椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

迷い・後編


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/ 4/22

相変らず降っている雨の中、雨粒に濡れた顔を忌々しげにぬぐいながら横島が叫ぶ。
「どんなヤツだ!」
「インポッシブル・予測不能・とにかく迎撃準備を」
マリアは無機質にそう告げる。
横島は苛立ち気味にちっ、と舌を鳴らし、とりあえず霊波刀を構えた。

・・・出力が足らない。雪ノ丞達、強かったからな・・・。

横島はぢっと手を見る。(石川啄木みたいに)

これで妨害しにきた奴が美神さんレベルだとまずいな・・・。

彼の額にしわが浮かんだ。

「マリア、わしらも戦闘準備じゃ

















マリア、変形じゃ!!」


「イエス・ドクターカオス」



「なっ!?」

突如予想外の行動を起こすカオス達に横島は思い切り振り返った。
そうしている間にもマリアはガッチョンガッチョンと物理的法則を無視した変形を進める。

「それって次回予告で作者ふざけて後先考えずに何となく書き込んだだけじゃなかったのか!?」

機関車の動力部が空中へ飛び出し0,5頭身ぐらいの人型起動兵器へと変形を完了した。


「ま・・・・まさか、ヒカリ○ン?ヒ○リアンなのか!?」
横島は目の前で行なわれる愚行に、わなわなと身震いを起こす。




しかし悪夢は続いた。


「とおっ!」
カオスがマリアに向かって跳躍する。
マリアはガチョンとコクピットを開いて彼を招き入れた。


「搭載した!?ということは・・・・霊○甲冑・光武!サク○大戦かい!!」
その時横島に出来たのはガタガタと振るえる自らの体を抱きすくめる事だけだった。



閑話休題。


・・・とにかく、彼らは迎撃の準備を始めたわけだった。


横島は顔に叩きつけられるように落下してくる雨粒に目を細めながら、何ものかが飛来してくる方角を見つめる。
そして、ふと頭の上のバイザーに気がついた。

行けるか?

バイザーを目の位置まで下ろし、遠くの標的に狙いを定める。

『戦闘力2500マイト』

いけるじゃん。すげーなこれ。

・・・・ピッ。
と、どっかの戦闘宇宙人の機械のような表示を消し、拡大モードに移行させる。

すると彼の目の前に、どよんだ雲と、ザンザン降りの雨をバックに泣き出しそうな顔でふらふらとこちらへと向かってくる少女の顔が映し出された。

「パピリオ・・・」

雨に打たれ、ずぶ濡れになった一匹の蝶は、まもなく彼らの目の前に着地した。雨に濡れた髪の毛がぴったりと頬にくっ付き、より哀愁をかもし出している。


彼女は、ののしりもせず、泣き崩れもせず、ただ寂しげな目線で横島を見つめつづけた。



無常にも思える雨音がやけに五月蝿い。
しばらくの沈黙の後、視線に耐え切れなくなった横島が口を開く。

「よお、パピリオ。最近会ってなかったな。そういえば帽子つけてないな、どうした?」

「・・・帽子はガキっぽいから外したんでちゅ」

会話終了。






き、気まずい・・・
横島の背中を大粒の汗が滑り降りる。
しかし何とか会話を続けるべく会話のボールを投げる。

「ふ〜ん、そうか。小竜姫様とは良くやってるか?」

「・・・・・」
無言。


・・・。


「何だ?もしかしてイジ・・・」
「やめてよ!!」

パピリオが上げた叫び声にさすがの横島も貼り付けた微笑を外した。
歯をくいしばり、両手をしっかりと握り締め、まっすぐにこちらを見つめてくる彼女を、まっすぐと見据える。
「・・・おまえも、邪魔をしにきたたちか・・・」

パピリオは答えない。

「雪ノ丞達をけしかけたのもおまえだな?」
「・・・」
こくりと頷く。

横島は困った。

相手が野郎どもなら一発ぶん殴ってそれで終わりだが、彼女は女の子である。
しかも無視するには戦闘能力が異常に高いときた。

美神たち以上に厄介な相手だった。

『忘』の文珠を使うという手もあるが、今彼の手元にあるのは発動には霊力の足りない双文珠のみ。この手は使えない。

それにこの少女は自分の想い人の妹でもある。
できれば自分の手で納得させたかった。


横島は本当に困った顔をする。
少々思案した後、苦し紛れのような声で喋りだした。
「パピリオ、いいか、よく聞けよ?おまえが俺の事を好いてくれるのははっきり言ってうれしい。でもな、それは年上に憧れる、というかまあそんな感情で恋愛感情とは違うんだよ。」
「・・・」
パピリオは身じろぎ一つしない。
それは反論されるよりもかえってたちが悪かった。
彼女の態度に内心かなり参っていたが、横島はパピリオの近くまで歩み寄って屈みこみ、視線を合わせて続けた。

