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おれ、ルシオラ。

Epilogue


投稿者名:ライス
投稿日時:03/12/27


 そして次に目覚めた瞬間、眼に入ってきたのは朝日であった。
 朝の事務所。気付くといつの間にかソファの上に毛布を掛けられて寝ていた。
 向こうにはテーブルで上体を突っ伏して眠る、おキヌとカオスがいる。


「ウ〜ン……。」


 ゆっくり背伸びをする。
 窓の向こうでは朝日が昇りかけていた。
 その光はいつもと何の変哲も無い、ただの日の光ではあったが、
 彼には真新しさを感じた。なにか自分が生まれ変わった気分だった。


「あ、起きてたの……。」

「美神さん。」


 令子は寝ずの番をしていたのか、起きてきた横島を見ると安心したような顔していた。


「すみませんでした、なんか迷惑かけちゃったみたいで……。」

「そうね、本当にいい迷惑だったわ?
 文珠を飲み込んだ後、カオスが霊体固定剤を急いで作って、それをアンタに注射して。
 その後、ソファに運んで毛布かけたし。おかげで寝れなかったわよ。」

「でも、起きるの待っててくれたんですか……。すみませんでした」


 相変わらず腰が低い、いつもの横島だ。
 そんな事を思うと、顔を思わず緩んでしまう。


「で……、彼女には会えたの?」

「あ、えぇ。まぁ……。」


 彼は言葉を濁した。
 でも、昨晩の表情と比べても、屈託が無くてとてもあどけない表情。
 彼女にはそれだけで充分だった。


「そう……。」

「言われましたよ、何時までも引きずってるな、
 心の中に想い出として閉まっておいてくれればいいって。
 だから、オレもそうする事にしました。」

「そうね、人間、振り返ってばかりじゃ、しょうがないものね……。」

「えぇ。」


 二ッコリと横島は微笑んだ
 その一瞬、ほんの一瞬だが、令子には横島の顔がカッコよく見えたのにドキッと来た。
 あれ?とも思いながら、顔を少し赤らめる。


「……どうしたんですか?顔、赤いですよ?」

「……!ウルサイ、ほっといてよ!?
 ま、まぁ、色々と整理する事があるでしょうし、
 今日は休みあげるから、ゆっくりしなさい?」

「いいんですか?」

「良いのよ!雇い主のは私が言ってるんだから!文句ある?」

「いや、でも……」

「いいから……、さっさと家に帰れ!!」


 すると矢継ぎ早に令子の投げるペンやら何やらが飛んできた。
 横島はそこから一目散に部屋を出ると、街へと出て行く。
 令子は溜息を大きく付き、椅子に座りなおし、
 深々と寄りかかると、照れ隠しに頬を掻き始めていた。


「もう、男のコって、急に成長するからビックリするわ……!
 ま、横島クンも少しは見れるようになったのかもね……。」


 昨日、カオスの怒ったのもそのせいかな?とも思う。
 しかし、まぁ、まだ私の眼鏡にかなう男では無いだろう。
 少し成長したみたいだけどまだまだ……!
 でも、唾でもつけといてあげるか、
 令子はそんな事を考えて、テーブルに眠るおキヌを起こしに行ったのだった。





「ったく、ヒデェよなぁ、美神さんも……。」


 歩きながら愚痴をこぼす。家はもうすぐだ。
 ほぼ一日ぶりの帰宅。
 長い一日だった。酷い一日でも、素晴らしい一日もあった。
 そう思う。
 彼はゆっくりアパートの階段を踏みしめながら、そう考えていた。
 人は前に進まなくてはいけない、だから成長するんだと。


「あ、お早うございます。」


 階段を上りきると、目の前には小鳩が居た。


「あ、オハヨウ、小鳩ちゃん。」

「朝帰りですか?」

「う、うん、まぁ、そんなトコ。」

「じゃあ、昨日の人に会えたんですね?」

「ん?昨日?」

「えぇ……。昨日、横島さんの家のドアの前にショート・ヘアの女の人が来てたんです。 
 横島さんを捜してたみたいなんですけど、私がまだ帰ってきていないって言ったら、
 そのまま何処かに行っちゃいましたよ?」

「…………それって、昨日の何時ごろ?」

「えぇと、確か、雨がザァザァと降ってた時ですから、夕方だったような……?」

「そうか……。教えてくれてありがとう、小鳩ちゃん。」

「いえ、こちらこそ……!あ、私、朝ごはんの用意しますから、これで失礼しますね。」

「あぁ、じゃあ、またね。」


 小鳩はドアを開けると、その六畳半程の部屋に入りドアを閉めた。
 一方、横島は家を前にして佇んでいた。


「ルシオラ、お前、来てたんだな……。」


 あぁ、お前は此処に居たんだな。
 俺を捜してたんだな。
 あぁ、ルシオラ……。
 そう思うと、彼の目からは涙が溢れ出てきた。 


「あれ…………、なんでだろ?涙が止まらねぇや……。」


 止め処なく落ちてゆく大粒の涙。
 どうしようもなく零れ落ちてゆく。
 まるで彼女との再会を喜ぶように。


 朝日が昇ってゆく。
 今日もまた新しい一日が始まる。
 そして未来は続いてゆくのだ。
 永遠に……。



 〜The END〜     


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