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tragic selection

約束


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 6/13

『昨日未明、××地区で一家惨殺死体が発見されました。死体にはまるでライオンにでも喰い殺されたかのような痕があり、警察では霊障の疑いがあると見てオカルトGメンに捜査協力を依頼しています』

 朝早く目覚めてしまったために暇つぶしとして見ていたニュース。

「××地区ってこの近くじゃねーか。物騒だなオイ」





 ルーデラとの戦いから三日が経っていた。






「ちぃ〜っす」

「おはよう横島くん」

「おはようございます横島さん。今日は早いですね」

 まだ早い時間帯のため、教室にはピートや俺、愛子を含め数人しかいない。

「おうピート。どうだ? あれから傷の調子は」

「ええ、もう平気です。もともと僕はバンパイア・ハーフですし、横島さんの文珠で治療もしてもらいましたしね。すこぶる快調ですよ」

「そっか、そりゃよかった。愛子は?」

「私も平気。傷の痕も残ってないわ」


 ふう…安心したな。一応愛子も妖怪とはいえ女の子だからな。傷が残ったりしないでよかった。


 そして俺たちがしばらく談笑しているとタイガーがやってきた。

「おはようございますですジャー!!!」

 無事を確認するまでもない。元気良すぎだあいつ。にしてもテンション高すぎないか? 

「タイガー、なにかあったのか?」

 俺の問いにタイガーは口元をおさえ、くふふ、と含み笑いを漏らす。

 この上なく気持ち悪い。どついたろか。

「ダメです。こればっかりは横島さんにも言えんノー」

 よし、どつこう。


 ゴンッ


「いきなり何するんジャー横島さん!!」

「やかましい。それより俺にそんな態度をとるんだな? よーし魔理さんにあることないこと喋っちゃおう。あ、身体測定を覗いたことをまだ言ってなかったな」

「のわーーー!! 勘弁してつかぁさい横島さん!! せっかく昨日…」

 タイガーはそこで「はっ!」として口を閉じる。だがもう遅い。

「ほう…昨日…なんだ?」

 あうあう、と退路を探すタイガー。だがこの狭い教室にそんなものはない。タイガーは目でピートに助けを求めている。

「まあまあ横島さん…プライベートのことですし…」
「黙れピート」

 俺の問答無用のタイミングにピートはなす術もなく沈黙。目でタイガーに謝罪の意を示している。


「さ、話してもらおうかタイガー」


「う、うう……」


 ついにタイガーは観念したらしく、ぼそぼそと何かを話し始めた。

「実は…昨日公園で魔理さんと…その…」

 もじもじしながら話す大男ほど気味の悪いものはない。



「魔理さんと…その…『キス』…をしたんジャー…」




 …は? なに? 『KISS』? 『KISS』といったのか今?

 俺の思考回路が大混乱を始める。



「『誰にも言うなよ』って顔を赤らめて言うのがまた可愛らしくてノー……って横島さんなんジャそれはーーー!!!」


 『拳』


 文珠を発動させると俺のイメージ通りに鉄鋼が俺の右拳にまとわりつく。

 そう、『メリケンサック』の完成だ。


「そんな物騒なモンをどうする気ジャーーー!!!」

「わかっているだろう?」

「なんで、なんでジャー!! 別にワッシが魔理さんとなにしようがワッシの勝手ジャないですカーーー!!!」

「ふざけたことをぬかすんじゃねえ!! この世の女は全部俺のもんじゃ!! それになにより! キサマのような野卑た野郎に可憐な花がもがれてしまったということが許せないんだよ!!!!」

「そ、そんな理不尽な話がーーー!!」

「あるっ!!!!!!」



 どごぉん!!!!



