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横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

生への渇望!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/ 6/ 1

横島は力尽きていた。


「だ、ダメだ…! 動けば動くほど、やばくなっていく…!!」


もはや全身にべっとりと絡みついたとりもちが、完全に自由を奪っていた。

このまま俺は餓死するのだろうか…ゴキブリのように?


「嫌だ…嫌過ぎる…!! 誰か助けて…ッ!!」


そのとき、指一本動かせず涙する横島の視界に、なにかが見えた。

一瞬、天の助けかと思い、顔をほころばせる横島。

なんとか目だけを動かして捉えたそれは、黒っぽい光沢のある…。


「ゴッ…ゴキブリィッ!?」


一匹のゴキブリが、ゴキブリホイホイの中で横たわる横島を、じっと見つめている。

じっと。

じぃっと。

横島の背中に、嫌な汗が浮かぶ。

ごくりっ…と横島がのどを鳴らしたとき、ヤツが動いた。

大きく羽根を広げ、ホイホイの罠を飛び越えて、一直線に横島に向かって。


「ひっ…ひいぃぃぃッ!! く、来るなァァァッ!!」


刹那、閃光がほとばしる。



          ◆



窮地に陥ったときにこそ、その者の真価が問われるという。

そして今、魔族軍情報仕官ジークフリード少尉はまぎれもなく窮地に立たされていた。


「あ、姉上もパピリオも、と、とにかく冷静に…!」

「私は冷静だとも…さあ、それの身柄を渡せ。」

「心配しなくても、壊したりしないでちゅよ。だから…ね?」


その言葉のどこまでが真実だろうか。少なくとも冷静な判断力はなさそうだ。

ワルキューレもパピリオも、文字通りに目の色が違っている。

ジークはちらりと後ろを見た。


「こ、壊されるッ!! 捕まったらわしは絶対に壊されるぅッ!!」


自分の背に隠れながら、情けない声でリアルな未来を口走る土偶羅。

まがりなりにも備品…もとい部下のピンチだったため思わず庇ってしまったが、今更ながらに後悔していた。

情報仕官として、必死に知恵を巡らせて作戦をたてる。

この二人相手に勝てるか?

…否。ただでさえ自分は両名それぞれに戦闘能力で劣るのに、今むこうの出力は二割り増しくらいありそうだ。

では、逃走は可能か?

…それも否。この執念と二人の実力を鑑みて、動く前に捕まるのがオチだろう。

では、生存は可能か?

…………可である。

幸い二人は『壊さない』と言っている。ならば、土偶羅の生命は多少なりとも保証される。

もし万が一、土偶羅が壊れたとしても、少なくとも自分の生存は確実である。

…………………引き渡すか?


