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横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

大狂宴!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/ 6/11


「…ユーミルの首が言ったとおりだね。」

呟くロキの表情は、いつになく真剣で鋭利な雰囲気さえたたえていた。

その鼓膜に、神殿に朗々と流れる言葉が蘇る。


《悲しみにくれるふたり。いまだ夜の夢のなか─。》

《悲しみにくれるふたり。やがて相まみえん。》

《ひとりは夜明けを告げに。ひとりは朝を讃えに。》

《悲しみ越えしふたり。夜のものを彼方へと追いやらん─。》

《ふたり。いまだ帰らぬ─。》


「…心せよ。夜明け前こそが真の暗闇である─…か。」

「? ロキ様…何をぶつぶつと言っているんですか?」


不思議そうに首を傾げる魔鈴に、ロキはにっこりと笑いかける。

マイクをくるっと口元にもっていったとき、すでに声もいつものとおり軽いものに変わっていた。


『こっちの話さ♪ さて、残り時間もあとわずか! ゲームの行く末が楽しみだね♪』



         ◆



横島が気を失っていたのは、わずかな時間だったらしい。

残りは1時間と少し─。

あいも変わらず、こそこそと気配を消して辺りをうかがい移動する横島。

そのさまは、まるでネズミかはたまた害虫か。

普通の者なら気付かない、見事な隠行であった。


「だが、油断は出来ん! どこから襲ってくるのかわからんからなー…。」

「見つけたよッ、横島くん!!」

「って言ってる傍からこれかいッ!! 脈絡ないにもほどがあるぞッ!?」


あまりに突然な背後からの襲撃に、横島は運命という脚本に毒づく。

襲撃者の正体は、動きやすいように上着を脱いだ唐巣神父だった。

鍛え上げられ、意外と逞しい体つきがはっきりと見て取れる。


「ピートの仇だッ! 覚悟はいいねッ!?」

「やったのは俺じゃなくて、厄珍だろうがッ!!」


とどめをさしたのは魔鈴だったりする。

だが、そんな横島の抗議などお構いなしに、唐巣はトランス状態に入っていく。


「《─復讐の神 主よ! 復讐の神よ! 光を放ってください! 地を裁く方よ 立ち上がってください!!》」

「ってコラァーッ!!」


言葉を紡ぐごとに唐巣へと力が集まり、そして放たれる。

唐巣の一撃が横島へと迫り……突如として消失した。


「なに…ッ!? 掻き消された…強大な霊圧で? …まさかッ!!」

「そこまでですッ!!」


凛とした声とともに、ふたりの間に風をまとった小竜姫が降り立った。

すらりと神剣を抜き放ち、唐巣へとその切っ先をむけて見据える。


「…私を阻みますか。」

「当然です。あなたこそ、師に対し敬意を払うべきではありませんか?」


静かな圧力が広がっていくのを、横島ははっきりと感じていた。

神族と聖職者のあいだで、あってはならない不可視の火花が舞い踊る。


「今の私には、神の家を再建するという天命が与えられているのです。その程度では引けません。」

「立派な信仰心ですね。だったらなおさらのこと、ではないですか?」

「何を仰られても無駄なこと。私は以前にもまして神を身近に感じているのです。」


そら身近にも感じるだろうよ。どっちも欲望丸出しだし。

横島は突っ込みたい衝動を必死にこらえた。


「今の私は、たとえ小竜姫様といえど止められませんよ。」

「…なるほど。ならば、神に近づいたと言うその傲慢…─私が思い知らせてあげます!」






その『ふたり』は、物陰からその成り行きをずっとうかがっていた。

真正面から行けば勝ち目はない。

ならば、これ以上ないタイミングで横から獲物をかっさらう! と考えてのことだった。

そして彼女らが待っていた瞬間が訪れる。

小竜姫が唐巣へと飛び掛ったそのとき、『ふたり』は仕掛けた─。




踊りかかる小竜姫に唐巣が迎え撃とうとしたそのとき、それは飛んできた。

シュルシュル…という音に振り返った横島が見たのは。


