椎名作品二次創作小説投稿広場


tragic selection

妙神山


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 6/ 2

「蛍、今度の休み一緒に遊びに行かないか?」

「うん、いいよ〜。どこに行くの?」

「それは秘密。当日をお楽しみにってやつだ」

「うわ〜、もったいぶっちゃって。楽しみ〜♪」













 そんなワケで、今俺たちは妙神山の前にいる。









「ねえ・・・・・・横島くん・・・・・・・」

「ん? なんだ?」

「なんだじゃないわよ!! なんで妙神山なわけ!? あたし、修行する気なんてないわよ!?」

 蛍もGSなだけあって妙神山のことは知っているらしい。

「まあまあ。ここ温泉とかあるんだよ。修行したりするわけじゃないから」

「それにしたって普通は・・・・・・!」

 蛍が怒るのも無理はないだろう。なにせ行き先をまったく告げず、「待ち合わせは駅前」とだけ言っておいて、やってきた蛍になんの説明もしないまま『転』『移』の文珠で無理やりここに連れてきたのだ。

 そこまでしてでも知らなければならない。

 蛍が・・・・・・何者なのか。

「横島、何をしておる。小竜姫さまはすでに中で控えておられるぞ」

 一向に中に入ろうとしない俺たちにじれたのか、鬼門が声をかけてきた。 

「ああ、わかった。じゃあ、開けてくれ」

 門がゆっくりと開いていく。今回はもうテストなんか無しだ。

「行こう、蛍」

「あ、ちょっとぉ! 横島くん!?」

 俺は半ば無理やりに蛍の手を引いて門をくぐった。

「まっすぐ行くと修行場だ! 少し行ったところに道があるからそこを右にまがるんだぞーーー!!」

 後ろから聞こえてくる鬼門たちの声に俺は右手を挙げて応えた。

 しばらく行くと鬼門たちの言っていた通り右にまがる道が見えてきた。そこを右にまがり、なおも進む。するとすぐに「妙神山宿舎」と看板のかかった古い民宿のような建物が見えた。

(しかしまあ相変わらずのセンスだな)

