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tragic selection

予兆  長い一日


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 6/11

「横島さん、体の方はもういいんですか?」

 ピートが登校して来た俺に声をかけてきた。相変わらず学校来るの早いなこいつ。

「ああ、もう平気だ。バリバリ本調子だぜ」


 蛍とおキヌちゃんの看病(?)の甲斐あってかあれから熱は嘘のように下がり、今日の朝には完治していた。我ながらデタラメな体である。


「馬鹿は風邪ひかないって言うのにね〜」

「おい、愛子そりゃどういう意味だ?」


 愛子が近寄ってきて会話に加わってきた。


「言わないとわかんない?」

「…もうええわい」

「うそうそ! 冗談よ! よかったね。すぐに良くなって」

「それはあたしのおかげよね♪」


 ………


「蛍!? いつの間に!!」

 本当にいつやって来たのか蛍はいつの間にか俺の後ろに立っていた。


「おはよ! 横島くん。良くなってよかったね!」

「ねえねえ、蛍。さっきのどういう意味?」


 先ほどの蛍の発言に気になるところがあったのか、愛子が蛍に詰め寄る。

「う〜ん? それはね〜……」

 蛍がこちらに顔を向ける。あのいたずらっ子のような笑みを浮かべて。


「おい、ちょっと待て蛍……」

 猛烈に嫌な予感がした俺は蛍を引き止めた。が、蛍は意に介さず愛子になにやら耳打ちを始めた。

 途端に愛子の顔がゆでだこの様に赤くなる。


「よ〜こ〜し〜ま〜く〜〜ん」


 愛子が般若のような顔でこちらに迫ってくる。


 マジで怖いデス。愛子サン。

「おい、蛍! 愛子になんて言ったんだ!?」

「え〜? 横島くんがあたしにナースのコスプレを強要して抱きついてきたって事実を言ったまでだよ?」

「おいぃ〜〜〜!!!」

「本当ですか!? 横島さん!」

「な、なんてうらやましいんジャー!!」

「んなワケねえだろ! しっかり聞いてんじゃねえ!! ってかいつの間に来たんだタイガー!!」


 あぁ! なんで朝からこんな目に!? 病み上がりなんだからせめて今日くらいはゆっくりさせてくれ!!


「そういえばおキヌちゃんには巫女服着せてたわね〜」



 ……………時が止まった。




 …そして再び時が動き始めたとき。




「横島くん、さいッてええぇぇーーーー!!!」

「一体なにを考えてるんですかあなたはーー!!!」

「こ、この外道! 生かしちゃおけんですジャーーーー!!!!!」




 俺は血に染まったダルマと化した。



「あら〜………やりすぎた?」



 蛍の呟きにつっこむ力は、なかった。









「なにしとんだ横島。遊んどらんで席に着け」

 担任が血まみれで倒れる俺を冷たく一瞥する。

 この野郎……どう見りゃ遊んでるように見えるんだ………


 まあそう言いながらも俺はしっかりと傷も塞がって席に着いてたりするのだが。


「……以上が主な連絡事項だな。それと除霊委員はあとで前の方に来てくれ」


 ふ〜やれやれ。便所でも行くか。

 SHR(ショートホームルーム)が終了し、トイレに行こうと教室を出ようとした俺だったが担任に襟をぐいっと掴まれてしまった。


「除霊委員は前に来いと言ったろーが!」

「ええ〜い! だから人に勝手に妙な役職ふるんじゃね〜〜!! 大体なんでお前らは素直に前に出とるんだ!」

 ピート、タイガー、愛子、蛍は素直に前に出てきている。


 ん? 蛍?


