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横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

いまは遠き目覚め!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/ 6/ 6


真っ暗な世界。

自分以外に何もない世界で、横島はひとり佇んでいた。


「……久しぶり。ルシオラ。」

「ヨコシマ…。」


横島の声に応えて、ふぅっとその姿が浮き上がる。

ショートカットの黒髪に、バイザー。

そして穏やかな微笑み─。

まぎれもなく、ルシオラであった。

彼女は困ったように、だけど嬉しそうにくすっと笑う。


「また、会いに来たの? だけど、ここは─。」

「わかってるさ。ただの記憶。俺の願望が投影された、なんでもない夢だって。それでも…な。」


二人のそばにベンチが浮かび上がり、ふたりはそこに寄り添うようにして座る。

ふいにルシオラが、からかうような表情で横島を覗き込んできた。


「で? 今はゲームの真っ最中でしょ。頑張ってるみたいだし……ハーレムのために。」

「うっ! そんな目で見るなよ…。一刻も早く、お前に会うためにはだなぁ…。」

「─…ヨコシマ。」


横島が苦笑いを浮かべて弁明をしようとしたとき、ルシオラの表情が真剣なものにかわる。

ひたと見つめてくるその目は、あたかも「わかってるのよ」と言うように。


「そうやっておちゃらけてるフリを、いつまで続けるの?」

「…俺らしいだろ?」

「でも、ときどき塞ぎこんでる…誰もいないときは特に…。」

「……お見通しか。」

「ヨコシマのことならね。」

「お前の嘘は見抜けなかったのになぁ…。俺の嘘はバレバレか。」


横島はそういうと、頭上をあおいでひとりごちる。

ルシオラは、ただ静かに見つめてくれていた。


「……なぁ。俺は本当にお前に助けられるほどの価値があったのか?」

「そうね。少なくとも、私にとっては何よりも。…で、それをうやむやにするために?」

「まあ…それでバカやってる。もとからの性格もあるけどな。……はっきりさせるのが怖いんだよ。」


俺の価値がどれほどのものか。

それを見るのが、ただただ、ひたすらに怖い─。


「悲しみと…お前がいない現実と正面から向き合うのが怖いのもあるな。……怖い物だらけだ。」


臆病な…ああ、本当に臆病なヤツだ、俺は。

こんなにも…弱い─。


「もちろん、このままじゃダメなんだってわかってる。けど…!」

「今はまだ…って言いたいの?」

「…ああ。今はまだこうしてたいし、こうしてることしか出来ない。」


横島はふっとルシオラにすがりつくようにして抱きつく。

ルシオラはそれを受け止め、まるで子供をあやすようにその頭をゆったりと撫でてあげた。


「私はそれを否定しない。出来ない。でもね…。」

「わかってる。いつかは…。」

「そう…いつかは別れを告げなきゃいけないわ。過去は立ち上がるために必要なものだけど…。」

「すがりつくもんじゃないからな。」


でも、自分の中で悲しみだけがどんどん強くなっていく。

すがりつかなきゃ、壊れてしまいそうになるほどに。

向き合うときはきっと…壊れてしまう、まさにその時だろうと、横島は漠然と感じていた。


「ヨコシマならきっと大丈夫だから…。」

「……ルシオラ……それなら─。」


横島の瞳が、つとルシオラを見つめて……。


「せめて別れる前に、夢の中でたっぷり甘えさせてェ─ッ!!」

「って、今までシリアスで、最後はコレッ?! こ、こらッ! ちょっ…やめッ…んッ!!」


…………どこまで、欲望に忠実なのか…。

ルシオラも、そこで嬉しそうな顔をするから、横島がつけあがるのだが。


「あぅッ…ちょ、ちょっと待って、ヨコシマ! …ほら、いい加減にしとかないと、《ママ》が怒るわよ?」

「へッ─?」



          ◆



「…さん!! 横島さん、ちょっ、ちょっと…離してください!!」