「み、ミサイルゥゥ〜ッ!?」


そしてそれは、驚く横島たちの目の前で爆発する。

轟く爆音と噴きあがる爆炎。

その惨状に突撃する者たちがいた。


「よくやった、マリアッ!! まだまだガンガンいくワケ!!」

「イエス! ミス・小笠原!!」


駆けながら、さらに砲火を撃ちこむマリア。

その後に続きながら、エミは高笑いをあげる。


「ホホホッ!! さすがマリアの霊体スキャンなワケ! この子についてきゃ、必ず当たると思ってワケッ!!」


さらにスピードをあげてエミは、直撃したであろう横島を捕獲しようと突撃する。

だが、その爆炎の中より黒い影がエミに襲い掛かった。

すんでのところで足をとめ、突き出された腕をかわしたエミは驚愕に目を見開く。


「あ…アンタ、雪之丞!?」

「チッ…外したか!」

「何やってますの、雪之丞!!」


煙が流れ、魔装術をまとう雪之丞の後ろからさらに、水晶観音を身に付けた弓かおりが歩み出る。

どうやら『ふたり』はもう一組いたらしい。


「まったく…隙をみて飛び出したのに、なんなんですのコレはッ!?」

「お…お前ら、いつの間に…!」


さらに横島の姿も見えてきたが、服や肌のすすけ以外、やはりというか目立った怪我はない。

その姿をみとめ、雪之丞の目つきが鋭くなる。


「テメーッ、横島!! テメーのせいでママに会ってきちまったじゃねーか!!」

「根に持ってたんかい!! いいじゃねーか、ママが好きなんだろッ!?」

「会うのはもう少し先でいいわいッ!!」


誰だって早死にはしたくない。しかもあんな(詳しくは『一番乗り!!』参照)誤解では。

ギャーギャーわめくふたりに痺れをきらし、弓が雪之丞をせっつく。


「…雪之丞!」

「お、おうッ! とゆーわけで、改めてテメーを捕まえて、俺たちのために犠牲になってもらう!!」

「ふざけんなぁッ!! 孤高の一匹狼とちゃうんか!!」

「それが、俺の復讐だッ!!」


せこい…せこすぎるぞ、雪之丞。

堂々と胸をはる雪之丞に、横島はこめかみを押さえた。


「それじゃ、覚悟しなッ!!」

「あッ! 抜け駆けはさせないワケーッ!!」


雪之丞に負けじと、エミも横島に向かって疾駆する。

だが、そこにふたたび爆音が炸裂する。


「させないと言っているでしょう!!」


煙を突き破って飛び出したのは小竜姫だった。

その後につづくように、ぼろぼろながら唐巣も飛び出す。

その勢いのまま小竜姫が剣を振り下ろすと、突風が吹き荒れてエミ達を吹き飛ばす。


「わップッ!?」

「な、何だァッ!?」

「今のうちに…横島さんッ、さぁ!!」

「さぁ、とか言って手を伸ばされても困るわァーッ!!」


小竜姫の腕が、横島へと伸ばされ…されど、それが届くことはなかった。

両者の間にマリアが立ちはだかり、小竜姫の腕を掴み取る。


「横島さん・渡さない!!」

「くッ…! 離しなさい、マリアッ!!」

「ノー!!」


マリアの各部モーターがフル回転する音が聞こえ、小竜姫の体がふいと持ち上がり横に向かって投げ出される。


「キャ…ッ!?」

「へ? わあっ!?」


振り回された形の小竜姫と、その脇を通り抜けようとしていた唐巣が激突。

ふたりはそのまま、マリアの怪力に吹っ飛ばされる。

横島はこの時、一瞬フリーとなり、そして彼はそれを見逃すような男ではなかった。


「サンキュー、マリアッ!! そのまま足止め頼むぞーッ!!」

「ノー・横島さん!! ロケットアーム!!」

「ブッ!?」


駆け出した横島を、視認することもなくセンサーのみで補足するマリア。

打ち出された腕は、がっちりと横島の足首を掴み、横島はしたたかに地面へと顔から突っ込んだ。

おまけにその格好のまま、マリアのアームが引き戻される。


「ターゲット捕獲! アーム・回収します!!」

「イテテテッ!! お前は俺を助けたいのか、苦しめたいのかどっちじゃーッ!!」


なんとか逃げ出そうとするのだが、引きずられていて上手くいかない。

その間にも、マリアのアームはどんどん巻き取られていく。

もしも、マリアに完全に捕縛されたら、逃げ出すのはかなり難しい。

だが、横島のそんな懸念は、ガキィッ!! という金属音に遮られた。

