椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

戻ってきた日常 上


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/ 5/ 4

「すいませんでしたっ!」

俺は雪ノ丞たちの記憶をどうにかした後、皆を集めて、そして今までしようとしていた事をあらざらい暴露した。
まあ、こうやって素直に謝ったんだが・・・・どうなったかは押して知ること無かれ。

神通昆でしばかれまくるとか、一発殴らせろ!とかはまだしも、ただ涙目で無言の圧力をかけたりされるのは正直つらかった・・・。



でも、今俺には守らなくちゃいけない奴が居る。

ま、妹みたいなもんだ。魂は繋がってるみたいだからな。


ふと腰の辺りから見上げてくる目線と目が合う。

何となく、笑みがこぼれた。

なんだか・・・久しぶりに生きている実感が湧いてきた。








横島亭。朝、7:30
部屋の中は少し前には考えられなかったぐらい片付いている。
シンクには一点の曇りもなく、台所には綺麗に整頓された食器が並んでいる。
そしてリビングの座敷には二組の布団が並んでいた。


・・・『♪おっは〜〜〜〜〜〜!!・・・・真吾マ・・・』かちっ!!

やがて鳴り出したやや時代遅れの目覚まし音に大きい方の布団の中身が反応する。
「・・・」
大きい方の布団の主、横島はぼやーっとした顔でむっくりと起き上がり、傍らの布団を見つめる。
そこでは蝶のプリントが施されたパジャマを着込み、ぐーすか気持ちよさそうに眠っているパピリオが居た。
手足はあらぬ方向へ投げ出されている。相当寝相が悪いようだ。

しばらくそれをぼおっと見ていた横島はその微笑ましさに笑みを浮かべ、パピリオの布団を掛け直してやると台所へと向かっていった。

「♪おっれっは〜ロ〜リコンじゃな〜い・・・」
と、最近暮らしているうちに作ってしまった謎の自作曲を歌いつつ、驚くべきことに二人ぶんの朝食を作り始める。


横島忠夫。前とは大分変わった、いつもどうりの日常である。


もぎゅもぎゅもぎゅ・・・
朝の横島亭に朝食を租借する音がする。
メニューは焼きジャケにたくあん、ご飯と味噌汁さらに、でんっと威圧感を放つ蜂蜜の瓶。
パピリオと横島はちゃぶ台をはさんで向かい合っている。
「・・・本当にうまいのか?それは・・・」
横島は白いご飯の上にどばどばと蜂蜜をぶっかけているパピリオを見て、もはや何度言ったか分からない台詞を言った。
「おいしいけど?」
パピリオはきょとんとした顔でそう答え、まるで納豆のように『蜂蜜かけご飯』はしでかき混ぜると、茶碗の中身を掻き込んだ。
それを見つめる横島はやっぱりいつものように頬をひくつかせる。


ごらんの通りパピリオと横島は一緒に生活していた。
一時は周りからの猛反対(主に女性陣)に悩まされたが、今ではすっかりこの生活にも馴染んできた。(西条ただ一人がいつもニヤニヤしながら賛成していたが)


パピリオと暮らします!と叫んだ日にはえらい目に会ったな〜

横島はふと昔を思い出す。

ほんっとやばかった・・・お袋には殺されかけるし、美神さんどころかおキヌちゃんまで怖いし・・・でも一番やばかったのは小竜姫様だった。

横島は危うく切り飛ばされそうになった自分の首をさする。

ま、こいつの笑顔が見れるんだったらいくらでも切り飛ばさせてやるさ。

横島は目の前の少女を見て笑みを浮かべた。
「な、何よ」
パピリオはそのはたから見れば怪しい笑みにちょっと引く。
「いや、いつの間にかでかくなったな〜と思って」
パピリオはここ数ヶ月ではっきり言ってかなり成長していた。
成長期なのか、はたや別の理由か、今では中学生ぐらいの体である。
精神的な成長が体の方の成長を促した、という意見が今のところ有力である。
言葉遣いもいつしか普通になっていた。
「ふっ、今はまだA強って所だけど、このまま行けば打倒ベスペちゃんは夢じゃないわ」
「いや、そっちの話じゃないんだが・・・」


飯を喰い尽くし、横島が食器を片付けている間にパピリオは着替えを済ます。
「ねーねー服の後ろ大丈夫?」
「ん?別に何も」
横島は彼女の六道学園の制服を見てそう言った。

パピリオはこう見えても高校生である。
何故かの誰かが「皆に〜魔族がどんなものなのか〜知ってもらうのは〜差別を無くす第一歩よ〜」と言ったのがことの始まりで今にいたる。
ちなみに学力は?ということに関しては割と心配要らなかった。彼女はもともと逆転号にて敵と戦うことを目的に作られたのであるから、霊能関係の知識うんぬんはたいてい生まれつき持っていたのだった。

だが最近では「因数分解ってナニ!?こんなのが人生にどう必要なの!!」とか叫んでいたのでそうでもないかもしれない。


洗い物を終えた横島はパピリオを促す。
「おし、俺はもうちょっとしたら事務所行くから先行ってろ。それじゃあ行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます。お兄ちゃん」

