椎名作品二次創作小説投稿広場


虹色の笛

ネクロの神よ・・・


投稿者名:えび団子
投稿日時:04/ 1/ 4

 
「私・・・ここを知っています・・・」


生暖かい風が神社の裏方にある別館の周りを静かに流れる。
四方八方に生息する細い痩せ細った木々達が気味悪く蠢く。
さっきまでとは一風変わった、嫌な雰囲気とは異質の何とも言えない不思議な空気。おキヌの謎めいた数字と言葉に一向は驚きを隠せなかった。


「えっ、どう言うことなの!?」


美神が亜麻色の長い髪を宙にふわりと浮かせて勢いよく問う。


「どう言うことかは分かりません、けど・・・分かるんです。」


両手を胸に当てながら俯いて答える、その表情は何処か感慨深い印象を受けた。

四人の間を沈黙と言う時が暫し支配する。


・・・・。 ・・・・。 ・・・・。 ・・・・。


「ちわーっす、只今到着でーーーーす・・・あ、あれっ?!」


本館の神社の角を曲がってひょっこりと現れた横島。勿論大きなリュックを精一杯背負ってだが、明らかに何だか重い空気に来ちゃった次第で語尾が疑問符に変わる。


「皆、どうしたんスか?何か、空気がおも・・・ブッ!!」


    ――――――――シュ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ・・・――――――――


美神の右拳からもくもくと湧き立つ煙。


「こんのバカ!今まで何処ほっつき歩いてたのよっ!!?」


怒りの形相で横島に食って掛かる美神。


「そ、そんなあ・・・俺だって命懸けでここまで来たんスよ!!」


珍しく今日は流石の彼でも口答えがしたくなるのか負けじと言い返す。


「あんたの命の一つや二つどうでもいいのよ、それより中の道具は無事よね?」


「ひ、酷いっスよ!俺よかそっちの方が大事なんですか!!?」


もはや、ついさっきまでの雰囲気とは一転してボケ満載モードに突入していて、


「へえ〜、じゃあ横島くんがお金出してくれる?それ、結構高いわよ・・・」


「うう・・・」


この世界の結構高いなんて一般人が一生かかってどうにかなる問題じゃない金額なのだ。結局は美神さんに顔が上がらない横島であった。




「ともかく、今はこの暗号よね」


タマモが片手を腰に当てて話を本題に移す。


「だから拙者の勘で・・・」


「「絶対だめっ!!」」


美神とタマモが声をはもらせて叫ぶ。

キャインと小さくなり大人しくなるシロが可愛らしい。


「ところでさ、おキヌちゃん。さっきの239って何なの?」


雲行きが怪しくなってきたらしく、闇が少しずつ世界を侵食し始めた。
オレンジから漆黒に変わる景色に影もどんどん小さく消えていく。
肌を通り過ぎていく風も冷たいものに。土の湿ったような薫りに包まれる。
美神は気付いてはいなかった、この時。数日後に起こる彼女の異変に・・・。


「それが私にもさっぱり分からないんです。唯、ふと頭に浮かんだだけなんですけど・・・。」


「う〜ん・・・」


美神は腕を組み考え始めた。今回の依頼について、おキヌちゃんについて・・・
そもそも手紙だけで依頼を申し込みに来ること自体が根本的に可笑しいわよね?
話の内容のように、困ってるのなら是が非でも直接話を付けに来るんじゃない?しかも、報酬としての物品にも謎が多いわ。私が知らないものがある何て。ここだけの話だけどあの厄珍でさえも知らなかったと言う事実よ?丁寧に私の運勢を占った上で最悪の日を選ぶし、変だわ絶対!おキヌちゃんにしてもさっきから可笑しなことばかり言って。239・・・ここを知っている?予感か前世か?どっちにしても信憑性に欠けるのよね・・・。

はあ〜 全く分かんないわ!!


「ん〜〜〜〜っ!」


頭を抱える美神。


「ねえねえ、先生?」


プシュ〜っと完璧にオーバーヒートの美神を他所にシロが親愛なる師匠である横島先生に腕の裾を引っぱって訊ねた。


「ん、何だよシロ?」


斜め右下を見下げて返答するが、顔色は無茶苦茶悪い。


「先生は何処から連れて来たんでござろうか?」


                 はい?


「だから、そこの。・・・もしかして気付いてないんでござるか?」


                 へ?


呆気に取られる横島を傍らにいるタマモに美神、おキヌが視線を一つに切り替える。



                 あっ。


「ん、だから皆どうしたんだよ・・・っておいっ!?」


くう〜ん、くう〜ん♪


横島の足元には一匹の可愛らしい子犬が。毛並みは良く茶色のポピュラーな色が余計に引き立てる。首輪がないとこを見ると飼い犬ではないらしい。


「雑種ね」


タマモが落胆の表情で言う。


「しかし、可愛いでござる!今からこいつは拙者の弟分でござる〜♪」


飛び跳ねして身体全体で喜びを表現するシロ。


「本当、可愛いですね〜♪」


おキヌちゃんが抱き上げようとすると・・・


「駄目だっ、おキヌちゃん!!」


急の言葉に思わず手を引っ込めるおキヌちゃん。横島は自分のズボンの襟を捲り上げると・・・


「これ・・・見て。」


                  うっ!?


