椎名作品二次創作小説投稿広場


虹色の笛

歓迎会


投稿者名:えび団子
投稿日時:03/12/26

 
太陽が南中して雲も晴れ、人は昼食へと急ぐ時間。
食事とは?動くエネルギーを吸収する為の動作、楽しく過ごす時間。
無くてはならないものであり、古くから祝いの席などでも欠かせないもの。
        ――――――――『歓迎会』――――――――







「どんどん食べて元取ってあるよ〜〜〜〜っ♪」


ここは、魔鈴さんが経営するお店で可愛らしい黒猫がオーダーを取りにやってくる。店内は清潔で高級感のある感じで客足が絶えない。勿論、味の方でも外見に劣らずおいしいのだ。魔法に掛かったかのような不思議な感覚に陥る雰囲気は店の専売特許で流石は魔女だ。


「では、本日。おキヌちゃんの微笑ましい回復を祝って・・・」




    ――――――――乾杯ーーーーーーっ!!!!――――――――




西条の言葉で始まった会は凄い盛り上がりを見せ始めて来た。
各人、喜びを隠し切れないようで歌ったり喋ったり笑ったり泣いたり。
関係者全員を呼び集めた為全席満員。運ばれる料理は決して高価ではなかったにしても趣きある和風で、今回限りの特注だ。


「悪いわね、魔鈴さん。」


母の美智恵が魔鈴の元へ行き、娘の令子の代わりに詫びを言っておく。どうやら、とことん虫が合わない二人のようだ。


「いいんですよ、私もそうしたかったんですから♪」


にっこり笑顔で左手と首を振る魔鈴。メインディッシュらしき料理を手に掛けながら答える。厨房の奥の方では沢山の素材が積まれており、一人で全部こなすつもりなのか?


「でも、お店を休業して貰ってまで・・・しかも、こんなに沢山・・・。」


美智恵がそう恐縮じみた返答に魔鈴は何の恩着せがましいことも言わずに黙々と作業を続ける。野菜や魚を一通り調理すると右手をさっと一振り。キラキラと光る粉が上に掛かると料理は輝き始め光を吸引する。まさに魔法の料理だ。


「気にしないでください、黒猫さんもいますし。私に、出来ることはこんなことぐらいですから・・・私に出来ることは、美味しいって言ってもらうことだけですから」


笑顔を作ってはいたが内心何の役にも立てなかったことが悔しいらしく、
歯を食いしばっていた。普段、あんまり悲しい表情を出さない性格だし、というより明るい女性だから・・・。慣れてないんだろう。

気持ちを十分受け取った美智恵は静かにその場を後にした。残るのは鼻をくすぐる香ばしい匂いだけ。




「氷室さん・・・っ!もう会えないかと思った・・・!!」
「くそうっ・・・。上手い言葉が出ねーや・・・おかえり、おキヌちゃん!」


場所は変わって宴会場。彼女の目覚めを一番に待ち望んでいた友人。
弓に魔理だ。二人とも抱きつきそのまま離れようともしない。


「あのっ・・・ごめんなさい!!本当、私のせいで二人に迷惑掛けちゃって・・・」


慌てるおキヌちゃん。二人を宥めながら喜びを実感する。


「えっと、その・・・・もう大丈夫ですから、もう絶対離れたりしませんから・・・・。」


その言葉で余計彼女達の心を刺激し二人の腕の力は強くなる。


そして、他の場ではお互いによかったなあ、とか。一安心だ、とか話していたりしてたけれどその言葉以上に想いは強かったと思う。顔を見るだけでそれはすぐに理解できたし何より心が一つになってたから。


「弓、あんまり引っ付くなよ。おキヌちゃん昨日治ったばっかなんだろ!?」

「魔理さんもですケンのーーーー!」


二人の後ろからは雪乃丞とタイガーがやってきた。


「何よっ、嬉しいんだからいいでしょっ!!?ばかっ・・・!」

「固いこと言うなよ、タイガー!!」


「なっ?!何が、誰がばかだってんだ!!?」

「まあまあ、落ち着くケン・・・」


四人がいつもの言い争い。と言ってもタイガーと魔理の組み合わせはどちらも能天気であっさりとしている為争いは滅多にしか起こらないんだが。


「ばか?それはあんたしかいないでしょーが!この気持ちも知らないで・・・」


顔を伏せ泣き出す弓。


「あっ・・・いや、俺はだな、つまりだな・・・そう言うことが言いたいんじゃなくって!ええと、う〜ん・・・あーー、わーったよ悪かったよ。だから泣かない・・・・でえ!!?」