いちおー彼女は戸籍上横島の妹、ということになっていた。




・・・とある食肉企業の倉庫。そこが今回の美神除霊事務所の仕事場だった。

一台のコブラが平日の割と空いた高速道路を駆け抜ける。空には一点の雲も無く、まさに除霊日和とでも言うところか。


「うふふ・・・久しぶりの大物よ!」
クライアントが待つ倉庫までの移動中、長い髪を風にたなびかせながら美神は久しぶりに入った高収入の依頼に心を躍らせていた。
最近は何故か仕事がなかなか来ないため、『金・禁断症状』を起こす寸前まで行っていたのだった。
「良かったですね、横島さん。美神さんなんだか久しぶりに機嫌良さそうですよ?」
後部座席のおキヌが横島に笑いかける。
「ん?あ、ああ」
しかし横島は心ここに有らず、という面持ちだった。しかも何故かい心地が悪そうにちらちらと美神を見ている。

それもそのはず。美神になかなか仕事が来なくなってしまったのは横島が文珠をオカルトGメンに売りさばいたために、そちらの仕事率が上がったせいであり・・・

それがばれる事、すなわち死、有るのみ。

とまあ命に関わる悩み事を抱えていたのである。

「ターゲットはたかが化け猫一匹!これで2億円なんて安いもんよ!」
おほおほ笑う声が風に流されて遥か後方へと流されていった。


だけど・・・なんか良いなぁ。

と、横島は思いをはせる。
命の危機を抜きにすれば、今の状況は何も悩みも無かった、あの一番楽しかった時間そのものだった。

正しくはおキヌちゃんは死んでたし、シロタマにも悪いけど、俺たちはもともと人間二人と幽霊だったからな。

ちなみにシロタマは正式なオカルトGメン入りを果たすべく、高校卒業証書をもらうためパピリオの同級生だ。(どうやって中学のカリキュラムを飛ばしたかは秘密だそうだ)



やがて美神たちは目的地に着き、クライアントを探す。
コンクリートで固められた人工的な直線で作られた海との境目。
波打ち際のコンクリートに付着するフジツボなどが、かろうじて自然の面影を保っている。
「海なのにねーちゃんたちがいない・・・」
横島が残念そうに呟く。だが、そりゃあそうだ。だって港だもん。
いるのは勇敢な海の男ばかりである。
しばらくするとひょろりとした背広のビジネスマン風のメガネ男が汗を拭き拭きこちらへとやって来た。
「も、申し訳ありません!準備に手間取りまして・・・」
「も〜レディを待たせるなんてあんたどういう神経してんの?」
美神は不満たらたらだ。
ほおって置けば追加料金を請求しそうなのでおキヌがなだめる。
「まあまあ」

「とにかく奴はこっちです。急いでください」

メガネ君の案内に着いていくと大きな倉庫に案内された。
「ここです。この倉庫はもともとわが社の商品(肉)を保管しておく場所なのですが・・・」
「えさを目当てに妖怪が来ちゃったと」
「そうです」
美神が代弁し、信頼度を高める。こういうのも立派なプロの業だ。
「う〜〜〜ん・・・・厄介な気配がするわ。やめたほうがいいのかも」
美神はわざとらしく顎をしゃくって見せて、横目でメガネ君見る。
「そ、そんな事言わないでくださいよ!!こっちも一刻も早く何とかしなきゃならないんです。そうだ、もう一億でどうでしょう?」
「2億」
「・・・・1億2千万」
「2億」
「分かりました。もう1億5千万出しましょう。これ以上は無理です」
「まいど」

・・・・・これもプロの業に入るのだろうか。

横島はなんともいえない表情で美神を見た。

「じゃあ神通昆と破魔札。500万ぐらいでいいわ」
「はい」
横島がぱっと要求されたものを差し出す。慣れたものだ。
今回の獲物、化け猫は猫又とは違い、ほとんど野獣であり説得は無理だ。
よって強硬手段となる。
「じゃあ、クライアントさんは離れててください。」
クライアントのメガネ君が逃げたのを見届けると、美神一行は一気に重い扉を開け放つ。
ブワリと冷たい冷蔵用の冷気が扉の向こうから流れ出てくる。
「先手必勝!」
美神は冷気の壁を突き抜け、先頭に踊り出ると、先制に破魔札を数枚、不意を突かれて怯んでいる敵に叩き付ける。
「さぁ!ゴーストスイーパー美神令子が極楽に行かせて上げるわ!!」
続いてフルパワーの神通昆が敵の額にクリティカルヒットした。

あーあ。もう終わりか。横島は相変らずの手際のよさに感心する。

が・・・


グォォォオオオオオオオオオ!!!!!


