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BACK TO THE PAST!

戻ってきた日常 下


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/ 5/24

化けライオンは強かった。下手をすればそんじょそこいらの魔族ですら凌駕するかもしれない。
何よりも脅威なのは・・・スピード。
よ〜く見ていないと反応しきれない。
攻撃するなんてもってのほかだ。しかしこのままでは埒があかない。
「横島クン、私がおとりになるからあんたは攻撃を!おキヌちゃんは私を援護して!」

いつもの美神なら「あんたがおとりになれ!」と言って横島のケツを蹴飛ばすのが常だが、今回は相手が強すぎる。もし横島におとりをやらせたところで自分の攻撃は先ほど同様、化けライオンには効かないのだ。純粋な攻撃力なら横島に勝る者など世界でも数少ない。美神はそこに賭けたのだ。

苦肉の策である。あの美神がプライドをかなぐり捨てたのである。

指示された横島だったが、ことの危険さにためらいが生まれた。
「し、しかし・・・」
だがそのタイムラグはただでさえ気が立っていた美神の神経を逆なでした。
「とっととせんか!」
どかっ!
「あいたッ!」


・・・やっぱりケツを蹴っ飛ばされる横島だった。運命には逆らえない。


一時的に戦線を離脱させられた横島とおまけのおキヌ。とりあえず文珠を取り出してみる。
倉庫の右端にいる化けライオンに投げつけようとして振りかぶるが、次の瞬間にはもうすでに敵は反対側にいた。

「・・・・どないせぇっちゅうねん」

文珠を出してみたはいいものの、どうすればいいか分からない。しかし急がなければやられるのはこちらだ。美神も長くはもたまい。
「よこし・・まクン!・・・早く!」
美神のギリギリな感じのする声がする。
「横島さん!急いでください!速く何とかしないと美神さんが!!」
おキヌまでつられて慌て始める。
「だ〜!分かってる!でもなかなかアイディアが・・・」
横島はじっと汗ばんだ顔を化けライオンへと向けた。戦局はかなり悪かった。

くそ、もう少し人を連れてくるべきだったか。こんな時雪ノ丞とかが居れば・・・・

ぴくりと横島の眉が動いた。
「そうか、いけるかも!・・・かめぇえええん!まいふれんず!!」
横島はわずかな期待を胸に両手の二つの文珠を使う。
込められた文字は『召』『喚』









「は〜〜〜〜っはっはっはっは!!呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜ン!誰が呼んだかヨーロッパの魔王ドクターカオス、ただいま参上!!」







「・・・・だめか・・・」
万事休す。横島は肩を落とした。そして全身からこの世の終わりのようなオーラを噴出す。
「コラ!失礼なヤツじゃな!!」
士気は最悪だった。
おキヌは何とかその場を取り繕うとフォローの言葉を捜す。
「えっとえっと・・・・そうだ!横島さん、マリアさんもちゃんといますよ!」
「おお!そういえばそうだ!」
横島は顔を上げ、わずかな希望にその顔を輝かせた。
「・・・おのれら人を馬鹿にするのもいいかげんにせい」
カオスはちょっぴりセンチメンタルな気分になってきた。
しかしこのようなことでダメになるヨーロッパの魔王ではない。カオスは矢吹ジョーよろしくすぐさま立ち直り、化けライオンを睨みつける。
「とにかく、この化け物を倒せばよいのだろう?いくぞ!マリア!」
「イエス・ドクターカオス」
ドクターカオスとその忠実な配下は化け物へ向かっていった。

「マリア、やれ!」
カオスの掛け声と共に、マリアの肘からミサイルのような物が発射され、化けライオンの足元に着弾した。
化けライオンは避けようと飛びのくが、爆風が及ぶ範囲が広すぎて避けきれず、巻き込まれる。

 ギャアン!!
と、化けライオンの悲鳴が上がった。

美神はよろよろと、神通昆を杖代わりに前線を離脱する。
「はぁ、ひぃ、ふぅ・・・後は頼んだわよ・・・」
「任されたり!」
「ご苦労様です・ミス・ミカミ」
疲労困憊で死にそうな顔をした美神と入れ替わりにカオスが前へと進み出た。
「まずは足をつぶせ!」
カオスの怒鳴り声に反応して、マリアの体中からなんだかよくわからない物が一斉に飛び出す。轟音と共に飛んでいったそれらは二割方かわされたが残りはきちんと命中した。
それたミサイルっぽいものは壁に穴を開けていく。

それを見た美神はドスが効いた声で横島に語りかける。
「・・・後で損害賠償が来たらあんたが払いなさいよ?」
「俺っすか?!」

一方化けライオンは、足にひどい火傷を負い、一瞬体を揺らがせるが、まだ闘志を失わない。
「くっ。まだ倒れんか。なんというタフさじゃ。だがこちらとてまだまだ行くぞ!」
は〜はっはっはっは!と高らかに笑うドクターカオスはいつもより若く見えた。
・・・ような気がした。