全員が横島から何歩か後ろに下がる。鼻を押さえながら・・・


「こいつは・・・おそらく又、するぞ。くそおっ、洗濯代だってバカにならねーぞおおおおっっ!!!!」


うおおおっと嘆く横島に美神は。


「あんた、きちっと洗ってきなさいよ!じゃなきゃクビ」


地面に頭を打ち続ける横島であった。


「ったく、ろくなものを連れて来て来れるわね。あんたって・・・」




         ――――――――んっ・・・?!――――――――




「もしかして・・・」


ある種の考えが美神の脳裏に浮かんできた。考え方を変えればどうかしら?
連れて来たかったのは私達じゃない。ある人をここに来させたかったから・・・。
あの品にしたって関連がないとは言えないんじゃないかしら?いいえ、可能性はあるわ!世界でもかなり希少価値が高い能力だし、歴史だって古い筈よね。

だとすれば・・・。

「おキヌちゃん、239・・・試してみましょう!」


「えっ・・・」


美神がおキヌの手を引いて石版の前に立つ。戸の中央に設置されたそれは如何にもって感じな訳で・・・。


「さあ、解くわよ!!」


気合が入ってる美神には申し訳なかったが、ここで一つの問題点が出てくる。
パスワードは10桁なのだ、239では3桁なのだった。


「あっ・・・そうよね。」


美神がはっとしたように目を見開ける。隣に立っているおキヌも、後ろに立っている横島、シロ、タマモも同じように美神を見る。


だが。


「大丈夫です、美神さん。桁数の違いは簡単なフェイクです。」


――――――――えっ?!――――――――


唐突におキヌから発せられた言葉に一同は顔を見合わせて驚いた。


「一番右隅に9を合わせてください、そうすれば結界は解かれます。」


続けられる言葉。


「そもそも239って、ここの神社の石段の総数なんですよ。」


言われるがままに頷く残りのメンバー。


「あ、あれっ?私、何言ってるんだろう・・・?」


不思議なことを知っている自分に驚くおキヌ。


「ま、いいわ・・・。とりあえず入れてみましょう」


美神がゆっくりと水晶玉をはめ込む。




          カチッ    カチッ    カチッ




「2・・・3・・・9・・・これでOKねっ!?」


美神が賛同を求め全員で首を縦に下ろす。


そして。




――――――――ガチャッ・・・――――――――





戸の鍵が外れる音が暫く経った後、別館周辺に木霊した。
特に異様な霊気は感じられないが嫌な予感がする・・・
このまま、この戸を開けていいのだろうか?微妙に震える右手が、今までどんなに難しい仕事でもこんな感覚にはならなかった美神にとって恐怖だった。


「・・・・」


「・・・・」


シロもタマモも口を閉ざして気配を伺う。


「ともかく、開けなきゃ始まらないわよ・・・ね?」


美神がぐるっと皆を見渡してからその戸に手を伸ばされた・・・。














――――――――ネクロの神よ・・・――――――――













「デラレタ・・・デラレタ・・・・ナガカッタ、ホントウニ」


死霊・・・しかも半人。戸を開いた目の前に、部屋の奥の古いガタの来た椅子に縛り付けられているそいつは、鬼の一種だろうか?形相は人間だが、口から光る鋭い糸切り歯、爪が鋭利な刃物の如く伸び、体付き何かはまるで鬼だ。肌色は赤で背中の方に?がれた片方の羽。


「オヤ、オキャクサンカ・・・?」


悠長な口振りでそいつは言い、


「ン、ニオウゾ・・・コレハ、ネクロ?」


一同は皆、息を飲む。


「そうか、やっと来たのか。早く外してくれよ、抵抗はしないし」


喋り方が突然変わったそいつ。


「あんたは、一体何者?それに人間じゃないわよね。」


美神が落ち着いた理由は霊気が全く感じられないこと。


「人間ではない、けどそれ以上はあんたには言えない。」


それだけを耳にすると死角から見事な曲線で描かれた鋭い何かが美神達
の感覚を刺激した。とっさに避ける全員、確かにこの世界で今まで生き残っていただけあり余裕だった。


「話し合いの時間はないわね」


タマモが少しキレ気味で呟く。


「・・・ござる」


シロも頷く。


「まあ、いいわ。友好的でもなさそうね、じゃあ、さっさと終わらして・・・」


美神が一番安い御札を手に取る。


「まっ、いいさ。俺の力じゃあんたらに敵わないな、けどな・・・」


首をだらっと垂らす、そいつは。


「これくらいは出来るんだ・・・」


すると、奴の口が大きく開き。それまでにない衝撃の霊波砲が放たれた。


「危ないっ、おキヌちゃんっ・・・!!!!」


彼は彼女の前に立ちはだかっていた。


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