「? なに? 何でわしをじっと見る!?」


ジークの不穏な視線に、土偶羅は不安を感じてちょっと後ずさる。

もはや土偶羅の命運は尽きたかと思われたとき、助け舟は意外なところより現れた。


「やっと見つけたよ、パピリオ!」

「べスパちゃん!?」


ふわっとその場に舞い降りたべスパは、やれやれといった表情でパピリオの肩をつかむ。


「まったく、心配したとおりだったよ! やっぱりお目付け役が必要みたいだね?」

「な、なんでちゅか!? パピリオが何したでちゅーッ!?」

「何じゃないよ! アンタの眷属が、飛び回るだけならまだしも、他の参加者を攻撃しようとしてたんだよ?」


もちろん、べスパの眷属の蜂たちがそれを阻止したが。


「いくらなんでも、こんな小さい状態で蝶が攻撃してきたら危ないだろ!?」

「うッ! だって、このくらい皆やってるでちゅよ!? 一般人相手に精霊石銃ぶっ放すのと、どう違うでちゅか!?」


パピリオの反論に、ワルキューレの方が『なぜか』動揺していた。

ジークの視線が痛い。


「とにかく、これ以上アンタが無茶しないように、アタシが見張っとくからね!」

「え〜ッ!! そんなの嫌でちゅ!! 横暴でちゅ!!」

「何とでも言いな。」


パピリオが駄々っ子のように抗議するが、べスパは何処吹く風だ。

ギャーギャーとわめくパピリオとべスパの姿に、どうやら危機はひとまず去ったようだと、ジークは肩の力を抜いた。

ワルキューレも毒気を抜かれたかのように観戦モードに入る。

だが、災厄はいつだって、我々が油断したときに訪れるものなのだ。


「……べスパちゃん、オバチャン臭いでちゅ!」

「お…ッ?!」


パピリオの不用意な一言に、べスパのこめかみに青筋が浮かぶ。

だが、対するパピリオはまったく気にしたそぶりも見せず、さらに続ける。


「口うるさいのはオバチャンになった証でちゅ! パピリオのように未来がある若者を縛らないで欲しいでちゅね!!」

「………………。」

「べスパちゃんの年増。」


ブチッ。

荒縄を引きちぎるような音が聞こえ、べスパの体からどす黒い殺気がもれ始める。

それに怯えるのは、土偶羅とジークだ。


「ああああ…ッ!!」

「こりゃヤバイ! 今のうちに非難するぞッ!?」

「あ、ああ、そうだ……な!?」


土偶羅がジークの手をとって逃げ出そうとしたとき、彼らはそれが叶わないことを知った。

いつの間にか周りに妖蜂たちが集まっており、それがガチガチと歯をかみ合わせて威嚇している。

主の怒りに応えて集合したのだろうが…どいつもこいつも殺気立っている。


「あ、あ、姉上ェェーッ!?」

「う…ッ!」


目前の死に耐え切れなくなったジークは、この場でべスパを抑えることの出来るワルキューレに助けを請う。

ワルキューレとて、それは同感だ。

いかに自分でも、この体でこの数の妖蜂を相手にしては、ただじゃ済まない。

いまだ肩を震わせてうつむいているべスパに、なんとか説得をこころみようと声をかける。


「おいッ、落ち着けべス…!!」

「何が年増だよッ!! アタシとアンタじゃ、数時間しか生まれた時間が違わないじゃないかッ!!」


こころみる前に、説得失敗。ワルキューレの持ち上げた手が宙を泳ぐ。

そんなに悔しかったのか、べスパは涙目だった。


「私たちの生きてきた時間なら、数時間でも立派な年増でちゅ!!」

「だったらルシオラ姉さんはどうなるんだよッ!!」

「ルシオラちゃんも年増でちゅ!!」


おいおい。

どうやら興奮しすぎて、自分たちでも何を言っているのかわからなくなっているようだ。

草葉の陰でルシオラが、すごい勢いで怒ってるよ。

二人の口論はさらにヒートアップ。

周囲にはパピリオの眷属も集まりだして、戦闘体勢は万全だ。


「アタシはまだ一歳くらいだよ!? それで年増ッ!?」

「年増でちゅよ!! このオバチャン!!」

「だ…だったら…ッ! だったらワルキューレはどうなんだよッ!?」

「んなッ!?」


もうほとんど半ベソ状態のべスパが、とんでもない爆弾を投下。

まさか矛先が自分に向くとは思っていなかったワルキューレは口をぱくぱくさせるだけだ。

ジークと土偶羅も、さらなる恐怖に口をぱくぱくさせる。


「一歳のアタシで年増なら、ワルキューレは古代生物や原生動物かッ!?」

「………。」

「別にどっちでもいいでちゅ!! どーせ、パピリオから見たらどっちも年増のオバンなんでちゅから!!」


ドブチィッ!!

登山用ザイルが切れたような音をたて、ワルキューレの体から凄まじい鬼気が噴きあがる。


「……辞世の句は、なにがいいかなー…。」

「嫌だ…死にたくない…! 恋人のひとりも出来ないで死ぬのは嫌だ…!」


諦めきった表情で空を仰ぐ土偶羅は、もう覚悟を決めたらしい。

かわって涙を流すジークの目は「最後まで生き抜いてやる」と強く輝き始めていた。




やがて、彼らの覚悟する時が…訪れた。


「やっちまいなァ、お前たちィィーッ!!」

「いっ…けェェェェーッ!!

「絶対に……許さんッ!!」


三者の号令とともに、その場はまさに戦場と化した。

そして、戦場を惑う影がふたつ─。


「生きる…ッ、何が何でも生き延びてやるぅぅッ!!」



          ◆



もうもうと煙がたちこめる中、横島はズタボロになりながらも立っていた。

倒れているのは、今の横島の身長と同じくらいのゴキブリ。

とっさに文珠で『爆』を発動させ、なんとか危機を乗り越えたのだ。

爆心地があまりにも近すぎたため自分もボロボロだが、おかげでホイホイのとりもちはキレイに取れている。


「お…俺は生きてる…ッ、生きてるぞぉ〜…ッ!!」


ふらふらと歩き出す横島。

瞳だけは、ぎらぎらと輝いていた。


「まだ死ねん…ッ! 俺の野望の…ため…に…ッ!!」


あ…倒れた。


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