椎名作品二次創作小説投稿広場


虹色の笛

陰謀


投稿者名:えび団子
投稿日時:04/ 2/ 3

 
 
 ――――――――えっ・・・?!――――――――


コーヒーカップを持つ右手が一瞬止まった横島は記憶の空白部分が理屈の通らないことに今、気が付いた。


「そ、それじゃあっ俺が倒れてるんじゃないのか!?」


椅子から向かいのテーブルに身を乗り出しておキヌちゃんに先程の話に対しての最もである意見を述べる。


「そうなんですよ、そこから先のことは私にもさっぱりで・・・」


とりあえず増えた謎。自分が彼女を庇った事実は記憶の闇に葬られていたし、
誰の記憶にも無かったと言う不可解な真実。結局のところ周知の事実として伝えられたことが『横島の不注意から敵の攻撃を不意に受けておキヌちゃんが意識不明』だった。相手の異様な気配は感じたものの霊気は全くの低級、そんな訳で無用心だったのかもしれないが、やっぱり辻褄が合わない。


「どうなってんだ、俺達・・・」


席に静かに戻りコーヒーを一口流し込む。


「・・・・」


過ぎてく時間はあっと言う間でコーヒーを全部飲み干した。
途中、店員がおかわりは如何ですか?と尋ねられたが勿論拒否。
そんな雰囲気ではなかったし、横島には金もなかった。




入店から約一時間後。




沈黙だけが二人を包む中刻々と刻まれる時の砂。変わることのない店内と街並み。
刻限は大体PM2時ちょっと過ぎ。まだまだ時間的には余裕はあるが、どうも・・・こうもない。現時点では心境的にも何をしても乗り気になれない、そんな気がした。


「じゃあ、帰ろっか。」


横島は成す術も打開できる言葉も思い浮かばなかった。自分自身の問題でもあるし納得のいかないものでもあるから。今この時点で唯一分かってることと言えば自分達とおキヌちゃんの見ている、記憶している事実は全く違うものだと言うこと。


「はい・・・」


店の入り口に設置されている銀鈴が綺麗な高い音を鳴らした。
レジでお金を払うのが正直辛かった、給料日まで未だ日にちがあった横島には大きな出費だったからで、勿論彼の奢りだ。気まずそうにおキヌが横目で見ていたが見栄を張るつもりはさらさら無い、唯、彼女に払ってもらったり割り勘にするのは何だか申し訳なかったし・・・。まあ、それを一般に見栄を張ると言うのだが。

賑やかな日曜の街中は人がひしめき合っていた、目まぐるしい程に。
一歩一歩が徐々に速くなって行くことに気付くのは結構先の話で並んでいた彼女を見失うのにそれ程時間は掛からなかった。


「あっ、やばっ!」


横島はすぐさま後ろ振り返り遠くに離れているおキヌちゃんを見た。
彼女は小走りと言うか半ば走り気味になって追いかけているのを確認できた。


「ごめんっ!俺全然分からなかった、って言うか色々あり過ぎて・・・まっ、言い訳はしないけどさ。」


「そんなことないですよ、私、全然気にしてないですし。それに横島さんが混乱する気持ちだって分かります・・・。」


上を見上げて優しく、気を遣った言葉に正直のところ『ドキッ』としなかったのは嘘であった。じ〜んと言う感じにも似ているが、また異質のもので。同じ境遇だから何て、そんなところだった。

どうしてだよ、どうしてだよ。

常識じゃないのは分かってる、GSって世界に足を踏み入れた時から。
特別、意識してなかったし。楽観視していたような・・・GSを。
美神さん、シロ、タマモ。凄い連中と一緒になってたのもあって、
やっぱ、気が引き締まってなかったのか。しかし、今回の件は本気で行き過ぎだ。
記憶云々、身体的損傷。今までに知らなかった厳しさと現実と不可思議と謎。

も〜、どうでもいいや。

このまま流されればいいじゃん的な思想が横島を包んだ。難し過ぎんだよって。
理解を超えたことは毎度だけど、ねえ?考えて分からないことは無理に追求するな。つまりはお終い、そゆことだった。


「ねえ?」


「何ですか?」


私は、私は・・・これでいいのだろうか?このまま訳が分からなくても。
けど、いい・・・よね?このままでも、生きてるだけで幸せなのだから。


「時間あるし、どっか行く?って言うか俺このまま帰っちゃったら酷いことが待ってると思うし・・・ね?」


主役連れ出しといてタダでは済まないよね、出来るかぎり嫌なことは後回し!


