『まるで昼メロのような泥沼だねぇ。』
「横島さんは悲劇のヒロインですか?」
お茶菓子をかじりながら、モニターに映し出されている修羅場を観戦しているロキと魔鈴。
邪神がせんべいをかじる姿はいかがなものか。
《…結界を張ったほうがよろしいでしょうか?》
これからの被害を考えて、人工幽霊壱号が提案する。
だが、ロキはにっこり笑ってぱたぱたと手を振る。
『大丈夫だよ。危なくなったら斉天大聖もいるんだし、それに…乱入者が困るだろ?』
◆
皆さん、お元気ですか? 横島忠夫です。
いま、僕の目の前で、小規模のハルマゲドンが勃発しそうです。
体や服の一部が、巻き起こる殺気の霊波にやられて焦げ付き始めてます。
当の二人は周りが全く見えていないようで、さらにヒートアップしていきます。
その理由が僕を取り合ってというもので、気分はもう悲劇のヒロインです。
ジークが果敢にも止めに行きますが、吹き飛ばされまくってます。
あっ、また僕の肌が切れました。
お願い、やめて! 僕のために争わないで〜!
「妙なモノローグ入れるくらいなら、早く逃げてください!!」
「…ハッ!!」
ズタボロになりながらもジークが警告してくれたおかげで、横島はようやく現実に帰ってきた。
だが、別にそれで状況が好転したわけではない。
「でも、お前…逃げろといっても…!」
ギン!! という鋭い視線に射抜かれて、ふたたび動きを止める横島。
さっきから、何とか逃げようと試みているのだが、小竜姫もワルキューレも決してそれを見逃さない。
せめぎ合いながら、しっかりと横島の動きだけは把握してるらしい。
離れたところで、どこからか取り出した酒を飲みながら、完全に傍観者モードの斉天大聖が面白そうに言う。
「どうした、小僧? 二人の女人から取り合われるなど、男冥利に尽きることぞ。嬉しくないのか?」
「嬉しくない!! 確かにその通りだが、なぜか嬉しくない─ッ!!」
ラブコメなら大歓迎だが、これでは生け贄の子羊となんら変わらない。
一刻も早く逃げ出したいが、足は凍りついたように動かなかった。
「…ん? どうしたんだ?」
横島がもう諦めの境地にたとうかというとき、ふいに小竜姫とワルキューレの様子が変わった。
まず、驚きの表情。
ひどく慌てているような、照れてるようなリアクションであたふたしている。
それが急にぴたりと止まると、つぎに嬉しそうな表情が浮かぶ。
照れているようなのは相変わらずだが、なんだかとても楽しそうである。
二人の突然の変化に、横島は首を傾げる。
奇妙な行動もそうだが、それらのリアクションは誰もいない場所に向けられている。
まるで、そこに誰かが立っているかのように─。
「彼女たちは幻を相手にしているのよ。」
「うわっ!? …って、タマモ!!」
突然聞こえた声に振り返ると、してやったりな表情のタマモが立っていた。
「二人とも、横島が自分に捕まってくれるって幻を見てるのよ。」
「へー…。」
横島が二人を見ると、なにやら今度は妙にニヤニヤしていた。
小竜姫は頬に手を当てて身をくねらせており、ワルキューレも別人かと思えるような笑顔で笑っている。
……なんか、見なくてもいいものを見たような、見たくないものを見たような…。
いったい、あの幻の中で俺はどんなことをしているのだろうか?
悩み始めた横島だったが、肩にぽんと手を置かれて我に返る。
「さ、横島。行こっか?」
冷たさを含んだ声でささやかれ、現在の状況を改めて思い知らされる。
そう…ゲームが続いている以上、タマモだって追っ手の一人なのだ。
「……なあ、タマモ。お前は何をお願いするんだ?」
「簡単よ。デジャヴーランドに連れて行ってもらうの。」
「へっ?」
意外な返答に横島は拍子抜けする。
もっと無理難題を押し付けられるかと思っていたのだが、そのくらいなら出来ないこともない。
多少の出費で済むのなら、お安い御用だ。
「な〜んだ、それだったら─。」
「毎週ね。」
…………はい?
