椎名作品二次創作小説投稿広場


彼の者纏いしは・・・混沌 

第3話 新世界の初日


投稿者名:ATO
投稿日時:04/ 4/ 8

「それで〜〜わたしが〜〜泣きそうになった時に〜〜蛍人さんが〜〜助けてくれた の〜〜」



 広大な敷地に立つ歴史を感じさせる豪邸。

 六道家。

 世界にその名を轟かせるGS界の重鎮。

 その一室に六道家次期当主、六道冥子とその母はいた。

 一人の男を前にして・・・。



「はじめまして〜〜私〜〜六道家当主〜〜六道冥那(めいな)と申します〜〜」

「は、はじめまして」

「この度は〜〜娘を助けていただいてありがとうございました〜〜」



 俺はこれ一つで車が買えそうなソファーに座り、六道理事長を見ていた。



「い、いえ、大したことはしてません」



いやホントさ、あの程度でこんな丁寧なお礼をされても困るんだよな〜。

さらに理事長、さっきから俺をじっと見詰めてるから居心地が悪いのなんの。

なんか、品定めされる牛みたいな気分だ。



「いえいえ〜〜この子ったら〜〜もう17歳にもなるのに〜〜子供っぽさがぬけなく って〜〜。

 いつもつまらないことで式神を暴走させているんです〜〜。

 あんな天下の往来で周りに被害を出したら〜〜来年GS試験を受けられなくなる
 ところでしたわ〜〜」

「そ、そうですか」



 睨みつける理事長のセリフに、小動物のようにビクビクする冥子ちゃん。

  

「あの〜〜失礼ですが〜〜蛍人さんは〜〜GSですか〜〜?」



 理事長が少し身を乗り出し尋ねる。

 そのセリフに、俺は顔に出さないながらもかなり驚いていた。

 『隠蔽』の文珠を使ったのだ。

 今の俺からは、一般人よりほんの少し高い霊圧しか感じ取れないのに・・・。



「どうして・・・そう思うんですか?」



 人間だったときならともかく、魔族の力を併せ持つ俺の文珠は少なくとも24時間は持続するはずなのに。



「まず〜〜式神という言葉に全く反応がなかったこと〜〜。

まあこれは〜〜少し霊能力に詳しい人ならおかしくはないですけど〜〜六道の式神は有名ですし〜〜。

でも〜〜最大の理由は〜〜蛍人さん〜〜あなたの影です〜〜」



 理事長のたれ気味の目がするどく光る。



「あなたの影の中〜〜何かいますね〜〜?」



ギクッ!!



「ナ、ナンノコトデショウ?」



 今度は動揺を隠せなかった。



「あら〜〜六道家をなめてもらっては困りますわ〜〜。

これでも〜〜六道家は長きに渡って式神を操ってきたんですのよ〜〜?

影の中に何かいる感覚くらいわかりますわ〜〜」



式神じゃないんだけどな・・・使い魔になるのか?



「それで〜〜質問の答えは〜〜?」



仕方ない、なんとかごまかすか・・・。



「GS免許は持っていません」

「あら〜〜かなりの腕前だとお見受けしましたのに〜〜」

「霊能力をかじった程度の三下ですよ」

「・・・まぁ〜〜そういうことにしておきますわ〜〜」



GS免許を持っていないのは事実なんだけどな。



「それで〜〜蛍人さん〜〜苗字は何とおっしゃるんですか〜〜?」

「世の中には、苗字のない人間もいるでしょう?」



蛍人って名前自体が今日思いついたばかりだしな。



「そうですか〜〜。ところで〜〜蛍人さんは〜〜どこにお住まいなんですか〜〜?」

「と、特に決まってませんけど・・・」



 当たり前だ。この世界に来たのは今日なんだから。



「現在何かお仕事をしていますか〜〜?」

「い、いえ別に・・・」



そういえば、どうやって金稼ごう?

戸籍がないから表の仕事はできないし、かといって裏の仕事ができるようなコネもないしな〜。



「それじゃあ〜〜うちに来ませんか〜〜?」



 は!?

 

「すいません、いまいちよく聞こえなかったんですが・・・」

「簡単に言うと〜〜住む所も職もないんだったら〜〜うちで働きませんか〜〜って こと〜〜」



チョット待て!!



「ほ、本気ですか!?俺達今日知り合ったばかりですよ!?」

「もちろん〜〜本気と書いてマジですよ〜〜?

蛍人さんは〜〜冥子を助けてくださったし〜〜」

「そ、それだけで俺を信用するんですか!?

六道家に近づくために助けたのかもしれないじゃないですか!!」

「あら〜〜これでも〜〜人を見る目はあるつもりなんですよ〜〜?

蛍人さんの目は曇ってないですし〜〜基本的にいい人だと思います〜〜」

「そ、それでも・・・」



 くいくいと、いつの間にか俺の隣にいる冥子ちゃんが袖を引っ張る。



「蛍人さんは〜〜私と一緒にいるの〜〜イヤなの〜〜?」



ぐはっ!!