「蛍? お前なにしてんの?」

「除霊委員新入隊員牧之瀬 蛍でっす!」

 蛍は高らかに宣言すると敬礼のポーズをとった。

「よろしく! キャプテン!!」

 蛍がまさに百万ドルの笑顔というにふさわしい笑顔を俺にむける。

「キャプテンだそうだが?」

 担任が俺をじろりと睨む。心なしか襟を掴む手の力が増したようだ。


「…やりゃいいんだろ、やりゃ」

「そう、やればいいんだよ。やれば」

 にっこり笑う担任。う〜ん殴ったろか。





「実は一年校舎のトイレで変な声が聞こえるって噂がたってるんだよ」

 担任は最近になって変な声を聞いたと訴える一年生が出てきたんだと語った。

「僕たちがそのトイレの調査をすればいいんでしょうか?」

 ピートが確認をとる。さすがに真面目だなこいつは。

「まあそういうことだ。一年生の間じゃ『トイレの花子さん』などと騒がれてる。悪い評判が立つ前になんとかしてほしいのさ。それじゃ、頼んだぞ」

 担任はそれだけ言うと教室から出ていった。


「……どうする?」

「とりあえず、昼休みにでもそのトイレに行ってみない?」

「まあ……そうですね。とりあえず見てみないことには……」

「早めに処理しないとまた何か起こるかもしれんですジャー」


 上から愛子、蛍、ピート、タイガーだ。まったく、なんでみんなそんなにやる気なんだ? 報酬も出ない除霊なんて疲れるだけじゃねーか。


「横島くんもなにか考えてよ」

 愛子が俺に注意してきた。なにも意見を出さない俺の態度が気に入らなかったらしい。

「考えたって仕方ないだろ。現場に行ってみないことには。とりあえず待とうぜ。昼休みまでさ」





 そして昼休み……………


「横島さん、起きてください。横島さん!」

「…んあ?」

 机に突っ伏して惰眠をむさぼっていた俺はピートによって起こされた。

「よおピート………なに?」

「寝ぼけないでください! 行きますよ。例のトイレへ」

「…ああ…そうだったな……」

 皆はもう廊下に集まっている。

 俺は完全に覚醒しきらない頭をふりながら皆とともに例のトイレへと向かった。




「ここですね……」

 俺たちは一年校舎のトイレの前にたどり着いた。そのドアには『立ち入り禁止』の貼り紙が貼ってある。


「別になにも霊気は感じませんノー」

「声が聞こえたっていうのはどっちのトイレなのかしら?」

「先生の話だと女子トイレらしいわよ」

 男子トイレと女子トイレを見比べて言う愛子に蛍が答える。

「とりあえず入ってみようぜ。ここでこうしててもラチあかねえよ」

 俺がそう言ってトイレに入ろうとすると愛子と蛍に思いっきり足を踏みつけられた。


「ぐぅっ!!?」


「女子トイレって言ったでしょ。私と蛍で入ります」

「も少しデリカシー持とうね〜横島くん」


 俺は別にやましい思いなんてないのに………


 俺は激痛に耐えながらトイレへと入る二人の背中を見送った。







「なにもないわ」

 出てくるなり蛍が言った。

「中で霊気を探ってみたけど霊が居たって痕跡すらなかったわよ?」

「どういうことなんだ…?」

 ピートが顎に手をあてて考え込む。

「時間帯が悪いんじゃないか? 声を聞いたっていうのは夜に集中してるんだろ?」

 俺はとりあえず思いついたことを言ってみた。

「でも、霊気がまったく残ってないってのは変ですノー。声をだした奴は今どこにいるっていうんジャ?」

「んなこと知らねえよ。でもここに何かが居たってのは確かなんだ。昼にいないってことは、夜しかないんじゃないか?」

 俺の言葉を聞いてピートは愛子に向き直った。

「愛子さんはいつも学校にいるんですよね。夜になにかを感じたりしませんでしたか?」

「私教室からあんまり動かないから……わからないわ、ごめんなさい」

「いえ…そうすると夜もう一度ここに来るしかなさそうですね」


 なんてこと言い出すんだこの真面目美形は!!


「俺パス」

「なにを言うんですか横島さん! 委員への責任感はないんですか!」

「あるかそんなモン!! なんでノーマネーでプライベートタイムまで犠牲にせなならんのだ!!」

「ほっといたら大変なことになるかもしれないんですよ!? 今はまだ大したことにはなってませんけどいずれ何かが起こるかもしれない。ひょっとしたら死者がでることだって…!」

「ぐっ……」

「や〜だ〜横島くん自分が良ければ他の人はどうなってもいいの〜?さいてぇ〜」

 蛍がにやにやしながら俺の悪態をつく。


 こ、このあま〜〜〜!


