スイスの哲学者、アミエルいわく。
信用は鏡やガラスのようなものである。ひびがはいったら元道りにはならない。
《もう誰も信じるもんかぁぁ〜…ッ!!》
いきなり血を吐くような台詞をのたまう横島の魂。
文字通りに魂の叫びである。
《おキヌちゃんにつづき、小鳩ちゃんまで…ッ! 女性キャラの二大良心に裏切られ、何を信じろと言うのだ!?》
神も仏もこの世にいないのか!? と横島は天を仰いで嘆く。
その神や仏までも、このゲームに目の色を変えているのだから始末におえない。
「いつまでぐちぐち言うとんのや? もー、観念したらええやん。」
《やかましい!! 俺のピュアなハートは今、ひどく傷ついとるんだ!!》
愚痴のひとつやふたつ、こぼしても仕方がないと憤る横島に、貧は「まーまー」といってなだめようとする。
「小鳩やったら、そんな酷いこと頼まへんって。なっ?」
《ここまで来といて、自分の野望を諦められるかァ─ッ!! それに…!》
そこまで叫んだ横島が、チラリと小鳩を見る。
横島の体(抜け殻)を抱え上げ、わき目も振らず突っ走る少女。
自分の世界に入っているのか、横島と貧の視線にも気づかず、ときどき「クスクス」と含み笑いをこぼす。
《……今の小鳩ちゃんには、そんな保障できねーだろ。》
「………。」
こればかりは、さすがの貧もフォローしきれず冷や汗を流す。
◆
画面を見ながら、魔鈴は呆れた表情で呟く。
「…小鳩さんって、あんな人でしたっけ…?」
面識はあまりないが、常識人だと思っていたのに。
もともと素質があったのだろうか。それとも他の人たちに染まってしまったのか。
それを思うと、涙が出そうである。
《小鳩さんほどの人格者がここまで変わってしまわれるとは…。》
『いや〜…我ながら恐ろしいゲームを発案しちゃったなぁ。ハハハ…。』
人の隠された一面をむき出しにするゲーム。
さすがの邪神も今更ながらに、その意味を考え始めたようだった。
◆
とにかく、嘆くのもわめくのも、体に戻ってからだ。
気を取り直して横島が体に戻ろうとしたとき、そうはさせじと貧が後ろから羽交い絞めにする。
《こ、こらッ、貧!! 離せ、離しやがれ〜!!》
「誰が離すかいッ! お前には悪いが、このまま小鳩に優勝してもらうんや!」
「び、貧ちゃん! お…重い〜ッ! 急に離さないで…ッ!」
二人が空中でごろごろと取っ組み合ってる下では、小鳩が横島の体を支えきれず、その場にうずくまってしまった。
意識を失った人の体というものは、驚くほど重い。
普通のかよわい女性である小鳩には、ちょっと無理があるようだ。
─そのとき、その混乱を狙っていた狩猟者が動いた。
「キャッ!?」
「こ、小鳩!?」
狩猟者は風のように飛び出すと、素早く横島の体を奪い取る。
小鳩の悲鳴に気付いて、貧は横島を突きとばすようにして飛び離れた。
《のわぁッ!?》
突き飛ばされた横島は、その勢いのまま自分の体に戻ってしまう。
最初に見えたのは、床。
そこで自分が狩猟者のわきに抱えられていることに思い至る。
「な、なんなんだ? 今度は誰だ?」
「先生! 大丈夫でござるか?」
上から降ってきた声に首をめぐらすと、そこにいたのは長い銀髪と赤い前髪。
愛弟子の人狼、シロがにこにこと嬉しそうに見下ろしてくる。
「シロ!! まったく…今度はお前か!!」
「先生…その言い方はないでござるよ。助けてあげたのに…。」
あからさまに嫌そうに言う横島に、シロはちょっと肩を落とす。
「お前、ワシらの後をつけてたんか!?」
「横島さんの文珠でジャミングされてるのに…どうやって…!」
うろたえる二人に、シロはふっと笑ってみせる。
「確かに拙者の鼻にも耳にも、先生の姿はひっかからなかったでござる。」
「なら、どうして…!?」
「それは……運命でござる!! 拙者と先生の深い絆が、二人を引き合わせたのでござるよ!!」
「うッ…運命!? 深い…絆ッ!?」
拳を握り締めて力説するシロに、ショックをうけて後ずさる小鳩。
……なにやら誤解しているようにも思える。
だが、その中心にいるはずの横島は、どこか冷めた表情をしていた。
「…おい、シロ。」
「な、何でござるか?」
「お前…小鳩ちゃんのもってる、ご飯の匂いに魅かれただけだろ?」
横島の言葉にあきらかに、ぎくぅっと動揺するシロ。
「な、なんのことでござるか…?」