「何ですとッ!?」
「だから、毎週連れて行ってもらうの。あと、帰りは必ずきつねうどんを奢ってもらう。」
横島はくらりとよろける。
ただでさえ、無駄にバカ高いとこに遊びに行くのに、それを毎週だと?
しかも、しっかりと帰りにきつねうどんの要求…。
多少どころの出費じゃすまない。立派な無理難題だ。
……やはり、誰にも捕まるわけにはいかない。ならば─。
「………。」
「? …さ、行くわよ。」
タマモは黙りこんだ横島を不審に思いながらも、腕をつかんで引っ立てていった。
それを黙って見送っていた斉天大聖が、ぼそりとこぼす。
「…お主もえげつないのう、小僧。」
「仕方ねぇだろ? あんな願い、きくわけにはいかねーんだから。」
それに答えたのは、同じくタマモを見送っていた横島。
「それにしても、狐の嬢ちゃんに気付かれぬよう、一瞬で幻の文珠を発動させるとは…腕を上げたのう。」
「まあ、俺だって裏では努力してるんだ。このくらいはな。」
「じゃが、身代わりにジークを掴ませるのは、ちょっと酷くないか?」
「それを黙って見送ったアンタも同罪だろうが。」
かくして、ひとりの青年の尊き犠牲をもって、横島は窮地を脱出したのだった。
◆
『スケープゴートにされたジークくんは大丈夫かい?』
《正気に戻ったタマモさんに狐火で焼かれましたが、命に別状はありません。》
ロキの質問に律儀に答える人工幽霊壱号。
大丈夫とは言わないあたり、怖いものがある。
魔鈴は何も言わず、急患に対処するために治療の準備を始めていた。
横島はやっぱり目的のために躊躇せず他人を犠牲にしております。
ちなみにジークはすでに力尽きておりました。
冒頭ですでにズタボロにされてますから、限界だったのでしょう。
哀れな青年に合掌(多いなー、合掌…) (詠夢)
>体や服の一部が、巻き起こる殺気の霊波にやられて焦げ付き始めてます。
恐過ぎるよ〜 (紅蓮)
ジークの尊い犠牲に合掌(南無〜) (R/Y)
一気読みさせて頂きました。・・・この大人数を、無理なく動かせる力量に脱帽です。凄すぎる・・・!テンポも良いし。
何か、『バトルロワイアル』を読んでる気分になりましたね。
文句無く面白いのですが、個人的にどツボに入らないので、Bにさせて下さい。
一つだけ注文をつけるなら、機種依存字なのか、文字化けが多い事でしょうか・・・。ちと読み辛いので、気を付けてくれると有り難いです。 (竹)
ガンバだ横島くん!!
ところで美神美知恵さんも参加しているのでしょうか?
もし参加しているのなら最後に勝ちそうな気が(汗) (ノーフェイス)
紅蓮さま:
横島の修行の賜物ですねv
イメージとしては、原作の『母帰る』の美神と横島ママの嫁姑(?)戦争レベルUP版と考えていただければよいです。
R/Yさま:
最初の案では、パピリオの予定でした。
真正面から力で取り押さえるなら…と思ったのですが、そうすると今度はパピリオを止めるものがいなくなっちゃうので泣く泣く没に…。
ナマケモノさま:
初めまして!
老師は基本的に手出ししません。
完全にこの状況を楽しんでます。酒飲んでるし(笑)
HALさま:
タマモとシロはワンセットで出そうかとも思いましたが、ちょっと話がごちゃごちゃしそうだったので、却下。
その代わりといっては何ですが、シロもとことん暴れさせます(笑)
竹さま:
初めまして!
お褒めいただき、ありがとうございます!!
タイトル案には『横島争奪バトルロワイアル』というのもありました(笑)
文字化けについてですが、私のPCからではわかりませんでした。すみません!!
今後の対策に、できれば文字化けした部分を教えていただければ嬉しいです。
(ここに書いて、読んでもらえるかなぁ?)
ノーフェイスさま:
横島の平穏はきっと、美神のとこにバイトに入ったときからなくなったんでしょうね(哀)
美知恵さんは美神のお目付けです。
……でも、美知恵さんも基本は傍観者ですので、あまり役には立たないかも…? (詠夢)
まあ悪Q姐さんと小竜姫を相手に身も心もボロボロだったでしょうし。 (林原悠)