椎名作品二次創作小説投稿広場


横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

己の道を駆け抜けろ!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/ 4/11

ガチャリとドアを開けて、魔鈴が部屋に戻ってくる。


『おや、ドクター・カオスの手当ては終わったのかい?』

「ええ。ひどい怪我でしたからしばらくは起きて来られないでしょうね。」


にっこりと返す魔鈴の言葉に、ロキは顎に手をあて、ふーむと唸る。


『最初のリタイアはカオスかぁ…。もう少しねばると思ってたけど。それで、マリアは?』

「それが…。」

《マリアさんなら、すでに戦線に復帰なされました。》


苦笑いを浮かべて言いよどむ魔鈴にかわり、人工幽霊壱号が冷静に応える。

魔鈴の様子から見て、おそらくカオスの安否などは気にも留めなかったのだろう。


『いやー、女性ってのは本当に逞しいね♪』



          ◆



一方、横島は─。


「だ…大ピンチ…!!」


いきなり追い詰められたりしていた。


「さー横島くんッ!! 青春に向かって突撃よォ─ッ!!」


本体である机に箱乗りしながら、愛子は暴走していた。

机はその本性である姿をあらわにし、その脚で信じられないスピードで突っ走る。

机の口から伸びた舌の先には、ロープでぐるぐる巻きの横島が揺れていた。


「くそーッ!! まさかただの机の振りして部屋の中にいたとは、気づかんかったァーッ!!」

「ホーホホッ!! 小さくなった私たちの体に合うサイズの机がある時点で気づかない横島くんが悪いのよーッ!!」


横島を捕まえたことでご機嫌の愛子は、勝利を確信して高らかに笑う。


「さあ、後はあの勝利者台の上で宣言するだけ…ウフフフフッ…!!」

「……机が何を願うつもりだよッ!」

「何って、それは…その…。」


顔を赤らめながら、口ごもる愛子。


「やっぱり青春って言えば、その、なんていうのか…清い交際とか…ね?」


恥ずかしそうにしながらも、同意を求めようと振り返る愛子。

しかし、そこにあったのは横島ではなく揺れる舌のみ。


「あ、あれ!? 横島くん!?」

「僕のヴァンパイアミストに気付かなかったのかい、愛子さん?」


慌てて辺りを見回す愛子に、頭上から声が投げかけられる。

上を見ると、少し離れたところにピートと横島の姿があった。


「でかしたぞッ、ピート!!」


さらにその下の物陰には、唐巣神父の姿が。


「し、しまったァァ─ッ!!」

「横島さんはもらっていきます!!」


そういって踵を返したピート・唐巣チームは、合流して一目散に駆けていく。

一方の横島は、良識派であるはずの唐巣神父でさえこのゲームに参加していることに驚愕を隠せない。


「し、神父まで!?」

「フハハハッ、横島くん!! 神の家の再建のために、その身を捧げたまえ!! これは殉教の道だよ!!」

「…とゆーわけで、うちの教会を建て直すのに協力してください!」


なにやら危ないことを口走りながら、スプリンターの如き走りを見せる唐巣神父。

どんどん美神化が進行してるようだなと、横島は胸のうちで嘆いた。


「冗談じゃねェーッ!!」

「観念したまえ!! これも主の御心なのだよッ!!」



          ◆



『おやおや、状況は二転三転!! このまま勝負は決まっちゃうのかな〜?』

「…それはそれで、なんだかつまらないですねぇ。」


この状況をすっかり楽しんでいるロキと、聞き捨てならないことをこぼす魔鈴。

人工幽霊壱号だけが不安そうに呟く。


《……他の皆さんがこのまま済ますとは思えないのですが…。》



          ◆



「うぐ…ッ!?」


突然ピートがうずくまったため、唐巣神父も足を止めて振り返る。


「ど、どうした、ピートッ!?」

「ぐ…ぐあっ…! こ、この臭いは…ッ!!」

「臭い……?」


はっ! として唐巣神父があたりを見回す。

拘束されてるため身動き取れない横島も、首だけを巡らし確認したことでようやくそこがどこか気付く。


「しまった!! ここは…台所!! そしてこの臭いは…!!」

「察しの通り、ニンニクあるよ…!」

「や、厄珍!!」


声とともに物陰から出てきたのは、厄珍堂店主・厄珍その人。

にやりと口の端を吊り上げてみせる。


「くっくっく…これでそちらのヴァンパイアの小僧は動けないあるよ。そして、仕上げはコイツある!!」


厄珍が懐から取り出したのは、なにやら小さな黒い板状のかたまり。

おもむろにそれを三人に向ける。


「くくく…横島忠夫ッ!!」

「な、なんだよッ!! ─う、うわッ!?」


厄珍のよびかけに応えた途端、横島の体が引っ張られるように厄珍に向かって飛んでいく。


「な、何だ何だッ!?」

「わはははっ!! これこそ厄珍堂秘蔵の『摂魂石』ね!!」


摂魂石とは、名を呼ばれ返事をしたものを吸い寄せる磁力のようなものを発生させる石のこと。

その昔、西遊記に登場する金角の持つひょうたんの中にも仕込まれていたという─。


「さあ、これでボウズはいただいたある!!」

「……でもよーお前、それは─。」


だが、高笑いする厄珍とは対照的に、飛んでいく横島の目は冷めている。

その横島の戒めが、いきなり横島の手に出現した霊波刀によって断ち切られる。


「てめーに俺を取り押さえるだけの力があって言えることだろーがッ!!」

「ブッ!?」


飛んでいく勢いのままに、横島の蹴りが厄珍の顔面にクリーンヒットする。


「いくら俺でも、貴様に勝つ自信くらいはあるぞ!」

「ぐ…ぐぁ…! も、盲点だったある…ッ!!」


一般人の中でも非力な部類に入る厄珍は、たったの一撃で虫の息まで追い込まれた。

……何をしに出てきたのか、こいつは。


「ま、おかげで逃げられたわけだけどな! んじゃ、さよなら─ッ!!」


ふたたび逃走劇を再開した横島。

彼の逃げ足にはニトロでも積んでいるのだろうか? と疑いたくなるほど見事なスタートダッシュだった。


「ま、待ちたまえッ、横島くん!! ああっ、だがしかし…!!」

「ぐ…せ、先生…! 僕にかまわず…横島さんをッ…!!」


ピート、リタイア。

唐巣神父は新たな闘志を燃やしつつ、今は去る横島に向かって叫ぶ。


「必ず…ッ、必ずピートの仇はとるぞ、横島くん─!!」


嗚呼、美しき師弟愛。

されど何かが間違ってる気がするのは気のせいか?


「……せ、先生…と、とりあえず、僕はまだ…死んでませんけど…?」


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