ってな感じで赤い顔のまま蛍をにらみつけている。
『あははは! ごめんねおキヌちゃん! …じゃあ、そろそろ………』
「ああ、そうだな……」
「蛍さん…」
『また会いましょ』
「ああ」
「ええ、きっと……」
『じゃね♪』
蛍は空へと、極楽へと昇っていった。
最後まで、あのいたずらっ子のような笑みを浮かべて。
雨はいつの間にか止んでいた。
「おキヌちゃん。俺は蛍を救えたのかな」
「ええ……だって蛍さん、笑ってたじゃないですか」
俺たちは、蛍が昇っていった空を……いつまでも見上げていた。
「また、会おうな」
『tragic selection』
The end
いかがでしたか?
できれば気持ちよく読み終えてもらえるとありがたいです。
結末に納得いく人、いかない人いると思いますが、その全ての人に…
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。 (堂旬)
読んだ後の私は、何か雨が上がったような清清しい気分です〜
蛍の御蔭で横島君は、しっかりやれそうですねぇ〜♪
連載お疲れ様でした〜 (紅蓮)
幽霊になって励ます。GS美神では基本的な事を
すっかり忘れていました。
前回はすいませんでした。
楽しかったです。 (ろろた)
確かにこれはハッピーエンドですね。
最後まで楽しく読まして頂き、ありがとうございました。
次回作を楽しみに待ってます。
しつこいようですが、本当にありがとうございました。 (邪魅羅)
紅蓮さんには初期からずっとコメントをしていただき、大変励みになっておりました。
感謝してもしたりません。
本当にありがとうございました。
ろろたさん、コメントありがとうございます。
意表をつけたようでなによりです。
ろろたさんには様々なことを教えていただいたりして、大変感謝しております。
いずれまたお目通りすることがございましたら、またよろしくお願いいたします。
邪魅羅さん、コメントありがとうございます。
私の拙い作品をいつも高く評価していただき、本当に感謝、大感謝しております。
次回作、少しは考えておりますが、いかんせんまだ上手くまとまってなくて…
いつか公開したいなあ…とは思っております。
そして最後に。
こちらこそ本当にありがとうございました。 (堂旬)
ルシオラも自分で選んだ道なのだからきっと満足な死を迎えることができたと私は思っています。ともあれ、楽しませていただきました。 (綾香)
私が期待した救いのある結末でした。読後の私の素直な感想としては
「良かったな(結末とか色々)」というモノでした。
それと、綾香さんもおっしゃってますが、
「やまない雨はない」
ということも素直に思いました。
最後に、堂旬さん最後まで楽しく読ませて頂きました。ありがとうございました。
そして、お疲れ様でした。次回作楽しみにしてます。
どうも、イロコでした!
(イロコ)
何と言うか……、色々と考えさせられました。
全体的な評価には迷いますが、巧く完結されたと言う事でBにしておきますね。 (竹)
蛍は最後の最後で、本当に横島君に救われたんですね〜^^
良かったです。長い間(・ω・)お疲れ様でしたぁ〜♪また会う日までさよぉならぁ…..(ノω・、)ノ~~ (大神)
救われましたが幸せになってないという勝手な印象によりBを押させていただきます。個人的ですが・・。ギャグ編とシリアスの混ぜ方がうまいと思いました。長期間お疲れ様でした。 (不動)
なりました。とても良い作品でした。次回作も期待します。
今はただ一言。お疲れ様でした。 (R/Y)
綾香さんに満足いただける最終話を作れたことを大変嬉しく思います。
ご愛読ありがとうございました。
イロコさん、コメントありがとうございます。
「名前を呼ばれると嬉しい」と私がコメントしてから毎回名前を呼んでくださって……ホント嬉しかったです。
ありがとうございました。
イロコさんに楽しんでいただけたこと…大変嬉しいです。
でわ、また会う日まで……
竹さん、コメントありがとうございます。
作者なりにいろいろ頭をひねって考えたラストです。
評価してもらえて嬉しいです。
後学のためにこの作品のおかしなところ、改善点など教えていただけたらありがたいのですが……
お暇な時で結構ですので……もちろん、やっていただかなくてもかまいません。
これは単なる私のわがままですから。
大神さん、コメントありがとうございます。
大神さんには作品初期からずっとコメントしていただいて……
まことにありがとうございました。
大神さんのコメントを見ると、「さあやるぞ!」という気分になれました。
またお目にかかることがありましたら……またどうかよろしく。
はくはくさん、コメントありがとうございます。
様々なところでコメントを行っていらっしゃるはくはくさん。
こっちにも来てくれないかなぁ〜と期待しておりました。
それがA評価までくださるなんて…励みになりまくりです。
ご愛読ありがとうございました。
不動さん、コメントありがとうございます。
失礼なことなんて全然ございません。大変うれしいです。
ギャグ編とシリアスのギャップが激しすぎたかな…と心配しておりましたので一安心です。
不動さんの作品は、私も楽しませてもらってます。
頑張ってください。
R/Yさん、コメントありがとうございます。
R/Yさんには初回からずっと一回ももらさずコメントしていただいて……
なんとお礼を申し上げたらよいか……
本当に、ありがとうございます。