おキヌは顔を真っ赤にしながら、必死に抱きついてきた横島を押しやる。

だが、横島はいっこうに目を覚まさず、また離れようともしない。

ズタボロの横島を発見して、ちょっと心配だったからヒーリングをかけていただけだったのだが…。

いきなり、横島に抱きつかれたおキヌは、軽いパニックになっていた。

そして、この場に居合わせた者がもうひとり─。


「この…ッ、変質小僧がッ!! いい加減に離れなさいッ!!」


それまで、横島の突然の奇襲(?)に茫然としていた美神だが、ようやく引き剥がしにかかる。

もし横島が起きていたのなら、すぐさま手を離すだろう怒りの形相だったが、あいにく横島は夢の中。

おまけに、ちょっとやそっとの力じゃ、横島はびくともしない。


「このォ〜…ッ!! 離れんかァ〜ッ、横島ァァ〜…ッ!!」


両手に霊力まで込めて、必死に引き離そうとする。

そのとき、横島がふたたび意外な行動に出た。


「うぅ〜ん…?  …んっ!」

「へッ?! ちょ、ちょっとッ!?」


今までしがみついていたおキヌから手を離し、何と美神のほうに抱きついてきたのだ。

全身を使って引っ張っていた美神もろとも、そのまま後ろに倒れこむ。

…その体勢は、はたから見ていたおキヌにも、横島が美神を押し倒しているようにしか見えない。

さらに不幸というものは重なる。


「ん…んあ…? おキヌ…ちゃん?」


あれほど騒いでも起きなかった横島が、ようやく目を覚ましたのだ。

その目に、まず見えたのはおキヌの怒っているような顔。

横島の寝ぼけた頭では、その状況に思考が追いついていかない。


なんで、おキヌちゃんがいるのか?

…ああ、ゲームの最中で、倒れていた俺を見つけたのか。


怒っているように見えるのは何故?

…はて、何故でせう?


自分の体の下にある、この柔らかくていい匂いのものは何?

…見ればわかるか。


そこまで考えた横島がつと上を向くと…。


「!? み…美神さ…ッ!!」

「………〜〜!!」


顔を真っ赤にした美神が、自分を見下ろしている。

…見下ろすという事は、自分の頭が美神の頭より下にあるということで。

すなわち自分の頭があるのは、美神の…胸…。


「とっとと離れんか、この…うつけ者がァァッ!!」

「へブッ!?」


跳ね起きる勢いを利用した、美神のジェットパンチが横島の顔面に炸裂する。

それは横島の体を縦回転させながら遥か後方、窓ガラスを突き破って外へと吹き飛ばした。


「のわぁぁぁぁぁぁ…………」

「よッ、横島さん!? 美神さん、やりすぎですよ〜ッ!!」


尾を引きながら流れる横島の悲鳴に、おキヌの脳裏に真っ赤なトマトになる横島の姿が浮かんだ。

美神もはっとした表情で叫ぶ。


「しまった!! 吹き飛ばさずに、捕まえておけばァ〜ッ!!」

「………。」


…まあ、この人がこの程度で横島の安否を気遣うわけもなく。



          ◆



「ハァ…ハァ…し、死ぬかと思った…!」


横島は屋根裏部屋の窓の縁に腰掛けた。

地面に激突する直前、ハンズ・オブ・グローリーを伸ばして何とか助かったのである。

ちょっと伸ばしすぎて、ここまで来てしまったわけだが。


「…にしても、とっさに良く出来たなぁ。それに霊力ももう限界だと思っていたけど…?」


あのゴキブリとのバトルで、すっかり精も魂も尽き果てたように感じたが、今ではすっかりいつもどおりだ。

霊力が完全に回復しており、疲労もなくなっている。

どこかで煩悩を補給した覚えはないのだが…さっきのはともかく。


「…ま、いっか。細かいこと考えても仕方ないし、それに…。」


ふと、横島の口元に笑みが浮かぶ。

どこか陰のある、しかしそれを認めている実にいい笑顔が。


「…なんか、いい夢を見た気がするんだよな!」


横島はふたたび駆け出す。

目覚めの時はまだ遠く、されど夜明けのときは近い─。


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