─ とある人物の呟き ─
真っ暗な部屋。
ベッドに横になった彼女は、天井を見上げながら小さく呟いた。
「…そろそろ決着…つけないといけないかな…?」
─ 魔界軍部の通路にて ─
「ああ、ジーク君。」
「はい? …あなたはッ!!」
呼び止められたジークフリード少尉は、慌てて敬礼を返した。
そんな彼の様子に、男は苦笑を返した。
「そんなに畏まらなくてもいいよ。僕は軍に所属してないし、君とは同じ地方の出身だしね。」
「いえ! そういうわけにも…ッ!! ……一体どうしたのです。こんなところまで。」
敬礼をといてジークは尋ねた。
気まぐれ屋なこの人がわざわざ軍部に出向いてくるなど、と。
「いや、なに。君の姉上の様子が最近面白くてね。何でも人間界関与の任務を進んで買って出てるそうじゃないか。」
「え、ええ。」
「以前はむしろ面倒くさがっていた節があるのにどうしたものかと思ってね。ちょっと調べてみたんだ。」
「ええ!? そ、それでわざわざ諜報部に!?」
頷く男を見ながら、ジークは呆れるやら感心するやら。
興味が湧いたことにはとことん情熱を傾け、努力を惜しまないとは知っていたが、まさかここまでとは。
「どうやら、例のアシュタロスの事件の折からだね。そのときに出会った人間の少年にえらくご執心のようじゃないか。」
「そ、そんなことまで、うちの諜報部には記録されてましたか!?」
「いや、データから見た僕の推測。」
男の言葉にこけが入るジーク。
「でも、信憑性は高いよ? 僕だって伊達にプレイボーイを気取っちゃいない。その方面は詳しいからね。」
「は、はあ…。」
と、ジークの腕輪から発信音が鳴る。
どうやら呼び出しがかかったようである。
「すみません、すぐ行かないと。」
「ああ、うん。頑張ってくれたまえ。引き止めて悪かったね。」
「失礼します。」
ぴっと敬礼をして足早に去っていくジークをにこにこしながら見送った後、踵を返して男は歩きながらぼそりと呟いた。
「…こりゃあ一度、会ってみたいね。その少年に♪」
その口元にはにやりとした笑みが浮かんでおり、男が悪戯の神と呼ばれた理由を充分納得させるものだった。
─ 数日後の人間界のとある会議室 ─
「…わかりました。あなたのプラン、ありがたく使わせていただきます。」
スーツに身を包んだ妙齢の美女は、やや固い面持ちでそういった。
その正面に座る男はニコニコとした笑顔のまま頷いた。
「うん。そうしてくれると嬉しいよ。」
「それにしても、あなたが人間界に現れたときはどうしようかと…。」
「ヒドイなぁ。僕だって悪意があって悪さをするわけじゃない。いわば無邪気な悪意ってとこかな。」
「…悪意は悪意なんですのね。」
妙齢の美女は、引きつった笑みを浮かべながら突っ込む。
「ああ、いや。とにかく、僕は人間界を滅ぼしてやろうなんて考えてない。僕は僕が楽しいと思えることをするだけ。」
「わかってます。あなたクラスの力の持ち主なら、一瞬でこの街を火の海に出来ますからね。」
「だから、しないってば!!」
疑われるのは仕方ないと思っていても、多少は傷つくんだよ? と男は抗議する。
その様はまさに子供のような無邪気さだ。
「…ま、今はそのようですしね。今回のプランは私にとっても面白いものですし。」
「だろ? というわけで、よろしくね。」
「ええ。…あなたも協力いいかしら?」
そう言って妙齢の美女は、この部屋にいるもう一人の美女に声をかける。
黒帽子をかぶったその女性は、にっこりと頷いた。
「─では決行の日取りは『あの日』で。」
こうして、とんでもない発案者からのとんでもない計画が実施されることになる。
彼の…横島忠夫の17歳の誕生日に向けて─。
新作の投稿と言うことで、やや緊張気味です(汗)
『君のあるべき〜』のほうですが、夜華での投稿が再開されていますので、こちらへの投稿はストップします。そのうち、削除を要請するかもしれません。
皆様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします。
そのお詫びのしるしといっては何ですが、この新作をお披露目いたします。
楽しんでいただければ幸いです。では♪ (詠夢)
えーと…そのあたり(漫画の時間の流れ)がいまいちわかりづらかったので、私の設定としては『横島君は高校二年生だが、まだ誕生日は来てなかった』というふうに考えてます。まあ、あまり深く考えてませんでした(汗) (詠夢)