 タイガーはゆっくりと崩れ落ちていった。



「横島くんそれはちょっとひどすぎじゃ……」

 俺の行動にピートは絶句。愛子はひいていた。

 いかん。暴走しすぎたか。


「あれ? そういや蛍は?」

 ふと周りを見渡して気づく。もうあと2,3分でSHRが始まるというのに蛍の姿が見えない。

「そういえば来ていませんね。いつもならこの時間には来ているのに……体調不良でしょうか?」

「うん…ならまだいいけどな……」


 俺の頭の中にはなぜか今朝見たニュースがよぎっていた。





 そのまま蛍は現れず、SHRが始まった。

「え〜、ニュースなどを見て知っている奴もいるだろうが昨日××地区で殺人事件が起きた」

 教室がザワザワと騒ぎ出す。まだ知らない奴も大勢いたのだろう。

「それでみんな十分に警戒するように。特に××方面の者は絶対に一人では帰らないこと。いいな?」

 そんな感じでSHRは終了した。



 蛍は、まだこない。



「先生」

「なんだ? 横島」

 俺はどうしても気になることがあったため、教室を出ようとする担任を呼び止めた。

「ちょっと聞きたいことがあるんすけど…」

「なんだ?」

「蛍の家ってどのへんなんすかね?」

 担任の顔がみるみるうちに強張る。

「ちょっと! どうしたんすか先生!!」

「そのことなんだが…彼女の家は事件が起きたところのすぐ近くなんだ」

「!!!!」

「それで彼女が今日学校に来ていないことは俺も気になってた。まさかとは思うが…」

「先生! 彼女の家を教えてください!! 俺が見に行きます!!」

「……そうしてもらえるとこちらも助かるか。一時間目は出席にしておいてやるよ」

 そうして俺は一度職員室に寄り、蛍の住所のメモをもらってすぐに駆け出した。

 地図だけじゃ明確な場所のイメージができないから文珠での移動はできない。

 もどかしかった。


「くそっ!!」


 とりあえず走るしかない。廊下を全速力で突っ走り、靴箱にたどり着く。

 靴を履くのももどかしい。

 俺が必死で靴を履いていたその時……。


「あれ? 横島くん授業は?」

「へっ?」


 蛍が、やって来た。






「へえ〜心配してくれたんだ?」

「そりゃするだろまったくよ〜〜」

 俺は乱れた息を整えながら蛍と教室へ向かっていた。

「なんで遅刻したんだよ?」

「…なんかちょっと調子悪くって。軽く朝寝しちゃった」

「そっか…まあ無事でなによりだよホント」

「ごめんね、迷惑かけちゃって」

「いや、それは別に…俺が勝手にしたことだしな。あ、俺ちょっと職員室行ってくるわ。一応担任に報告しとかなきゃな」

「じゃああたしも…」

「いや、いいよ。どうせ俺は一時間目は出席扱いなんだ。蛍は早く行かないと授業終わっちまうぜ」

 そう言って俺は蛍の返事も聞かず駆け出した。






 放課後……………


 俺は一人で帰ろうとしている蛍を呼び止めた。

「待てよ蛍。お前んち事件現場に近いんだろ? 危ねえから送ってくよ」

「…ほんと? …ありがと」

 …? なんか元気がないな? そういや今日は一日中大人しかったっけ。

「おい、大丈夫か? 顔色悪いぞ?」

「ん…平気。じゃ、帰ろ?」

「お…おお……」

 相当調子が悪いのか俺を引っ張る手にも力がこもってなかった。こりゃ一刻も早く帰らした方がいいな。


 そして俺たちは校門を出た。

 横目に二十人ほどの団体で帰っているピートを見ながら……(く…美形がそんなにいいのか! 馬鹿女どもめ!!)