同時にアームが離れたことを感じ、考えるより先に距離をとるのはさすがというか。


「そんなカラクリに、先生を渡すわけにはいかんでござる!!」

「シロ!!」


横島が顔を上げると、幽体を戻して追いついたシロが、凛々しく霊波刀を構えてマリアを見据えていた。

だが、その目がふいに涙目になり、横島を振り返る。


「せんせぇ〜!! 『放置ぷれぇ』は酷いでござるよ〜!!」

「ばッ…! 人聞きの悪いことをゆーな!! というか、どこでそんな言葉おぼえた!?」

「拙者も人間社会のことを勉強してるでござるよ! ところで…。」


ちろっ、とシロが見れば、何事もなかったようにアームを戻したマリアが近づいてきている。

表情の乏しいマリアの顔が、珍しく険しいものになっていた。


「拙者の剣で壊れぬとは…なんで出来てるんでござるか、マリア殿は…?」

「マリア・横島さん・渡さない! 警告!! 障害は・排除します!」

「ほほう……なら、やってみるでござる!!」


シロの声を合図に、剣と拳が交差する。

いきなり始まったバトルに、横島が驚きを通り越して呆れていると、くいっと襟を引っ張られた。


「さ、バカ犬が目的を忘れてるうちに…。」

「タマモ!? もう正気に戻ってたのか…!」


驚く横島に、タマモは冷たい眼をむける。

それは凍りついた怒気とでも呼ぶべき、寒気を覚えさせるものだった。


「よくも私をコケにしたわね…。 もう油断はしないから、同じ手が二度通じるとは思わないでよね?」

「………。」


うつむいた横島を観念したと思ったか、タマモは少し上機嫌になった。

得意げな表情でずるずると獲物を引きずっていく。


「まあ、アンタも人間にしちゃ、たいしたもんじゃない? 九尾の狐を幻術でだますなんて…。」

「…─って、離すでござるよ、タマモッ!!」

「えッ?! し、シロ!? 何でアンタが…ッ!!」


いったいいつの間にすりかわったのか、じたばたと暴れるシロに目を剥くタマモ。

慌ててあたりを見回すと、少し離れたところに横島がにやにやと立っていた。


「く…ッ! 逃がすもんか!!」


馬鹿にされたと感じて、タマモはほとんどタックルするように飛び掛る。

今度こそ捕らえた手ごたえ。


「よしっ、捕まえ…!!」

「なっ、何するでござるか、タマモッ!?」

「へッ!? え、えぇッ!? シロ…なんでっ、どしてッ!?」


ふたたび、横島と思っていたものが一瞬でシロと入れ替わり、タマモはパニック状態になる。

まるで悪い夢でも見ているようだった。


「だって、シロはあそこに…!? ってシロが二人!?」


タマモが振り返ると、そこには確かにシロ。自分の腕の中にもシロ。

確かにシロが二人いた。

だが、最初のシロの様子がふいにおかしくなる。

体が小刻みに揺れ始めたかと思うと、なんといきなり左右に割れたのだ。

その中から現れたのは、してやったり顔の横島。


「えっ! えぇぇ〜ッ!?」

「ひっかかったな、タマモ? 俺は最初からすりかわっちゃいないぜ?」

「ってことは…あっ!! ひょっとして…!!」


自信満々に笑う横島を見ながら、ようやく理解できてきたタマモ。

つまり、最初のシロは捕まっていた横島で、エクトプラズム錠『ヘンゲリンα』を使って化けていたもの。

その後、文珠を転がしてシロの後姿に、横島の『影』を投影する。

結果、タマモは横島とシロが入れ替わったと勘違いして、自ら横島を開放してしまったというわけだ。


「また、騙されたぁ〜ッ!!」

「いいから、早く離すでござるッ、タマモ!!」

「排除・します!!」


どたばたと揉みあうシロとタマモに、容赦なくマリアの攻撃が炸裂する。

もはや横島を追うどころではない。


「はははっ!! じゃあ、そーゆーことで…」

「─ちぇいっ!!」

「ヒッ?!」


立ち去ろうとして視界に入った光に気付き、とっさに腰を落とした横島の頭上を、白刃がないでいく。

髪の毛が数本、舞い散った。


「くそッ、避けられたか!!」

「さ、西条!! お前、ちょっとしつこすぎるぞ!?」


明らかに自分の首を狙ってきた襲撃者に、横島は辟易した。

そんじょそこらの悪霊よりも気合の入った執念である。