冥子ちゃん、そんな捨てられた子犬のような瞳で俺を見ないでくれ。



「それに〜〜」



 冥子ちゃんの攻撃に、すでに俺は瀕死状態だ。



「そんな人間は〜〜最初からそんなこと言わないと思います〜〜」



 ・・・だめだ。

 ここまで熱烈に口説かれたんじゃあ、断れるはずもない。



「それで〜〜どうです〜〜?」



 据え膳食わぬは男の恥ってね。



「一つ条件があります」

「な〜〜に〜〜?」

「俺に敬語を使うの、止めてください」

「わかったわ〜〜蛍人く〜〜ん」



 俺は深々と、頭を下げ・・・。



「お世話になります」



 こうして俺は、六道家の世話になることになった。


*************************************



―――その夜。



 俺は自分の部屋をもらった。



 初めはかなり大きな部屋に案内されたんだけど、あんなとこにいたらいに穴が空くよ。

 イヤ、ホント。

 俺数百年生きてきても、庶民的な金銭感覚しかないからさ。



それにしても・・・



「俺は時間移動をしたはずだ。

 なのに、どうして神族魔族のどちらからも接触がないんだ?

 時間移動は禁止令が出ていたはずだ。

 なのになんで・・・」



 ベッドの中でそんなことを考えていた・・・。



 そのとき



キィン・・・



 音と共に周囲の空気が一変した。



空間が、切り取られた!?



「それは、あなたが行ったのは時間移動ではないからですよ」

「誰だっ!?」



 ベッドから飛び起き、声の方向を見る。



 そこには光の巨人、としか言いようのないモノが二人?いた。



「はじめまして、やな。

 わいはサっちゃん、こっちはキーやんって呼んでや」

「何の用だ!?」



 二人のその霊圧の高さ。

 こいつらは、神族と魔族のかなり上の奴らだ。

 炎の中に消えたベズパとパピリオ、俺の腕の中で冷たくなっていった小竜姫が頭に浮かぶ。

 自然と、語気が荒くなる。



「まあそうケンカ腰にならずに、私達の話を聞いてください」



 そうだ、落ち着け。

 今はまだ、こいつらは何もしていない。



「・・・それで、一体何の用だ?」

「本日14時58分38秒、富士の樹海で空間の裂け目を確認」



 片方が、俺の質問に答えず話し出す。



「空間の裂け目?」

「はい。この世界を流れる川に例えると、時間移動は上流と下流の移動。

空間の裂け目が現れるということは、本来交わることのない隣にある川と繋がることです。

もちろん、世界には川と違って修正力というものがありますからすぐに修復されますが」

「ということは、俺は時間移動をしたんじゃなくて・・・」

「そう、あなたは別の世界からここへ来たということですよ。

俗に言う平行世界というやつですね」



 平行世界・・・か。



「そんで同日同時刻、わいらは裂け目から強大な力を持った存在の出現を確認した。

霊力と魔力の混じった不可思議な力を持つ存在をな・・・」

「不確定な存在は抹殺すべきだという意見もあったのですが、少し様子を見ようという結論になりまして」

「・・・それで?」

「今日一日あなたを観察しまていましたが、特に危険な存在ではなさそうなので放置・・・となりました」



 軽いノリで言い放つ。



「そ、そんな適当でいいのか?」

「無論、何もせずというわけにもいかないので私達が検分に来たというわけです」

「そんで、あんさんはこれから何をするつもりなんや?」



 これから?

 ・・・そうだ!!まだこの世界は何も起きてない。

 ルシオラもベスパもパピリオも小竜姫も誰も死んでいない!!

 なら・・・。



「この世界の俺と、知り合いを助けたい。

おおまかな流れが違わないのであれば、近くそいつらに悲劇が起きるはずだから」




 アシュタロスのことは話せない。

 話してしまって、ルシオラ達が生まれなかったら困るからだ。



「・・・わかりました。

神、魔族はあなたに干渉しません。

・・・あなたがこの世界に害を及ぼさない存在でいる限り」

「ま、あんさんのことやから大丈夫やと思うけどな。

デタントを崩壊させようとか、世界を征服しようとか考えんかったらええねん」



 俺は二人を見据えて、深く頷いた。



「もちろんだ。俺は世界の滅亡にも、権力にも興味はない」

「それならええねん」



 片方が、満足そうに微笑んだ。



「それでは、帰りましょうか」

「せやな」



 そう言うと、二人の姿が薄れてゆく・・・と思いきや。



「あ、忘れとった。あんさんの力、なんか封印でもかけて隠しとかんと。

魔王クラスの力を剥き出しにしとると大変なことになってまうからな」



それもそうだ。



「・・・わかった、やってくれ」



 二人が俺に手のひらを向ける。

 すると、俺の体に右肩と左の脇を通って白い鎖が。

 同じように反対側から、左肩と右脇を通って黒い鎖が巻きついた。



「それは封印の鎖や。神魔、それぞれ一人ずつの承認を得ると外れるようになっとる」

「それでは今度こそ、さようなら」



 その言葉を最後に、二人は消え去った。



「・・・封印・・・か」



 俺の魔族の力は、封印に完璧に覆われている。



「これで、明日からいちいち文珠を使わなくてすむな」



 使えるのは霊力のみ・・・それでも人間を遥かに上回る力を使えるのだが。



「アシュタロスが出てくるまでまだ結構あるな〜、それまで何しようかな〜」



 そんなことを考えながら、俺は眠りについた。





ま、明日は明日の風が吹くってね〜。






 <つづく>


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