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横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

果てなき暴走!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/ 5/16


誰かがこんなことを言っていた気がする。

苦しきときは動かざるが吉─と。


「というわけで、もう俺は下手に動かんぞぉ〜…!」


横島は今、物置の隅で身を潜めてじっとしていた。

自分がちょろちょろ動き回るから、誰かと鉢合わせたりするのだ。

珍しく学習能力を発揮してそう考えた横島は、ならばとこの物置に隠れることにした。

もちろん、中には誰もいないことは確認済みだ。

ここは愛子に捕まった場所であり、一度捕まったのだから戻ってくるまいと考える人間心理をついた行動である。


「あとは、このまま時間切れを待てばいいのだ…フッフッフッ…!」


ともすれば高笑いとともにほとばしりそうになる煩悩を抑えつつ、勝利の笑みを浮かべる。

そして静寂─。

沈黙─。

暗闇─。

時間が刻々と過ぎていくかに思えた─。


「見つけたのねー!!」

「のわあぁぁぁぁーっ!?」


いきなり後ろから叫ばれて、横島は飛び上がって振り向く。

そこには、勝ち誇った表情を浮かべるヒャクメが立っていた。


「ヒャクメ!? なんでここが…ッ!?」

「フフッ! 甘いのねー、横島さん。私の目を誤魔化せるわけがないのねー!」


心なしか、ヒャクメの第三の目が光ったように見えた。


「ん…? いや、待て! 確か、お前の目はジャミングしてたはずだぞ!?」


確かにゲーム前、そんなルールがあったはずだ。

横島もちゃんと文珠でジャミングし続けてるので間違いない。

だから、横島を追ってこれるはずもないのだが。


「まあ、そーですねー。でも、それが逆に私を助けてくれたのねー。」

「どういうことだ!?」


ヒャクメは不敵に笑いを浮かべて見せると、勢いよく横島に指を突きつける。


「横島さんが見えないのなら、そこに必ず空白が見えるのねー! だから空白を探せばよかったのねー!」

「な…ッ、そうだったのか…ッ!?」


勝ち誇るヒャクメと対照的に、横島は意外な盲点をつかれてうろたえる。


「自分を隠すんじゃなく、私の感覚を妨害するべきでしたねー!」

「クッ…! こんな時ばっかり冴えやがって…!!」

「何とでも言うのねー! さあ、覚悟はいいのねー、横島さん?」


じりっ、とヒャクメが一歩進み、横島がじりっ、と退がる。

また一歩、一歩。

じわりじわりと睨み合いが続く。


「…観念するのねー。入り口は私の後ろだし、逃げ場はないのねー。」

「悪いがそれはできない相談だ。もはや俺の野望は、俺だけの野望にあらず!! 散った友のためにも負けられん!!」

「? 何の話なのねー?」


横島と鬼道のことを知らないため、横島の言葉の意味がわからずヒャクメは首を傾げる。


「こっちの話だ、気にするな。とにかく、俺は捕まるわけにはいかんのだ!! 極上のハーレムのために!!」

「それこそ冗談じゃないのねー!!」


横島が夢(妄想)に意識を飛ばしたのを好機と、ヒャクメが踊りかかる。

しかし瞬間、二人の間に強烈な閃光が走った。


「わっぷ!?」


たまらず顔をかばったヒャクメだったが、自慢の強力な感覚器官がその閃光を何倍にも増幅して感じ取ってしまった。

例えるなら、真昼に暗視ゴーグルをつけて太陽を拝んだようなものだ。


「どーだッ! ご自慢の目で喰らったサイキック猫だましの威力は!!」

「あうぅッ、あわぁっ!? うきゃあっ!!」


突然浴びた強烈な負荷にヒャクメはパニックを起こしていて、横島の言葉に答えることも出来ない。

しばらくは感覚が狂ったまま、まともには働かないだろう。

そして横島は薄情にも、そんなヒャクメをそのままに部屋から脱出していた。