 修行場の温泉のような造りといい、設計者の意図がまったくわからん。

「こんにちはー。横島です。小竜姫さま、いますかー!?」

 俺が玄関に入りそう声をあげるとすぐに奥から小竜姫さまが出てきた。

「こんにちは、横島さん。久しぶりですねえ」

「すいません、突然お伺いしちまって・・・」

「いえいえ・・・・・・」

 そう言いながら小竜姫さまはふいに真剣な表情になる。その目は蛍を見据えていた。

「そのかたが・・・・・・そうなのですね?」

「ええ・・・・・・それで、ヒャクメは?」

「もうすでにこちらに到着しています。どうぞ、上がってください」

 俺は小竜姫さまに薦められたスリッパに履き替えると、小竜姫さまの案内にしたがって廊下を進む。

 蛍は、なにがなにやらという表情をしていた。




「横島さん、久しぶりなのね〜」

 六畳ほどの広さの和室。その中央にヒャクメはちょこんと座っていた。

「よっ、久しぶり。悪かったな、急に呼んだりして」

 俺はまずヒャクメに謝った。神界の仕事が忙しいだろうに、無理を言って来てもらったのだ。

「ううん、気にしなくていいのね〜。それより、その子ね?」

「ああ、早速頼むよ」

 ヒャクメは頷くとすぐに蛍へ心眼をむけた。

「ねえ、ちょっと横島くん説明してよ! ワケわかんないんだけど!!」

「いや、ちょっとこないだの霊団との戦いで気になることがあったからな。今日はちょっとしたメディカル・チェックみたいなモンさ」

 俺は軽く嘘をつく。今ヒャクメが行っているのはメディカル・チェックなどではない。

「気になることって・・・・・・なに?」

 咄嗟についた嘘だったが、蛍は青ざめてしまった。不安にさせてしまったらしい。

「ああ、大したことないんだ。ほんとにちょっとしたことだよ。念には念をって言うだろ?」

 軽くフォローを入れたが、蛍の顔色は戻らなかった。

 しまった。こんなに不安にさせてしまうとは。そりゃ体に異常があるかも知れないなんて言われて連れてこられたのが妙神山だったら不安にもなるよな。

 軽率だったな。

「終わったのね〜」

 ヒャクメがふぅっと息を吐く。

「じゃあ、検査の結果がでるまで時間がありますから・・・蛍さん・・・でしたよね? 温泉にでもつかってきませんか? 美容、健康にもいいですよ」

「うん、そうしろよ蛍」

 小竜姫さまの言葉に俺は相づちをうつ。

「うん・・・・・・そうする」

 そう言って蛍は小竜姫さまに連れられて部屋から出て行った。






「・・・・・・それで、どうだった? ヒャクメ」

 もちろん、結果がでるまで時間がかかるというのは嘘だ。

 これからの話は蛍に聞かれるとまずいので、ひどいとは思ったがこういう手段をとったのだ。

「結論から言うのね〜。・・・・・・彼女、ルシオラさんとはなんの関係もないわ。魂の色がまったく違うもの。体の造りもまったく人間だし・・・・・・」

「・・・・・・そうか」

「ただ・・・・・・」

「ただ?」

「・・・ううん、なんでもないのね〜」

 ヒャクメの態度に若干のひっかかりを感じたものの、俺はスッキリしていた。

「ふぅ〜〜〜〜〜」

 盛大に息を吐く。

 蛍とルシオラはなんの関係もない、別人だという裏づけがとれた。これでこれからも普通に蛍と接していけるだろう。

 あの時感じた魔力はやっぱり気のせいだったに違いない。

「いい湯だった〜〜」

 ちょうどその時蛍が戻ってきた。

 小竜姫さまの頭からも湯気がでているところを見ると、一緒に入っていたのだろう。

「それで結果はどうだったんですか? 横島さん」

 俺は小竜姫さまに満面の笑みをむける。

「バッチリ全然異常無しです!」

「よかった〜〜・・・・」

 俺の隣りで蛍が崩れ落ちる。気が抜けてしまったようだ。小竜姫さまも安心したのか軽く笑みを浮かべていた。

「それじゃ、帰ります。ご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、いつでもまた声をお掛けください。いつでも、私たちは力になりますよ」

 小竜姫さまのありがたい言葉を聞きながら、俺たちは「妙神山宿舎」をあとにした。







「心配してくれてたんだね。ありがとっ」

「いやあ・・・・・・」

 蛍の笑顔が、今は痛い。俺は自分の都合だけで蛍を今日振り回してしまった。

 最低だな。

 今更思う。

 こんなことをするのなら蛍にも全てを言うべきなのだ。

 でも、俺にはその勇気がない。

 つくづく最低だな、俺は。ついでに弱虫だ。

 蛍に苦笑いを向けながら、俺は妙神山出口へと歩いていった。










「ヨコシマーーーーー!!!」

 突然の、呼び声。

 上空から突然現れた影。その影は俺に凄い勢いで飛び込んできた。

「ひどいでちゅ!! 妙神山に来たなら一声かけるでちゅよ!!」

・・・・・・・・・・パピリオ。

 なんてこった。今日だけは会わないようにしようと努めていた。

 小竜姫さまにも今日俺が来ることは黙っておいてもらった。

 嫌いになったワケじゃない。でも今日だけは・・・・・・今日だけは・・・まずかった。

「さあ、捕まえたからには逃がしはしないでちゅよ〜〜〜。今日は一日ゲームステーションにつきあうでちゅ! 猿の相手はもう飽きたでちゅよ・・・・・って、え?」
















「ルシオラ・・・・・・ちゃん?」
















 最悪の、展開だ。



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