「わかったよ! やりゃいいんだろやりゃ!!」

「はいよくできました♪」

 蛍が俺の頭をぽんぽん叩く。

 はぁ…もうどうにでもしてくれ………


 
 結局、夜九時にまた校門のところへ集まることになってしまった。









 九時………………


「横島くん遅い!」

「わりッ」

 俺が校門に着いた時にはもう皆集まっていた。

「それじゃあ行きましょうか」

 ピートを先頭に校舎へ向かう。

「そういや、鍵閉まってんじゃねえか?」

 俺はふと思った疑問を口にする。

「大丈夫ですよ。事情を説明して借りておきました」

 ピートはそう言って懐から鍵の束を取り出した。


 準備がよろしいことで。



 正面玄関の鍵を開け、中へ。

 廊下を進み、右へ曲がるとすぐにトイレに着く。


 瞬間、皆が息を呑んだ。


 明らかに昼とは雰囲気が違う。

 冷や汗が背中を濡らす。喉が渇いてきた。全身の毛は逆立ってしまっている。


 何が…いるんだ……?


 俺はゆっくりとドアを開ける。今度は愛子も蛍も止めなかった。





 そこには一人の魔族がこちらに背をむけて立っていた。

 見た目は美しい黒髪の乙女。しかし、一目で魔族とわかる背中から伸びた漆黒の翼。

 なによりもその女性から放たれる禍々しい魔力。そして、殺気。


 『トイレの花子さん』? 

 
 ……冗談じゃねえ!!! そんな可愛げのあるモンじゃねえ!!!!


 その女魔族はゆっくりとこちらを振り向いた。その顔に微笑みをたたえて。



『爆』



 ドオオオオーーーン!!!!!!


 思わず文珠を放っていた。そこから発生した爆発で校舎が崩れだす。

「みんな! 俺につかまれ!!」

 皆がつかまったのを確認して俺は『転』『移』の文珠を発動し、校庭へと脱出した。



「横島さん…今のは……」

「ああ…シャレんなんねえ。中級魔族くらいの力は軽くあるぞ。なんであんな奴がこんなところに……」

 しかし、同時に俺は納得もしていた。

 なるほど、あれほどの力があれば気配を消すことなど容易だろう。


 ガラガラガラッ

 
 瓦礫の山と化した一年校舎。その瓦礫を押しのけて、魔族は再び姿を現した。


『ひい、ふう…五人か』


 突然、喋りだす。透き通るような、きれいな声だった。

『なんのようですか? あなたたち』

 魔族は俺のほうを見ている。俺に聞いてるんだろうか? しょうがない。

「いや…妙な声がするっていうからトイレを調べてただけなんだ。まさかアンタみたいなのがいるとは思わなかった……なんでこんなところに?」

『へえ…いきなり質問してくるなんて、いい度胸をしてますね。別になんてことはありません。私はただ単に気まぐれでここを訪れただけ。特に理由はないわ』

「なぜ、昼は気配を消してたんだ?」

『目立つのは好きではないの。この場所は昼間は人が多いから。行動は夜に制限してるのよ』

「名前はあるのか?」

『ルーデラ。素敵でしょ』

「いつからこの学校に?」

『昨日よ』

「食事は?」

『とってないわ。ペコペコよ』

「んで、俺たちがディナーか?」

『今日はご馳走だわ』

 女魔族、ルーデラはぺろりと舌をだす。


 俺たちが今日来なかったら別の誰かが食われてたってことか……

 ピート。お前の言った通りだったな。


『誰からいただこうかしら』


 ルーデラが動き出す……ゆっくりと。



 激闘が始まった。






 タイガーが幻術で目くらましをかけ、蛍とピートがルーデラに攻撃をしかける。蛍は前のように右手を紫色の獣のような腕に変化させている。

 ルーデラが体勢を崩したところを俺が霊波刀で斬りかかる。

 それでもルーデラは器用に体を動かし、俺の霊波刀を捌ききった。


「愛子! お前は逃げろ!!」

「ううん! 私もたたか…」
「馬鹿野郎!!! 邪魔だ!!!!」

 愛子は戦闘向きの妖怪じゃない。あのルーデラを相手にしてはすぐに殺されてしまうだろう。そう考えた俺は愛子にわざと辛辣な言葉を投げかけた。


 それでも愛子は動こうとしない。


 ルーデラの狙いが愛子に向いた。


「愛子!!!!!!!」


 ドスッ!


