椎名作品二次創作小説投稿広場


tragic selection

妙神山2


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 6/ 4

「ルシオラ・・・・・・・ちゃん?」

「えっ・・・・・・?」

「ルシオラちゃんだーーー!!! 生きてたんでちゅねーーーー!!!!」

 パピリオは蛍に向かって勢いよく飛びついた。蛍はどう対応したらいいかわからないらしくおろおろしている。

「・・・? あれ?」

 パピリオが異変に気づいたようだ。

「違う・・・・ルシオラちゃんじゃない・・・・・お前、だれでちゅか?」

「誰って言われても・・・・・・・」

 パピリオは蛍から離れると俺を睨みつけた。

「ヨコシマ!! この女は何者でちゅ!? なんでルシオラちゃんとおんなじ顔なんでちゅか!!?」

「パピリオ・・・この子はただの人間だ。ルシオラに似てるのはたまたま偶然のことなんだよ」

 パピリオはしばらく黙って蛍を見つめていた。観察している、といってもいいかもしれない。

 その状況にさすがにたまらなくなったのか、蛍が口を開いた。

「ねえ、横島くん。ルシオラって・・・」
「それでこいつがルシオラちゃんのかわりってわけでちゅか?」

 蛍の言葉をさえぎってパピリオが俺に問いかける。その内容は深く俺の心に突き刺さった。

「な、なにを・・・・・・」

「なんなんでちゅか!? 違うっていうんでちゅか!? あたしの目はごまかせないでちゅ! さっきこの女と歩いていたヨコシマは凄くうれしそうでちた! 凄く、安らいでまちた! まるで、ルシオラちゃんと一緒にいた時みたいに! 似ている女がきたから、代わりになる女がきたから、もうルシオラちゃんのことを忘れるっていうんでちゅか!?」

「違うっ!!!!!!」

 俺は思わず叫んでいた。

「なにが違うんでちゅか! そりゃ、ルシオラちゃんはもういまちぇん!! 別にヨコシマがなにをしても、例えルシオラちゃんのことを忘れても、それはヨコシマの勝手でちゅ! でも、それじゃ、ルシオラちゃんが・・・あまりにも・・・かわいそうでちゅよぉ・・・・・・」

 パピリオの目から大粒の涙がこぼれる。俺はそっとパピリオを抱きしめた。

「違う・・・違うよパピリオ・・・・・・」

 ゆっくりと、言葉を紡ぎだす。

「俺の中から・・・俺の心から・・・・・ルシオラが消えることなんて・・・・・絶対に、ないんだ」

「ホント・・・・・・?」

「ホントだ・・・この子は学校のクラスメート。それだけなんだよ・・・・・・」

 泣き続けるパピリオを俺はしっかりと抱きしめ続けていた。





 しばらくして落ち着いたのか、パピリオは俺の胸から顔を離すとにっこりと笑顔を見せた。

「ごめんなさい、ヨコシマ。あたし、ちょっとルシオラちゃんに似た人を見たから取り乱しちゃったみたいでちゅ。ヨコシマがルシオラちゃんを忘れるなんて、あるわけないのにね」

