椎名作品二次創作小説投稿広場


tragic selection

出会い


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 6/ 6

 最近、お仕事がつまらない。理由はわかってるんです。横島さんが全然こないから。

 私、「氷室 キヌ」はようやくできた休みの日、久しぶりに横島さんに会おうと横島さんのアパートに向かっていました。




 横島さんが事務所にこなくなってから私は全然横島さんに会っていません。

 平日は学校があるし、週末の休みはたいてい除霊の仕事があります。横島さんがいなくなってしまったため、私に回ってくる仕事が増えてしまったのです。

 学校が終わってから行こうと何度も思ったけれど、元々頭の良くない私は毎日の予習復習をきちんとしないと授業についていけません。同じ班の二人に迷惑をかけることはできないので、これを欠かすことはできませんでした。週末はまだまだ未熟な私ですから除霊のあとは心身共に疲れ果ててしまって横島さんに会いに行く気分にはなれませんでした。

 あと、事務所のお片づけなどに時間をとられたりもしていました。

 ですからここ二週間ほど、私は横島さんにまったく会っていないわけです。

 さすがにたまらなくなった私は美神さんに休みをもらえませんかと頼み込みました。あんなに必死になったのは初めてかもしれません。

 それで今週ようやく休みがもらえたので私はすぐに横島さんに会いに行こうと思ったのです。

「あ、そうだ。横島さんきっと外食ばっかりだろうから久しぶりにご飯つくってあげよう♪」

 横島さんは料理ができないから外食ばっかりに違いありません。いえ、ひょっとしたらお金はあるのにカップラーメンばっかりかも・・・・・・

 そんなことじゃ栄養がかたむいちゃいます。たまにはきちんとしたものを食べさせてあげなきゃ。

「そうと決まれば『善は急げ』です♪」

 私は食材を買おうと近くのスーパーに入りました。

「ん〜、あとこれと〜、あとは玉子かな」

 あらかた食材をかごに放り込んだ私は最後に玉子を買おうと玉子売り場に向かいました。

「あっ! あと一つしかない!」

 玉子売り場には『本日セール!』と書かれた紙が貼ってあり、そのせいかまだお昼なのに玉子は残り一パックとなっていました。

 でもぎりぎり間に合ってよかった。

 そう思って手を伸ばそうとした私の耳に、もの凄い叫び声が聞こえてきました。

「あ〜〜〜!!! 最後の一個!!」

 突然飛び込んできた女の人が神速の速さで最後の一パックをかっさらってしまいました。

「ちょっとすいません。それ私が先に・・・」

 玉子がなくては料理ができない。そう思った私は勇気をだして抗議をしようと声をしぼりだしました。でも、その声も女の人の姿を確認したとたんのどの奥に引っ込んでしまいました。

 そこに突然飛び込んできたその女の人は・・・・・・

「ルシオラさん?」

 死んだはずのルシオラさんでした。






「ひょっとして、おキヌちゃん?」

 ルシオラさん?は私を見ると信じられないという風な目で私を見ていました。

 信じられないのは私の方なんですけど・・・・・・そう思いながらも私が「ええ」と答えると突然彼女が私に抱きついてきました。

「ちょ、ちょっといきなり何を・・・」
「きゃーーーー!!! まさか本物に会えるなんて感激だわーーーー!!!!」

 なに!? ほんもの!? どういうこと!?

「ちょっと! いきなりなんですかルシオラさん! いや、それよりなんであなたがここに居るんです!?」

 思わずでてしまった私の言葉に彼女はにんまりと、まるでいたずらっ子のように笑いました。

「あたし、ルシオラじゃないわよん」

「えっ!?」

「あたし『牧之瀬 蛍』! 横島くんのクラスメイトなんだ! れっきとした人間だよ! ねえ、色々話したいこともあるし、お茶しない?」

 凄い勢いで話す彼女、蛍さん。

 この人はルシオラさんではないの?