「次は外さん!! 動くなよッ、横島くん!!」

「ふざけんじゃねぇッ!! 誰が…!!」

「今ですジャー!! 西条さんッ!!」

「ぐはっ!? って、タイガー!! 生きてたのかッ!!」


逃げようとした横島を押さえつけたのは、ところどころ包帯をまいたタイガーだった。

その目は、復讐の炎に燃えている。


「横島さんのせいで、真理しゃんにぼこぼこに殴られたからノー…。これは、そのお返しジャー!」

「ちょ、ちょっとタイガー! 横島さんを捕まえるんじゃなかったのかい!?」


後ろにいた真理が思わず抗議するが、タイガーに離す気配は全くない。


「その前に、たっぷり恨みを晴らさせてもらうんジャー!!」

「そーゆー事なら、俺も。」


そう言ってひょっこりとわいて出た雪之丞も、横島を取り押さえにかかる。

目が据わっているところから見て、マジだ。


「ちょ、お前ら…!!」

「ふふふ…日ごろの報いだよ、横島くん。」


妖しい笑いをこぼしながら、ゆっくりと近づいてくる西条。

横島はせめて言い返したかったが、あながち間違ってもいなかったりする。

西条のもつ霊剣が、高々と掲げられた。


「往生したまえッ─!!」





「お前たちのせいで、いらん時間を潰してしまったではないか!!」

「ワルキューレだって暴れてたじゃないでちゅか!!」


疾走しながらのワルキューレの言葉に、パピリオが噛み付く。

その後ろからは、べスパが。

さらにジークとその背中に残骸と化した土偶羅が背負われて、ついてきている。

ひとしきり暴れた後、本来の目的を思い出して一時休戦。

こうして、揃って横島を探していたのだ。


「姉上〜、もういい加減に…!」

「ちょっと! いたよ、あそこ!!」


べスパが指したほうを見れば、いままさに西条が横島へと刃を振り下ろすところだ。

首だけになった土偶羅が、その状況に顔を青ざめさせる。


「お、おい、やばいぞ!!」

「わかっている!! やらせは……せんッ!!」


すかさずワルキューレが、背中の大筒を構えてぶっ放した─。




辺りに飛び散り、いまだパチパチと燃えている木片。

床に倒れ伏す、いい具合に焦げた西条たち。少し離れたところでも、小竜姫たちがあおりを喰らって倒れている。

その惨状を目の当たりにして、ジークの頬がひきつる。


「あ…姉上…やりすぎでは…?」

「目標捕獲のためだ、気にするな。」


魔界では獲物を捕らえるために、炸裂焼夷弾を使用するのだろうか。

ジークの表情を見るだに、そうとは思えんが。


「─あれっ? んと…あれれっ!? ヨコシマがいないでちゅ!!」

「なにッ!?」


パピリオの言うとおり、見回してみても横島の姿はない。

そのとき、土偶羅の視界にふと影がよぎった。


「上だ!! 上におるぞッ!!」


はっとして皆が見上げると、その頭上を横島が通り過ぎるところであった。

右手から伸びたハンズ・オブ・グローリーが天井に突き刺さっている。


「フハハハッ!! 俺も伊達に死にかけとらんのだ!!」


ぶぅんと振り子のように勢いをつけ、天井すれすれを横島は飛んだ。

地面に落ちる前に次の場所へとハンズ・オブ・グローリーを打ち込み、見事なフットワークで移動していく。

美神に突き落とされたとき、とっさに思いついたことの応用技である。


「おのれ〜ッ!!」

「く、くそ…ッ!! 待ちたまえ、横島くん!!」

「先生!? ズルイでござる〜!!」


起き上がってきた者が口々にわめくが、そんなもの横島は気にしない。

まるで、アメリカンコミックの某クモ男の如く、宙を舞う。


「大いなる力には、大いなる責任がともなうのだ〜!! ワハハハハッ!!」


わめく追跡者たちを尻目に、横島は天井裏へと姿を消した。



          ◆



「…畳みかけるような展開でしたね。」

『…はっちゃけてますな。』

《…皆さん、かなり錯乱していたようですね。》


モニタールームに響く、三人の冷静なコメント。

そして彼らは揃って、疲労感漂うため息をつくのだった。


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