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tragic selection

馬鹿もたまには風邪をひく


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 6/ 9

「ぶぇーーッくしょん!!!」

 うう…体がだるい………

 どうやら思いっきり風邪をひいてしまったようだ。

 文珠で治療しようとしてもうまく霊力を集中できない。つまり文珠を創れない。


ピピピピ、ピピピピ

 電子体温計が計測終了のアラームを鳴らす。

 どれどれ…何度かな……

 俺は脇にはさんでいた体温計を取り出した。


「よ、40度………」

 俺…死ぬかも。






 コンコン

「……んあ?」

 体を襲う圧倒的倦怠感+頭痛との闘いに疲れ、軽く眠りについていた俺は玄関のドアがノックされる音で目を覚ました。


 コンコン

「……開いてるよ〜」

 なんとかそれだけをしぼりだす。

 ちなみに俺は基本的に留守にする時以外は鍵をかけていない。


 ガチャッ

「横島く〜ん。大丈夫? お見舞いにきたよ」

「ほ、蛍!?」

 やってきたのは制服姿で少し大きめのバッグをもった蛍だった。


「お、お前、学校は?」

「もう終わったよ?」

 そう言われて俺は時計に目を向ける。すでに5時を回っていた。

 けっこう長いこと寝てたんだな…


「横島くん、なにか食べた?」

 蛍が布団に寝込んでいる俺の顔を覗き込む。


 近い…近いって……

 俺は間近に迫った蛍の顔から目をそらした。ただでさえ高い体温がこれ以上上がっちゃたまらん。

「い、いや…今日はまだなにも食べてない。何も食う気しなくて…」

「だめだよそんなんじゃ。治るものも治らないよ。あたしがお粥作ってあげるからちゃんと食べなさい」

「ああ……サンキュ」

 蛍はにっこり微笑むと「腕がなるわ」といってキッチンにむかっていった。

 すぐにトントンと野菜をきざむ音が聞こえてくる。


 う〜ん、なんか俺って………


 幸せ者だなあ。






「さ、出来たわよ♪」

 しばらくして蛍が完成したお粥を持ってきた。

 俺はお粥を食べるため無理やり体を起こす。

「サンキュー。ありがたくいただく…よ?」


 なんじゃこりゃ?

 おかしいな。お粥ってオレンジ色だっけ?

 それになんでこんなに冷たいんだ?

 はは〜ん。この上に乗ってるアイスのせいだな?


「名付けて『甘がゆ』! オレンジジュースをベースとしたスープに様々なフルーツをトッピング!! 極めつけに控えた甘さがほんのり光るバニラアイス!!! 甘党にはたまらない一品よ!!」


 蛍はこのワケがわからん食い物の解説を始めた。なんでそんなに自慢げなんだ?

 大体俺は甘党じゃない。いや、甘党だとしても………


 絶対にこれは受け入れない。


「さ、横島くん。食べて♪」

 蛍が無理やり「あ〜ん」の姿勢をとってくる。俺は口を開けるしかなかった。


「Я〇#★Щж☆д£▲!?!!!」

 声にならない。

 シャレにならない。

 どうせならフルーツ系に統一してくれ……

 なぜ、ねぎとか野菜類が入ってるんだ……! しかも生で!!

「はい、あ〜ん♪」

 蛍が次々と俺の口に『甘がゆ』なる物体を運び込む。


「お前絶対味見してねえだろおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 などとは言えるはずもなかった。





