椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

シリアスでGO


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/ 3/27

じゃりりりりん、じゃりりりりん・・・
辺りに薄暗い朝日がさすころ、幸福荘というアパートの一室で電話が鳴り響いた。

幸福荘、横島の部屋。

雑誌、弁当のはこ、ペットボトル、ゴミクズなどがごちゃごちゃと積み重なっている座敷の真ん中に、真ん中の盛り上がったせんべい布団がしかれていた。
ちょっと台所に目を向ければ彼の生活の全てを物語るシンクも覗ける。シンクの中は前に洗ったのがいつだか分らない茶碗やコップがカップラーメンの器に埋もれていた。

じゃりりりん、じゃりりりん・・・

誰だよこんな真昼間から・・・と布団の中の人物はこの家に電話をかけてきた何者かに怒りを覚え、と同時に、そのうちに鳴り止むだろうという結論に達し、掛け布団を頭からかぶった。

じゃりりりん、じゃりりりん・・・

しつけえやっちゃな〜

彼は居留守を決め込んでいたが不思議不思議、こんな電話がかかっていると不思議と目が醒めてしまうという人間の特徴に敗北し、遂に布団から這い出した。

じゃりりりん、じゃりりりん・・・

もともと出る気じゃなかった電話をしばしほうって置いて横島は片手で頭をかきつつ、ゴミの山を踏み越え、さも面倒くさそうにカーテンを開けた。
すっと光が部屋の中に射し、ごちゃついたガラクタ類が光と影のコントラストをかもし出し、幾分見た目が良くなった。

じゃりりりん、じゃりりりん・・・

横島はやっと受話器を取る。


「はい、横島です」

新しい一日が始ま・・・


『おお、小僧やっと出たか。わしじゃ、カオスじゃ』

「・・・あばよ。俺は寝る」
『あ、コラ!ちょっとま』かちゃん


・・・る予定。





「何の用なんだよ」
カオスの電話からしばらくたち、二度寝しようとした横島は直接やって来たカオスにまたもや起こされ、不機嫌ながらも彼を部屋へと招きいれた。(そもそも最初から直接来ればいいのではあったのだが。近いし)
そして今、カオスはいつもの黒いロングコートのプロフェッサースタイル(死神博士みたい)で横島の前に座っている。
「いや、また新たなる時空超越装置を作ってな。何、心配はいらん。宇宙意思とて全てに対応するわけでもない。新しい方法での時空超越ならいかに宇宙意思とて対応できんかもしれん。というわけで早速実験してみようと思うんだが・・・」
カオスはいつもの研究の売り込みのときのように、身を乗り出しつつ熱く語り始めた。
横島は飛んでくるつばに眉を寄せながらしばし考え
「あ〜わりい。今日は、ちょっとな・・・」




どうしたのだろうか?カオスはそう考えながら今にも踏み抜けそうなアパートの廊下を歩いて自室へと向かった。(まあ実際はマリアが踏み抜かないほど丈夫なのだが)

以前の彼なら『時間』というキーワードだけでも真っ先に飛びつき、どんなばかげたことでもやってのけていたはずである。

それが何故、今日に限って・・・
ふと気づけばカオスはもう自室の扉の前だった。明朝の冷たい空気に冷やされたドアノブのひやっとした感触を手に感じ、カオスは帰宅を告げた。
「お〜い、マリア。かえったぞ〜」
すると台所から足音が聞こえ、エプロン姿のマリアが現れた。手にもっているお玉はお約束である。
「お帰りなさい・ドクターカオス・今・朝食準備中」
「そうか、よろしく頼む」
「イエス・ドクターカオス」
カオスは満足げにマリアに言い、昔とは格段に良くなった食事を思い浮かべ自然とほほが緩んだ。
テレビでも見ながら待つか。と、カオスはいそいそとちゃぶ台のそばに座り、座敷の隅のテレビのスイッチを入れた。
『え〜今年もやってまいりました。今年も相変らず、沢山のご遺族の方が追悼式に参加しております・・・』
ちょうど映った番組はニュース番組で、数年前の大事件の追悼式の中継を映していた。
カオスは渋い顔でじっとそれを見つめる。
「・・・つい忘れておったのぅ」
それは忌まわしい記憶。

彼が大切なものを失った日。

「わしも無粋のことをしてしまったようじゃな」
ふぅ、とため息をつくその背中には、十世紀もの時間を生き、彼と同じようなことを何度も経験した男の哀愁が漂っていた。



割と多くの人があふれる雑踏の中を、横島は一人で歩いていた。
辺りはもう薄暗くなっており、もうすぐ日が沈もうとしたいるため、人々は足早に我が家へと足を向けている。そんな中横島は一人流れに逆らって歩きつづけた。
ちなみにバイトには休みを入れてある。学校についてはズル休みだ。
やがて彼は目的地、東京タワーの根元にたどり着く。

