焼け爛れた荒野。
その上空にはおびただしい数の神族と魔族。
・・・そして地上には、周りに強大な霊圧を見せ付ける結界に護られた一組の男女がいた。
「小竜姫!小竜姫!」
女性の体には、一目で致命傷と分かるほどの穴が、開いていた。
「よ、横島さん・・・」
女性の息は絶え絶えで、時折血によってむせる。
「大丈夫だ!そんな傷、すぐに治してやる!だから・・・だから!!」
「無理ですよ・・・。文殊でどうにかなる傷じゃありません」
「そんなことはない!!すぐに、すぐに・・・くそっ!なんで治らないんだ!!」
「横島さん、私・・・怖いです、死ぬのが・・・。
不老不死の・・・神のセリフじゃ・・・ありませんけど・・・ね」
女性はそう言って微笑んだ。
だがすぐその笑顔は歪む。
「・・・私がいなくなってしまったら、あなたは・・・一人になってしまいますも の。
あなたを・・・独り残して逝くことが・・・何より怖いです」
「・・・大丈夫だ、独りになってもやっていけるさ」
「ふふふ・・・嘘つき。
あなたが・・・寂しがり屋なのは・・・私が一番・・・よく・・・知っているん ですよ?
・・・あなたの周りに・・・いた・・・女性たちの・・・誰よりも・・・。
・・・だめですね・・・私たち・・・。
美神さん達・・・人間は・・・仕方ないとしても・・・ワルキューレや私達
は・・・ず・・・っとあ・・・なたの・・・そば・・・に・・・」
「小竜姫!!小竜姫!!」
「大・・・丈夫です・・・よ?まだ・・・言わなきゃ・・・いけない・・・こと
が・・・」
「なんだ?」
「私・・・の体・・・食べ・・・てくだ・・・さい。
あなたと・・・一つに・・・なって・・・ずっと・・・一緒に・・・い・・・た
い・・・から・・・」
女性の瞳から光が消えた。
「小・・・竜・・・姫?・・・小竜姫!!」
何度その名を呼んでも、女性の目は開かない。
「わかったよ、小竜姫・・・」
男性の影が、不自然に動く。
事切れた女性の体の下に入り込むと、その影の中に女性の体が沈み始めた。
「おやすみ、小竜姫」
しばらくして、女性の体は影の中に消えた。
それと共に、周りを覆っていた結界がガラスの割れるような音と共に砕ける。
空中に群がっていたモノ達が一斉に降下してくる。
「グハハハハ!人界最強という小竜姫は死んだ!もう貴様には死以外の選択肢はないぞ?」
空中から降りてきた魔族の一人が言った。
しかし男性はうつむいたまま動かない。
「ん?"人魔"横島ともあろうものが情けない。
たかが女一人死んだくらいがなんだとい・・・」
その魔族は最後までセリフを言うことができなかった。
男性の影から生まれ出た巨大な黒い龍に、頭から胴までを食いちぎられていたから。
「・・・たかが?」
その声はぼそりとつぶやいただけなのに、その場にいる全ての存在へと届いた。
黒龍が男性の周囲を飛翔する。
その力は、触れずとも敵を消し飛ばし、魂までも消滅させてゆく。
そしてその死を招く龍の舞が激しくなるに合わせて、男性の周囲に"なにか"が集まっていく。
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(嘘だ!!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!こんなこと、ありえるはずがない!!)
彼は魔族の中でも、かなりの力をもつ悪魔だった。
魔王に次ぐ実力者と言っても過言ではなかった。
そんな自分に劣るとはいえ、かなりの実力を持った魔族を1000に届くほどそろえ、神族からも同じような実力の猛者を集めた。
"人魔"横島討伐。
最初は楽な任務だと思った。
たかが半人半魔を殺すのに、こんなに大げさな戦力を集める必要があるのかと。
だが、この光景はなんだ!?
横島が召喚した巨大な黒龍は、魔族神族を無慈悲に消滅させていっている。
気づけば、もう彼以外に生き残っているモノはいなかった。
「貴様ーー!!」
無謀な特攻。
だが彼には他にできることがなかった。
そのプライド故に・・・。
「死ねーーーーーー!!」
それが、彼の最後の言葉だった。
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男性の周りには黒い、漆黒よりもなお色濃い"なにか"が集まっていた。
最後までしぶとく生き残っていた魔族を喰らった後、黒龍は出現したときと同じように男性の影へと消えた。
そして、次の瞬間・・・。
男性の周囲の空間は・・・闇に飲み込まれた。