「ああ・・・・・・・・・」

 パピリオが取り乱したのも無理はないだろう。もう二度と会えないと思っていた姉に再会できたと思ったらそれは別人で、しかもその女が姉の恋人だった男の隣りにいたのだ。

 パピリオはまだ幼い。取り乱さないほうがどうかしてる。

「じゃあそろそろあたしいきまちゅ。実はヨコシマの気配を感じたから修行を途中で抜けてきたところだったんでちゅよ」

 そう言うとパピリオはまた笑って、空へ浮かんだ。そのまま戻ろうとして、もう一度振り返る。

「ねえ・・・お前、名前は?」

「・・・・・・・蛍」

 蛍が答える。

 そういえば気を使ってくれていたのか、蛍は俺たちのやりとりに一言も口をはさまなかった。

「蛍・・・・・・・」

 パピリオは目を丸くした。

「ホントに、偶然でちゅね」

 そしてパピリオは今度は振り返らず、妙神山の中へ飛び去っていった。






「説明、してくれる?」

 蛍が凄い形相で俺を睨みつけてくる。

「・・・・・・わかった」

 俺はそう答えるしかなかった。






 妙神山を下り、俺たちは街中の喫茶店へと移動していた。

「さ、話して。ルシオラって誰? さっきの子が言ってたのはどういうことなの?」

 俺はテーブルの上の冷水を飲み、軽く喉を潤した。

 そして、話した。 すべてを。

 ルシオラとの出会い。

 二人で見た夕日。 

 彼女からの告白。

 彼女のためにアシュタロスを倒すと誓ったこと。

 結果、一時期は彼女をアシュタロスの元から解放できたこと。

 そこで過ごしたほんの少しの安らぎの時。

 再びの戦い。

 そこで彼女が瀕死の俺を助けるために自らの命を捧げたこと。

 世界か、彼女かの選択。

 ・・・・・・そして俺がルシオラを見捨てたこと。

 たっぷり、一時間以上も俺は話していた。蛍はその間一言も喋らずにじっと俺の話を聞いてくれていた。

 全てを話し終わり、しばらくの間沈黙がながれた。




「それで、あたしとそのルシオラって人が似てるのね?」

 ふいに、蛍が口を開く。

「ああ。いや、そのものと言ってもいいかもしれない」

「でも、たったそれだけの話じゃない。ただの偶然でしょ? どうして前に聞いた時に話してくれなかったの?」

 俺はもう、全てを話す決心をしていた。その結果、最低野郎と罵られても。

「・・・怖かったんだ」

「怖かった?」

「初めてお前を見たときにひょっとしたらルシオラかも知れないって思った。でもお前は『牧之瀬 蛍』で『ルシオラ』じゃない。ちょっとの間のやりとりでそう思った。でも、それでも、お前といると俺は安らいでいたんだ。さっきの子・・・パピリオっていうんだけどさ・・・あいつの言った通りなんだよ。俺は、ひょっとしたらお前を『ルシオラの代わり』としてみていたのかもしれない。そうじゃないって思っても、自信がないんだ。だから、お前に言えなかった。言えば、お前がルシオラのことを知ってしまえば、俺がお前とルシオラを重ねて見てることを悟られるかもしれない・・・軽蔑されるかもしれない・・・・・・それが、怖かった。弱虫なんだよ、俺は」 

 全部、全部言い切った。不思議とスッキリしていた。開き直りと言ったほうが近いかもしれない。どんな結果になっても全てを受け入れる覚悟ができていた。

 だが、蛍の反応はまったく予想外のものだった。

「軽蔑? なんでそれくらいであたしが横島くんを軽蔑するのよ」

「へっ?」

 我ながら情けない声が出てしまった。蛍はなおも続ける。

「だって、その死んじゃったルシオラさんと横島くんは恋人だったんでしょ? そしてあたしはそのルシオラさんと同じ顔を持っている。そりゃ面影くらい見るでしょ〜、人間ならだれだって。そりゃあ、あたしのことを『ルシオラ』として扱ったりしたら腹立つけどさ。例えばあたしになんかの仕草を強制したりね。でも横島くんはそんなことしなかったじゃない。ありのままのあたしと、『牧之瀬 蛍』
としてのあたしとそのまま接してくれてた。少なくともあたしは、そう感じてる」

 俺は呆気にとられて蛍の話を聞いていた。我ながら、アホみたいな顔をしていたに違いない。

「だからさ〜、前にあたしが聞いた時にちゃんと話してればこんなややこしいことにはならなかったのよ。そこんとこ反省してる?」

「あ・・・・・・ゴメン」

「ん、ならよろしい。じゃ、この話はこれでおしまい。あ、店員さ〜ん! フルーツパフェひとつね〜〜!」

 あまりにもあっけらかんとした蛍の対応に俺はびっくりしていた。まさか、こんな簡単にこの話に納得してくれるとは。どうやら俺は蛍のバイタリティーを甘くみていたようだ。

 でも、蛍の言葉には素直に救われた。 

「あたしを『牧之瀬 蛍』として接してくれたじゃない」 

 俺は『蛍』を『ルシオラ』としてみているかもしれない。その問いに蛍はNOをくれた。

 気分が驚くほど軽い。俺はだれかに「それは違う」と言ってもらいたかったのかもしれない。

「そうそうさっきの話だけどさ」

 蛍がパフェをぱくつきながら聞いてくる。

「ルシオラさんを見捨てたって言ってたじゃん?」

「・・・! あ、ああ・・・・・」

 蛍のいきなりの質問に俺はとまどいながらも返事を返す。

「あたし、それも違うと思うな」

「へっ?」

 また変な声がでてしまった。いや、それより蛍。お前はなにを・・・

「だってさ、『新世界のアダムとイブにしてやる』とか言っててさ、エネルギー結晶渡したとたんグサッ!だったかもしれないでしょ? それに横島くんがエネルギー結晶を壊してくれたから、今あたしはこうやってパフェを食べながら横島くんとお喋りできてる。ね? 見捨てたなんて言っちゃダメ。きっとルシオラさんもそんな風には思ってないよ」

 励ましてくれてるのか? お前・・・ホントにいいヤツだな。

「あぁ・・・ありがとう、蛍」

「・・・う〜ん、まだいまいちわかってないみたいだけどまあいいや。要はさ、そんな暗い横島くんは横島くんじゃないってことだよ。身体測定覗きに行くほどの情熱に満ち溢れた横島くんはどうした!」

「ぐっ・・・!! 古い話を・・・・・」

「ま、そんなわけだから。横島くんは横島くんらしくね。それじゃ、あたし用事あるから帰るよ。パフェ代はお詫びとしておごりね。じゃね! 隠れた英雄さん♪」

 最後まで笑いながら蛍は出て居った。

 俺らしく・・・・・・か。 そうだよな、忘れてた。 誓ったじゃないか、悲しむのはやめにするって。 ルシオラはそんなこと望んじゃいないって・・・

 俺らしく・・・俺らしく!!

「よっしゃー! 色々スッキリしたところで久しぶりに『大人のビデオ』借りたろかーーーい!! ここんとこご無沙汰やったからのーーー!!!」

 今夜はよく眠れそうだ!!
























 ところ変わって妙神山。

 ヒャクメは小竜姫に準備してもらった布団に寝転がりながら、今日のことを反すうしていた。

(あの蛍って子、確かに人間だし、ルシオラさんとはなんの関係もないんだけど)

 右に寝がえりをうつヒャクメ。

(なにか、違和感を感じたのね〜。それがなんなのかはっきりとわからなかったから横島さんには言わなかったんだけど・・・)

 言った方がよかったかしら? と自問する。

(ま、多分気のせいよね〜)

 もともと神族のなかでもトップクラスの軽い性格の彼女。

 すでにその思考はたまりにたまった仕事をいかにして処理するかに向かっていた。


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