椎名作品二次創作小説投稿広場


虹色の笛

停電と哀しい幽霊


投稿者名:えび団子
投稿日時:04/ 2/13

 
 明るみから暗がりに切り替わった店内にざわめきが起きたのは当然で、
騒ぎたち、がやがやと人の走る音があちらこちらから耳に入る。混雑した中では言い争いや罵声が絶え間なく続いた。


「ったく停電かよ、まいったなーー・・・。」


「・・・・」


その場でじっとしている二人。これまでの様々な未知体験が精神を正常に保たせている。まあ、GSが暗闇にビビッてては商売にもならないからでむしろ暗闇こそがGSの本領発揮というところか?


「うわああああっ!!」「ちょっとあんた、どきなさいよ!」「五月蠅い、早く外へ・・・」「どうなっちゃうのよお、真っ暗で何も見えないわ!?」


こんな具合か、店内アナウンスが流れるまでのほんのちょっとの間で飛び交った。
聞こえてないのも除けば沢山あるが記憶している辺りはこの辺だ。でも、落ち着いてる奴もいれば慌てふためいている奴もいる。人間は色々だ。


「・・・っと。」


――――?!――――


横島は自然におキヌの右手を握る。


「・・・////」 


頬を紅くして慌てるおキヌ。


とりあえずは横島は無意識の行動か意図的な行動かは無視するとして、
正統派なシュチュエーションだ。暗闇は大胆な動きに出れるというが今回うってつけであろう。


「大丈夫っ、怖くない?」


「えっ・・・あっ、はい・・・」


優しい言葉を掛ける、別に気取った風でもなく自然に自然体で。
答える声も多少緊張していたかのように思われるが、まあ当然であって。


――――は・・・離れないでくださいね・・・!?――――


不意に過ぎった昔の記憶。横島の鼓動はほんの少しだけど五月蠅くなった。
確かあれは、遊園地かどっかの・・・美神さんが作った、いわゆる『おばけ屋敷』
みたいなところで(39巻参照)の出来事だった。あの時の細くて白い腕の感触、自分とおキヌちゃんの。


「まだ電気つかねーのかな・・・」


「そうですね、ちょっと遅いですね・・・」


とりあえず抑える為に発した言葉も特に意味は無かった。早く電気を付けてくれ!
そんな思考でいっぱいいっぱいだった、こっちから手を握ったくせに情けねー、みたいな?無意識の行動だから余計に悔やまれる。・・・・。

だが、ちょっと待てよ?!!

今、現在・・・凄い展開だったりして?この感じ、まさに正統派LOVE♪
美神さんは高嶺の花、もしくは相手にされてないアウト・オブ・眼中だし。
タマモとシロにしたってちょっと歳がな・・・守備範囲ではあるがやっぱしな。
つまり、ここに辿り着く!妥協する訳じゃないぞ決して俺は、無論俺にしちゃー勿体無いくらいの女性だよ♪こう、何つーか他の誰とも出来ない甘酸っぱい青春の一ページっての?そんなのもいいかなあ〜♪いや、ここは行くべきだな!こーなったら、おキヌちゃんで行こうっ・・・!!うん♪

はっ!?やってしまった・・・

いつも癖で、


「あっ、ち違うぞおーーーーっ!!俺は、俺はこーなったら何て思っちゃ・・・」


「どうしたんですか?横島さん。」


ど、どうやら彼も成長したらしい。


「いや、何でもないよ。」


こんな危機を迎えながらも物語りはどんどん深みに差し掛かって行く。


――――――――ブォンッ・・・――――――――


どこからか訪れる強大な霊気。暗闇で研ぎ澄まされた感覚はそれを見逃さなかった。とっさに構えを取る二人。


「分かった、おキヌちゃん?」


「はいっ!」


ここには大勢の一般人がいる、無駄な犠牲は増やしたくない。選択肢は二つ。
1、瞬殺で霊を除霊する。
2、とりあえず他の客を安全な場所へ移動させる。
決定できるのは2でしかない。これ程の霊気では瞬殺は難しい、勝てない程ではないにしても。つまりは、こういうこと・・・