敵は悲鳴をあげながら天井から吊り下げられている牛肉を巻き込みつつ、反対側の壁まで吹き飛ばされた。

「い、今グォオオオって・・・」
横島が額に冷や汗を浮かべた。
「猫ってグォオオオって言いませんよね?私・・・・見間違いかもしれませんけどかなり大型の動物に見えたんですけど・・・」
おキヌは何となく感じるとてつもなく悪い予感におろおろとし始める。
「おキヌちゃん。私にもとてつもなくやばい物が見えたわ」
反対側の壁まで吹き飛ばされ、なにやらプッツンしちゃってるご様子の敵は辺りの肉を吹き飛ばしながら立ち上がる。
その顔には・・・・タテガミ。

ガォオオオオオオ!!!!
そいつは怒りの咆哮を上げた。

「ライオン〜〜〜!!!」
横島が奇声を上げた。
「あっ、確かに猫科だ。ライオンの化けたのなら確かに化け猫ですかね」
「冷静に分析してる場合じゃないでしょうが!!」
美神はおキヌの手を引っ張って近くにあったコンテナの陰に隠れる。
隠れきれなかった横島は疾風のように飛び掛ってきた化けライオンに弾き飛ばされる。
「どべぇ!!」
「横島さん!」
と、横島に駆け寄りそうになるおキヌを美神が慌てて止める。
「待ちなさい!あいつかなりヤバイ!!」
「でも・・・」
「あいつが死ぬわけ無いでしょう!」
なおも渋るおキヌ。そんな彼女らに化けライオンが目線を向ける。

ガルルルル!!!

ドゴン!!!

一撃で100キロぐらいありそうなコンテナを吹き飛ばす。

「マジ!?」

その後も繰り広がれる攻撃をキャーキャーいいながらもかわす二人。

「こんなんだったら・・・・





もっとお金請求しとくんだったぁぁぁああ!!!
謀ったわねぇぇえええ!!!あのクソメガネェエエエ!!!」
「結局そっちなんですかぁ!」
おキヌの悲痛な叫びが寒い倉庫の中に響き渡った。






「くかー、くかー、くかー・・・・んにゅ?」
パピリオは何かを感じ、ふと目を覚ました。

きょろきょろと辺りを見回す。
しかし辺りでは数学の授業が展開されているだけで特に変わった様子は無い。

気のせいか・・・。

遠い所でいとしの人が死にかけているなどいず知らず。彼女は再び眠りの旅に・・・

「パピリオさん!寝ちゃダメですよ!」
数学の教師の怒声。
「ちぇっ」
パピリオの睡眠は阻止された。六道学園一年A組、至って平和である。



「パピリオ殿!」
パピリオが帰り支度をしていると、クラス友達である元気はつらつ少女が声をかけてきた。
スカートにあけられた穴から出ている尻尾は絶え間なく左右にぱたぱた振られている。
「今日は先生家にいるでござるか?」
「いないわよ」
パピリオはカバンに教科書を詰ながらめんどくさそうに言った。まさに一蹴。
「そうでござるか」
しゅんと落ち込むシロ。尻尾も寂しげに垂れ下がっている。

最近彼女は横島の家に入り浸っているのだ。このように事あるたんびにパピリオにも纏わり着いてくるのでパピリオもあまりうれしいと思わない。
まあ、仲は良い二人なのだが。

「しょうがないでござる・・・その代わりにこの間先生に教えてもらった『げーむせんたー』とやらに行くでござるよ」
「えっちょっと・・・」
シロはいきなりパピリオの手を引っ張って全力で走り出す。
当然の事ながらパピリオはカバンを持ったまま引きずられる。
「キャァアア!」
「メス狐もさそうでござるぅ!」
凄まじい勢いで引きずられるパピリオ。
この『引きずり』は、彼女の友達ならいずれは経験する恐ろしいものだった。
しかし、他校からやって来る彼女にほれた男どもを遠ざけるのには役立っている。
「ちょっと!とまりなさ・・・・キャア!」
「タ〜マモ〜何処でござるか〜」


市街地のゲーセン。
パピ、シロ、タマモの三人はそこにいた。
しかしシロは黒焦げで、シューという音を出して煙を上げている。
あの後パピリオに連続霊波砲で焼かれたのだ。
パピリオは『太鼓の達人』、タマモはなにやらタイピングゲームなんぞをやっている。
「ねぇパピリオ、聞くまでも無いんだけどまた引かれたわけ?」
「そうよ」
「ご愁傷様。にしてもなんであの馬鹿犬はいつもいつも何度注意しても引きずるんだろ。」
「本能だからよ。たぶん。」
「じゃあ、今度『人狼の生態』とか言うレポート書こうか」
「あ、それ良いね。笑える〜」
「・・・・でもさ」
「ナニ?」
「私たちってキャラかぶってない?」
「そうね現に今のセリフどっちのセリフだかわかんない人多いわよ」


しばらく無言で黙々とゲームを続ける二人。

その後、復活したシロと共に楽しく遊びましたとさ。




そのころいずこでは・・・横島たちがかなりやばかった。

「破魔札破魔札・・・きゃ〜〜〜!!効かない〜!!」
「きゃっ・・・シャレにならないですよ!!この子強すぎる。ネクロマンサーの笛も効きません!!」
「う〜〜〜ん・・・あいたたた・・・」
やっと横島は目を覚ますが・・・。
「ちょっと!一緒に逃げてないで何とかしなさいよ!!」
「無茶言わんでください!速すぎて文珠があたらないんです!!」
一緒にキャーキャー逃げることしか出来ずにいた。


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