 蛍の『甘がゆ』を全て平らげた俺は不思議と容態が悪くなっていた。

「ごめん…ひょっとしてまずかった?」

 蛍が泣きそうな顔で俺の顔を覗き込む。

 そうだよな…こいつだって一生懸命やったんだ……

「いや…うまかったよ。なんか元気になってきた」

 俺は少しだけ嘘をつく。

「嘘ばっかり……」

「ホントホント。ほらっ」

 蛍に元気なところを見せようと俺は無理やり立ち上がった。

「な? 元気だろ? …ってあら?」

 しかし俺の体はすでに平衡感覚を失っており、そのまま崩れ落ちてしまった。


「もう、強がっちゃって……ちゃんと寝てなよ」


 蛍が俺に布団をかけてくれる。

「すまん……」

「いいから寝てなさいって」

 それからしばらくの間沈黙が流れた。






「うん、やっぱアレを使うしかないか」

 蛍は突然そういうと俺のバンダナをずらして俺の視界を塞いでしまった。

「ちょ、蛍何を…」

「いーから! こっち見ちゃダメだよ?」


 シュルシュルシュル……

 パサッ


「!!!!????」

 なに!? なにしてるんだ蛍!!?


 ゴソゴソ……


 んがあーーーー!! 気になる!! 一体なにを……


「い〜よ〜」


 俺がバンダナを取ってしまおうとした時、蛍から声をかけられた。

 許しもでたところで俺は勢いよくバンダナを取り去る。


 そこにいたのは…………






 ナース服に身を包んだ蛍の姿だった。





「ンなぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!????」

 俺は思わず体のキツさも忘れ、声を上げた。

「えへへ〜、似合う?」

 蛍は顔を赤らめながらも聞いてくる。

「なんだそのカッコはーーーーーー!!!!」

「横島くんこういうの好きかな〜と思って。さっきのお粥のお詫びにね、着ちゃった♪」

「いや、確かに好きだけど…ってそうじゃなくて! どこでそんなモン手に入れたんだよ!!」

「この前『厄珍堂』ってお店に行ったらそこのおじさんが『キミが着るためにこそこーゆーものは存在してるある!』とか言ってあたしにくれたの。別にくれるんならもらっとこうかな〜ってもらっといたんだけど…早速役に立っちゃったね」


 厄珍………あのアホ……………




 なんていい仕事を!!!!



「は〜いじゃあ患者さんのお熱計りましょうか〜」

「お願いしまーーす!! 看護婦さん!!!」


 ああ! 一度やってみたかった!!

 夢のコスチューム・プレイ!!!!


「やだ…41度! 少し高いですね〜〜」

 蛍もなんだかすごく乗り気だ。

「そーなんす!! 看護婦さん! 僕は体が火照って火照ってもうーーー!!!」

 
 んガバァーーーーーッ!!!!


「キャアッ! ちょっと横島くんそれはやりすぎ……」



 ガチャッ


「横島さん! 風邪ひいたって聞いたんですけど大丈夫ですか!?」



「!!」

「!!!!!!!」

「!!!????」


 おキヌちゃん、とーじょー。






 そして無言で退室。


「あぁ! おキヌちゃん違うんだぁああぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 なにも違わないのだが俺はそう叫ぶしかなかった。














「あーあ、どうするの? 横島くん」

 蛍がどこか嬉しそうな顔で俺に聞いてくる。

「どーするもこーするもねえよ。軽蔑されちまったな〜〜〜」


 言い訳のしようがない。ナース服姿の蛍に抱きついているシーンを見られたのだ。どう見たってコスプレしてやましいことをしていた様にしか見えない。

「はあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 俺は盛大にため息をつく。

 途端に忘れていた体のキツさが戻ってきた。

 俺はそのまま布団に倒れこむ。


「あれ、もう看護婦さんゴッコしないの?」

「さすがに…そんな気分じゃない」


 あぁどうしよう。最近よく家に遊びに来てくれてたのに。さっきだって俺のことを心配してくれて来たに違いないのに。

 もう来てくれないだろうな〜〜。完全に軽蔑されちゃっただろうな〜〜。


 もう、あの子の笑顔は見れないのか………


 まあ、完全な自業自得だ。しょうがない……か………


「ちょっと、横島くん大丈夫?」

 布団に突っ伏したまま動かない俺を心配して蛍が声をかけてきた。



 その時だった。



 ガチャッ

「ん……?」

 またドアが開いた。今度は誰だ?