 しばらく無言で歩く。

 蛍は時々ふらついていた。

「おい…ホントに大丈夫か?」

「へーきへーき…あたし丈夫だもん」

 そう言いながらも蛍はふらつく。

 まったく……見ちゃいられない。


「よっ…と」

「きゃあッ! ちょっと!?」


 俺は蛍の前に回り、背中に背負った。『おんぶ』ってやつだ。


「ちょっと横島くん!? 恥ずかしいから降ろしてよ!」

「ばっか無理すんなよ。お前きちんと歩けてねえじゃねえか。家までおんぶしてやるよ。そのほうが楽だろ?」

「楽だけど…その…人目が……」

 確かに道行く人が皆俺たちを振り返っていく。

「気にしない気にしない。どうせ皆明日には忘れてるよ」

「でも……」

「いいから休んでろよ。あ、道順は教えてくれよな」

「うん……あ、そこ右」


 結局蛍は俺におんぶされることを了解したようだ。








 しばらく蛍の誘導にしたがって歩くと人だかりが見えてきた。

 その人だかりができている家には『KEEP OUT』(立ち入り禁止)と書かれた黄色いテープが張り巡らされてある。

 そうか…ここがニュースで言ってた……

 少し足を止めて中の様子を伺う。といってもカーテンがしてあって家の中までは見えない。せいぜい人がたくさん出入りしているのが見えるくらいだ。


 ふと、蛍がふるえているのに気づいた。

「横島くん…あたし、ここにいたくない……」

「ああ…すまん」

 そりゃそーだ。誰が殺人現場の近くにいたいと思うものか。

 俺はすぐにその場を離れた。








「もうここでいいわ。ありがと」

 少し行ったところで蛍が俺の背中から降りた。

「なんでだよ。ついでだから家まで送ってくぜ?」

「ううん、もうすぐ近くだから。ありがとね、送ってくれて」

「すぐ近くだったらなおさらじゃねーか。家まで送ってくよ」

 ここまで送ってきたんだ。中途半端で終わんのはなんか納得がいかない。

「やだ〜横島くんこわ〜い。送り狼〜?」

「んな!?」

「だってそうとしか思えないわ。もういいって言ってるのに無理やり乙女の家に押しかけようなんて……横島くんってそんな人だったのね」

「だ〜〜!!! わかったもう帰るよ!! ホントに大丈夫なんだな!?」

「うん…大丈夫。それじゃ、またね」


 純粋に心配してたのに……なんか俺って……まあ、日頃の行いのせいか………

 俺はそのまま帰ろうと蛍に背を向ける。すると、蛍に声をかけられた。


「ねえ…横島くん……」

「なに?」

「あたしを……助けてくれる………?」

「…? なに言ってんだ? 当たり前じゃねーか。助けるに決まってるだろ」

「……ありがと。ごめんね…変なこと聞いて」


 そう言って微笑む蛍。でもその微笑みはいつもの独特ないたずらっ子の様な笑みではなくて………

 とても、弱々しい笑みだった。




 まるで、あの時のルシオラのような………





「蛍、なにか隠してないか?」

 蛍はなにも答えない。

「なにか隠してるんだったら……言えよ!」

 自然と声が荒くなっていた。


 もう、嘘をつかれるのは嫌だ。

 そう、思った。



「あのね…横島くん……」

 蛍が口を開く。

「あたし、別に隠してることなんてないよ?」

「嘘だ」

「ホント…でも、強いて言うなら……」

 俺は耳に全神経をかたむける。どんな言葉も聞き漏らさないように。



「あたしが、横島くんのことを好きってことかな」



 …? …!? …!!? !!!!????


 なにゃぁ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!

 なんだ!? なんだこの展開は!? こんないきなりおいしい展開、あっていいのか!?


「ほほほほほたほたるるる…!?」

「だから……お願い、目をつぶって?」

「どどどど…え、ええ!?」

 どーする! どーするべきだ!?

 俺の頭の中で緊急会議が開かれる。

 しかし、そこでの答えは満場一致。


『とりあえずつぶっとけ!!』


「横島くん………」

「ほ、蛍……」

 近づいてくる蛍の顔。俺はゆっくりと目を閉じた。










「………あれ?」

 いつまでも期待していた感触がこないことに疑問を感じ目を開けると………

 そこに蛍はいなかった。



「ぬああぁぁぁぁぁ!!!! ほぉたぁるぅぅぅ!! 男の純情踏みにじったなああぁぁあぁぁ!!!!!!」



 まさに心の底からの叫び。道行く人が何人も俺の方を見つめていたが今の俺にはまったく気にならなかった。











「うふふ……正々堂々、だもんね。おキヌちゃん」

 あたしは横島くんが目を閉じている隙にその場を離れ、わざと人通りの少ない路地に入っていた。

「ホント…横島くん、変なところで勘がするどいんだから」

 置いてきぼりにされた横島くんはどうしただろう? 想像するとクスッと笑いが込み上げてきた。

 でも、怒るかもしれないな。ホントのことを言わなかったこと。


「それで、いつまで隠れてるつもり?」

 あたしの後ろで気配が動く。

 振り向くと、長い黒髪の男が姿を現していた。


「なんのつもり? ここ最近ずっとつけまわしてたでしょ。一体、なんの用なのかしら?」


 黒髪の男がゆっくりと口を開く。






「ICPOオカルトGメンの西条輝彦だ。牧之瀬蛍クン、君にご同行願いたい」


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