また次回何か書くことになりましたら、その時もよろしくお願いします。
長い間ありがとうございました。
それと、竹さんに申した作品のおかしなところ、改善点などの指摘。
ほかの皆さんもできればどうかよろしくお願いいたします。
わがままを言って申し訳ありません。 (堂旬)
さて、そうですね。不満と言う程でもないですが、取り敢えず気になった点を幾つか。
まずは、ラスボスとの戦闘時におけるピート等の独白。随分と唐突な感じがしました。それと、蛍の性格について……は、個人的な嗜好なのでアレですが、ちと違和感を持ちました。彼女がGSだの神寄せである云々の“秘密”の出し方にも、少し思わせぶり過ぎると言うか、引きすぎの感がありました。
後は矢張り、おキヌちゃんがヒロインである意味ですかね……。ヒロインという割には目立ってませんでしたし、彼女の行動や心情も今一消化不良でした。まあ、人間バージョンの彼女は原作でも余り色が付いていなく、難しいキャラだとは思いますが……。
以上、パッと思い付くのはこんな感じですね。全くの私見ですので、お気を悪くなさらず。言葉足らずもご容赦。とても良い作品だと、僕は思いました。 (竹)
いや、大変ためになります。
全ての指摘にあぁ、確かに。と思うところがありました。
キャラの立て方などがまだまだ未熟だなと自覚することができました。
自覚していなければ改善のしようがないですからね。
ですから本当にありがとうございます。
これを参考に腕を磨かせていただきます。 (堂旬)
正直、初めはコメディ部分とシリアス部分がちょっとアンバランスかな、と思いながら読んでたんですけど、
最終的には上手い具合にまとまりましたね。
死んでも生きられる、おキヌちゃんの名言を体現するかのような幕切れでした。
ただ、最終的な「勝者」はどうあれ、ヒロインはやっぱり蛍でしょうね。
おキヌちゃんはちょっと存在感がなさ過ぎました。 (林原悠)
林原悠さんにコメントをいただけるなんて光栄ここに極まれりといった感じです。
確かにおキヌちゃんは目立たせることができませんでした。
メインヒロイン…といったのはいささか言いすぎだったかもしれません。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。 (堂旬)
しかし、です。
蛍の容貌が(胸を除いて)どうしてルシオラと瓜二つだったのかという、最も肝心な点が説明されていないように思います。
近日中に続編または番外編をアップして頂けると嬉しいのですが。 (s-cachi)
本当は最終話で入れようと思っていたのですが文のリズムが崩れてしまいそうだったので入れなかった部分があります。
それは「全ては偶然だった。蛍という名前も、彼女がルシオラに似ていたのも」というくだりです。
結局蛍とルシオラに関連性はありません。ただ、偶然に似ていただけ。彼女が横島の前に現れたのを「運命」ととるかは読者様にお任せしたいと思います。
期待を裏切るようで申し訳ないのですが蛍とルシオラはまったくの別人。無関係です。 (堂旬)
蛍については、本人の知らぬところにせよ、事件の始末はつけなくてはいけないと思いますが、
それを横島の手で為さざるをえなかったというのが、この話の一番のポイントだったと思います。
本当にいいお話でした。しかし、それとともに、胸のうちにやるせない思いがふつふつと
湧いて出てきたことも事実です。
そこでご相談ですが、このお話の設定を使って、三次創作を書いて見たいと思います。
今考えているのは、拙作『妹 〜ほたる〜』とのクロスです。
テーマは、『牧之瀬 蛍』の救済ということで。
お返事をいただけると、ありがたいです。 (湖畔のスナフキン)
え〜、この作品の三次創作をやっていただけるというお話ですが……
断るわきゃないでしょう!!
なんとも…言葉では言い表せないほど感動しております。
湖畔のスナフキンさまの個人サイトで行われるのか、この「NONSENSE」へのご投稿なのかはお知らせくださいませ。
楽しみにしております。 (堂旬)
NONSENSEに投稿する予定です。今、少しずつ案を練っています。
できれば、来週末までにはUpしたいですね。 (湖畔のスナフキン)
面白かったです。自分が小説なんかは書けないので感心しまくりです。
ルシオラとの関連が全くなかったことに不満が多少あったのですが
「全ては偶然だった。蛍という名前も、彼女がルシオラに似ていたのも」というくだりです。
結局蛍とルシオラに関連性はありません。ただ、偶然に似ていただけ。彼女が横島の前に現れたのを「運命」
これを読んだときに何故か納得して、こういうのもぜんぜんありだなと思いました。次回は本当の意味でのハッピーエンドを期待します。 お疲れ様。 (こじょ)
ただ、細かいところで、なんとなく似ている程度の方がよかったような?てっきり、葦優太郎?みたいな役目を担っていて、創られた存在なのかとか考えてしまいました。偶然でそこまで似ない気が…
後、両親のときからなら、異変があるなら、折角神様たちにあったんだから相談していれば…そして、ヒャクメって…
また、学校の霊団は霊媒体質で説明できますが…魔族は何故いるの?そんな何の理由もなくやってくる+ちょっと理性が怪しいレベルの魔族の癖に、やけに強いし…
くだらない邪推をしてしまいました、すいません。蛍の性格すっごくよかったです。
(凡士)
ぶええええええええん
感動!泣いた!ヤベぇ!止まらない!
こんなに、泣くなんて思わなかった。 (sukai)