椎名作品二次創作小説投稿広場


文字

読書青年の記憶


投稿者名:cymbal
投稿日時:04/ 3/ 8

カンカンカンカンッ!!
階段を降りる音が鳴り響く。ここは六道家の地下室に続く通路である。
先程、妻に驚愕の事実知らされた男は走っていた。

(とにかく・・・、状況を掴まねばいかんぞ!!下手したら忠雄君は二度と戻って来れんかも・・!)

バンッ!!!

扉が勢い良く開けられる。それと同時に、彼は部屋の中を見回した。

部屋の中は、奇妙な程静まり返っている。
(・・・ここの部屋に来たのは・・・何年振りだろう・・・・。)
ほこりっぽい空気。久々に見た部屋の中は、まるで時が止まっているかのように見えた。

若かりし新婚の頃・・・、必死で読書に明け暮れていた自分を思い出す。
あの頃は自分も若かった・・。しみじみ。

(懐かしい・・・。)って、感傷に浸っている場合じゃないだろ!!
・・・反省し、再び周りを良く観察する。

(とにかく、あれが発動したなら・・・・、おそらく霊気の跡が残ってる筈だ・・・・。)

その時、視界の端に本が2冊転がっている事に気付いた。
「あれは・・・・。」
近寄って表紙を確認してみる。

・・・「名探偵ポーラ」。そして、「シャルロッテ・ボムズの冒険」。

(・・・昔、冥子に買ったやった本だ。・・・こんなところに来てたのか。)

・・・冥子は昔、友達が出来なかった。
感情がコントロール出来ず、式神を暴走させてしまう事が多かったからだ。・・・まあ、今でもそんなに変わらないのだが・・・。

それでまあ、何か趣味でも出来ればと思って・・・、当時流行ってた(自分の中で)推理小説などプレゼントしてみた訳だが・・・・ここにあるって事は・・・・ね。

ちょっと寂しい気分。自分の趣味が娘に受け入れられなかった・・・・。

「・・い、いかん。ここに居るとどうしても暗い気分になってしまうぞ。」
頭を振って気分を入れ替える。

「・・・とにかく、おそらくだが・・・これを読んでいた可能性は高そうだな。」
視線を下に移しながらそう呟く。
床にはホコリが積もっていたが、この周りだけ吹き飛んだような跡があるのだ。

彼は急いで本の表紙を開く。
書き出しはこうある・・・・。


「・・・男は本を開くと見慣れぬ景色を目の当たりにする。現代と過去が混ざり合った光景。気付くと、いつのまにか道路の真ん中で椅子に座っている。「ここは・・何処だろう。」・・。」


「間違いないな・・・・。昔、説明を受けた通りだ・・・・。」


回想・・・・。


私は5年ほど前、ヨーロッパの方へ妻と出かけた事がある。

途中で立ち寄った古いお城。
売りに出ているようで、あちこちに人が見学に来ていた。

こういった古城は維持するのが大変である。
とにかくお金が掛かるのだ。それを持て余した持ち主が、手放す事は多々見られる。
この城もそういった物件の一つであった。

それと平行して、家財の処分市のようなモノが開かれていた。
そしてそこに売り出されていた物が・・・・今回の椅子である。

その時、店員(?)はこう言っていた。
「これは、ある天才科学者が作った椅子だそうだよ。何でも・・ヨーロッパのマオウってのがいたらしくてさ・・・。とにかく不思議な力があるんだよ。」
なんか、胡散臭い奴だな・・・。

「通称神隠しの椅子って呼ばれてる。座った奴が消えちゃうんだ。そして運が悪ければ・・・二度と戻ってこない・・。」
通称って・・元の名前は何なんだ・・。

「ただ座るだけでは駄目なんだ。文字の書かれた物・・・例えば本だね。そう言った物を持ってうっかり座っちゃったりすると・・・シュン!!って本の中に吸い込まれちゃうのさ。」
見てきたみたいな言い方するな・・・・。

「助かる方法はたった1つ。吸い込まれた本人が話を完結させるのさ。失敗すると・・・一生、本の住人として暮らす事になる。」
なんでそんな事知ってるんだお前。

「なんで知ってるかって?・・経験者だからさ。選んだ本が良かったんだ。単純な話だったからね。」
・・・・・・・・。


「面白そ〜じゃない〜〜。頂くわ〜〜。」
妻は気に入ってしまったようだ。こんな怖いモノどうするつもりなのだろう?

