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tragic selection

日常の終わり


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 5/29

 身体測定の次の日、俺はピートに必死で謝っていた。

「すまんピート!! 許してくれ!! このとおりだ!!!」

 俺は頭をそれこそ皮がズル剥けるんじゃなかろうかという程に床にこすり付けていた。

「・・・・・・」

 ピートは何も語らない。かれこれ30分は土下座し続けていた俺はなおもピートのご機嫌を取ることに努めた。

「でもピートについては誤解だったって、皆わかってくれたじゃないか!」

 それはこういうことである。ひとしきり俺たちをボコッて落ち着いた女子たちは、保健室に入り込んだメンバーの中にピートがいることに気がついた。

 その時は「そんな! ピートまで!」とか、「ピートも所詮はオトコなのね・・・」とか、「あぁ! やっぱり白馬の王子様なんていないんだわ!」とか、めちゃくちゃに言われていた。しかし、その中の一人がこんなことを言い出したのである。

「ピートがそんなことするはずがないわ。きっとピートは横島に弱みをにぎられたりなんかして脅されたのよ!!」

 その一言にクラスの女子はほぼ100%が「そうよ! そうに決まってるわ!!」と賛同した。そして俺に追求してきたのである。

 その場の雰囲気上俺はNOとは言えず(実際脅すよりひどいことやってるし)、ピートの誤解は晴れたのである。そのおかげで俺は女子の嫌悪感を一身に受けることになってしまった。今の俺のクラスでの地位は「毛虫」以下とされている。まぁ、自業自得なのだからそれはしょうがないんだが・・・・・・

 だが、そのせいで女子のタイガーへの仕打ちは比較的軽いものになっている。なんか俺一人が主犯みたいになってしまっているのだ。
 おのれタイガー・・・・・・明日から魔理さんと笑顔で会えると思うなよ・・・・・・

 俺は魔理さんにあることないことふきこんでやろうと心に誓っていた。

 まあそんなワケでピートに対する女子の対応は以前とほとんど変わっていないのである。

「なぁ、ピートぉ」

「僕はそんなことで怒ってるんじゃありません!!」

 突然ピートが怒鳴った。

「僕は横島さんのことを友達だと思っていました・・・でも、あなたは僕に対してあんなことを平然と行った! あなたにとって僕は友達などではなかったんですね・・・・・・それが、悲しいんです」

「違う!!」

 俺も思わず怒鳴っていた。

「俺がピートにあんなことをしたのは親友だと思ってたからだ! 俺にとっては親友だからこそ許される軽い悪ふざけのつもりだったんだよ!!」

 これは俺の本心だった。あんなことをしてもピートとなら笑いあって終わりにできる、そう思っていた。けど・・・・・・ピートにとっては違ったのだ。

「ごめん、俺お前のこと全然わかってやれてなかった・・・こんなので親友気取りか・・・ふざけんなって感じだよな・・・・・・ホントにごめん」

 俺は土下座をやめ、立ち上がってからピートの目を見つめ深く頭を下げた。心からの謝罪だった。

 ピートはしばらく俺を見つめたあと、深くため息をついた。

「ふぅ〜〜〜・・・・・・そうだったんですか」

 そしてピートはようやく笑った。

「横島さん、そういうことなら僕はもう気にしません。でも・・・あなたがしたのははっきりいって犯罪ですよ? オカルトGメンを目指してる僕を無理やり前科持ちにしないでください」

「あぁ・・・今度は一人でこっそりやるよ」

「だからやっちゃいけませんって・・・」

 そして俺たちはお互いに笑いあった。よかった。親友を失うことはまぬがれたようだ。






「お、メロドラマは終わりか? ご両人」

 クラスの男子が茶化してきた。ここが教室だってことをすっかり忘れてしまっていた。・・・・・・不覚。












「ニュースニュース! 転校生が来るらしいわよー!!」

 少ししてから愛子が教室にとびこんできた。

「どーせまたタイガーみたいなのが来るんだろ? 過度な期待はさせないでくれよ」

 俺は少々うんざりして答えた。

 以前こいつがこうやって言ってきた時、俺はもう恐ろしいほどテンションが跳ね上がり、これから始まる桃色スクールライフを想像しちゃったりなんかしてウキウキドキドキしまくった。しかし、やってきたのはタイガーという大男。俺のウキウキドキドキはまったくの無駄になってしまったわけだ。

 だから俺はどうせ今回もそんなオチだろうと思っていた。

「『転校生が来る』ってだけじゃなくてその性別、容姿くらいは調べてから報告しろって前も言ったろ?中途半端な報道はやめてくれ」

 すると愛子は口をとがらせた。

「だから今回はきちんと調べてきたわよ! 職員室覗き見までしたんだからね!」

 別に覗かんでもふつーに入りゃえーだろがと思ったが、本人は努力したつもりらしいので口にはださない。

「それで、どんなやつなんだ?」

 愛子はにやりと笑った。

「喜びなさい。女の子よ。それもとびきりかわいいね」

「なんだとぉーーーーー!!?」

 俺は絶叫してしまった。俺の反応に愛子はため息をついている。クラスの連中は何事かとこちらに目を向けていた。

 しかしその時には俺は妄想ワールドへと旅立っていた。



 そのかわいさゆえに女子の妬みを買い、いまだ友達のまったくできぬ転校生。彼女は放課後の教室で陰険な女子に隠された靴を探している。目には涙をためながら。そこに靴を持った俺が颯爽と登場する。「キミが探しているのはこれかい?」彼女は答える。「どこでそれを?」 「僕もずっと探してたんだ。体育館裏で見つけたよ」 彼女は靴を受け取ると泣き始めてしまった。「どうして、どうしてこんなクラスの皆から嫌われているような私のために・・・? そんなことしたらあなたまで・・・」「馬鹿だな・・・・・・それでも・・・泣いている女の子をほっとくなんて、できるわけないだろ?」 「よ、横島さん!」 「さあ飛び込んでおいで僕の胸に!!」 そして二つの影は一つに重なっていった。




「横島さん、口にでています」

「はっ!」

 ピートの一言で俺は我にかえった。ピートも愛子も心底あきれている。あぁ、背中に突き刺さる女子たちの視線が痛い・・・・・・








「さあ、席につけ。SHR(ショートホームルーム)始めるぞ」

 直後に入ってきた担任の一言でなんとか俺は一時的に皆の汚物を見るよーな目から逃れることができた。ホントに一時的だが・・・・・・

「じゃあまずは転校生の紹介をする。ほら、入っておいで」

 さあ、愛子がかわいいと言っていた転校生。顔を拝ませてもらおかい。

 転校生が教室に入ってくるのを俺は食い入るような目つきで凝視していた。



    ドクンッ!


 俺の心臓が跳ね上がる。ピートもタイガーも固まってしまっている。


    ドクンッ!


 そんな・・・そんな馬鹿な・・・・・・・


 教壇の前に立ち、自己紹介を始めようとする転校生。










「ルシオラ・・・・・・?」

 俺は思わず呟いていた。


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