「な、なんか今日のカオスはやけに調子がいいな」
「悪いものでも食べたんでしょうか」
グロッキーになってる美神の傍らで横島とおキヌはいつもと違うカオスに狼狽する。
「このおっさんがこんなに役に立つのは原子風水盤の時とパピリオ達から自爆コードを外した時以来だぞ」
横島はウハウハ笑いながら化けライオンを虐めているカオスをみてポツリと呟いた。

「よーし!そろそろトドメじゃ。マリア、やつの動きを止めろ!」
「イエス・ドクターカオス・ロケットアーム・ファイア」
カオスの指示でマリアはロケットアームを二発同時に発射する。
空気を裂いて飛来するそれは化けライオンの足を捕まえた。
グギャッ!?
化けライオンは何とか逃れようともがくが、がっちりと捕むマリアの腕は外れない。
動けない化けライオンに向かってカオスが走り寄る。
「終わりじゃ!くらえ!!」
カオスの必殺技、胸の魔方陣らしきものから出す怪光線を出すべく彼はコートをはだけた。





しーん。


はて?と思い自分の胸元を見るカオス。そこには何も画かれていなかった。



「あっしまった!昨日銭湯に入ったんじゃった!!」





ゴァアア!!

べしっ!
「にぎゃぁあああ!!!」
かの有名なヨーロッパの魔王と呼ばれていた男(ジジイ)は化けライオンに張り飛ばされ、壁の穴から飛んでいった。
「ド、ドクターカオス!!」
流石のマリアも一瞬データが混乱したのか狼狽しているように見える。彼女は足からブースターを噴かすと彼を追って穴から飛んでいってしまった。
「アレって刺青じゃなかったのか・・・」
「と言うか洗ったら落ちちゃうんだ・・・」
「馬鹿ね〜」
美神除霊事務所の三人は何とも言えない顔をした。

「まあそれはともかく・・・」
横島はこきこきと首を鳴らしながら立ち上がる。
「俺の出番ってことみたいだな・・・自信ないけど」
グゥルルルルル・・・・。
化けライオンは血走った目でジロリと横島を睨んだ。

あんちゃん、やるきか?いてまうどコラ。

目はそう言っていた。


「・・・こ、怖い」

だがやるしかない。

「よし、一丁やりますか!おキヌちゃん、美神さん頼んだよ?」
「は、はい!」
そう言うと横島は両手にハンドオブグローリーを出現させて飛び出していった。
おキヌはとにかく美神にヒーリングでもかけてやろうとしたが、彼女の表情が優れないことに気づく。
「どうしたんですか?」
美神はぶすっとした顔で黙りこくっていたがやがて口を開いた。
「・・・・あいつが役に立つなんて気に食わない」
「・・・・(汗」

一方ビビリまくる横島だったがやがて気を取り直し、ポケットから数個の文珠を取り出す。
「最初から飛ばすぞ!」
『加』『速』、『剛』『力』。一気に四つもの文珠を一度に使用する。
ゴァアア!
飛び掛って来る化けライオンを文珠の効果の華麗なフットワークを駆使して紙一重でかわし、反撃のチャンスをうかがう。
「加速してもついていくのがギリギリか・・・(ほんとに怪我してんのか?)」
彼はそう愚痴りながらも顔は真剣そのものだった。
やがて化けライオンは痺れを切らして一直線に飛び掛ってきた。
「チャンス!」
横島はまたも攻撃をかわした後、着地した直後を狙い思い切り霊波刀を振り下ろす。
「オラ!」
バシッ!

ギャン!!!
相手が体勢を立て直す前に叩きのめす気のようだ。
「もう一丁!」
バシッ!
「まだまだ!」
やがて霊波砲、サイキックソーサーの連射も加わる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
ドドドドドド!!
化けライオンがいた辺りは爆煙に包まれ、もはや相手の姿は見えない。
「トドメだ!」
「馬鹿!油断しすぎ・・・!!」
横島は美神の声が聞こえなかったのか『爆』の文珠を手に煙の固まりに向かって走り寄る。




そんな横島を、煙の中からニュッと太い腕が伸び、弾き飛ばした。
「がっ!」
冷たい鉄の壁のたたきつけられた横島はワンテンポ送れてズルリと滑り落ち、動かなくなる。
「横島さん!?」
「横島クン!!」
美神とおキヌの悲鳴が上がる。


ゴーストスイーパー・・・せめて一人でも道連れに・・・!!


一方、満身創痍の化けライオンは最後の気力を振り絞り、死の牙を向けていた。

まだ動けない美神令子に向かって。


グゥガゥォァアアアアア!!!