・ ・・移動費がきついなぁ。

街路樹や植木に囲まれた石畳の上で、彼はそんなことを考えながら苦笑した。
確かに自給255円の彼にとってこの移動費はちょっと、いやかなりの出費である。
横島はきょろきょろと辺りを見回し、人がいないところを探す。
そして『隠』、『飛』『翔』。の二つの組み合わせで姿を消しつつ、もうすぐ黄昏時の東京の狭い空へと飛び立った。
『隠』も使うのは、以前飛ぶ瞬間を人に目撃され、えらい騒ぎになったことがあったからだ。ちなみにこの時の文殊だけはいつも必ずストックしてある。

人が空飛ぶぐらい今の時代なら別段珍しいことでもないだろうが。と、心の中で毒づく横島。
どれこれ考えて行くうちに、あの場所へとたどり着いた。

「よう、ルシオラ」

彼は少し痛みのある笑顔でそう言った。




「おまえが死んで、また一年がたったな」
彼はかつて最後の会話を交わした場所へと座っている。

「今年も相変らずだったよ。美神さんが無茶して、俺が巻き添え食って、おキヌちゃんがおろおろして・・・。」
目をつぶり、割と楽しそうに彼は語りつづける。

「・・・そいでさ、この前に言ったシロって奴とタマモって奴がさ・・・」
ここ一年で何が起きたか、そして自分はどうしたなどをぽつぽつとつなげる。
そうして、しばらくの時をすごした。

「・・・もうすぐか」

彼がそうつぶやくと同時に薄暗い空が、ぱっと朱を注したかのように紅くなった。
紅いは地平線からすーっと広がり、町のビル群を赤く染め上げる。

「きれーだよな・・・」
横島は目を細めて言う。
夕日が彼の顔を照らし、しゃきっとしていれば結構イカした顔が紅に染まる。

紅い夕日は本当に少しの間だけ辺りを照らし、沈んでいった。
しばらく無言で日の沈んでいった方向を眺める横島。

「おまえ、夕日は少ししか見られないからよけいにきれいなんて言ったよな。でもさ、俺思うんだ。それもいいけどやっぱり・・・ずっとがいい」

片腕を目の上に当て、後ろに倒れかかって仰向けになる。
東京タワーの鉄骨の合間からちらほらと星が見え隠れした。

「俺、もっとおまえといたかった。おまえのことを知りたかった。よく考えたら俺、おまえの誕生日すら知らないんだぜ?」

声が震える。

「おまえは何が好きだった?好きな食べ物は?嫌いな食べ物は?海と山じゃどっちが好きだ?朝は強いほうか?何をしてるとき一番幸せだった?」

一時、声が途切れる。

「・・・俺、前にもう悲しむのは止めるとか偉そうに言ってたけどさ、やっぱ・・・むりっぽいよ。去年ぐらいまでは堪え切れたけど・・・もう、無理」

目の上に被さった腕の隙間から涙が二筋、流れ落ちる。

「ごめん、この日ぐらいは・・・悲しまして」

横島は冷たい鉄骨の上で胎児のように体を丸め、泣いた。

しばしの間、東京タワーの天辺で、押し殺すよう嗚咽が静かに響いた。





「・・・この一年で考えたことがあるんだ」
しばらくして、彼はすっかり暗くなった東京タワーの上で花を花瓶に生けながら言った。
「今まで無理だったことがとある発見で簡単にできるようになったりすることってあるだろ。例えば俺は未知の力、霊波刀をある日突然手に入れて除霊なんていうとんでもないことをこなせるようになった。
それと同じで絶対に無理だと思っていたことだって場合によってはできたりするんだ。
だから俺は・・・悲しみ続けて腑抜けになるより努力することを選んだ。

・ ・・俺は過去に飛ぶ。他の奴らには悪いが俺はおまえを助けに行くよ。

それでまずお前に謝る。俺のせいで死んだも当然だからな・・・。
そして、怒る!だってよ、おまえ俺のこと騙しやがっただろ!何が大丈夫だよ、その後俺がどんだけ・・・・って止めておくか・・・」
彼はなかなかうまく花を生けられたことに満足してうなずき、他のお供えものを取り出した。
「これぐらいしかおまえが好きだった物わかんねぇや。我慢してくれ」

取り出したるは数々のミネラルウォーター。
それらをどすりと辺りに並べてからきびすを返しさって行く。



が、引き返してボトルが動かないように固定した。
「・・・落っこちたら危ないもんな」
横島は作業を続けつつ数百メートル上空から落下した水入りペットボトルが人に直撃でもしたときのことを想像し、ぞっとした。

「んじゃ、本当にじゃあな」
彼は今日のためにストックしてある文殊を使い、その場を去った。






彼が消えてしばらくして、鉄骨の影から小さな女の子が飛び出した。
彼女の名はパピリオ。実は強力な力を持つ魔族だったりする。
「・・・た、たいへんでちゅ」
彼女は急いで実の姉に花を添えると明神山に向かって飛び立った。

夜の闇を少女の影が切り裂いてゆく。
彼女はくいしばった歯の間から声を漏らす。
「ポチまでいなくなるなんて、ゆるせないでちゅ」
彼女には彼までもがいなくなるなど認められなかった。





傷を負ったのは、何も彼だけではない・・・・。





彼女が去った後には花瓶に生けてあるタンポポと添えられたホタルブクロがちょこんと残されていた。


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