          ◆



『このまま放っておくのは可哀想だね。救護班、ヒャクメ君の回収を頼むよ。』

「は〜い。」


ロキの指示に従い、魔鈴が部屋を出て行った。


『…それにしても皆、次から次へと手段を選ばないねぇ。よくあんな手を思いつくもんだよ。』

《その非常識さが、かのアシュタロスさえ退けたのです…。》


呆れるロキに、一応フォローする人工幽霊壱号だが、その声には複雑な感情が混じっていた。

確かに、手放しで褒めれるようなことではない。


『おっと! こうしてる間も、逃げ出した横島くんに誰か近づいてるみたいだよ。』



          ◆



「くっそー!! 隠れるのはNGか! よく考えたら美神さんに読まれて、見つかるかもしれんしなぁ〜…!」


横島は悔しげに愚痴をこぼしながら走っていた。

もう随分と走っているため、だいぶ息があがってきている。


「……とにかく、こうなったらひたすら誰にも会わんことを祈るしか……って、わあッ!?」

「わっ!?」


横島が通路の角を曲がったとき、丁度向こうからも誰かが来ており、危うくぶつかりそうになった。

ムリヤリ体を捻って、何とかぶつからずに済んだ横島だが、勢いを殺せずそのまま尻餅をついてしまう。


「あいたた…!!」

「あれ…? ポチ?」

「えっ?!」


ギクッとして横島が顔を上げると、そこにはきょとんとした顔をしたべスパが立っていた。


「べ…ッ、べスパッ!」

「なんだい…そんなに驚かなくてもいいだろう?」


今までのこともあり思わず身構える横島だが、対するべスパは心外だといった表情になる。

その様子に、横島も少しだけ警戒をとく。


「…お前は、俺を捕まえようとしないのか?」

「ん? んん…アタシはパス。それよりパピリオを見なかったかい?」


パピリオの名前を聞いて、横島の脳裏に嫌な思い出が蘇る。


「見たってゆーか、危なく殺されそーになったけどな…。」

「やっぱり…! あの子の事だから無茶しそうなんで、お目付け役でもしとこうかと思ってさ。」

「えっ? じゃあ、お前はゲームに参加しないのか?」


横島は意外そうに目を丸くする。

唐巣神父のような良識派まで参加しているゲームなのだから、てっきりべスパものってるものと思っていたのだ。


「だから言ったろ? アタシはパスだって。」

「いいのか? 自分で言うのもアレだが、俺の文珠なら大概の望みは叶うぞ?」


だが、横島の言葉にべスパはちょっとだけ苦笑して、寂しそうな目をしてみせる。


「…アタシの望みは、誰にも叶えられないさ─。」

「あ…。」


べスパの望みに思い至って、横島も気まずげに目をそらす。

彼女の望みなど、一つしかない。そして、それは決して許されない望みでもある。

その彼女が望む相手からも望まれない、望み。

アシュタロスの…復活─。


「ゴメン…無神経だったな。」

「いいさ。そんなもん、お前には期待してないよ。それに…お前だって辛いのは同じだしね。」

「ん…。」


横島は小さく返事を返すことしか出来なかった。


「…─さてと! それじゃ、アタシはまた、パピリオでも探しとくよ。頑張りな。」

「…ああ。」


べスパは、にっと笑って見せると身を翻して廊下を駆けていった。

その後姿を見送った横島の胸に去来する思い─。


「…そーだよな。俺の望みも一つしかないよな…。」


愛しい彼女を失ったあの悲しみは、いまだ癒えずここにある。

皆の優しさに包まれて、それをひた隠してきてはいるものの、それはずっと胸の奥に刻み込まれている。

埋めるのは、ただ一つの約束。

いつか、形は違えどまた会おうということ─。

そのためにも…。


「そのためにも…!! 是が非でもハーレムを手に入れちゃるッ!!」


いや、待て!! それでいいのか横島!!

草葉の陰でルシオラが泣いているぞ!?


横島の暴走は止まらない─。


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