「とぼけるな。俺の体を奪ったときに、一緒に盗ったもんを出せ。」
「………。」
シロは横島を右腕に抱えなおすと、素直に左手にもっていた包みを横島に渡す。
それを見た小鳩が、あわてて自分の鞄を見ると立派な穴が開いていた。
「わ、私の鞄…!」
「ずいぶんと上達したが、まだまだだな。もっと自然にやらねーと。」
それじゃあ、いつまでたってもおキヌちゃんからつまみ食いなんて出来ねーぞ、とほがらかに笑う横島。
というか、盗みのテクニックを教えてどうする。
「でも、やっぱり飯が目当てだったんだな?」
「そ、そんなことは…! ただ、ちょっと美味しい匂いがして、なんでござるかなーと思って…!!」
「で、来てみたら俺がいたと。」
「………はい。」
さらに突っ込まれて、素直に白状するシロ。
やれやれと、呆れたように首を振る横島に必死に弁明する。
「だ、だって、先生を探して事務所中を走り回ったんでござるよ!? おかげで服が汗でベトベトでござる!!」
「だーッ!! 胸元をひろげて見せるな─ッ!!」
ぐいっと襟元を引っ張って証明しようとするシロを、横島は慌てて止める。
こんなにくっついてりゃ、汗ぐらいわかる!
あ…でも、汗ばんだ肌の匂いと、女の子の香りが……ッッて!!
「違うぅぅ─ッ!! 俺は…俺は変態じゃない─ッ!!」
「わわッ!? せ、先生、暴れないでくだされ!!」
頭抱えて苦悩してもだえる横島に、気をとられるシロ。
「!! 今やッ!! もろたでェ─ッ!!」
そこにすかさず貧が打出の小槌を振りかざして突撃する。
だが、その一撃は空を切り、貧ごと床に激突する。
「ぐぁッ!?」
「び、貧ちゃん!?」
「それじゃ、先生はもらっていくでござるよ〜!」
気がつくと、シロはすでに遥か彼方である。
どうやら、逃げ足も師匠直伝らしい。見事な逃げっぷりであった。
◆
シロに抱きかかえられたまま、しばらく無言だった横島。
ふいに半目の表情でシロを見上げる。
「シロのお願いって…やっぱ散歩か?」
しっぽをパタパタと動かして、シロは満面の笑みでうなずく。
「そーでござる! これからずぅっと毎朝毎晩、最低50キロは付き合ってもらうでござるよ!」
「やっぱり…。まー、そんなとこだよな…。」
聞き様によっては大胆な発言にも思える台詞を、さらりと流してまた黙りこくる横島。
その横島の態度に、シロは少しだけ不安を感じて足を止めると、横島をおろして顔を覗き込む。
ちょっと涙目で、上目がちな瞳が潤んでいる。
「もしかして……先生は嫌でござるか?」
「うっ!?」
か、可愛いじゃねーか、チクショーッ!
とは言え…その願いはちょっとなぁ………やむをえんか。
横島は腹を決めると、小さな包みを取り出す。
それは─。
「シロ。あーん。」
「!? な、なんでござるか、急に!」
横島の突然の行動に、シロはわたわたとうろたえる。
鼻先にいきなり食べ物を持ってこられたのもあるが、それ以上に横島が食べさせてあげようとしている事実にだ。
赤くなるシロに、横島はさらにすすめる。
「いらないのか? 俺も食べたから平気だって。ほら、あーん。」
「じゃ、じゃあ……あ、あーん。」
おずおずと口に入れたとき、横島がぽつりと「スマン。許せよ。」と呟いたのをシロはしっかり聞いてしまった。
─そして今、横島の持っていた『チーズあんシメサババーガー』によりシロの魂はふよふよと浮かんでいた。
茫然とシロは横島を見つめる。
《……先生。》
「悪いな、シロ。可愛い弟子の頼み、聞きたいのはやまやまだが俺も死にたくはないんだ。ああ、心が痛む…。」
と言いつつ、テキパキと抜け殻となったシロの体を簀巻きにしていく。
《……せんせぇ。》
「幽体の状態に慣れていないお前なら、戻るのに少し時間がかかるだろうな…。」
作業を終えて、すっと立ち上がる横島。
その顔は……笑っていた。
「その前に俺は逃げるけどな!! じゃッ!!」
本家本元、ニトロダッシュ。
見る見るうちに横島の背中は点となり、やがて見えなくなった。
ひとり取り残されたシロの肩が、小さく震える。
やがて彼女は、ありったけの心情を込めて吠えた。
「先生の…バカァァァ─ッ!!」
おまけに横島がちょっと悪い男になってます。
ヲトメ心を踏みにじるなんて…。
さて、今回からわかるように、私はシロが大好きですv
よって、可愛く書いたつもりですが…いかがでしょうか?