「はいよっ。綺麗なおねーサン!」
「あら〜〜、口が上手いわね〜〜あなた〜〜。」
上機嫌な様子である。

「・・あっ、本の中に入ったらそれまでの記憶は一時的に消えちゃうからね。なった人物と同化しちゃうんだよ。だから結末を知ってるからって迂闊に入っちゃ駄目だよ!!」
「ふ〜〜ん〜〜。じゃあ簡単な話でも、絶対大丈夫って言う保証は無いわけね〜〜。」
使うつもりだったんじゃないだろうな・・・。

「最後にもう1つ。人が入ってしまった本は内容が書き換わってゆくから、周りの人も確認が出来るんだ。ただし外の人が書き足す事は出来ない。インチキは禁止されているのさ。」


そして現実へ・・・・。


・・・・思い出してみたけど、どうする事も出来ないよーな気がしてきた。
忠雄君頑張ってくれ!!としか言い様が無い。

(しかし、考えねば!!新婚早々、娘を不幸にする訳にはいかんのだ!!)
必死に何か考え始める父親の姿。今の彼には仮面など似合わないだろう。
そして時は過ぎて行く・・・・・・・。








「んで・・・容疑者は何人ぐらいいるのかな。あっ、死因も聞いてなかったな。」

金成木の一室。今この部屋には平介、ポーラ、警官の三人がいる。
トラップは上司に呼び出されて署の方へと戻ってしまったのだ。その代わりとして警官に来てもらったという訳である。

「えーっと・・まず死因なんですけど・・・、ナイフで胸を一突きされていました。即死ですね。」
そう言って写真を取り出した。あんまり見たくない・・・・・・。

「かわいそ〜〜〜。でも一瞬で死ねたなら良かったわ〜〜〜、苦しまなくてすむもの〜〜。」
確かに間違ってはいないと思うけど・・・・そういう問題なのだろうか。

「それでですね・・・・、昨日この屋敷には5人の人物がいまして、説明しますと・・・・。」
「あっ、やっぱいいや。どうせまともに解決するとも思いませんし・・。」
「そうね〜〜、人数だけでも判れば何とでもしようがあるしね〜〜〜。」

「・・・???まあ、それならいいですけど・・。」

それだけ聞けば十分だ。二人は捜査を開始する為に部屋を出て行った・・・。

「・・・あいつ、何か違う・・・今までの奴らと・・・・。」
警官がそう呟いたが・・、誰も聞いてる者はいなかった。




頭痛がする。
「・・・・・ポーラさん。」
「んっ〜?何〜〜?」
部屋を出た我々は、事件現場をもう一度確認しよう思ったわけだが・・・・。

・・・急に身体が言うこと聞かなくなった。
「好きじゃーーーー!!!是非さっきの続きを!!!」
ポーラに飛びかかる!!理性に抑えがきかない。

「へ、平介く〜〜〜ん〜〜!?」
ポーラさんは驚きのあまり、どーする事も出来ない。

ゴン!!!

突然、視界が閉じてゆく・・・・。薄れゆく意識の中で・・・一人の女性の声を聞いた。

「たくっ!!あんた、トンデモ無い奴使ってんのね・・。」







再び場面は変わり・・・・・。

ここは地下室。父親は悩みつづけていた。
(駄目だ・・・・。何も思いつかないぞ!!ああっ、冥子!役立たずな父さんを許しておくれ!!)

たまに本の方に目を通して見るが・・・・、ちゃくちゃくと進んでいる。

このまま謎を解いてくれればいいのだが、絶対という言葉はありえない。
何といっても推理小説・・・・・忠雄君がどうにか出来るのだろうか。


(・・・ただ、不思議な事がある。これは一体どうゆう事なのか・・・?)

実は本を読んで見たところ、話の中で文珠らしき存在の表記があったのだ。

「ありえない話だと思うのだが・・、記憶は無いはずなんだ。霊能力なんて使える訳無いのに・・。」
頭を捻る。それに・・他にもおかしい所はあった。

・・・忠雄君の行動が急に変わる時がある。

まるで、普段の彼を見ているような行動をとる様子が、はっきりと描かれているのだ。
・・・これは完全に本に支配されている訳では無いんじゃないだろうか。

バンッ!!