「えっ・・・////」




つまりは健忘だ、忘れようよ。横島とおキヌはそこから先は半ば駆け足で行った。
行きたいところは山ほどある、映画館に遊園地、ショッピングに飲食店。
まだまだあるけど、その辺ベタな線を進む辺りが二人らしいのだ。どんなに辛いことがあってもどんなに嬉しいことでもいつかは消えるのだから。だから現在(いま)を精一杯生きる。

さあ、行こう。この先へ・・・








「でさ、結局。見つかんないわけね。」


美神は少し不機嫌気味に右手のグラスを置くと椅子にもたれかかった。


「まあ、後が怖いけどね。横島君もやるね」


苦笑しながら神父は又一杯ぐっとあおった。


神秘的な店内は厳かで、ライトの煌びやかな明かりが顔を照らしお酒が回ってほんのり紅潮した頬が見事だ。それぞれに騒ぎ疲れ全員ぐったり眠り込んでいるらしく目を開いてるのは数人程度だ。

はあ〜


「いいんじゃないワケ、当事者の二人なワケだし。」


溜息をつく令子に妙に響く各々の言葉。冥子の寝息も。


「・・・zzz」


幼さが残る冥子にはきつかったかな、アルコール。
まあまあ一杯、と。推した西条は苦笑いしながら見ていた。
普段は見ることないだらしない、しょうたれた格好で。


「今頃何してるんだろうね?」


西条が不適な笑みを含ませ令子に喋りかける。


「西条君っ!!」


美智恵が呼びかける。一瞬ピシッと背筋が伸び、はいっと返事をする。


「・・・・」


――――うう、睨まないで。――――西条は小さくなった。
令子が暴れだすと抑えるのに苦労するからで。


「はいっ、西条先輩♪」


魔鈴がにこっと差し出された料理はゲテモノ。一般にそう言うもので。


「えっ、僕に?!」


冷や汗を流す、体中の水分が弾き飛ぶ。


「ええ、と・・・・・・・・・・ってもおいしいですから♪」


――――――――何なんだ、その間は!!?――――――――


この後は、まあ語らずともよい。









「あ〜、面白かった!どうだった、おキヌちゃん?」


映画館から出る二人は久々の太陽のシャワーを爽やかに浴びると横島は背伸びをする。どうやら彼の選択したものだった。


「はい、とっても楽しかったです♪」


観賞したのはアクション映画だった。月並みな拳銃バンバン、拳バシバシ。
車でかっ飛ばし黒幕を押さえ込む。何てどこにでもありそうな、そんなもの。

次は何処に行こう?

楽しい時は風の如く去り行くもので、もっと何て気持ちが強くなる。

さあ、行くか!


「うっわ高っ?!」


洋服店で適当に彷徨う横島、見ていて幸せになる程、楽しそうなおキヌ。


「これ、素敵なお洋服ですね〜」


「えっ、ああ」


相槌を打つ横島。どうもなあ・・・


――――?!――――


横島の態度に気が付き言葉を閉ざすおキヌ。


「・・・・」


じっと横島を見つめるおキヌ。


「あの、横島さんの好きなところへ行きましょう?」


「あっ、別につまんない訳じゃなくってさ。こう言うところ来慣れてなくて・・・」


悟った横島は弁解をした。これがバランスって言うか二人の・・・。













    そして、緩やかに流れていた空間に一つの波動が押し寄せて来た。




――――――――フッ・・・――――――――





停電、店内は暗闇に包まれた。最上階とまではいかないが結構上の階にいた二人は少なくとも動揺した。ざわめきが暫し続き、他の客が騒ぎ始めた。


「ふふ、これからが本番ね」


美智恵はひっそりと笑みを浮かべた。
建物から離れた歩道から車の窓越しに携帯電話と妙な機械、おそらくは霊波の脈道を変えるもの。を手にして上の階を眺めていた。














                  続く


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