なにやら、ひどい扱いになってるのは─。
…………愛情の裏返しってことで。ダメですか? (詠夢)
いや〜、小鳩の性格も変わってしまい、横島は酷く傷付いていますね?
シロはシロでいい味出してますし。
ロキよ、そんなのでいいのか!?さすがは悪戯の神!といった所でしょうか?
ん〜、やっぱり笑えますね?
これからも頑張ってください!
私も頑張りたいと思います。 (ファリス)
美神直伝のあざとい手管を得意とする横島相手では、純朴直情まっしぐらのシロではそりゃあ分が悪すぎですなあ(笑)。
しかしこれで出るべきメンバーは(多分)全員出演したようですね。そうなるとこれからは逃げられた狩人たちによるリターンマッチかあ……。だます・すかすはそうそう続かないだろうから、美神・小竜姫・ワルキューレ・タマモあたりと今度会ったらその場で終わるかも(^^; どうする横島!? (HAL)
で人を疑う術を知らないシロには、横島を籠絡するには
役者不足でしたねぇw
でも、シロが横島に『あーん』なんて言われたら、怪し
かろうが何だろうが、断ること出来ませんよねw
シロニストも納得の可愛らしいシロを眼福しました(*^_^*) (R/Y)
純真なシロさんを悲しませるゲーム・・・
横島くんを人間不信にさせるゲーム・・・
哀れな(泣 (ノーフェイス)
傷つくどころか、砕け散ったかもしれません(笑)
ロキもちょっと後悔しているみたいです。無責任にも。
これからも笑いを提供するために、必死こいて頑張ります!!
HALさま:
美神から横島へ、そしてシロにもそれは受け継がれるのでしょうか。……恐ろしい。
リターンマッチはさらにデッドヒートするでしょうねぇ。今でも充分すぎるほど暴走してますし。
たとえば、小竜姫とワルキューレの戦いにべスパが参戦…とか(怖ッ)
…ところでこれでパーティー全員だったかな……アッ!!(汗)
紅蓮さま:
トラウマになりそうですよね。
…私の話だと、常識人ほどひどく壊れていってるような…?
R/Yさま:
むしろ、籠絡されてます(笑)横島、悪。
「あーん」は書いてて自分が照れました///
シロは本当に可愛いやつですよvv
……ところで、これで私もシロニストですか?
ノーフェイスさま:
いとあはれ(笑←?
なんで、私こんなゲーム始めちゃったんでしょう?(遠い目)
それはそれとして、まだ狂宴は続きますので、不幸な人はまだまだジャンジャン出そうです(楽しげ) (詠夢)
はなから参加してないメンバーをのければ、事務所のメンツは全員出たし、エミ、冥子、
カオス&マリア、小鳩に愛子、雪之丞とタイガー、唐巣神父&ピート、小竜姫にワルQ、
パビ、おまけに(酷)西条と厄珍……レギュラークラスであと忘れてるのは……おや? (HAL)
では、ヒント!!
この作品の第二話にパーティー会場の状況がありますが、その会場にいたものは皆参加してます! さあ、誰が抜けているのでしょう!?
答えは次回で!!(いつの間にクイズに?) (詠夢)
すると(笑)。上のコメントでヒャクメやら弓&一文字やらが抜けてるのはわざとですが(^^; (HAL)
横島クンが女の子を弄んでる!?(誤解を招く表現)
嘘はついてませんね、一応。
しかし……人狼にも聞くのか、あのバーガー。
あ、いや、人狼だったらアレは臭いだけでノックダウンの可能性もあります。 (林原悠)