『彼も賢くなったもんだね。これで、また一つプレイボーイの心得を学んだわけだ。』
「…女性にとっては失礼ですよ。」
パピリオを必死で撒く横島を見ながらロキは満足気に、魔鈴は不満げに呟く。
『そういえば、君はいいのかい? 叶えてもらいたい願いとか…。』
「私はいまのところ充分満足してますから。…それに恋愛のことだったら自分の魔法でも…フフッ…。」
『…そ、そう。……やっぱり女性は怖いね。』
◆
「はっ!! なんだ、今の得体の知れない悪寒は…!!」
ぞくりとしたものを感じ、西条は慌てて辺りを見回した。
するといきなり、彼がいた部屋に獲物の方から飛び込んできた。
「よ、横島く…!!」
「しっ!!」
横島の迫力に押され、思わず口をつぐむ西条。
そのとき。
「どこ行ったでちゅかー!! ポチーッ!!」
パピリオとその眷属たちが、暴走族さながらに部屋の前を通り過ぎていった。
それを確認して胸をなでおろす横島。
「ふう…助かった。」
「─ってオイ。僕がいることを忘れてないか?」
引きつった笑みを浮かべながら、西条が愛剣ジャスティスを抜く。
「ん? おお、西条! いや、忘れてたわけじゃねーよ。……ただ、お前なら適当にあしらえるからな。」
「…ほう。言ったね? ならば、それが口先だけじゃないことを確かめさせてもらおうか。」
抜き放った霊剣同様、西条の眼差しが真剣味をおびて鋭くなる。
対する横島も霊波刀を出現させて構える。
二人はゆっくりと移動しながら、じりじりと間合いをつめていく。
「僕が勝ったら、君には令子ちゃんの事務所から出て行ってもらうとしようか!!」
西条が高らかに宣言する。
そんな事をすれば事務所の面々に、さぞ憎まれるだろうことに気付いていないのか。
「奇遇だな。俺もてめーに勝ったら、二度と事務所に近寄らせないようにしようと思ってたんだ。」
二人の間の空間に、不可視の火花が飛ぶ。
やがて、二人は裂帛の気合とともに飛び出した。
「はぁぁぁッ!!」
「うぉぉぉッ!!」
だが、二人の剣がぶつかりあう瞬間、横島の霊波刀がかき消える。
「な、何ッ!?」
思わずバランスを崩した西条が慌てて振り返ると、そこには画像が揺れる横島が。
その足元には光を放つ文珠─影。
睨み合いから飛び出したのは、このホログラムのような身代わりだったのだろう。
しかし、いつの間に入れ替わったのか。
「君は忍者かッ!?」
まさに早業である。
廊下を駆けながら横島は、そんな西条の声を聞きながら含み笑いをしていた。
「バーカ。お前と無駄にする体力はねーんだよ。」
宣言どおり、軽くあしらわれてしまった西条であった。
◆
「西条先輩を手玉にとるなんて、横島さんって本当に悪知恵が働くんですねぇ。」
《美神オーナーから、しっかりと仕込まれてますから。》
「師弟揃ってろくでもないですね〜。」
悪意も何もなく笑顔で毒舌を吐く魔鈴と、なぜか自慢げな人工幽霊壱号に、さすがのロキも笑顔が引きつる。
『…ひどい言われようだね。ちょっと同情しちゃうなぁ…。』
◆
「さーて、これからどうすっかな…?」
「なに、どうもせんでいい。ただワシと来るだけでな。」
「へっ? って、うわぁッ!?」
ぼやいた横島に唐突に声がかけられ、ついでに銃弾も浴びせかけられた。
慌てて飛び上がった横島の目に映るのは、大柄なマントを羽織ったジジイとその隣の美少女アンドロイド。
「てめぇ、ドクター・カオス!!」
「ほっ! よく避けたのう。」
「当たりまえじゃー!! 死んだらどーすんだっ!?」
「お主なら死なんと思うがの。」
カオスは本気か冗談かわからないことを言って進みでる。
「まあ、とにかくワシと来てもらおうか。」
「……アンタの望みってのは、家賃がどーとかって例のやつか?」
「話が早いの。」
「そんなしょーもないもんのために捕まってたまるかっ!!」
横島は全力で拒否した。
何が悲しくてじーさんのピンチを救うために、自分の夢(ハーレム)を差し出さねばならんのだ。
「まあ、それだけではない。ワシの望み以外にもマリアの願いもあるしの。」
「マリアの? …っていいのか!?」
捕まえた人しか望みを言えないのなら、カオスかマリアかどちらかしか言えないはず。
「そのことなら運営委員長に許可をもらった。」
『許可したよ〜♪』
能天気なロキのアナウンスに、横島はげんなりする。
「…で、何なんだよ、マリアの望みって?」
「さあの。じゃが、忠実なマリアのこと。きっとワシの役に立つことじゃろうて。のう、マリア?」
「………。」
マリアは何も応えない。
それが横島には何故か、他の奴らからも感じた鬼気のようにも思えた。
と、いきなりマリアが腕を向ける。
「横島さん・覚悟・してください! ロケットアーム!!」
「ひ、ひぃぃぃッ!!」
ドン!! と大砲のような音がして、マリアの腕が横島に伸びる。
それを間一髪で避ける横島だが、つづいてマリアの機関銃が追撃をしかける。
それを霊波刀で弾いて防ぐ。
だが、いつまでも続くものではない。
(くっ…やばいかも…!!)
横島が焦り始めたそのとき、再び天は彼に微笑んだ。
やってきたのは漆黒の羽根の堕天使だったが。
「横島は渡さんッ!!!」
「わ、ワルキューレッ!?」
お前もか!! と叫びそうになった横島だが、どちらにしろ助けてもらえるのはありがたい。
ワルキューレの雄叫びとともに、嵐のような勢いで精霊石弾が飛来する。
それらは、狙いあやまたずマリアとカオスに向かって襲い掛かった。
マリアも負けじと応戦するが、たまったもんじゃないのは巻き込まれるカオス。
「のわァァァッ!?」
アレでは恐らく、リタイアだろう。年だから。
硝煙と銃撃が吹き荒れる中、横島はチャンスとばかりに逃げ出した。
「成仏しろよ、カオス…ッ!!」
逃亡者は目にしらじらしい涙を光らせ、ふたたび駆け出した。
彼の楽園(ハーレム)に向かってひたすらに─。
というわけでこの作品も第七話を数えます。早いものですね〜。
今回の魔鈴と人工幽霊壱号の会話のときには、美神なんかくしゃみしてそうですけどね。
んで、「なんか知らないけど…後で横島くん、しばいとこう」とか言ってたり(笑) (詠夢)
西条さんが思いっきり簡単にあしらわれてるシーンがツボにはまりました。
>二人の間の空間に、不可視の火花が飛ぶ。
>やがて、二人は裂帛の気合とともに飛び出した。
こうきたら普通はカッコイイ戦いが始まるでしょうが!!
次回も楽しみにしています。
それよりもマリアの願いっていったい・・・(カオスのためじゃないことだけは分かるような・・・) (核砂糖)
やはりどれだけ成長しても横島は横島ということですね♪
マリアの願いは謎です。彼女だけが知ってます。カオスのためじゃないことは間違いないです(笑) (詠夢)
魔鈴以外はそうっぽいぞ、横島君。ハーレム目指し頑張れ!横島君。 (紅蓮)
コメント、いつもありがとうございます紅蓮様! (詠夢)