椎名作品二次創作小説投稿広場


おれ、ルシオラ。

Interval part.T


投稿者名:ライス
投稿日時:03/12/27

 どんよりと分厚く覆う灰色の曇り空。
 その太陽に遮られた世界は、薄暗く広がっている。
 しかし、人波は相変わらず、ただおのおのの思うがまま、流れ流されてゆく。
 そんな街中に一滴の水が天から降ってくる。時が経つと同時にその雫は数を増やし、
 最初、アスファルトの舗道を濡らしたかと思うと、その勢いはさらに増して、彼処に水溜りを作り、
 人は濡れる。一つの水滴は雨となった。


 人々は傘を開く。無い者は代わりに鞄なり、雨宿りするなり防衛策を打つ。
 しかし、その喧騒は先程とは全く変わりはしない。
 何の事は無い、彼らにとっては「ただ、雨が降り出した」だけに過ぎないのだから。


 この雨は何処から降るのだろう。
 誰が降らしているのだろう。
 誰かが泣いているのだろうか?
 天が?神が?それとも―――



 雨は依然として降り続けている。
 いや、先程よりも雨量は増していた。
 もう誰も傘無しで街を歩こうとする者は無い。


 さて、ここはとあるアパートの二階、とあるドアの前。
 そこに寄りかかって眠っている人物がいた。
 その階段に通ずる通路の上には屋根が覆いかぶさっている。
 しかし建付けが悪いのか、所々、雨漏りしている。
 この日も雨が降り出すと、暫くして雨粒が滴り通路に落ちていた。
 その時もそんな感じだった。


 そうして滴り落ちてきた雫は、『彼女』の鼻の先に落ちる。


「…………」


 何か冷たい物が当たる。だが、彼女を気付かせるにはそれで充分だった。
 彼女はゆっくりと目蓋を開くと、それを確認する。どうも液体のようである。
 次に見開いた目で周りを見た。―――雨が降っている。それもザァザァと。
 どうも、雨粒が落ちてきたようだ。彼女はそう思った。


「………また?」


 悪い夢でも見ているのだろうか。目が覚めた彼女は思う。
 これで何度目だろう?こうして目が覚めるのは。
 自分はもう生きていないはずだ。それに間違いは無かったし、自覚があった。
 『彼』に嘘をついてしまったのは心残りだったけど、アレで良かったのだと。
 しかし、今の私はどうだろう?
 死んだはずなのに肉体には血が通っていて、手に温かさを感じるし、動きもする。
 要は生きている――何故?
 理由など分かるはずも無い。だけど、自分が何故か現世に生きていることが不思議でならなかった。
 一体、誰が私を生き返らせたのだろう―――
 


 すると彼女は立ち上がり、今度は自分のいる場所を確かめる。
 古ぼけたアパート。その二階だ。でも、見覚えの無い場所ではない。
 ここが何処なのか―――、それに気付くのにさほど時間は掛からなかった。


「ここは……!」


 そう、彼のアパートだ。前に来たことがあるから間違いない。
 オマケに今、自分は部屋の前にいる。
 ……彼は居るんだろうか?


「ねぇ、居るの?居るんだったら返事してよ!?」


 何度も何度もドアをノックした。しかし、先程から返事は返ってこない。
 私の声を聞けば、飛び出してくるはずなのに。
 居ない?
 一抹の不安がよぎる。
 
 
「あの〜〜ぅ……、」

「?」


 後ろから声が聞こえた。
 彼女はすぐさま振り返ってみると、そこには隣の部屋の住人がドアから顔を出していた。
 顔を出しているのはセーラー服を着た二つおさげの女の子。
 恐る恐る『彼女』の方を見つめている。
 

「何?」
 
「……まだ、帰って来てないみたいですよ?よこ……、」

「そう。じゃあ、いつ頃帰ってくるか判るかしら?」

「さぁ……?それはちょっとよく……、ごめんなさい。」


 おさげの少女はすまなそうに謝った。
 一方、彼女の方もここに居ないのであれば仕方ないか、とそういう表情を見せる。


「……判ったわ、ゴメンね、騒がしちゃって。」

「い、いえ、そんな……!こちらこそお役に立てなくて……。」

「いいのよ。じゃあ、他を当たることにするわね?本当に有り難う。」

「あっ……、」


 少女が引き止めようと声を漏らしたのも束の間、
 彼女はそう言い残して階段を下りていく。
 何か妙だった。
 彼女の態度がよそよそしいというか、つっけんどんというか、
 邪魔をしないでって言っている様にも。


「……あの人、一体誰だったのかしら?後で横島さんに聞いてみよっと。」


 そうして、少女はドアを閉めた。






 家には居なかった。となると、残るは一つ。
 美神さんの所だ。
 きっとそうに違いない。

 彼女の頭の中はそれで一杯だった。
 確か、ここから二駅先な筈。
 だけど……、


「この雨じゃ……。」


 階段を下り終えた先には雨が待ち構えていた。
 もちろん持ち合わせている金なんかない。
 そして傘も。

 でも、逢いたい。
 逢って、謝りたい――嘘をついたことを。
 そして出来るなら、一緒に……。


「しょうがない、か……。」


 苦笑いを浮かべる。
 そして、彼女は宙に浮くと雨降る空に飛び昇った。
 必然と冷たい雨に打たれる彼女。
 しかし、そんな事は厭わなかった。
 彼に逢えさえすれば、こんな事―――。


「……ヨコシマ。」


 思わず口に出る彼の名前。
 逢いたい、ただそれだけでいい。満たされたい。
 行こう―――彼の居る場所へ。

   


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