 俺は突っ伏したまま目だけを玄関に向ける。





「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!??????」



 ぶったまげた。心底ぶったまげた。

 だって、そこにいたのは…………




 巫女服に姿を変えたおキヌちゃんだったのだから。




「おおおおおキヌちゃん!!?? 一体なにを………」

 ってゆーか事務所からここまでその格好で来たのかおキヌちゃん!?

「別に、理由はありません! ただ着たくなったから着たんです!!」

 んなアホな…………


 なぜか不適に笑っている蛍。


 一体どーなってるの?













「えっ? 横島さん風邪ひいてるんですか?」

「うん、そーなんだ。学校を休むくらいだから相当きついんだと思うよ?」

 私はいつものように横島さんの家に向かう途中、偶然会ったピートさんに横島さんが風邪をひいていることを聞きました。

 私はピートさんにお礼を言うと、少し早足で横島さんの家へ向かいます。


 これは、チャンスかもしれない。


 これを機会に、二人の関係を進展させることができるかもしれない。


 私はさらに足を速めました。





 横島さんの家のドアの前にたどり着くと中から横島さんの叫び声が聞こえてきました。

 そんなに具合が悪いんだ。私は急いでドアを開けました。

 そして見てしまいました。



 なぜか看護婦さんの格好をしている蛍さん。

 その蛍さんに抱きつく横島さん。



 私は頭が真っ白になって、その場から逃げ出してしまいました。




 事務所へとむかって走りながら、私はふと足を止めました。


 逃げて、どうするの?

 負けないって、勝ちたいって、そう思ったんじゃなかったの?

 今ここで逃げ出したらもう終わり。

 もう横島さんには会えない。

 それは、嫌だ。


 そこで私は蛍さんの姿を、看護婦さんの制服を着た蛍さんの姿を思い浮かべました。


 ……卑怯です。

 卑怯よ、蛍さん。そんな手で横島さんを誘惑するなんて。

 そりゃ、横島さんちょっとHだもの。ひっかかっちゃうに決まってます。

 そっちがその気ならこっちだって………



 負けないモン。












 今俺の寝ている布団のそばには二人の美少女がいる。

 右側にはナース姿の蛍。左側には巫女姿のおキヌちゃん。

 とっても嬉しいはずのこの状況。

 なのになぜ冷や汗が止まらないんだろう。

 先ほどからずっと沈黙が続いている。堪りかねて俺が話を切り出しても全然続かないのだ。

 ああ、空気が痛い………


 おキヌちゃんと蛍はお互い全然話そうとしない。なんでだ!? この間仲良くなったのと違うんか!? もう一体全体何がなにやらだ。


「あ、あのさ……もう8時だからさ。そろそろ帰りなよ、二人とも。俺はもう大丈夫だからさ」

 俺がそういうと二人は無言で出ていった。二人とも小声で「おじゃましました」とは言っていたが…

「つ、疲れた……」


ピピピピ、ピピピピ


 再び熱を測ってみる。

「よ、42度………」

 思ったとおり、上がっていた。











 横島さんの家を出てから、私は蛍さんと二人でしばらく歩いていました。

「あ〜あ、おキヌちゃんが来なけりゃ決着ついてたんだけどな〜」


 ムカッ


「正々堂々じゃなかったんですか?」

 私はにっこり笑いながら言いました。ちょっとひきつった笑顔になってるな、と自覚しながら。



 すると蛍さんはあの独特の、いたずらっ子のような笑みを浮かべて言いました。




「ごめんね、おキヌちゃん。あたしには、ちょっと時間がないからさ」


 …えっ?


「それってどういう意味ですか…?」




 私の言葉に蛍さんはただ微笑むだけで、何も答えてはくれませんでした。



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