いつもの優しい笑顔で・・・

「よ〜く考えてみろ、何となくただ『恋愛』そのものに憧れていたて言う節なんかも無かったか?
すぐ分かれって言うのは難しいと思うけど、だから・・・」
「・・・あきらめろ、って言うんでちゅか」

冷たい声。

「・・・まあ、そんなトコだ」
横島は罪悪感からつい目線を逸らした。


しばしの間、重苦しい空気が滞った。



永遠に続くかと思えた間、しかし一番最初に沈黙を破るのは、意外な人物の意外な言葉だった。




「分かったでちゅ。ポチのことを恋愛対象で見るのはとりあえずあきらめるでちゅ」

「え?」
意外だった。横島もこんなにもあっさりとこちらの考えが通って不思議そうな顔をする。

もしかしてあんまり好かれてなかったりするのか?

ちょっと落ち込む横島。
が、あまり顔に出さずに、立ち上がり、ゆっくりと後ろを向いた。
「・・・じゃあ、止める理由はなくなったな。それとも俺がいなくなって少しは寂しいかもしれないと思ってるか?でも大丈夫、俺が消えたらすぐに俺の事は忘れるようにしてある」
万事抜かりは無い。そう言ってパピリオから離れようとした。

しかし当然の事ながらGジャンのすそを捕まれて足を止められる。
しかも通常では考えられないような握力の持ち主が。

雨のおかげでぬかるんでいた足元に足を取られ、横島は転びかける。

「・・・頼むよ。俺、もう寂しさに押しつぶされそうなんだ」
横島は搾り出すようにそう言い、パピリオの指をGジャンから引き剥がす。
しかしパピリオは引き剥がされたやいなや横島の腰にすがりついた。
「パピリオ・・・」
またもや悲痛な顔で引き剥がそうとする横島だったが今回はパピリオもてこでも動かないつもりでいるのかびくともしない。
歯を食いしばって必死の形相でしがみつくパピリオ、横島にはそれを無理やりはがすことは出来なかった。

しばし硬直状態が続いたがやがてパピリオが口を開いた。
「ずるいでちゅ」
「え?」
「確かにポチが相当苦しんだ末にこの決断をしたって事はわかりまちゅ。
でも・・・ルシオラちゃんが居なくなって悲しいのは、ポチだけじゃないんでちゅよ?」






横島の全てが凍りついた。

「私たち姉妹は突然バラバラになっちゃって、ベスペちゃんにも会えないし、小竜姫は良くしてくれるけど、それでも・・・さみしいでちゅ」

彼はがんっ、とハンマーで頭を思い切り殴られた様な衝撃を感じた。

自分は・・・・・何て浅はかだったのだろうか。
横島は寒さと孤独に震えるいたいけな少女を呆然と見つめながら深い後悔の念にとらわれた。

自分の事ばっかり考えて、世界中の不幸を背負ったような気になって・・・
「始めはペットとか言ってたけど、短い間だけだったけど、私たち家族みたいだったでちゅよね?
・・・・・・おいて・・・いかないでよ、一人にしない・・・でよ・・・・
ねぇ、ポチ・・・ううん、・・お願い・・・します・・・横島さん・・・」
こんなに苦しんでいるちっちゃな少女に気づいてやれなかったなんて・・・。

横島は自分の腰にすがり付いて泣きじゃくる少女をなすすべもなく見つめていた。

どうすることも出来ない横島の代わりに、マリアのコクピットが、がこんと開き、カオスがのっそりと現れた。
「小僧よ、一応さっき言おうとしたことを教えてやろう。わしが大切なものを失った時、わしはそれらの分まで生き抜くことを決めた。確かに悲しかったよ、苦しかったよ。だがわしはその悲しみや苦しみを、思い出に変えて千年の時を生き続けたんじゃ。
それにわしが生きている限り、この思い出は決して消えはせんからな・・・。

精一杯生きて、そして満足げに死んで、それで、その時にあいつらに自慢してやるのがわしの、わしなりに出した答えじゃ」

おまえは、どうする?と言ってカオスはニヤリと笑う。



横島がえらんだことは、



目の前の自分を必要としているか細い肩を抱きしめることだった。





「ごめん」


続いて聞こえた呟きに、少女はますます涙をあふれさせた。










「・・・へくしっ!!」
誰だかは分からないがくしゃみの音がした。


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