 本当はすぐにでも横島さんに会いに行きたかったけれど、あまりにも彼女のことが気になった私はその誘いにOKしました。

「じゃあ行こ! 近くにいい喫茶店があるんだ! パフェがおいしーの♪」







 蛍さんのお気に入りだという喫茶店に移動した私たちは、店員さんに誘導されて一番奥の席に腰を下ろしました。

「あの・・・・・・いろいろ聞きたいことあるんですけど、いいですか?」

「うん、いいよ。なんでも聞いて! あ、店員さ〜〜ん! パフェちょうだい!」

 「おキヌちゃんは?」と聞かれ、私はコーヒーを頼みました。

「あの・・・あなたはルシオラさんではないんですよね?」

「うん、違うよ。たまたま似てるだけ。といってもあたしはルシオラさんって人の顔は知らないんだけどね」

 運ばれてきたパフェをぱくつきながら蛍さんが答えます。

「どうして私を知っていたんですか?」

「デジャヴーランドのマジカル・ミステリー・ツアーでロボットのおキヌちゃんと会ったからだよ」

「あっ」

 すっかりそんなものがあったことを忘れていました。てっきり中止になったかと思っていたのに・・・・・・

 あまりにも自分にそっくりだったロボットのことを思い出し、私はなんだか恥ずかしくなってしまいました。

「あと横島くんからおキヌちゃんの話色々聞いてたからね」

 えっ!? 横島さんが私の話を!? 一体どんな話を・・・・・・いけないいけない、今はそんなことよりもっと大事なこと聞かなくっちゃ。

「そ、そうですか・・・・・・・・・じゃあルシオラさんのことをどうして知っているんです?」

「横島くんから直接聞いたからよ」

 蛍さんの口から横島さんの名前がでたとき、なんだか胸がどきっとしてしまいました。やっぱりこの人はルシオラさんに似すぎています。

「大体質問は終わったかな?」

 本当はまだまだ聞きたいことはあったけれど一番気になったことは聞いたので、とりあえず満足でした。

「じゃあ、今度はあたしが聞いていい?」

 私が頷くと蛍さんはいろんなことを聞いてきました。

 横島さんとの出会いやそれから色々起きた事件の数々。

 最初は横島さんに霊力はなかったこと。

 GS試験での大活躍。

 香港での戦いで本格的に目覚め始めた力。

 そして修行の末手に入れた文珠という能力。

 どんどん、どんどん強くなっていった横島さん。

 蛍さんは全ての話を興味深そうにふんふんと頷きながら、時には口をあけて大笑いしながら私の話を聞いていました。




 気がつくとかなりの時間が経ってしまっていたらしく、コーヒーはすっかり冷めていました。夢中で話し込んでしまったようです。蛍さんと話していると楽しくて、つい時間を忘れてしまいました。

 私は慌てて冷めたコーヒーに口をつけました。

「ねえ。おキヌちゃん」

「なあに、蛍さん」

 私はすっかり蛍さんと打ち解けていました。

「おキヌちゃん、横島くんのこと好きでしょ?」

 ブーーーーーーーーー!!!

 私は思わず口に含んだコーヒーを吹き出してしまいました。

「な、な、な、いきなりなにを・・・・・・」

「だって横島くんの話してるときのおキヌちゃんすごく生き生きしてたじゃな〜い。それに、すっごく横島くんのことよく見てる。好きでもない男のことをそんな見てたりしないよお〜。そういえば横島くんがおキヌちゃんの話をしてたって言ったときも反応してたしぃ〜〜」

「そ、それは、大切な仕事仲間として・・・・・・」

「う、そ。わかるんだよあたし。女の勘ってやつ?」

「う〜、それはその・・・」

「あたしも横島くんのこと好きだからさ」


 ・・・・・・え?


「多分、一目ぼれに近い感じだと思うんだ。最初に見たときからなんか気になっちゃって。気づいたらできるだけ一緒にいたい。そばにいたいって思ってきちゃってた」


 えっ? えっ?


「今おキヌちゃんから横島くんの話を聞いてて、ホントに純粋に横島くんのことを知りたがってる自分に気づいてさ。ああ、あたし恋してるんだぁって。好きになっちゃってたんだぁって、気づいちゃった」



 えええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!



「だからあたしにとっておキヌちゃんはライバルってことになるんだよね」

「え、いや、そんなの、だめですよ!!」

 私はなんだかもうぱにっくになってしまいました。そんな私に蛍さんはとどめをさします。

「おキヌちゃん、恋っていうのは戦いなのよ、奪い合いなのよ!! あなたにその気がないっていうなら、すぐに彼を奪っていくわ!」

「そ、そんなのダメです!!!」

 思わず私は叫んでしまいました。蛍さんはにやにやしてこちらを見ています。

「ほ〜ら、そうでしょう? だ、か、ら、あたしとおキヌちゃんはライバルってことよ」

「うう・・・・・・」

 私は恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまいました。だって「横島さんが好き」って言ってしまったも同然だったから。







 私たちは喫茶店を出て、そのままそこで別れました。

 蛍さんは別れ際に「正々堂々と勝負しましょ」と言いました。

 最初はとまどっていた私だけど、今はある決意をしていました。


 ごめんなさい、弓さん、一文字さん。私、班の平均点を下げてしまうかもしれません。

 蛍さんは横島さんと同じ学校の同じクラス。私はすごく不利な状況です。これを少しでもカバーするには毎日少しでも横島さんに会うしかありません。

 ごめんなさい美神さん。お仕事、嘘をついて休んでしまうかもしれません。

 そうでもしないと、私、勝てそうにないから。

 負けたく、ないから。







 でも、それでも私はすごく不利です。蛍さんは横島さんの心の一番深いところにいる人と同じ顔をもってる。やっぱりそれは、横島さんに特別な思いを抱かせるに違いありません。

 それに、それに、なにより・・・・・・・・・・・・




 私は自分の胸に両手を置いてみる。ソレは私の手のひらにすっぽりおさまってしまった。




 勝てるかな〜〜?



  


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