 ルーデラの右手が愛子を貫く。

「かは……」

 愛子はその場に崩れ落ちた。

 ルーデラが己の腕についた愛子の血を舐めとる。

『まずい…こいつ、妖怪か』

 ルーデラは愛子に興味を失くしたようだ。止めをさすこともせず、再びピート、タイガー、蛍のほうに向き直る。

「よくも愛子さんを!!」

「許さん!!!」

「これでも食らいなさい!!」

 三人の同時攻撃。ルーデラにダメージを与えることは出来ずとも、注意を引き付けるには十分だった。

「愛子!!」

 俺はその間に愛子の側に駆け寄り、『治』の文珠を使った。意識は戻らなかったが、一命を取り留めることはできたようだ。俺は『護』の文珠をそっと愛子に握らせる。すぐに文珠は発動し、愛子を結界が包んだ。

「少し…寝てろ。カタキ、取ってやっから」 


 どしゃどしゃどしゃッ!


 何かと地面がぶつかる音が三つ。

 ピート、タイガー、そして蛍が倒れていた。


『さて、誰から頂こうかしら?』

「俺を殺さない限りそいつらを食わせはしない」

 俺はルーデラの前に立ち塞がる。

『あらあら。いいかげんお腹空いてるの。どいてくれない?』

「どかせたきゃ、殺すんだな」

『じゃあそうするわ』


 ドスッ! 


 腹部から背中にかけて走る激痛。

 ルーデラの右手が俺の腹部を貫いていた。


「あ……あぁ!!!」

 
 ブシャァッ!


 俺はルーデラの右手を腹に固定し、霊波刀で切り落とした。

『!!? ぐアァ!!!』

 ルーデラはすぐに俺から距離をとった。その隙に『治』文珠を腹にあて、治療する。だが、やはり完全には回復しなかった。

『キサマ…よぉくもおぉ!!』

 髪を振り乱し、叫ぶ。本性を現したようだ。

『殺すッ!!!』

 ルーデラが今までで最速のスピードで突っ込んでくる。

 
 かわす術は、なかった。だが、死ぬワケにはいかない。俺の命は俺だけのものじゃない!

 俺は霊波刀を構えた。


 だが。


 そんな俺の目の前でルーデラは突然左に弾け飛んだ。


『な、なに……!?』

 ルーデラが驚愕の表情で見つめた先。先ほどまでルーデラの体で死角となっていたところ。



 蛍が、立っていた。




「殺させはしない……」

 蛍はルーデラと向かい合う。

「横島くんは…あたしが守る」


 俺はそこで蛍の異変に気づいた。

 右腕だけだった獣の腕は、両腕ともソレとなり。

 そこから発せられる魔力はルーデラに勝るとも劣らずの霊圧を誇っていた。


「たとえ、そのためにあたしがどうなろうとも……」

 蛍とルーデラの距離が縮まっていく。

 ルーデラは完全に怯えていた。


『あなた……何者なの………?』


「横島くんを、死なせはしない!!!!」



 ドゴォォォ!!!!





 一瞬。


 振り下ろされた蛍の両腕の先にルーデラはすでに存在していなかった。



「横島くん………」

 蛍は俺の方を振り向くと、そのまま崩れ落ちた。


「おい! 蛍!!」

 俺は慌てて駆け寄り、蛍を抱き上げる。

 どうやら意識を失っているだけのようだ。







 最後に蛍が見せた圧倒的な力。

 人間からは発生するはずがない巨大な魔力。








 そんなこと、どうでもよかった。





「ありがとう、蛍…………」



 長い一日が終わった。


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