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横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

ズルイ女!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/ 5/22


『まるで昼メロのような泥沼だねぇ。』

「横島さんは悲劇のヒロインですか?」


お茶菓子をかじりながら、モニターに映し出されている修羅場を観戦しているロキと魔鈴。

邪神がせんべいをかじる姿はいかがなものか。


《…結界を張ったほうがよろしいでしょうか?》


これからの被害を考えて、人工幽霊壱号が提案する。

だが、ロキはにっこり笑ってぱたぱたと手を振る。


『大丈夫だよ。危なくなったら斉天大聖もいるんだし、それに…乱入者が困るだろ?』



          ◆



皆さん、お元気ですか? 横島忠夫です。

いま、僕の目の前で、小規模のハルマゲドンが勃発しそうです。

体や服の一部が、巻き起こる殺気の霊波にやられて焦げ付き始めてます。

当の二人は周りが全く見えていないようで、さらにヒートアップしていきます。

その理由が僕を取り合ってというもので、気分はもう悲劇のヒロインです。

ジークが果敢にも止めに行きますが、吹き飛ばされまくってます。

あっ、また僕の肌が切れました。

お願い、やめて! 僕のために争わないで〜!


「妙なモノローグ入れるくらいなら、早く逃げてください!!」

「…ハッ!!」


ズタボロになりながらもジークが警告してくれたおかげで、横島はようやく現実に帰ってきた。

だが、別にそれで状況が好転したわけではない。


「でも、お前…逃げろといっても…!」


ギン!! という鋭い視線に射抜かれて、ふたたび動きを止める横島。

さっきから、何とか逃げようと試みているのだが、小竜姫もワルキューレも決してそれを見逃さない。

せめぎ合いながら、しっかりと横島の動きだけは把握してるらしい。

離れたところで、どこからか取り出した酒を飲みながら、完全に傍観者モードの斉天大聖が面白そうに言う。


「どうした、小僧? 二人の女人から取り合われるなど、男冥利に尽きることぞ。嬉しくないのか?」

「嬉しくない!! 確かにその通りだが、なぜか嬉しくない─ッ!!」


ラブコメなら大歓迎だが、これでは生け贄の子羊となんら変わらない。

一刻も早く逃げ出したいが、足は凍りついたように動かなかった。


「…ん? どうしたんだ?」


横島がもう諦めの境地にたとうかというとき、ふいに小竜姫とワルキューレの様子が変わった。

まず、驚きの表情。

ひどく慌てているような、照れてるようなリアクションであたふたしている。

それが急にぴたりと止まると、つぎに嬉しそうな表情が浮かぶ。

照れているようなのは相変わらずだが、なんだかとても楽しそうである。

二人の突然の変化に、横島は首を傾げる。

奇妙な行動もそうだが、それらのリアクションは誰もいない場所に向けられている。

まるで、そこに誰かが立っているかのように─。


「彼女たちは幻を相手にしているのよ。」

「うわっ!? …って、タマモ!!」


突然聞こえた声に振り返ると、してやったりな表情のタマモが立っていた。


「二人とも、横島が自分に捕まってくれるって幻を見てるのよ。」

「へー…。」


横島が二人を見ると、なにやら今度は妙にニヤニヤしていた。

小竜姫は頬に手を当てて身をくねらせており、ワルキューレも別人かと思えるような笑顔で笑っている。

……なんか、見なくてもいいものを見たような、見たくないものを見たような…。

いったい、あの幻の中で俺はどんなことをしているのだろうか?

悩み始めた横島だったが、肩にぽんと手を置かれて我に返る。


「さ、横島。行こっか?」


冷たさを含んだ声でささやかれ、現在の状況を改めて思い知らされる。

そう…ゲームが続いている以上、タマモだって追っ手の一人なのだ。


「……なあ、タマモ。お前は何をお願いするんだ?」

「簡単よ。デジャヴーランドに連れて行ってもらうの。」

「へっ?」


意外な返答に横島は拍子抜けする。

もっと無理難題を押し付けられるかと思っていたのだが、そのくらいなら出来ないこともない。

多少の出費で済むのなら、お安い御用だ。


「な〜んだ、それだったら─。」

「毎週ね。」


…………はい?


「何ですとッ!?」

「だから、毎週連れて行ってもらうの。あと、帰りは必ずきつねうどんを奢ってもらう。」


横島はくらりとよろける。

ただでさえ、無駄にバカ高いとこに遊びに行くのに、それを毎週だと?

しかも、しっかりと帰りにきつねうどんの要求…。

多少どころの出費じゃすまない。立派な無理難題だ。

……やはり、誰にも捕まるわけにはいかない。ならば─。


「………。」

「? …さ、行くわよ。」


タマモは黙りこんだ横島を不審に思いながらも、腕をつかんで引っ立てていった。

それを黙って見送っていた斉天大聖が、ぼそりとこぼす。


「…お主もえげつないのう、小僧。」

「仕方ねぇだろ? あんな願い、きくわけにはいかねーんだから。」


それに答えたのは、同じくタマモを見送っていた横島。


「それにしても、狐の嬢ちゃんに気付かれぬよう、一瞬で幻の文珠を発動させるとは…腕を上げたのう。」

「まあ、俺だって裏では努力してるんだ。このくらいはな。」

「じゃが、身代わりにジークを掴ませるのは、ちょっと酷くないか?」

「それを黙って見送ったアンタも同罪だろうが。」


かくして、ひとりの青年の尊き犠牲をもって、横島は窮地を脱出したのだった。



          ◆


『スケープゴートにされたジークくんは大丈夫かい?』

《正気に戻ったタマモさんに狐火で焼かれましたが、命に別状はありません。》


ロキの質問に律儀に答える人工幽霊壱号。

大丈夫とは言わないあたり、怖いものがある。

魔鈴は何も言わず、急患に対処するために治療の準備を始めていた。


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