「きゃぁ!」
やや離れた場所にいたおキヌを風圧だけで弾き飛ばし、猛スピードで一直線に飛び掛る化けライオン。
ちょうど穴から戻ってきたマリア、カオスの援護は間に合わない。
「間に合わんか・・・!?」
「ダメ・です・インポッシブル」
美神はただ唖然としていた。

・・・やばい、力が入らない。
            料金もらってない。
ここで死ぬの?もう終わり?つまんない・・・・。
  三億五千万円・・・
まだ、死にたくなんか無い。    三億五千万・・。



思わず目をつぶる。





せっかく千年も待ったのになぁ・・・






ブシャッっと鮮血が滴り、・・・しかし美神に痛みは無かった。

「えっ?」
目を開けるとそこには馬鹿でスケベであかすけで、でも・・・なんだかんだ言って、頼りになる・・・



    「・・・コイツは、俺の女だ。手ぇ出すヤツは誰だろうとぶっ殺す!!」
ザシュッ!!

ガァアアアア!!!



いつの間にか勝手に大きくなってしまった、あいつの背中だった。









「あの、美神さん?」
「・・・」
「横島さん?」
「・・・」
「・・・・・・・あぅ(ひ〜ん、気まずいよぉ)」
ここは帰りの車の中。
美神と横島はお互いにずっと黙りっきりだった。おキヌは何とか会話を生もうとしているが、無理だったらしい。
お互いに無言で目線すら合わせずに夜のハイウェイの空気を裂いていく美神と横島。
『後部座席』のおキヌは再び会話にトライしようとするが
「あの、」
「おキヌちゃん。コブラに後部座席は無いわ」


し〜〜〜〜〜ん・・・・

明らかに先ほどより重く冷たい沈黙が訪れた。

「(無知作者の馬鹿ぁ〜〜〜!!!!)」
おキヌは心の中でそう叫ぶと、『少なくともコブラではない謎の車の後部座席』に突っ伏した。

横島は先ほど化けライオンの攻撃を止めた最、怪我をした包帯ぐるぐるの腕をさすりつつ、隣の仏頂面の美神を横目で見る。

ちゃんと助けたとはいえ・・・やっぱ怒ってるんだろうな〜。そもそも俺があんなところでミスしなければ危険は無かったんだし・・・。
なんだかんだ言ってもこの人プロのGSだから怒るよなぁそれくらい・・・。

またちらりと美神を見る。
表情は全く読めない。

・・・死ぬかもしれん。

しばらく『謎の車』は高速を走っていたがやがて普通の街中を通り始め、横島のアパートまでやって来た。

そしておキヌちゃんが後部座席ですやすや眠り始めたころ
「横島クン、着いたわよ」
「え?」
心の中で『オウ・マイシスターパピリオ。この兄がいなくても強く生きてくれ』とか考えていた横島ははっと我に帰る。
「とっとと降りなさい!」
「は、はいっ」
横島は、怒る?怒るの?はっきりしてよ!と内心でびくびくしながら『謎の車』を降りようとする。

その時彼は小さな声を聞いた。
「・・がと。」
「え?何か言いましたか?」
よく聞こえなかった横島は美神に聞き返した。
「・・・!!この馬鹿たれ!さっきはありがとうって言っんのよ、馬鹿!!」
美神は顔を紅くしてそう叫び、降りかけていた横島を蹴っ飛ばして無理やり降ろす。
「あいたっ!」
蹴り飛ばされた横島はアスファルトの地面を転がった。
そして横島を放り出した『謎の車』はものすごいスピードで走り去る。
やがて、ちらほらと輝く星とネオンの輝く都会の夜の闇にまぎれ、見えなくなった。

横島は痛む所をさすりながら立ち上がり、しばしぼぉっと立っていた。
が、しだいに押さえきれない笑みがこぼれる。

「お安い御用ですよ、美神さん」

そして彼はなんだかにやついた顔のまま我が家へと足を向けた。
「ただいま」
「おかえりぃ〜」
ドアを開くと同時にパピリオが飛びついてくる。
そして儀兄の顔がやけにうれしそうなのに気づき怪訝な顔をした。
「どうしたの、何かうれしそうに見えるけど」
「いや、ちょっとな」
彼は苦笑しながらくしゃりとパピリオの頭を撫でると淡い光があふれる、いとしの我が家へと入っていった。



とまあ長くなったがこんなのが、彼の取り戻した日常である。





「あ、ヨコシマおかえり」
「せんせぇええ!!おかえりでござるぅう!!」
「何故シロタマがいる・・・」
「今日は泊まっていくってさ」
「この部屋じゃ物理的に無理のような気がするが・・・」


これもまた日常。


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