地下室のドアが開かれる。
そこで彼の思考は中断された。

「お父様〜〜〜!!何かわかった〜〜!?」
部屋の中に冥子が滑り込んで来た。妻に聞いてきたのであろう。泣きそうな顔をしている。


・・私はとりあえず一通り説明してやった。
忠雄君が本の中に入ってしまった事。そしてどうする事も出来ない事を・・・・。

私は彼女の暴走を恐れた。多分起こってしまうだろうと思っていた。

・・しかし娘は予想外の行動を見せる。

「・・・お父様〜。これ、使えないかな〜〜!?」
そう言って差し出された手の平。深緑色の珠が転がっていた。

「・・・文珠か!!これ、どうしたんだ!?」
最近は悪用されてはマズイからと、ストックは作っていないと聞いていたが・・・。

(・・・でも、忠雄君の奴とは色がちょっと違うな・・・。彼のはもっと明るい色だったような。)

「お母様が〜〜ここで拾ったらしいの〜〜。文字も入ってるでしょう〜〜。」

確かに文字が入っている。「注」の文字。・・・何を意味しているのだろう。
(・・・注・・ねえ。使い道があるとは思えないなあ・・。・・・注意しろとか?そんな馬鹿な事あるわけないよな・・・・。)

考えてもしょうがないのかも知れない。とりあえずこの珠の使い道を・・・・。
(どうすればいい?書き換えた所で所詮たった1文字だ。彼をここから出すような使い方が出来るのだろうか?)

ふと娘の方に顔を移す。心配そうな顔を見せながら本の内容を確認しているようだ。
時に、笑みがこぼれたりしている。彼の行動を笑っているのだろう。

(やはり、娘には彼が必要だ。何とかしなくては・・・・。)

・・・そこで、ある事に気付いた。
(・・・そーいえば・・・・・あんな・・・人物だったっけ。)

「冥子!!ちょっと本を見せてくれないか!!」
「えっ〜、はいっ〜。」

受け取った本をめくる。・・・・・・やっぱりそうだ。
「ど〜したの〜?お父様〜〜〜!」

「冥子。彼は完全に本に支配されてはいないみたいだ。いや・・逆に本に影響を与えている。」
「・・・???ど〜ゆう事〜〜?}

「主人公の性格、喋り方、他の登場人物。全部元の話と雰囲気が違う。昔読んだ時はこんな感じでは無かったと思う。おそらく・・・彼の霊能力が原因してるんだろう。」

本来なら椅子の魔力で記憶を封じているのだろう。しかし、彼の高い霊能力がそれを邪魔しているに違いない。その分、登場人物達に影響が出たのだ。

「彼の知り合いらしき人物がたくさん出て来ている。もちろん冥子も含めてだ。これは彼が本に影響を与えている証拠だ。それなら・・・、記憶が戻りさえすれば・・・力も復活すると思う。後はその方法だが・・・・。」

・・・娘の顔を見る。本当にこれでいいのだろうか。・・・いや、それしかない・・な。

「忠雄君に会いたいかい?」
答えが判っている質問をする。

「会いたいに決まってるじゃない〜!!」
冥子は当然の応答した。

・・・・・・珠を手渡す。それを冥子の手にしっかりと握らせた。

「えっ〜??どうすればいいのかしら〜〜?」
冥子は戸惑っている。

「それを使えばいいんだ。彼の事を思ってね。」
にっこりと娘に笑いかける。心の中は心配でいっぱいだ。

(・・・頼んだぞ忠雄君。なんとか・・いや、絶対娘と共に戻ってきてくれよ。)

「こうかしら〜〜?」
冥子は目をつぶって・・・・珠を握り締めた!!!


パシューーーーーーーー!!!!!


冥子の身体が本の中に吸い込まれてゆく。
「きゃ〜〜〜〜〜〜!!?」

バサッ!!

冥子の姿が消えると同時に・・・本は床の上に落ちた。

(・・娘が使った文字は「会」。なんでも気持ちしだいってことだ。)

「さてっ・・・!久しぶりに本でも楽しませてもらうとするか!!」
その顔は読書青年だった頃の顔つきに戻っていた。

床に落ちていた本を拾い上げる。彼は本をめくろうとして・・・・。

(そー言えば2冊あったんだっけ・・・・。と言う事はこっちも・・・・。)
もう一冊の本にも目が行った。先にそちらの方を確認する事にする。

「・・・やっぱりだ・・・・。同じ内容だな・・・、っと事は話がくっついてるのか?」
不謹慎だが・・・・・・・この時私はワクワクしていた。
ありえない名探偵同士の組み合わせに!!!

つづく・・・。


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