「皆さん、俺はGSです!今、霊の存在を確認しましたので俺の指示に従ってくださいっ!!」


懐中電気を適当に物色し明々と照らし出す横島。高台の上に上がり宣言する。
その自分自身の姿を回想して暫く幸せな余韻に浸っていると・・・


「お前みたいな奴がGSな訳ねーだろうがっ!」「あんた何様のつもり!?」
「この僕に命令するというのですか・・・?」「内の息子が迷子に・・・」


酷い、こんな具合の反応で。


「痛いっ、痛いっ・・・!あああ、物は投げないでえーーーーっ!!!!」


両手で顔を庇う横島にその時。


――――ガチャッ・・・――――


「すいません、原因不明の停電で回路がイカレテ電気が戻りません、皆さん早くこっちの非常口から出てください!!」


青いジャケットのようなものを着こなした警備員がそこには立っていた。
全員が雪崩て行き『ああ、よかったわ』『これで安心ね』何て会話が飛び交う。


「俺より、あいつを信用するというのか・・・」


がっくしきてる横島に対して、おキヌは。


「まあまあ、いいじゃないですか。これで皆さんを移動させられたんですから、ねっ?」


フォローになってないよ・・・。


「そこの二人も早くっ・・・」


走ってやって来たのはさっきの警備員で。横島たちは・・・


「いや、早く逃げてください!俺達GSなんです、ここに霊の気配を感じました。おそらく中級程度の霊なので直ぐに片付くと思いますんで・・・」


「・・・本当に貴方GSですか?」


訝しそうに帽子に少し隠された目でこちらを覗き込んでいる。
横島が証拠として、いつもになく携帯していたGS免許をまじまじと見させる。


「どうだ、これで文句ねーだろ?」


「ふ〜ん、よく出来ている。が、これは偽者だな。」


首を傾げる警備員、そして。


「そちらの方は?」


「えっ・・・私、GS見習いなので持ってないんです・・・」


俯くおキヌ。


「はい、結構。じゃあ宜しくお願いしますね。」 「おい、こら待て!」


横島が警備員の肩を掴む。


「何故俺は信じない?」 「・・・」


暫くの沈黙。


「あのなあ・・・」


警備員がおもむろに口を開く。


「俺はなあ・・・」


嫌な雰囲気が場に漂う。


「野郎のことは絶対に信じへんぞおおおおっ!!」

ぷっつん。








「あの〜、いいんですか・・・?」


「いいんだよ、こいつが悪いんだから!」


洋服屋にある、前にカーテンをした着替え室に放置した警備員。


「ともかく、これで全て完了!さあ、一丁やりますか?」


横島の掛け声とともに霊気をセンサーとして辺りを探る二人。

ごろごろ。

すると間もなく何か球体のものを転がす音がする。
闇に包まれた中、目を凝視して奥の通路を見てみると。




がらがら。




乳母車を押す20代くらいの女性・・・霊。


『ねえ、私の赤ちゃん見なかった・・・』


低いか高いか分からない。唯、耳の鼓膜のずっとその先に突き刺さるように哀愁を含んだ音声は気味が悪いもので。


「まさか、この霊を除霊か?・・・何か痛そうな話になりそうな」


「・・・・」


距離を詰めてきたその霊は二人の手前でピタッと止まり。
冷たそうな左手で眼前に静かに伸ばしてきた。


『ねえ、知らない・・・』


ごくりっ


緊張が全身を迸る。顔は長い前髪に隠れて分からないが確実に言えるのがやばいという感覚がレッドランプを点灯さしていること。


「し、知りませんっ・・・。えっと多分、児童迷子センターにいるかもしれないですよ?僕達はぜんっぜん関係ありましぇ〜ん・・・。」


横島が両手と首をぶんぶん振りながら返事をする。


――――俺、この手の幽霊アカンのやっ!!!!――――


確かに。


『そう・・・貴方も今までの方と同じなのね』


「へっ?」


ガタガタガタガタッッ!


周囲の品物が大小問わずに震えだす。俗にいうポルターガイストである。
奇妙な異質な波動が空間を歪ます。霊気の絶対量が予想値を遥かに上回る。


『わ・た・し・の赤ちゃん返して。』


両手を突き伸ばしたその姿はいかにもって感じで乱れる長髪の黒髪が更に引き立てる。ぼうっと、煌々と光る霊の周りの霊魂が多少の明かりだった。


「わああああああっ!アカンでえ、それはアカンでえ!!」


迫り来る霊圧に前傾姿勢で両腕をクロスさせて防ぐ横島に、おキヌ。


「この人、地爆霊ですよ!何回もこうしてやって来ては除霊が不十分なままで終わってしまっていたのでこうなったんです!!」


「厄介だなっ、けど勝てない相手じゃない。動きも攻撃も見えるっ!」


四方八方から飛び交う家具やその他からハンド・オブ・グローリーでおキヌを守るようにいなす横島。


「よしっ、今だ!!」


躊躇ない攻撃の姿勢を僅かな時間で取る横島。動きの末端をギリギリまで鋭い瞳で追いながら敵の死角と隙を見抜いた辺りは一流の域であり動作に入れるところも。文珠を素早く片手で創り、もう片方の手で『栄光の手』で防御しながら射程圏内に入る。

しかし!


『ううう・・・』


――――涙っ!?――――


『私を成仏さして・・・』


吹き荒れる霊圧の風で長かった前髪が、一瞬だが彼には見えてしまった。


「き、綺麗や・・・♪」


弁天様や〜の声で一気に力が抜ける横島。


「くううっ、いくら俺でもこんな美女に文珠をぶつけること何て・・・出来ないっ!!」


元の場所まで戻される、こればっかりは・・・な?


「横島さん・・・」


俯いたままで彼女は。


「ん?」


「きっと、赤ちゃんを連れて来てあげないと・・・この人成仏できませんよ。」
















                   続く


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