「ベロベロばあっ!やーい、引っかかってんの〜♪」


この先は言わずと知れず延々と口論は続いていった。
だが、どこか懐かしい感じと不思議な感じがした。
自分がいない間に変わってないことと変わってること。
決して嫌な感覚ではなかった。おキヌは、そう感じた。










「でも、よかったね美神君。おキヌちゃんの意識が戻って。」


「ええ、これも神父の御陰よ。ありがとう♪」


少し酒が入ってはいるが酔ってはいない美神。


「はは・・・。何だか君に素直に感謝されると変な感じだね。」


照れ笑いする唐巣神父。大体、四人から六人が一斉に食事ができる机が幾つもあり一人座っている美神の隣に腰掛けた彼だが今になって手遅れだと気付く。


「あら、私がいつも素直じゃないといいたいんですか・・・?」


冷たい視線、こ、怖い・・・。


「いや、そうじゃなくてだね・・・ははは。」


後頭部に後ろ手を回して冷や汗を流す神父。グラスの酒を一息で飲み干し緊張感と戦う。なおも恐怖は続いたが・・・。


「令子、元気がないじゃない?どうしたワケ?」

「もっと〜楽しく〜ねっ?令子ちゃん〜〜」


向かいの席に座る二人。


「エミに冥子・・・。」


美神は憂鬱そうに口を開くと。


「あのね、何だか・・・安心しちゃったら急に力が抜けちゃって。私らしくないわよね?」


テーブルにグテッと上体をくっつける美神。予想以上に苦労していたのが分かる。
事務所のオーナーとしての立場だけじゃなく、一個人としておキヌちゃんを救いたかった。そんな風にエミと冥子、神父には見えた。料理にも殆ど手をつけていなかった。不味いとかそんなんじゃなく、おいしいけど喉を通らないのだ。嬉しすぎて。可笑しく聞こえるかもしれないけど本当なのだ。明々と光る天井のライトは綺麗で水気を含む料理を鮮やかに演出していてそんじょそこらの飲食店では出せない料理を運んでいた。洋風の内観にリッチな雰囲気も併せ持っていて居心地は最高なのに。気持ちが先立ってしまう。天井の煌々と輝くオレンジのライトが妙に感傷的だったのが悔しかった。


「令子ちゃん・・・」


美神の背後にすらっと背の高い青年が声を掛けてきた。西条だ・・・。
スーツを着こなせるのは彼しかいなくて、胸元のネクタイもよく似合っていた。
身に纏っているものはいかにも高そうな物品、振る舞いも礼儀も完璧な紳士だ。

「西条さん・・・」


上目遣いに一瞬鼓動が速くなったが西条は深呼吸してゆっくり語った。


「見てごらん、皆の顔を。驚くほど生き生きしてるだろ?君だけが嬉しいんじゃないんだよ、ほら元気出して!」


右手の親指を立ててガッツポーズする西条にいつも見られぬ姿。子供じみた姿に笑いが込み上げてくる。お腹の底から声を挙げた。曇りが晴れた空みたいに、快晴の時って何故か不安になるのと同じ、これから天気は悪くなるだけなんじゃないか?って。けど、そんなの気にしてたら始まらないし。悲しい場じゃないんだから元気出さなきゃいけない!そうよ、私らしくないわよ!!うん、美神令子!!!!


「うん、そうですよね。ありがとう、西条さん♪」


身体を起こし顔を両手でぱんぱんと軽く叩いた後、勢いよく立ち上がる。
ぎしっと椅子が軽く軋んだ。

「よしっ、そうとくれば。横島くん、おキヌちゃんーーーー!!」


呼びかけるが返事がない。


「あれ、どこ行ったのかしら?」


二人を知るものはいない。



そして・・・。



「こちら美神(美智恵)です、現在の覚醒段階はランクCの予想。もう少し様子を見つつ実験して行こうと思います。幸い本人にまだ自覚症状はありませんし・・・・。えっ・・・?手段は選びませんよ私は。以上。」




ピッ。


機械音が少し車内に響いた。携帯電話を切る音だった。


その車の行方は都市の中に消えていった。







「あのさ・・・一つ聞かせてもらっていいかな?」


喫茶店で注文した後、暫くして横島から投げ出された言葉。


「はい・・・」


俯きながら頷くおキヌちゃん。


「あの時・・・」


他の客の談話する声だけが溢れていた。










                  続く。


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