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横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

以心伝心!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/ 6/18


残り時間もあと40分をきった頃─。


屋根裏─。


「─いないッ!!」


応接室─。


「いませんわッ!!」

「ちくしょうッ、いねぇ!!」


客室─。


「ど〜こ〜?」

「ここにもいないのねー!!」


物置、寝室…エトセトラ、エトセトラ─。


「横島がいないッ!!!」


横島は、完全に姿をくらましていた─。



          ◆



『…見失っちゃったねぇ。』

「屋敷の外に逃げた、とかはないんですか?」


魔鈴が聞いてみるが、ロキは首をふる。


『いや…それは人工幽霊壱号が監視してるから、すぐわかるはずだよ。』

《ええ。ですが…現在、私の知覚では横島さんを捉えられません。完全にロストしました。》


人工幽霊壱号の報告に、魔鈴は眉根を寄せる。


「…ということは、考えられるのは…。」


ジャミング─。

こくり、とうなずくロキの瞳は真剣そのものだ。


『勝負を賭けてきたね。でも、まさか僕たちの知覚までジャミングするなんて…。』

「ええ…予想外です。このままでは…。」


そう、このままでは…。


『僕(わたし)たちが楽しめない!!』


身勝手なふたりは、その理不尽極まりない悲痛な思いそのままに叫んだ。



          ◆



手の中で光り輝くふたつの文珠。

込められている文字は、《迷》《彩》。

完全にあたりの風景および霊波に溶け込んでいる横島がいた。


「ここまで来たら、もはや誰にも俺の姿を見せるわけにはいかん。そう、誰一人の例外なく、だ。」


敵の中には、情報士官でもあるジークがいる。

もし、モニターにハッキングでもされたら一巻の終わりだ。

ワルキューレに伝わり、その騒ぎは他の奴らにも伝播するだろう。

そして、全員で襲ってくる。間違いない。


「……嫌だ。誰も見るな。誰も俺を見つけないでくれぇぇ…!!」


見事に心的外傷となってしまっている。哀れな男…。

己を抱きすくめるようにして小刻みに震えるさまは、とめどなく涙を誘うものがある。


「…いや、大丈夫だ。ここなら見つからないはずだ。絶対に…!」


しっかりと文珠でジャミングしている上に、心理的盲点までついたこの部屋なら。

横島はぶつぶつ呟きながら、自分を落ち着けさせていく。

客観的にみれば、大丈夫とは言いがたくなにやら心配になってしまうのだが。

いったいお前は何の患者だ。


「…俺は空気だ…いや、原子だ。原子となって俺は、誰にも気に留められず、ただ世界を漂うんだ…俺は…」

「─アンタ…アブナイわよ。」

「ひッ…ぅうッわああああァァァッッ!!」


虚ろな表情でどこかにイッてしまうところだった横島の意識は、突然の呼びかけに一気に引き戻される。

驚いた拍子に手から文珠が転げ落ち、姿を現した横島が振り返る。

そこにいたのは─。


「なによ。そんなに驚くことないでしょ?」

「みッ……美神さん…ッ?!」


大きく見開かれた横島の瞳に、悪戯が成功したような嬉しそうな美神の表情が映る。


「な…な、なッ…なァ!?」

「何でここにいるのか、って言いたいのね?」


横島の言わんとするところを理解した美神に、横島はこくこくとうなずく。

そう。なぜ、ここに美神がいるのか─。

ゲームの始まった場所、そして決着の場所であるこの『パーティー会場』に。


「灯台下暗しなんて使い古された考え、読めて当たり前でしょ。誰がアンタを仕込んだと思ってんの?」


ここには、ゲームの終着点である『勝利者台』がある。

まさか、自分にとって最も避けるべき場所に隠れてるとは誰も思うまい。

横島はそう考えたわけだが、そう考える横島が時間ぎりぎりになってここに隠れることを美神は読んでいたのだ。

やはり師匠は一枚上手という事か。


「アンタの事なんて、全部お見通しなんだからね♪」

「で、で…!?」

「でも、ここは文珠で《隔》《離》してるはず、って言いたいのね?」


またも美神の言葉に、こくこくとうなずく横島。

部屋の対角点上には、万が一誰も入ってこないように《隔》《離》の二つの文珠が転がっている。

もし、バレて入ってこられようとしても、文珠が破れたなら横島にはすぐわかる。

そう考えて、部屋に入ってすぐに横島が発動させたのだ。


「でも、そんなの最初からここにいれば、意味ないでしょ。」

「じ、じゃッ…じゃぁ?!」

「じゃあ、俺が隠れている位置がわかったのはなぜです、って聞きたいのね?」


姿も気配も完全に消していたはずだ。

文珠での効果だから、霊視ゴーグルだって効果はない、はずだ。


「アンタ…あれだけブツブツ声を出していたら、誰だってすぐ気付くわよ?」

「しまったァァァーッ!!」


完膚なきまでに論破され、横島は己の失態を心底悔いた。

よりにもよってこの人を、この距離まで近づけてしまうとは。


「さ♪ 覚悟はいいわね?」


のばされた美神の手をさっとかわす横島。

覚悟など、できるはずもない。


「…ほら、観念しなさいって。」


また、さっとかわす。

………じりっとした雰囲気が漂う。


「……横島ぁ?」

「捕まってたまるかァァァァッ!!」


そう言うなり、弾かれるように扉へと疾走する横島。

扉に手をかけ外に飛び出そうと─。


「あ、開かない!?」

「バッカねー。アンタ、自分で《隔》《離》したんでしょ?」

「くっ…ならば、あと30分強! 逃げ切ってみせる!!」


美神の神通鞭がひるがえり、横島は華麗に宙を舞う。

魂を削るようなせめぎ合いが始まった─。



          ◆



『あッ!! ほらほら、魔鈴くん! いたよ、ほらッ!!』

「えぇッ!? どこですっ、どこ!?」


モニターを指さして大はしゃぎのロキに、慌ててそのモニターを覗き込む魔鈴。

そこには、神通鞭を縦横無尽にふるう美神と、それを恐ろしいほどの体捌きでかわす横島が映っていた。


「よかったぁ〜。これで、まだまだ楽しめますね。」

『うん。何はともあれ、一安心だね。』

《………人の真の性格は、その人の趣味からわかると言いますが…。》


心からほっと安堵する二人に、心から呆れたように嘆息する人工幽霊一号だった。


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